パスタ

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パスタイタリア語: pasta)は中国語の「」とほぼ同義の概念をもつイタリア語で、スパゲッティペンネラザニアなどを含む。イタリア料理の主要な要素のひとつ。

日本においては「」が細長い物を示すのと同様に細長い物を「スパゲッティ」、細長くない物を「マカロニ」と呼び分けており、それら「小麦粉のイタリア風の練り物」の事をパスタと総称。(イタリア語のパスタとの差異は後述参照)

語釈

イタリア語 pasta はいくつかの異なる意味をもっている。 いずれも、英語 paste (ペースト)、フランス語 pâté (パテ)や、英語 pastryペーストリー)、フランス語 pâtisserie(パティスリー)、イタリア語 pasticceria(パスティッチェリーア)などと同じ語源をもち、俗ラテン語pasta (生地、練りもの)に由来するものである。

  1. イタリア料理主食の一つである、小麦粉などを主体とした練り物(生パスタ)、およびそれを乾燥した製品(乾燥パスタ)を指す。 より厳密には、パスタ・アリメンターレpasta alimentare; 「食用の pasta 」の意)と呼ぶこともある。 日本語の「」に近い用法だが、細長い形状にこだわらない点が異なる[1]うどんラーメンも、イタリア語話者から見れば「日本の pasta 」ということになる。
  2. やや広義の用法として、菓子類も含め、小麦粉を使ったいわゆる粉物の生地全般を指す。 各種のパンピザフォカッチャ、各種ケーキ類やマルチパンなど、さまざまな生地を含む。 俗ラテン語の原義に最も近い用法。
  3. とくに菓子類において、生地を焼いて出来上がった製品の種類を指す場合がある。
  4. 派生義として、食品以外のものも含め、ペースト状の製品や物質全般を指す用法がある。 日用品の例として パスタ・ダッチューゲ(pasta d'acciughe、アンチョビペースト)、 パスタ・デンティフリーチャ(pasta dentifricia、練り歯磨き)など。

日本語や英語などでの用法は上記 1. に近く、加えて 1. のパスタを使った「パスタ料理」を単にパスタと呼ぶことも多い。 本項ではこれらの用法にもとづいて解説している。

なお、類語としてパスタシュッタpastasciutta)があり、上記 1. とほぼ同じ意味で使われたり、乾燥パスタの別名などとされることがあるが、これは本来、「スープパスタ以外のパスタ料理」を指す言葉である。 スープパスタ(パスタ・イン・ブロード、pasta in brodo)が最も一般的なパスタの献立であった時代に、パスタをスープに入れる代わりにソースをかけて食べる食べ方を明示的に「パスタ・アシュッタ」(pasta asciutta、乾いたパスタ)と呼んで区別した名残りなのだという[2]

概要

パスタメーカー
茹でる前のパスタ

パスタの主な原料は小麦粉で、他に鶏卵などが用いられる。デュラム小麦セモリナ(粗挽き粉)を使ったものが最も良いとされる。デュラム小麦はガラス質と呼ばれる半透明の硬い胚乳が特徴で、パンうどんなどに適した小麦とは性質が異なっている。

なお、イタリアにおいては、1967年に施行されたパスタ法律(580条)によって、乾燥パスタはデュラムセモリナ粉と水で作ることをパスタ生産者に義務付けている。生パスタはフツウコムギの小麦粉を使って作られることが多い。

パスタは大きく分けると2種類に分類でき、スパゲッティに代表される状のロングパスタと、マカロニに代表される小型のショートパスタがある。他に団子状や板状のものもある。

イタリアには地方独特のものも含め650種類ものパスタがあると言われており、毎年のように新しい種類が発表されている。乾燥パスタが多く市販されているが、家庭で生パスタを手打ちすることも出来る。

