スキュラ

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ボイオーティア出土の鐘型クラテールに赤絵式で描かれたスキュラ。紀元前450年-425年。ルーヴル美術館所蔵

スキュラ古希: Σκύλλα, Skylla, ラテン語: Scylla)、あるいはスキュレー古希: Σκύλλη, Skyllē)は、ギリシア神話に登場する怪物、あるいはメガラの王女の名。その名は「犬の子」を意味する。

怪物と化したスキュラ[編集]

概要[編集]

オデュッセイア』などに登場する。上半身は美しい女性で、下半身は魚で、腹部からは3列に並んだ歯を持つ6つのの前半身(または首から上)が生えた、奇怪な姿をしているとされる。6つの頭でできた帯をしているともいわれる。また、かつては人間であったともされている。壷絵では剣を持った姿で表されることもある。

神話[編集]

スキュラはシケリア島に暮らす一人の乙女(またはニュムペー)であった。非常に美しい彼女に対し、大勢の男性が求婚を申し込んでいたが、彼女は結婚や恋愛に興味が無く、常に拒み続けていた。岸辺や砂浜を散歩したり、人目に付かない場所で水浴したり、海のニュムペーを訪ねたりするのが好きで、ニュムペーたちも彼女のことをとても気に入っていた。その一人、ガラテイアとは特に仲がよく、いつもたくさんの人につきまとわれて困っていると話すスキュラに対してガラテイアは、かつて自分に恋したキュクロープスポリュペーモスに、恋人アーキスを殺された話を語った。

あるとき、スキュラが隠れた場所を見つけて水に浸っていると、そこに海の神の一柱、グラウコスが現れた。偶然出会ったスキュラに対して恋心を抱く彼に対し、突然のことに驚いた彼女は逃げ出し、海に面した岩山の上まで来るとそこから改めてグラウコスを眺めてみた。しかし、彼のと長い髪、海の様に真っ青な体の色、脚の代わりに生えている魚の尾などといった人間離れした姿には、やはり驚きを隠せなかった。そんな彼女に対しグラウコスは、自分は海神であり決して怪物ではないこと、元々は普通の漁師であったが、とある草を噛んでみたら突然水が恋しくなったこと、陸での生活を捨て海に潜った先で、海神たちがオーケアノステーテュースの許しを得て自分を神の仲間へ加えたこと、そして今ではプローテウストリートーンなど、他の海神たちにも劣らない存在になったことなど、彼女の心をつなぎ止めようと必死に語りかけ、熱烈に求愛した。しかし、他の求婚者と同様、グラウコスもスキュラの心を射止めることはできなかった。彼がさらに話を続けようとしたのも虚しく、彼女は逃げてしまった。

グラウコスは落胆はしたものの、それでもスキュラのことを諦めきれず、魔術と薬学に深い知識を持つキルケーを訪ね、その呪文薬草の力を使って、どうかスキュラとの恋を成就させてほしいと頼んだ。しかし、相談を受けたキルケー自身がグラウコスを気に入ってしまった。彼女は、彼に何の興味も持たない相手を求めようなどとせず、彼に対して恋している相手をこそ求めるべきであると言い、スキュラよりも自分を選ぶように勧めたが、グラウコスは頑として聞き入れようとはしなかった。このことにキルケーは激昂したが、グラウコスへの恋心は変わらなかったため、彼に対して危害を加えるような考えは起こらず、代わりに、恋敵であるスキュラに怒りの矛先を向けた。スキュラが特に気に入っていた場所の一つに、とある小さな入江があった。人目に付かず、海からの波を防げる場所なので、波が高い日や日差しが特に強い時には、この場所を訪れては水浴びをして楽しむのであった。そこで、キルケーは得意の魔術薬学の知識で毒薬を作り、これをその入江の水に流してから呪文を唱えた。

