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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
割り木から転送)
薪(やしろの森公園
薪を運ぶ人(エチオピア

(まき、たきぎ)とは、および伐採し、固形燃料としたものを指す。木質燃料の一種である[1]。長細く割り、扱いやすい長さへ切断し、乾燥させて燃料とする。木材の廃材を棒状に加工したものも含む。

薪と(特に木炭)とを合わせて薪炭しんたんと呼ぶ。

概要

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薪を作っている人

基本的には薪は伐採した木を手ごろな長さに切断し乾燥させ、さらに長細く割り、燃料用とする。各種の燃焼特性が品質の基準になる。製材時に発生する端材や住宅の解体材も利用される[1]

薪を完全燃焼させることは、他の固形燃料などと同様に、それほど容易ではない。熱分解により発生する可燃性ガスすすは不完全燃焼により一部は周囲へ放出され人体に有害となる。それらを完全燃焼させるには炉の構造を工夫し、高温下で酸素を十分に供給するなどが必要となる。

特に伐採直後の生木なまきでは水分を多く含んでおり、乾燥不足の薪は、着火性が悪いだけではなく、発生した熱量が水蒸気に奪われてしまうため、燃焼効率が悪い。温度が上がらないことから不完全燃焼により有害ガスや大量の煤を出してしまう。したがって薪は、できるだけ長期間をかけ乾燥させる必要がある[1]

着火の際には、火の種を充分に大きくする目的で空気との接触面積が大きくなるよう、木の小枝や同程度の大きさに割り揃えた焚きつけと呼ばれる薪を使用する。充分に火が回った後は火持ちをさせるため、より太い薪を火にくべる。

薪は他の燃料と比較するとの排出量と、エネルギー量に対する体積および重量の大きさからあまり効率的な燃料とは言えない。しかし、調達しやすい燃料であるため、もっとも古くから人類に利用されてきた燃料である。

薪には広葉樹も針葉樹も利用される[1]。広葉樹の薪は比較的密度が高く、ゆっくりと燃え、熱量も大きい[1]。針葉樹の薪は比較的密度が低いために熱量も低いが加工時に割りやすく、着火性が高く燃焼速度も速いため焚きつけ用に向いている[1]。なお、薪ストーブなどの一部の機種では針葉樹の薪は使用できない[1]

薪は、熱分解により可燃性ガスを発生するので、それがを上げて燃える。太さや樹種にもよるが、木炭[注 1]に比べると短時間に燃え尽きる事が多い。

過去、日本における薪の生産量は、1931年-1935年(昭和6-10年)で年間平均約5000万層積石、1956年(昭和31年)で3400万層積石。この他、製材屑など薪の代替材の供給が相当量あった[2]

様々な燃焼用途

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家庭内での利用

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薪での調理
薪ストーブ

古来より、薪を燃やして行われていた行為として、煮炊きなどの調理と暖房が上げられる。古代から近代にかけて、家庭内の熱源としてはほとんど唯一の選択肢となっていたのが薪であった。

現代でこそ、ガスや電気などでの様々な調理器具・暖房方法があるが、電気やガスの普及以前には、もっとも入手が容易で扱いが簡単な燃料として利用された。

調理では、簡易的なものからわりと洗練されたものなど様々なかまどが、世界中で考案され利用されており、それらを用いて様々な調理が行われていた。また、ここで生まれた熱を利用した暖炉などの暖房器具などにより、同時に暖房も発展することとなった。

竈での調理

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屋内や家屋から近いところに設置した、という設備に薪を使用することで、一定の熱効率や利便性を確保した上で、肉や野菜の加熱などを行うことが可能となった。

薪ストーブ

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日本では戦前はむろん、1950年代までは都市部でも家庭用や産業用の主要エネルギー源であり、炊事や風呂焚きはほとんど薪によって行われ、多くの家に薪割り用のがあった。高度成長期に石油や電気にとって代わられ、1970年代には都市部で日常の燃料に使う家庭はほぼ消滅した。現在家庭燃料としては石油灯油重油)などが使われるが、現在も地方の一部では薪が使われている。田舎暮らしブームに伴い、薪ストーブ囲炉裏などの薪を使う製品が、趣味の生活用品として憧れの対象になっている面もある。

欧州では、薪由来のばい煙粒子状物質などの数値を押し上げ、大気汚染の一因として指摘され、2022年1月1日からEUの環境規制ENの数値内に収めなければ販売することができなくなる。また、北米では2020年5月に米国環境保護庁 (EPA) により薪ストーブの排気煙量が1時間あたり2グラム以下に制限された[3]