歴史

パスタづくり(14世紀)
『少年とスパゲッティ』ユリウス・モーザー画、1808年

イタリア半島におけるパスタの歴史は大変古い。チェルヴェーテリにある紀元前4世紀エトルリア人の遺跡からは今日のものとほぼ同じ形態のパスタを作る道具が出土している。[3]古代ローマ時代にはラガーナ(lagana)というパスタがあったが、現在のようにゆでて食べるものではなく、焼いたり揚げたりして食べた。現在と同じような食べ方をしている事を記録している最古の書物は1224年8月2日付けの、ジェノヴァ公正証書ベルガモの医師ルッジェーノが患者の羊毛商人ボッソにあてた文章)である。

今日見られるような乾燥パスタが普及したのは、16世紀半ばにナポリで飢饉に備えるために保存食が必要になったことが、きっかけであったとされる。

18世紀初めまでは、スパゲッティは民衆の食べもので、チーズだけをかけて手でつかみ、頭上にかざして下から食べるものであった。1770年代、庶民の風俗を深く愛したナポリ国王フェルディナンド2世が宮廷で毎日スパゲッティを供することを命じ、この時にスパゲッティを品良く食べるため、からみやすいように先が四本のフォークが考案されたと言われる。

19世紀半ばまでにはパスタをトマトソースで食べる食べ方が普及した。

各国では

イタリア料理正餐(antipasto「前菜」、primo piatto「第一の皿」、secondo piatto「第二の皿」、dolce「デザート」、コーヒーorグラッパを順番に食べる)では、主菜であるsecondo piattoの肉料理魚料理の前に「プリモ・ピアット」(「第一の皿」、primo piatto )として供する。日本では「パスタは「前菜」なのでパスタだけを注文することはできない」と言われることがあるが、イタリア人にとってもイタリアのフルコースは量が多すぎるため、正餐のうちの一部の料理、secondo piattoとパンで食事を済ませることは一般的である。したがってパスタだけを注文することもよほど高級なレストランでない限り問題ない。

アメリカ合衆国イギリスでは「マカロニ・アンド・チーズ」がよく食べられており、食堂スーパーマーケット惣菜コーナーで提供されている他、様々なインスタント食品としても売られている。アングロアメリカでは茹でたショートパスタと生野菜をサラダドレッシングで和えた「パスタサラダ」も人気がある。パスタ料理を専門としたレストランチェーンもあり、ショッピングモールやレストエリアのフードコートでもよく見られる。

日本では喫茶店学校給食学生食堂社員食堂などでも広く親しまれている。イタリア料理を代表する料理と考えられ、特にスパゲッティは代表的なパスタとして知られる。本来のイタリア料理としてだけでなく、ナポリタンイタリアンしそたらこ納豆、刻み海苔など、日本独自の味付けによるスパゲッティ料理も数多く存在し、スパゲッティ屋、パスタハウスと呼ばれるレストランもある。肉料理弁当などにスパゲッティやマカロニサラダが付け合せとして添えられることも珍しくない。

各国では、レトルト食品瓶詰缶詰ソースが売られており、簡便に食事が取れることから、米飯パンに替わる主食としてパスタが広く普及している。

パスタの製法

基本的にはデュラムセモリナ粉に水などの材料を入れて混ぜ合わせ、空気を抜くように捏ね上げる。 生パスタは日本の麺類と同じように仕上げるが、乾燥パスタの場合は成形する機械の中に捏ねた材料を入れ、できるだけ空気を抜きながら押し出すように成形し、そのまま乾燥させる。

