ケイローン

ケイローン(古希: Χείρων, Cheirōn, ラテン語: Chiron)は、ギリシア神話に登場する野蛮で粗暴なケンタウロス族(半人半馬の怪物)の姿をした賢者で、ケンタウロスとしては例外的な存在であり、英雄たちの養育者あるいは教師として知られる。ラテン語ではキロン。日本語では長母音を省略してケイロンとも表記される。
系譜[編集]
ケイローンは一般的なケンタウロスとは出自が異なり、ティーターンの王クロノスとニュンペーのピリュラーの子で[1][2][3]、クロノスは妻レアーの目を逃れるために馬に姿を変えてピリュラーと交わったことから、半人半馬となったという[4]。またドロプスという兄弟がいたともいわれる[2]。ニュムペーのカリクローとの間にヒッペーをもうけた。一説によるとアイアコスの妻でペーレウスとテラモーンの母エンデーイスはケイローンの娘であり[5]、さらに別の説によるとペーレウスと結婚した女神テティスもまたケイローンの娘とされる[6][7][8][9]。
神話[編集]
ケイローンはアポローンから音楽、医学、予言の技を、アルテミスから狩猟を学んだという。ケイローンはペーリオン山の洞穴に住み、薬草を栽培しながら病人を助けて暮らした。またヘーラクレースやカストールら英雄たちに請われて武術や馬術を教え、イアーソーンや[10][11]アクタイオーンを養育し[12]、アスクレーピオスには医術を授けた[11][13][14]。アキレウスの師でもあった。弓を持つケンタウロスのモチーフは知恵の象徴であるケイローンから由来している。
ヘーラクレースとケンタウロスたちとの争いに巻き込まれ、ヘーラクレースの放った毒矢が誤ってケイローンの膝に命中し、不死身のケイローンは苦痛から逃れるために、ゼウスに頼んで不死身の能力をプロメーテウスに譲り、死を選んだ。その死を惜しんだゼウスはケイローンの姿を星にかたどり、射手座にしたという[15]。
ダンテの『神曲』「地獄篇」第十二曲においてダンテ及びウェルギリウスと言葉を交わし、ネッソスに地獄の道案内をするよう命じた。
関係者[編集]
- 家族
- クロノス - 父。馬に化けていたティーターンの王。(ゼウスたちとケイローンは異腹兄弟)
- ピリュラー- 母。ニュンペー。恥と嫌悪感からケイローンを捨てる。
- アポローン - 養父。竪琴、弓術、医学、占星術などを教える。(アポローンがゼウスの子であるため、叔父・甥の関係でもある。)
- アルテミス - 養母。弓術と狩猟を教える。(アポローンの妹)
- カリクロー - 妻
- またクセノポンは、ケイローンに学んだ英雄を列挙している[17]。
- ケパロス
- アスクレーピオス
- メイラニオーン
- ネストール
- アムピアラーオス
- ペーレウス
- テラモーン
- メレアグロス
- テーセウス
- ヒッポリュトス
- パラメーデース
- オデュッセウス
- メネステウス
- ディオメーデース
- ディオスクーロイ
- マカーオーン
- ポダレイリオス
- アンティロコス
- アイネイアース
- アキレウス
- ビザンツ帝国では、ディオニューソスも弟子としている。
備考[編集]
脚注[編集]
- ^ アポロドーロス、1巻2・4。
- ^ a b ヒュギーヌス、序文。
- ^ ヒュギーヌス、138話。
- ^ ロドスのアポローニオス、2巻1231行-1241行。
- ^ ヒュギーヌス、14話。
- ^ ヒュギーヌス『天文譜』2巻18話。
- ^ ロドスのアポローニオス、1巻558への古註。
- ^ クレータのディクテュス、1巻14。
- ^ クレータのディクテュス、6巻7。
- ^ ピンダロス『ピュティア祝勝歌』第4歌102行-103行。
- ^ a b ピンダロス『ネメア祝勝歌』第3歌53行-55行。
- ^ アポロドーロス、3巻4・4。
- ^ ピンダロス『ピュティア祝勝歌』第3歌1行-7行。
- ^ アポロドーロス、3巻10・3。
- ^ トマス・ブルフィンチ『ギリシア・ローマ神話』角川文庫、p235.
- ^ “クセノポン『狩猟について』1章1”. Perseus Digital Library. 2022年1月28日閲覧。
- ^ “クセノポン『狩猟について』1章2”. Perseus Digital Library. 2022年1月28日閲覧。
参考文献[編集]
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- 『オデュッセイア/アルゴナウティカ』松平千秋・岡道男訳、講談社(1982年)
- 『ディクテュスとダーレスのトロイア戦争物語 トロイア叢書1』岡三郎訳、国文社(2001年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ピンダロス『祝勝歌集/断片選』内田次信訳、京都大学学術出版会(2001年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
関連項目[編集]
- ケンタウルス座 - いて座ではなく、ケンタウロス座でないと整合性が取れない神話があるなど古代ギリシアの学者たちは訂正を行っている。
- キロン (小惑星)
- ヨハネの黙示録の四騎士#第一の騎士