キュクロープス
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ギリシア神話 |
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主な原典 |
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主な神殿・史跡 |
パルテノン神殿 ディオニューソス劇場 エピダウロス古代劇場 アポロ・エピクリオス神殿 |
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キュクロープス(古代ギリシャ語: Κύκλωψ、Kýklōps)は、ギリシア神話に登場する卓越した鍛冶技術を持つ単眼の巨人であり、下級神である一族である。あるいは、これを下敷き及びベースとして後世に誕生した伝説の生物をも指す。
長母音を省略してキュクロプスとも表記される。英語読みのサイクロプス (Cyclops) でも知られる。
呼称[編集]
ギリシア語 Κύκλωψ の原義は "κύκλος"(kýklos、 円、丸)と "ὤψ"(ṓps、 眼)から求められる「丸い眼」にあり、額の中央に丸い眼が1つだけ付いていることに由来する。
ラテン語名 Cyclops(キュクロープス)。英語名は Cyclops(サイクロプス)であり、この英語名の発音も仮名転写され、日本語では一般的となっている。フランス語では cyclope (スィクロプ)、ドイツ語では Kyklop (キュクロープ)。中国語では「独眼巨人」、もしくは、音訳で「基克洛普斯」と記す。
- なお、その名に因んだ事象、および、ここから派生した二次創作物については「サイクロプス」を参照
神としてのキュクロープス[編集]
天空神ウーラノスと大地母神ガイアの息子たちで、アルゲース(落雷[1]・稲妻[2])、ステロペース(電光[1]・雷光[2])、ブロンテース(雷鳴[1][2])の3兄弟から構成される。いずれも雷に関連する名前であり、雷の精だったのではないかといわれる。
彼らは父神に嫌われ、兄弟族のヘカトンケイル族とともに奈落タルタロスへ落とされた。弟族のティーターン神の1人クロノスが政権を握ったあとも、久しく拘禁されたままであった。しかし、ティーターノマキアーの時、ゼウスらによって解放される。キュクロープス達はその礼として、ゼウスには雷霆を、ポセイドーンには三叉の銛を、ハーデースには隠れ兜を造った。
以後はヘーパイストスのもとで鍛冶業を続けたといわれる。その一方で、息子アスクレーピオスをゼウスの稲妻で失ったアポローンの八つ当たりを食らい、虐殺されたという悲劇的な異伝もある。
怪物としてのキュクロープス[編集]

ホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』の第9歌に登場するキュクロープス族は、上述の高次元的存在としてのキュクロープスとは大きく異なり、旅人を食らうただ粗暴なだけの怪物である。ポセイドーン神を父に持つポリュペーモスも含めて、そうであった。
キュクロープスの巨石建造物[編集]
イオーニア人・アカイア人・ドーリア人という第3派ギリシア人より前の時代のペロポネーソス半島ではミュケーナイ(ミケーネ)、ティーリュンス、アルゴスなどに代表されるミュケーナイ文明が栄えたが、それらは巨石によって城砦その他を築き上げるものであった。
遅れてこの地に入り定着した第3派ギリシア人は、先人が残した大掛かりな巨石建造物の数々を見るにつけ、これらを巨人キュクロープスの手になるものと考え、「キュクロープスの石造物」と呼び倣わすようになったらしい。これは英国のストーンヘンジに代表されるストーンサークルやヨーロッパ各地のメンヒル、ドルメンといった巨石記念物が神秘的に見られ、巨人の遺した物と考えられたのに似ている部分がある。
芸術作品の中のキュクロープス[編集]
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ラコーニア陶器の大皿に描かれたポリュペーモス(右)とオデュッセウスの部下達。部下達は2人ずつ食われていきながら、ワインで酔わせて裏をかこうとしている。紀元前565 - 560年。
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オディロン・ルドン作「キュクロープス」。1914年。オランダ・オッテルローのクレラー・ミュラー美術館 所蔵。
単眼巨人は何であったのか[編集]
製鉄の神[編集]
天目一箇神(アメノマヒトツノカミ)と天津麻羅(アマツマラ)はともに日本神話に登場する製鉄と鍛冶の神であり、キュクロプスと同じく、1つ眼である。同様に、たたら製鉄に関連して神に近い巨人であるダイダラボッチも隻眼(せきがん)とされる場合がある。また、妖怪・一本だたらは先の天目一箇神が凋落した姿とも考えられている。これら、製鉄(全世界的にはさらに古きを含めて「製錬」と言うべき)と隻眼(単眼)の関連性は注目に値する。「隻眼#神話・伝説の中の隻眼」も参照。
このほかにも、日本の妖怪・一つ目小僧がそうであるように、逃亡を防ぐ目的で故意に片目を潰した人身御供用の人間を神格化したことに起源するとも言われる存在も、世の中にはある。
先天性の1つ眼、ほか[編集]
関連性は証明されないが、可能性として無視のできないものに、先天性奇形の1形態である単眼症(cyclopia)がある。これは、前脳胞の発育異常によって眼胞が左右に分離しなかったために、不完全な眼球を1個だけ本来鼻ができるはずの付近に持っているという奇形である[3]。単眼症は、上述の隻眼(後天性の隻眼)とは異質である。差別され排斥される対象であった異形の人間は、どのような時代にも、口伝する人々の傍らにいたのであり、伝承上の異形の存在との関係を、無いとばかりは言えないであろう。ちなみに、既述の通り、英語ではキュクロープスのことをサイクロプス(cyclops)と読む。単眼症がキュクロープスのモデルであるかどうかは別として、単眼症を英語では「cyclopia」と命名されているのは、1つ目の巨人サイクロプスに由来してのことである[3]。
ゾウの頭蓋骨に由来か[編集]

地質学的知見からは、「出土したゾウの頭蓋骨化石に由来がある」との説が唱えられている[誰?]。ゾウの頭蓋骨の正面には、長大な鼻に見合う巨大な鼻腔が1つ開いている。彼らの眼窩(がんか)は側面に位置している上、鼻腔に比べて遥かに小さい。そのため、「ゾウを見たことの無かった当時の人々が鼻腔を眼窩と勘違いし、“頭部前面に1つ眼を具えた怖ろしげな巨人像”を想起したのではないか」という推論である。なお、ここで言う「当時の人々」とは、よく知られている“自然科学の発達した全盛期のギリシア文明期の人々”のことではなく、“ギリシア文化に連なる不特定のきわめて古い時代に生きた人々”を指す。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
参考文献[編集]
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫(1984年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
- フェリックス・ギラン『ギリシア神話』中島健訳、青土社(1991年)
関連項目[編集]
- その他の関連する名称
- 一つ目の神や想像上の生物
- 松果体#哲学との関連