キルケー

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キルケー
Κίρκη
住処 アイアイエー島
ヘーリオスペルセーイス
兄弟 アイエーテースペルセースパーシパエー
子供 アグリオスラティーノステーレゴノス
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キルケーの系図(シケリアのディオドーロスより)
 
 
 
ヘーリオス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アイエーテース
 
 
 
 
 
ペルセース
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ヘカテー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
キルケー
 
メーデイア
 
アイギアレウス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

キルケー古希: Κίρκη, Kirkē, ラテン語: Circe)は、ギリシア神話に登場する魔女ニュンペー)である。その名前は古典ギリシア語で「鷹」を意味する。日本語では長母音を省略してキルケとも表記される。

キルケーは主にホメーロス叙事詩オデュッセイアー』やアルゴー船の冒険、海神グラウコススキュラの恋物語に登場する。太陽神ヘーリオスの血を引き、伝説的なアイアイエー島に住み[1]薬草学薬学について膨大な知識を持っている彼女は[2]キュケオーンと呼ばれる調合飲料や、軟膏呪文を用いて魔法を使い、人を動物に変身させ、自在に操って家畜とし[3]、あるいは怪物に変えて破滅させる[4]ホメーロスは彼女を《秘薬を使う魔女[5]》と呼ぶとともに《恐るべき女神[6]》《髪麗しい女神[7]》など女神と頻繁に呼んでいる。本来はの女神ないし、愛の(不真面目な)女神でイシュタルに相当する存在だったと考えられている[8]

系譜[編集]

ホメーロスヘーシオドスといった最も古い伝承では、彼女を太陽神ヘーリオスと海の女神ペルセーイス(ホメーロスではペルセー)の娘で、コルキスアイエーテースの兄弟としている[9][10][11]アポロドーロスはこれに加えてペルセース[12]パーシパエーの2人の兄弟がいるとする[11]

シケリアのディオドーロスの説はヘーリオスの子孫とすることに変化はないが少々異なっている。ヘーリオスの子であるタウリケー王ペルセースに娘ヘカテーがおり、彼女と伯父アイエーテースとの間に生まれた娘がキルケーであり、メーデイアアイギアレウスと兄弟であるとしている[13]

子供についてはイタケー島の王でありトロイア戦争で活躍した英雄オデュッセウスとの間にアグリオスラティーノス[14]テーレゴノス[15][16][17][18][注釈 1]ナウシトオスを生んだと伝えられている[18]。その他に娘カッシポネー、アンティウムアルデアを創建したアンティアースとアルデアースなる子供がいたとする説もある[22]。散逸した叙事詩『テーレゴネイア』によるとキルケーはオデュッセウスの子テーレマコスと結婚し、さらに後代の説によると2人の間にラティーノス[23] あるいは娘ローメー(ローマの名祖)を生んだという[24]

キルケーの魔法[編集]

変身の魔法と動物たち[編集]

ドッソ・ドッシの1514年から1516年頃の絵画『風景の中のキルケと恋人たち』。ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵。

キルケーは変身の魔法を使うことで知られる。島を訪れた異国の客を饗応するとき、飲物に故郷のことを忘れさせる薬を混入し、客が飲み終わるのを見計らって彼らを杖で打つ。すると彼らは動物に変身するだけでなく、大人しい性格になり、あるいはキルケーに命じられたとおりに行動する[25]。キルケーの館の周囲にはこのようにして動物に変えられた人間が数多くおり、どんなに体が大きく獰猛な獣であっても人間を襲うことはなく、まるで飼い犬のように親しげについて回る[26]。またキルケーは彼らの身体に軟膏を塗ることで、動物の体毛を取り除き、人間の姿に戻してやることが出来た[27]。それだけでなく、元の人間よりも美しい姿にすることが出来た[28]。一方、オウィディウスは薬草の汁を振りかけて、杖を逆に持って打ち、呪文を唱えることで元に戻したとする[4]

ロドスのアポローニオスは、キルケーの後に従って歩く動物たちの奇妙な姿について語っている。彼らはみな様々な動物の体の部位を合成した姿をしており、それは乾いた大気によって固くなる以前の原初の大地が生み出した動物たちの姿であるという[29]