風呂釜

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薪ボイラー

もともとは竈で沸かしたお湯を運搬し風呂へ運搬していたが、風呂の近くで薪により湯を作り循環される方法などが考案された。現代でも銭湯などで薪ボイラーを用いている所がある。循環式の風呂釜が安価に売られている。チョロ火で保温できるメリットもある。ガスまたは石油と共用できる製品もある。一般的な循環式風呂釜と同じ方式のため、ストーブに比べれば導入が容易。最も単純なものは五右衛門風呂だが、火の上に大量の水を配置するために丈夫な架設が必要であり現代では釜の入手自体が難しい。

工業的な利用

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蒸気機関による発電

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米国では、薪の火力発電機が市販されている。但し、木材利用の発電としては木材ペレットが主流であり、薪による発電は小規模で珍しいものとなっている。

動力機関の熱源

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蒸気機関の熱源として薪を用いた例や、薪を燃焼することで生じるガスによる内燃機関を持った薪自動車の例があった。

窯業

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窯業において、伝統的な製法の陶器磁器煉瓦は薪によって焼成される。とくに樹脂を多く含み、高温が得られるアカマツの薪が最良とされる。近年はより手間のかからないガスや電気で焼くことが多くなったものの、場所によって不均一な温度で焼くことによる微妙な色合いを出すために、薪に拘る陶芸家も多い。

レジャーでの利用

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キャンプやバーベキューなどでの熱源としては、焚き火などに薪を使用することが多くあり、ほとんどのキャンプ場では薪が販売されている。 この場合は、近年は焚き火台などの利用が推奨されることが多くなっている。

文化的な利用

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密教において、僧侶が祈祷をする際に祭壇に炉(護摩壇)を設けて、木片をくべることがある。この木片を護摩木と呼ぶ。

薪の作成(薪割り)

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薪と薪割り斧

使用に適した太さや長さに加工し、樹木の乾燥を促す作業を薪割りという。薪の形や大きさに工業規格などはないが、日本では概ね幅数センチメートルで、長さ35センチメートル前後がキャンプ用、45センチメートル前後が薪ストーブ用として主流である。

原料

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薪の原材料として伐採された木材が使用されるが、樹種により火付きや火持ちがよく薪として優れた品質となりえるもの、逆に火付きが悪いもの、さらには毒性ガスが発生するために薪としての使用にそぐわないものがある。

針葉樹と広葉樹

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針葉樹は密度が低く火が付きやすいが、比較的早く燃え尽きる。広葉樹はその逆とされる[4]

毒性のある樹木

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加工道具

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チェーンソー
薪割り機
  • ヨキとも。体力と技術が必要。木の繊維に従い割り裂けるよう、が厚くなっている。スウェーデンフィンランド、ドイツ製品も輸入されている。伐採用や製材用の斧は刃が薄いので、無理に薪割りに用いれば刃が台無しになる。
  • 割矢・金矢わりや・かなや
    薪割り専用の鉄製くさびのことで、2本1組で使用されることが多い。2本を交互に鉄ハンマーなどで叩いていくと、次第に割れていく。斧に比べて安全かつ身体への負担が少ない方法。くさびの上部にスライドハンマーを設置したタイプもある。
  • スプリッターコーン
    ユニコーンスプリッターとも。円錐型の大きなドリルを回転させて、木材を割り広げていく、単純な方式のスプリッター。
  • スプリッター
    ログスプリッターまたはファイヤーウッドスプリッターとも。エンジンモーターで油圧を発生させ、薪をくさびに押し付けて割る機械。発生する圧力をトンで表す(トンが低い物では、広葉樹を割るだけの力がない)。薪割りの重労働に耐えうる者が少ない山村では、数軒で薪割り機を共同使用している例もある。
  • プロセッサー
    ログプロセッサーまたはファイヤーウッドプロセッサーとも。スプリッターの前に、丸のこやチェンソーの玉切り装置を付加した物。薪をトラックに積載するベルトコンベアを備えたものも多い。据え置き式、トレーラー式、重機式、トラクター後部設置式などがある。北欧と北米に多くのメーカーがある。

斧を使用した手順

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薪用の樹木は伐採後に枝を落とし、チェーンソーなどで玉切り(手ごろな長さに横断)する。地面や台の上に立てられるよう、なるべく水平に切断する。切断した薪材は台の上に立て、で割る。生木のうちに、根元を上側にすれば割れやすい[要出典]。台に立てられないような、切り口が水平でない木は丸太に立てかけた状態にして斧を入れる方法もあるが、危険が増すため切り直す方がよい。

太い玉切りは一刀両断できずに斧が木口(こぐち:鋸断面)に刺さって抜けなくなるので、周囲から削ぎ取るように割っていく。繊維が入り組んだ節の多い部分は、くさびを併用する。乾燥が進んでいないスギヒノキをはじめ多くの針葉樹ミズナラサクラシラカバカシは容易に割れるが、ケヤキクスノキは割りにくい。