風味もしくは彩りを持たせるために、生地にイカ唐辛子ホウレンソウトマトなどを練り込む場合もある。生パスタには鶏卵が入ることが多い。

ロンバルディア州ヴァルテッリーナにはそば粉を使用したピッツォッケリと呼ばれるパスタが存在する。

その他、米粉を原料としたパスタも作られている。小麦が入ったパスタを食べることができないセリアック病の人が食べられる数少ないパスタである。

パスタの種類

様々なロングパスタ
様々な平打ちパスタ
様々なパスタ
様々なパスタ
  • ロングパスタ
    • スパゲッティ Spaghetti - 断面は。太さは様々だが、2.0mm弱。
    • スパゲッティーニ Spaghettini - 細長い。日本では一般的なパスタ。断面は。太さの種類がある。1.6mm~1.7mm。名称はスパゲッティの指小形で、「より細いスパゲッティ」という意味。
    • フェデリーニ fedelini - 細めのスパゲッティ。1.4mm~1.5mm。
    • ヴェルミチェッリ Vermicelli - 名称はミミズやヒルのような長い虫という意味の「ヴェルメ」(verme) の指小形で「小さいヴェルメ」の意。極細のスパゲッティ。ナポリでは、スパゲッティやスパゲッティーニはヴェルミチェッリと呼ばれることの方が多い。1.2mm未満。英語読みの「ヴァーミセリ」としても知られている。主にスープに使われる。
    • カペッリーニ Capellini - 最も細いスパゲッティでカペッリーニ・ダンジェロ(Capellini d'Angelo、「天使の髪の毛」)の別名がある。スープや冷製に用いる。素麺ひやむぎの如く細い為に非常に火が通りやすく、オイルパスタの要領で炒めると千切れベトベトになり著しく食感・風味を損ねる場合があるので注意が必要である。
    • タリアテッレ Tagliatelle - 卵を入れた練り粉をのばして、幅7~8mmに細長く切り分けたパスタ。地域によりフェットゥッチーネ(Fettuccine)とも。乾燥パスタもある。
    • リングイネ Linguine - スパゲッティよりやや太く、断面は楕円形。
    • ブカティーニ Bucatini - スパゲッティとマカロニの中間の太さの孔の開いているパスタ。
    • キタッラ - アブルッツォ州の郷土料理。琴のような道具キタッラで作る。断面は四角い。
    • ビーゴリ Bigoli - 形、色ともに日本の蕎麦に似たヴェネト地方のパスタ。独特の歯ごたえがある。
    • ピッツォッケリ Pizzoccheri - 蕎麦を主体とした練り粉を薄く伸ばし、きしめん状に切り分けた手打ちパスタ。
    • パッサテッリ Passatelli - パン粉チーズナツメグを混ぜ合わせて生地にし、専用の押し出す道具で太い短めのスパゲッティ状に成形したもの。
    • ストロンカテッリ Stroncatelli - スパゲッティ状のマルケ州アンコーナ地方の手打ち生パスタ。
    • タリオリーニ Tagliolini - 卵入りの練り粉をのばして、幅1~2mmに細長く切り分けた蕎麦状のパスタ。ピエモンテ州で人気のパスタで、同州ではピエモンテ語タヤリン(Tajarin)として知られる。タヤリンは一般的なタリオリーニよりほんの少し細めの場合が多い。
    • トレネッテ Trenette - 幅3~4mm、厚さ1~2mmの断面が長方形のリグーリア州のパスタ。
    • パッパルデッレ Pappardelle - 薄い板状にのばした手打ちパスタを20~30mmの幅に切り分けたリボン状のパスタ。
様々なパスタ
様々なパスタ
様々なパスタ
様々なパスタ
  • パスタ・ミスタ pasta mista - 「混ぜたパスタ」の意。「パスタ・ミスキアータ」 (pasta mischiata) とも。パスタ・ミスタとはパスタの種類ではなく、形や大きさの異なるパスタを取り混ぜたもので、主な用途はパスタを使ったミネストラ( minestra、スープの一種)である(「料理法・ソース」で後述)。第一次世界大戦後に包装されたパスタが広く市販されるまでは、パスタは食料品店で量り売りされていた。少量残ったパスタは、欠けたり折れたりしたパスタと混ぜて「ミヌッツァリア」 (minuzzaglia) または「ムンネッツァリア」 (munnezzaglia) と呼び、安い値段で売った。現在では、パスタ・ミスタという名称で、箱入りや袋入りの混合パスタが市販されている。[4]