しかし、ホメーロスは狭い家畜小屋に閉じ込められた者たちは人間の心が残っているために泣き叫ぶとも語っている[30]。またウェルギリウスも、キルケーの薬草で動物の毛皮を被せられ、柵の内側や小屋に閉じ込められた人間たちが怒って吠えていると語っている[31]

薬草学と薬学[編集]

シケリアのディオドーロスのエウヘメリズム的な説によると、コルキスを支配したアイエーテースと、タウリケーを支配したペルセースは残虐な王であり[32]、彼らから生まれた女性たちもみなその性格を受け継いでおり、あるいは彼ら以上に残虐だった。キルケーの母ヘカテーは狩猟を好み、獲物が見つからないときは人間を射殺した。また薬学や毒薬に関心を持ち、トリカブトを発見して、異国の客を饗応する際に様々な薬を混入させて実験を繰り返した。このようにして薬学を極め、父を毒殺して王国を奪ったのちアイエーテースと結婚し、キルケーとメーデイアが生まれた[33]

キルケーもまた母と同様に薬草や薬学に深く関心を寄せた。キルケーが特に注目したのは根類の効能であった。また母ヘカテーから多くの薬学を学んだが、それ以上に自らの研究で多くの成果を得たため母と比較しても全く遜色がなかった[2]。また2人が得た知識はメーデイアも学んだという[34]。メーデイアは後に自分を捨てたイアーソーンに復讐するため、キルケーが発見したよく燃える性質の根類を用いてコリントスの王宮に火を放った[35]

冥府の死霊占い[編集]

またキルケーはオデュッセウスにテーバイ予言者テイレシアースを呼び寄せて予言を得る術を教えている。それによると冥府に赴き、プレゲトーンコーキュートスの2つの河がアケローン河に合流する場所に穴を掘り、蜂蜜を混ぜたもの、、水を順に注ぎ、小麦粉を振りかける。次に故郷の祭壇で仔を生まない牝牛と各種の供物を捧げ、またテイレシアースには特別に黒いを捧げることを誓う。その後、雄の羊と雌の黒い羊をエレボスの方角に向け、自分は後方の河の流れのほうに顔を背け、羊を見ないようにしながら屠殺し、穴に血を流し込む。すると死者の霊が血を求めて集まって来るので、羊の皮を剥いで火で炙り、冥府の王ハーデースペルセポネーに祈る一方、剣を抜いて目当ての予言者が現れるまで他の死者を血に近づけないように気を配る。テイレシアースが現れると予言の約束と引き換えに血を与え、予言を授けてもらう[36][37]。オデュッセウスはキルケーに教えられたとおりにテイレシアースから予言を授かったのち[38]、他の死者にも順番に血を与え、種々の話を聞き出している[39]

アイアイエー島[編集]

現在のキルケーイイ(チルチェーオ)岬。この付近はサバウディアサン・フェリーチェ・チルチェーオの境界となっている。

ホメーロスによると、オデュッセウスはキュテラ島沖から北風に流され、ロートパゴス族の国、キュクロープスの国、風神アイオロスの国、ライストリューゴーン族の国に続いて、キルケーの住むアイアイエー島にたどり着いた。この島はオーケアノスの流れの近くにあり、オデュッセウスはアイアイエー島からオーケアノスに出てハーデースの国へと向かう。こうしたホメーロスの地理学は神話的性格が強いが、後代ではもっぱらティレニア海に面したイタリアラティウム地方のキルケーイイ岬と考えられた。オウィディウスによればこの地名はキルケーに由来している[40]。古代は岬を形成するチルチェーオ山英語版が沼地と海に囲まれていたために島であるかのように見えたとストラボーンは述べている[41]。またオウィディウスは『変身物語』でキルケーの館は薬草が豊富な丘の上にあったと語っており、ストラボーンも現実のキルケーイイ岬が豊富な薬草で評判だったことを伝えているが、ストラボーン自身はキルケーと結びついての評判だろうと述べている[41]

