セルロシック・エタノール

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セルロース
セルロースを含む稲藁

セルロシック・エタノールとはセルロースを主原料とする第二世代バイオマスエタノールである。

第一世代バイオマスエタノールの問題点[編集]

2000年代以降、各国で穀物の作付け地でバイオ燃料用の穀物の栽培が増えており、これまで飼料用だった穀物の相場が高騰している[1]。この原因の一因はアメリカやブラジル等の穀物生産国でのバイオエタノール向けのトウモロコシの需要の急増が挙げられる[2]。そのため、先進国が消費する燃料用の穀物価格が急騰して、その一方で食料用の穀物の生産が減り、所得水準の低い国々での調達が困難になりつつある[2]

セルロースを原料とした第二世代バイオマスエタノール[編集]

バイオマスからセルロースを分離し、セルロースを酵素を用いて糖分に分解し、微生物によってアルコール変換する方法である。第二世代バイオ燃料として期待される。セルロース系バイオマスからのエタノール生産に関しては、地球環境産業技術研究機構本田技術研究所がコアとなる製造技術を発表していたり[3](参考アルコール燃料)、独立行政法人産業技術総合研究所が実証実験[4]を行ったりしている。米国でも、ブッシュ大統領がスイッチグラスという草を利用したバイオエタノールの生産について一般教書演説等で何度も言及をし、予算をつけている。エタノール燃料を大規模に導入するためには、セルロースからのエタノール製造が必要になるのはほぼ確実であるとサイエンス誌にも記事が掲載されている[5]。セルロースの加水分解による糖化処理が必要でこれまではセルラーゼ亜臨界水を使用してセルロースを加水分解してきたが、メリーランド大学カレッジパーク校のSteve Hutcheson はチェサピーク湾の沼地で発見されたバクテリア(サッカロファガス デグラダンス英語版)がセルロース分解酵素であるセルラーゼにより強力なセルロース細胞壁の分解能を有する事を突き止めた[6][7][8][9]。Zymetis社ではさらに効率よく糖に変更するために遺伝子を組み換えて、72時間で1トンのセルロースバイオマスを糖に変換できる事を実証した[10][8]

廃木材[編集]

建築廃材は、野焼きを含む不法投棄される事があり、一方で逆有償での回収は不法投棄を招き易い。リサイクルの方策の1つとして、バイオエタノール・ジャパン・関西では、希硫酸による糖化法を用いて、C6糖であるブドウ糖が重合してできたセルロースと、C5糖(主にキシロース)が重合して出来たヘミセルロースを分解している。フロリダ大学が開発したC5糖をZymomonas mobilis由来の遺伝子を組み込んだ大腸菌(Ko11)を用いて発酵し、C6由来の糖は酵母を用いて、エタノールを醸造している。木材に含まれるリグニンペレットにしてボイラーで使用している。 秋田県では、製材残渣や間伐材を用いたエタノールプラントが建設されている[11]。水酸化ナトリウムを用いてリグニンを除去し出来たパルプを糖化するアルカリ蒸解法と、C5糖とC6糖を分離しない酵素(セルラーゼ)と酵母による同時糖化発酵法を用いる。

また、シロアリ消化器官内の共生菌によるセルロース分解プロセスがバイオマスエタノールの製造に役立つ事が期待され、琉球大学理化学研究所等で研究が進められる[12][13][14][15][16][17][18][19]

稲藁[編集]

稲藁は鋤き込みや野焼きにより肥料として水田に還元されうるが、野焼きはスモッグによる環境被害があり、寒冷地では十分な堆肥化が鋤き込みのみでは行われない現状がある。そのため秋田県ではカワサキプラントシステムが開発した熱水処理による稲藁の糖化プラント[20]の実証プラントを平成21年に建設した。粉砕処理したワラを有機酸とともに200度で3分間処理し、ヘミセルロースを糖化しC5発酵させたあと、残りを2段目のセルロース糖化プラントで200度で10秒間処理しC6発酵し、それぞれのエタノールを水分離すると共に、発酵残渣を肥料として水田に還元する。

ネピアグラス[編集]

ネピアグラスという熱帯の非食用の植物を原料とするもので、トヨタ自動車(トヨタ)が2020年の実用化を目指し、研究を進めている。遺伝子組み換え技術を用いた酵母菌の働きでセルロースをエタノールへ変換する。糖の87%をエタノールとして利用でき、セルロース系の中では最も変換効率が高い。非食用のため物価への影響も無いと考えられている[21]

脚注・出典[編集]

  1. ^ 第二世代バイオ燃料の可能性
  2. ^ a b レスター ブラウン「フード・セキュリティー―だれが世界を養うのか」、ワールドウォッチジャパン、2005年4月、ISBN 978-4948754225 
  3. ^ セルロース系バイオマスからのエタノール製造新技術を共同開発
  4. ^ 食料と競合しない多様なバイオマス資源を用いて環境に優しい非硫酸方式によるエタノール製造
  5. ^ Ethanol Can Contribute to Energy and Environmental Goals
  6. ^ Complete Genome Sequence of the Complex Carbohydrate-Degrading Marine Bacterium, Saccharophagus degradans Strain 2-40T
  7. ^ UM Scientists Find Key to Low-Cost Ethanol in Chesapeake Bay
  8. ^ a b セルロースを分解しディーゼル、アルコール等を作る新しい微生物
  9. ^ 正念場を迎えた米国の第二世代バイオエタノール(2)
  10. ^ セルロース分解細菌「Saccharophagus dengradans」の パイロット試験
  11. ^ 北秋田市:木質バイオエタノール製造実証施設安全祈願式
  12. ^ シロアリによるバイオエタノール製造に弾み
  13. ^ シロアリがエタノール生産の救世主に? 代替燃料技術の現在
  14. ^ シロアリの腸からバイオ燃料生産効率を高める新酵素を発見
  15. ^ 国エネルギー省(DOE: Department of Energy)の共同ゲノム研究所
  16. ^ “廃材をバイオ燃料に”. 沖縄タイムス ( 沖縄: 沖縄タイムス): pp. 1面. (2008年7月3日) 
  17. ^ シロアリの新しい利用法
  18. ^ シロアリ腸内共生系の高効率木質バイオマス糖化酵素を網羅的に解析
  19. ^ バイオエネルギー生産のためのシロアリ共生系高度利用技術の基盤的研究
  20. ^ バガス等の熱水処理による自動車用 エタノール製造技術の研究開発
  21. ^ トヨタ、バイオ燃料実用化へ 酵母菌使い2020年メド - 日本経済新聞 2011/10/3 20:18版

関連項目[編集]