薪の乾燥

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乾燥中の薪

伐採された直後の樹木は60 %から100 %程度の大量の水分を含む。こうした樹木を薪として加工した直後は、火がつきにくく燃焼のエネルギーが水分の蒸発に消費されるため、乾いた薪と比べて温度が上がりにくい。これは、一見大きな問題ではないように感じられるかもしれないが、加熱燃焼の温度が低い場合は、可燃性ガスの着火点や発火点に達する部分が小さくなり、結果、排出された可燃性ガスが完全燃焼されず、そのまま有害ガスとして放出されたり、不完全燃焼の生成物質として煙やすすとなって放出される[1]。この煤は、調理器や燃焼器具を文字通りすすけさせるだけでなく、元来が可燃性物質のため、予期せぬ火災や、異常加熱による故障のもととなる。また呼吸器に害を与え、煙く不快である。

こうした問題を軽減するために薪を乾燥させることが大切となる。

薪の乾燥では、もともとの水分量を低減させ、20 %程度まで下げることを目標する[注 2]

自然乾燥

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現在の薪の生産では主流である。日当たりと風通しの良い屋外に風が通りやすいように積み上げて、1年から2年程度放置する。水分量の少ない冬期に伐採した樹木で1年数か月。水分量の多い夏期に伐採した薪で2年程度が主流である。ただし、伐採後の薪割りを細くすることで、脱水効率を上げることができ、3センチメートル程度のやや細めに割ることで、数か月から10か月程度でも、20 %程度まで脱水させることが可能となる。

強制乾燥(人工乾燥)

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なんらかの熱源により、急速に乾燥させる方法である。木材ペレットなどでは加工工程で圧縮と摩擦により加熱されるが、薪に対してはあまり行われていない。

乾燥状態

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木材水分計

薪の乾燥状態を知るには、薪の重さと軽く叩いたときの音で判別できる。 よく乾燥した薪は軽く、カンカンと歯切れのいい音がする。含水率が高い薪は重く、ゴンゴンという鈍い音がする。 また、水分計を使用することもできる。

市販の薪

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薪はホームセンターなどでも購入可能で、地域によってはコンビニなどで販売していることもある。 商品としての薪には規格は存在せず、乾燥が十分でない低品質のものが販売されている場合があるため注意が必要である。

薪の熱処理

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薪は熱処理されたものとされていないものに分けられる。 また、熱処理された薪は熱処理の種類によってKiln Dried FirewoodとHeat Treated Firewoodに分けられる。 Kiln Dried Firewoodは規格に準拠していない熱処理のことで、熱処理の詳細が不明な信頼性の低いものに対するラベルとされる。 Heat Treated Firewoodは温度や時間などの条件が明記された信頼性の高い薪に対するラベルである。アメリカにおいては熱処理の手順がアメリカ農務省(USDA)により規格化されている。

薪に熱処理が求められるのは、キクイムシなどの主に病害虫の殺虫のためで、これらが行われていない場合、薪の輸送により木を枯らす森林病害虫が遠隔地に拡散してしまう危険性がある。

一般的な熱処理温度と時間は、薪の芯温60度で1時間とされる。 アメリカでは検疫エリアが設定されており、熱処理されていない薪の州をまたいだ輸送は禁止されている。 USDA認証を受けた業者から熱処理済みの薪を購入することができ、これらの薪に限り輸送が許可される[5][6]

問題点

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森林破壊

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森林破壊

薪は主に発展途上国における燃料として使われており、そのために森林が伐採されている。薪は再生可能エネルギーではあるが、人口増加に伴う薪の消費量の増大が森林回復のスピードを上回っており、森林破壊や砂漠化が進行する原因となっている[7][8]

大気汚染

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調理のために用いられている薪

薪は燃料としては効率が悪い部類に属し、燃焼により熱を取り出す際に完全燃焼が難しくPM2.5ブラックカーボンなどの多くの汚染物質(粒子状物質)・有害ガスを室内および近隣へ放出する。 発展途上国では暖房、調理のために薪が主要な燃料として用いられているため大気汚染がひどく、WHOの調査では全死亡原因の中で1位となっている[9]。 また2022年現在、地球温暖化2022年ロシアのウクライナ侵攻、エネルギー価格の高騰などで薪の利用が増えており、各国の保健当局や環境団体は警告を発している[10][11]。 ギリシャでは経済危機下に陥った際に薪の利用が増え、それにより大気汚染が深刻化した[12]

脚注

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注釈

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  1. ^ 木炭は、木材を熱分解して作られ、揮発成分が除かれており、燃焼時は、木材に比べ炎が出ないかまたは少なく、長時間燃える。
  2. ^ 自然環境では15 %以下へ下げることは困難である。

出典

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関連項目

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