ホメーロスはキルケーがアイアイエー島に住み着いた経緯について語っていないが、ロドスのアポローニオスはアイエーテースがヘーリオスの戦車を駆り、キルケーをイタリアに運んだと語る[42]。またシケリアのディオドーロスは、サルマタイ人の王と結婚して、夫を毒殺し、あらゆる残酷なことをやってのけたため、イタリアに亡命したとしている[43]

神話[編集]

イアーソーンとメーデイア[編集]

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの1892年頃の絵画『嫉妬に燃えるキルケ』。南オーストラリア美術館所蔵。

ロドスのアポローニオスの叙事詩『アルゴナウティカ』によると、キルケーはイアーソーンとメーデイアに対し、アプシュルトス殺害の穢れを清める儀式を行った。彼らは肉親を殺した罪で神々の怒りを買ったことを、アルゴー船に取り付けられたドードーナ予言で知り、殺人の罪をキルケーに祓い清めてもらわなければならなかったのである[44]。彼らがキルケーのもとを訪れたとき、キルケーは昨夜見た悪夢の恐怖をぬぐうため、海で頭を洗っていた。悪夢は彼女のもとに災いが訪れ、動物を供儀して災いを取り除かないと、彼女自身にもその火の粉が降りかかって燃え広がることを暗示していた。2人を見たキルケーはすぐに彼らが嘆願者であり、殺人の罪で神々の怒りを買っていることに気がついたので、清めの儀式を執り行って動物を供儀し、ゼウスエリーニュスたちの怒りを鎮めた。しかし2人の話を聞き、殺した相手が肉親だと気づいたキルケーはメーデイアを憐れんだが、早々に立ち去らせた[45]

グラウコスとスキュラ[編集]

オウィディウスの『変身物語』によると海神グラウコスはクラタイイスの娘スキュラに恋をしたが、スキュラは彼を拒んだ。そこでキルケーのもとにやって来て、薬草あるいは呪文の力で恋を成就させてほしいと依頼した。ところがグラウコスに魅力を感じたキルケーは海神と恋仲になろうとするが、グラウコスの思いを変えることは出来なかった。怒ったキルケーは、毒を持つ薬草の根を磨り潰しながら呪文を唱え、汁を絞った。そしてスキュラのお気に入りの水辺に行き、先ほどの汁で汚しながら、再び呪文を9回唱え、それを3回繰り返した。そうとも知らず、スキュラがお気に入りの場所にやってきて水に入ると、腹から犬のような怪物の首がいくつも生え、恐るべき怪物と化した。のちにスキュラが帰国途上のオデュッセウスの船団を襲ったのは、キルケーに対する復讐心からであったという[46]

ピークスとカネーンス[編集]

上記のエピソードと同じくオウィディウスの『変身物語』によると、キルケーはラティウム地方の王ピークスが狩りをしている姿を目撃し、一目で恋に落ちた。キルケーはの幻を作ってピークスを従者たちから引き離したうえで、呪文を唱えて神々に祈った。すると雲が空を覆ってヘーリオスの目から地上を隠し、が従者たちの目からピークスを隠した。そしてピークスと2人きりになると熱烈に気持ちを伝えた。しかしピークスはヤーヌスの娘カネーンスと結婚していたために、キルケーの求愛を拒んだ。怒ったキルケーは、魔法を使ってピークスを啄木鳥に変えてしまった。さらに従者たちがキルケーを攻撃しようとすると、キルケーは害のある薬草の汁と毒を振りまき、夜の女神ニュクスと夜の神々をエレボスカオスから呼び出してヘカテーに祈願した。すると森の木々は地の上を跳ね、大地はうめき声を発し、草は血に濡れ、地の上をたちが覆い、従者たちの周囲をが飛び交った。この光景に彼らが怯えているすきにキルケーは杖で打って異形の獣に変えた。カネーンスは行方の分からないピークスを探し続けたあと、6日6晩野山を駆け巡ったすえに空気に溶けて消えてしまったが、啄木鳥に変身したピークスはキルケーの館に置かれた人間だった頃の自分をかたどった彫像の上に今も留まっている[47]

オデュッセウス[編集]