料理法・ソース

パスタはソースと組合わせて食べる。以下にその主な種類。

アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ
アラビアータ
ボロネーゼ
カルボナーラ
ジェノヴェーゼ
ヴォンゴレ
  • その他
    • ケーゼ・シュペッツェレ-小麦粉・卵・塩バ・ター・ナツメグを入れたパスタ生地をすりおろし器で細分化し茹で冷水に浸し、コンソメスープ・チーズを焼きかき混ぜ完成となるドイツ料理。
    • ボスカイオラ - きこり風。キノコなど山の幸のパスタ。
    • ネーロ - 「黒」という意味。新鮮なイカ墨入りのパスタ
    • 和風ソース

パスタとソースには相性があり、例えばナポリではスパゲッティ(ヴェルミチェッリ)はトマトソースやミートソースと、リングィーニは魚介類と合わせることが多い。 また、日本ではたらこ納豆きのこなどを使った和風のソースも数多くあり、軽食として供されてきたナポリタンもまた日本独特のものである。

パスタを使ったミネストラ(スープ)

カンパーニア地方では、豆(いんげん豆レンズ豆ひよこ豆グリーンピース)、じゃがいもかぼちゃなどをパスタと煮たスープがよく作られる。 スープに入れたパスタは柔らかくなるまで煮込むのが普通で、アルデンテの状態で食べることはまずない。 スープに入れるパスタの形状は管状のパスタ、幅広のパスタ、パスタ・ミスタ、折ったヴァーミチェリまたはカペッリーニなど様々である。具によって好まれるパスタの種類が異なり、例えば豆の入ったスープでは、豆が中に入るような管状のパスタが特に好まれるが、スープに入れるパスタの種類は地域によっても異なる。[5]

パスタを使ったミネストラはイタリアの他の地域にも存在する。いんげん豆とパスタのミネストラ(パスタ・エ・ファジョーリpasta e fagioli )はその最も一般的なものである。また、トスカーナ州ルッカ県では折ったラザーニェ、じゃがいも、トマトを煮込んだミネストラが作られている。[6]

パスタの茹で方

  1. 大きめの深鍋にたっぷりの湯を沸かし、塩を入れる。パスタ100グラムに対して、水1リットル、塩10グラムが基本であるが、200グラム以下のパスタを茹でる場合であっても、最低でも水2リットル程度は必要である。塩には、パスタに下味をつける、パスタを引き締める、表面がうどんのようにぬるぬるするのを防ぐ(化学用語で塩析という現象)といった役割がある。
  2. パスタを鍋に入れる。全体を湯に浸からせたら、くっつかないよう、菜箸などでゆっくり掻き混ぜ、ばらつかせる。混ぜすぎるとパスタの表面が傷むので、ほどほどに。火加減は強すぎず弱すぎず、ポコポコと沸き続ける程度。
  3. パスタがほどよく(アルデンテの状態に)茹だったらザルなどに上げる.
  • この茹で汁には意外なうまみがあり、スープ系パスタなどの割り汁としてソースの濃度を調節したり、ソースや具に少量加えてパスタに絡めやすくしたり、パスタがくっついたりぱさぱさになってしまった場合に茹で汁を少量加えてほどくことができる。

パスタ製造会社

関連項目

脚注

  1. ^ 細長い形状にこだわらないという点では、むしろ中国語の「」(簡体字「」)に非常に近いといえる。
  2. ^ Emily Wise Miller - A Food Lover in Florence
  3. ^ Schwartz, Arthur. Naples at Table. Harper Collins, New York, 1996. p.128
  4. ^ Schwartz, Arthur. Naples at Table. Harper Collins, New York, 1996. p.134
  5. ^ Schwartz, Arthur. Naples at Table. Harper Collins, New York, 1996. p.93-95
  6. ^ Anne Bianchi. From the Tables of Tuscan Women. Ecco, Hopewell, New Jersey, 1995

外部リンク