パルミジャニーノの1527年頃の素描『キルケとオデュッセウスの仲間たち』。ウフィツィ美術館所蔵。

『オデュッセイアー』によると、気に入った人間の男がいると島に連れて行って養い、飽きると魔法で獣や家畜に変えて暮らしている。アイアイエー島にたどり着いたオデュッセウスエウリュロコスに部下たちの半数を預け、島の探索に行かせたが、キルケーは彼らを快く館に招き入れるふりをして、彼らが毒入りの葡萄酒を飲み干した途端、杖で打ってに変えてしまった。館の外に留まったエウリュロコスは仲間たちがいつまで待っても館から出てこないので、慌てて逃げ帰って報告した。そこでオデュッセウスはキルケーの館に向かったが、そのとき出会ったヘルメース神から魔法を打ち消す効力のある薬草モーリュと助言を授かった。そうとは知らず、キルケーはオデュッセウスが毒入りのキュケオーンを飲み干したとき、オデュッセウスを杖で打ち、「豚小屋で仲間たちに混ざって寝なさい」と命じた。しかし彼には魔法が効かなかったので、オデュッセウスは剣を抜いてキルケーに襲いかかった。キルケーは驚いてオデュッセウスの足元で許しを乞い、「一夜をともにして、今日のことは水に流そうではありませんか」と誘った。しかしオデュッセウスはこのときもヘルメースの助言のおかげで全く油断していなかったので、キルケーはオデュッセウスから精気を奪い、無力な人間に変えないことを誓わなければならなかった[48][注釈 2]。その後、キルケーはオデュッセウスの求めに応じ、軟膏を塗って部下たちを元の姿に戻したが、人間に戻った部下たちは以前よりも若く、背が高く、見目麗しい男になった[51]。キルケーはオデュッセウスたちをあらためて客人としてもてなしたが、これまでの旅があまりに辛く苦しいものだったので、オデュッセウスは疲れを癒しているうちに1年間キルケーとともに過ごしてしまった[52]

ジョバンニ・バッティスタ・トロッティの1610年頃の絵画『オデュッセウスの仲間を人間の姿に戻すキルケ』。パルマパラッツォ・デル・ジャルディーノイタリア語版所蔵。
フレデリック・ステュアート・チャーチ『キルケ』(1910年)。スミソニアン・アメリカ美術館英語版所蔵。

ようやく部下たちの帰還を望む声にわれに返ったオデュッセウスはキルケーと別れ、島を後にする決意をする。そこでキルケーはオデュッセウスに冥府に赴き、死霊術の儀式を使って予言者テイレシアースの死霊を呼び出し、彼の帰国の取るべき道とその後の苦難について予言を授かるよう助言した[53]。さらにオデュッセウスが冥府から戻って来ると、キルケーは今後の航海について忠告した。まずセイレーンの海域では魔力のある歌を聴いてはならないこと、その後2つの航路があり、アルゴー船以外の船をことごとく海の藻屑に変えてきたプランクタイと呼ばれる岩礁がある海域と、カリュブディスの渦巻きと怪物スキュラが住処とする2つの大岩がある海域のいずれかを選んで通過しなくてはならないと教えた。カリュブディスとスキュラの対策を聞き出そうとするオデュッセウスに対して、キルケーはカリュブディスについては何も答えず、スキュラについては怪物の母クラタイイスに助けを求めるよう助言した。最後にヘーリオスの神聖な家畜が飼育されているトリーナキエー島について話し、家畜に危害を加えると神の怒りによって破滅すると忠告した[54]。そして侍女たちに命じて船に食料と葡萄酒を運び込ませ[55]、また出発する際にはに順風を送ってくれた[56]

セイレーンの棲む海域が近づくと、オデュッセウスはキルケーの忠告に従い、船員たちにろうで耳栓をした[57]。一説によるとキルケーが自らの手で船員たちの耳に栓をした[58]。しかし自分だけは耳栓をせず、あらかじめ身体を帆柱に縛り付けさせてセイレーンの歌を聴いた。歌に魅入られて身をもがき、船を止めろと叫ぶオデュッセウスをよそに、部下たちは一心に漕ぎ続けてセイレーンの海域を無事通過した[59]。続いてオデュッセウスはカリュブデスとスキュラの棲む2つの大岩がある海域に航路を取った。そしてキルケーの助言を思い出し、全滅するよりはましだと考え、スキュラの棲む大岩の側に船を寄せて急いで通過しようとした。オデュッセウスたちはカリュブデスに気を取られている隙を突かれ、スキュラに船員6人を喰われてしまうが、その間にオデュッセウスたちは大岩から逃れることに成功した[60]

トリーナキエー島ではテイレシアースとキルケーから助言を授かっていたにもかかわらず、エウリュロコスの反抗的行動を防ぐことができなかった。オデュッセウスはキルケーの助言を語り、キルケーが与えてくれた食料を自由に食べて良いと告げた。しかし風を待つ間に食料が乏しくなると、エウリュロコスはオデュッセウスが眠っている隙に船員たちを扇動し、ヘーリオスの家畜を殺し、肉を食らった。彼らは家畜の中から特に優れたものを選んで神々に犠牲を捧げ、帰国した暁にはヘーリオスの神殿を造営すればよいと考えたのだった。しかし家畜を襲われたヘーリオスは怒ってゼウスに訴えたので、ゼウスは彼らの船を雷で撃ち、オデュッセウス以外の者を滅ぼした[61]

テーレマコスとの結婚[編集]

散逸した叙事詩『テーレゴネイア』によると、オデュッセウスがアイアイエー島を去ったのち、キルケーはオデュッセウスの子テーレゴノスを生み、島で息子を育てた。またヘーパイストスが制作した毒があるアカエイの棘を穂先に付けたを与えた。テーレゴノスは成長するとオデュッセウスに会いに行ったが、イタケーに漂着したときテーレゴノスは空腹に耐えかねて家畜を襲い、家畜を守りに現れた男を父オデュッセウスとは気づかずに槍で殺してしまう。殺した男が自分の父親だと知ったテーレゴノスは、オデュッセウスの遺体と、異母兄テーレマコス、その母ペーネロペーを伴ってアイアイエー島に戻った。キルケーは3人に不死を与え、キルケーはテーレマコスと、テーレゴノスはペーネロペーと結婚した[15]ヒュギーヌスはキルケーとテーレマコスからラティーノスが生まれ、テーレゴノスとペーネロペーからイタロスが生まれたとしている[23][注釈 3]。しかしアポロドーロスはキルケーとテーレマコスとの結婚について語っていない[62]。後代の説によるとキルケーはオデュッセウスの遺体に薬草を使って蘇生させ、娘カッシポネーとテーレマコスとを結婚させたが、後にキルケーがテーレマコスに殺されたため、カッシポネーは夫に復讐したという[63]

神域[編集]

ストラボーンはキルケーイイ岬の近くにキルケーの神域があったことを伝えている[41]

系図[編集]

オケアノス
 
テーテュース
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ペルセーイス
 
ヘーリオス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
キルケー
 
オデュッセウス
 
 
クレータの牡牛
 
パーシパエー
 
ミーノース
 
 
 
ペルセース
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
エイデュイア
 
アイエーテース
 
 
ラティーノス
 
テーレゴノス
 
 
ミーノータウロス
 
カトレウス
 
デウカリオーン
 
アリアドネー
 
パイドラー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
メーデイア
 
イアーソーン
 
 
カルキオペー
 
プリクソス
 
 
アプシュルトス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
メルメロス
 
ペレース
 
アルゴス
 
キュティッソーロス
 
プロンテス
 
メラース
 
プレスボーン
 


ギャラリー[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ヘーシオドスにもテーレゴノスの名前は出てくるが[19] 後世の挿入とされる[20][21]
  2. ^ 女神と関係を持った人間の男が精気を失い、無力な人間と化すという観念は『ギルガメシュ叙事詩』までさかのぼる東方的な観念である[49]トロイア王家のアンキーセースアプロディーテーに対して精気を奪われ、無力な人間になる恐怖を抱いたという話がある[50]
  3. ^ ヒュギーヌスによるとラティーノスはラテン語に、イタロスはイタリア半島に名前を残したと述べている[23]

出典[編集]

  1. ^ 『オデュッセイア―』10巻135行-136行。
  2. ^ a b シケリアのディオドーロス、4巻45・3。
  3. ^ 『オデュッセイアー』10巻。
  4. ^ a b 『変身物語』14巻。
  5. ^ 『オデュッセイアー』10巻276行。
  6. ^ 『オデュッセイアー』10巻137行。
  7. ^ 『オデュッセイアー』10巻220行。
  8. ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』172頁。
  9. ^ 『オデュッセイアー』10巻136行-139行。
  10. ^ ヘーシオドス、956行-957行。
  11. ^ a b アポロドーロス、1巻9・1。
  12. ^ アポロドーロス、1巻9・28。
  13. ^ シケリアのディオドーロス、4巻45・1-45・3。
  14. ^ ヘーシオドス、1011行-1013行。
  15. ^ a b プロクロス『文学便覧』「テーレゴネイア梗概」。
  16. ^ アポロドーロス、適用(E)7・16。
  17. ^ アポロドーロス、適用(E)7・36。
  18. ^ a b ヒュギーヌス、125話。
  19. ^ ヘーシオドス、1014行。
  20. ^ 廣川洋一訳、p.124。
  21. ^ 中務哲郎訳注、p.156。
  22. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話事典』p.111b-112a。
  23. ^ a b c ヒュギーヌス、127話。
  24. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話事典』p.172b。
  25. ^ 『オデュッセイアー』10巻231行-238行。
  26. ^ 『オデュッセイアー』10巻212行-219行。
  27. ^ 『オデュッセイアー』10巻392行-395行。
  28. ^ 『オデュッセイアー』10巻395行-396行。
  29. ^ ロドスのアポローニオス、4巻672行-681行。
  30. ^ 『オデュッセイアー』10巻239行-243行。
  31. ^ 『アエネーイス』7巻15行-20行。
  32. ^ シケリアのディオドーロス、4巻45・1。
  33. ^ シケリアのディオドーロス、4巻45・2。
  34. ^ シケリアのディオドーロス、4巻50・6。
  35. ^ シケリアのディオドーロス、4巻54・5。
  36. ^ 『オデュッセイアー』10巻504行-540行。
  37. ^ 『オデュッセイアー』11巻1行-99行。
  38. ^ 『オデュッセイアー』11巻100行-151行。
  39. ^ 『オデュッセイアー』11巻152行以下。
  40. ^ オウィディウス『祭暦』4巻70行。
  41. ^ a b c ストラボーン、5巻3・6(C232)。
  42. ^ ロドスのアポローニオス、3巻309行-313行。
  43. ^ シケリアのディオドーロス、4巻45・4。
  44. ^ ロドスのアポローニオス、4巻580行-592行。
  45. ^ ロドスのアポローニオス、4巻690行。
  46. ^ 『変身物語』13巻-14巻。
  47. ^ 『変身物語』14巻320-440行。
  48. ^ 『オデュッセイアー』10巻203行-347行。
  49. ^ 『ホメーロスの諸神讃歌』p.329。
  50. ^ 『ホメーロス風讃歌』第5歌「アプロディーテー讃歌」187行-191行。
  51. ^ 『オデュッセイアー』10巻383行-399行。
  52. ^ 『オデュッセイアー』10巻455行-468行。
  53. ^ 『オデュッセイアー』10巻469行-540行。
  54. ^ 『オデュッセイアー』12巻33行-141行。
  55. ^ 『オデュッセイアー』12巻17行-19行。
  56. ^ 『オデュッセイアー』12巻148行-150行。
  57. ^ 『オデュッセイアー』12巻173行-177行。
  58. ^ アルクマーン断片80。
  59. ^ 『オデュッセイアー』12巻178行-200行。
  60. ^ 『オデュッセイアー』12巻234行-260行。
  61. ^ 『オデュッセイアー』12巻261行-425行。
  62. ^ アポロドーロス、適用(E) 7・37。
  63. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話事典』p.96b-97a。

参考文献[編集]

関連項目[編集]