何も知らないスキュラが入江にやってきて、いつものように水に入った。そして、腰まで水に浸かったとき、突然彼女の腹部を凶暴な犬の群れが取り巻いた。その恐怖に彼女は怯え、その場から逃げ出そうとするが、犬たちは全く離れようとしない。そして彼女が自分の脚に触れようとしても肝心の脚はなく、ただ暴れる犬たちの顔があるのみであった。スキュラを取り巻いていると見えた犬の姿は、実は彼女自身の身体の一部だったのである。こうしてスキュラは、キルケーの毒薬により、上半身は美しい姿のまま、魚の尾の下半身、6つの犬の頭と12本の犬の足を持つ姿へと変わってしまった。スキュラは自分の変わり果てた姿に嘆き悲しみ、凶暴な性格へと変貌してしまった。これは毒薬の影響だとも、一方的な仕打ちを加えたキルケーへの復讐心からだとも言われる。グラウコスはそんな彼女を見て涙を流し、彼女にそのような仕打ちをしたキルケーとの関係を絶ったという。

後にトロイア戦争ギリシアの勝利をもって終戦を迎えると、ギリシア勢の英雄オデュッセウスと彼の率いる仲間たちを乗せた船はトロイアから帰るべく航海をしたが、その最中にシケリア島の近くを通りかかった。一行はあらかじめ、この場所を通る際には、カリュブディスとスキュラ、ふたつの怪物に注意するようにと言われていた。カリュブディスは巨大な渦で一日に三度、船を含めたあらゆるものを呑みこみ、三度吐き出すという怪物であった。その音は遠くからでも聞こえるので、一行は問題なく注意を払うことができた。しかしスキュラに対しては、姿が見当たらないうえにカリュブディスに気を取られていたこともあり、警戒を怠ってしまう。そして運悪くスキュラに接近してしまった。その一行に対しスキュラは、6本のとても長い首を伸ばすと、それで6人の船員を襲い、そのまま連れ去ってしまった。船は何とかその場を切り抜けることができたが、オデュッセウスもスキュラに対してはなすすべを持たず、襲われた船員の悲鳴を、ただ聞いていることだけしかできなかった。このように、彼女は近くを通りかかる船に襲い掛かり、乗組員を6人ずつ食い殺す怪物となってしまったのである。オデュッセウス一行の後には、トロイア方の英雄アイネイアースと、彼率いるトロイア人の生き残り一行がシケリア島の付近を通ったが、彼らは怪物たちを避けるため、航路を迂回しなければならなかった。

しかし、そのように恐れられたスキュラも最後には岩と化してしまう。それでも、怪物だった頃の形を残しており、付近を通る船の船員からは相変わらず恐れ続けられているという。

なお、このスキュラに関する物話には諸説ある。その中の一つでは、キルケーはスキュラを怪物にするのではなく、彼女を溺れさせて殺してしまう。また、そのことを知らないグラウコスは、一度はキルケーの愛に応える。しかし、グラウコスはキルケーが自分の飼っている獣たち(元々は人間が彼女によって姿を変えられたものとも言われる)に非道な仕打ちをしているのを目撃し、嫌悪して彼女から逃げようとするが、結局捕らえられてしまう。彼に対しキルケーは、老いた姿で生き続けるようにと彼を呪い、そして追い出す。こうして老衰した彼が海に戻ると、そこでスキュラの遺体を見つけることとなる。そのときグラウコスは、同じように溺死したかつての恋人たちの遺体を集めて千年を過ごしていれば、誰かが自分を救ってくれるかも知れないと考えた。そして千年後、エンデュミオーンがグラウコスに若き姿を再び与え、スキュラたち溺死した人々を生き返らせてくれるのだという。

後世における姿の描写[編集]

作品によっては描かれ方が異なることもあり、例えば犬の集まりが下半身でその背中の上に女性の上半身が付いていたり、犬ではなく蛸足になっていたり、の群れである、などの場合がある。

テーブルトークRPGソード・ワールドRPG』のモンスターとして登場するスキュラは、下半身が6つの蛇の頭と12本の蛸の足になっている。

メガラ王女のスキュラ[編集]

概要[編集]

メガラニーソスの娘であり、怪物のスキュラとは無関係。オウィディウスの『変身物語』などで言及され、メガラに侵攻してきたクレータ島の王ミーノースに恋するあまり、メガラと父のニーソスを裏切ったという。

神話[編集]

クレータ島の王ミーノースはある時、アテーナイ及びメガラへ戦争を仕掛けた。ミーノースの子アンドロゲオースはアテーナイにて開かれたパンアテーナイア祭にて優勝したのだが、その時のアテーナイ人の競技相手がアンドロゲオースに嫉妬し、彼を殺したのである(優勝した彼をアテーナイ王アイゲウスが牡牛退治に向かわせた結果、死なせてしまったという説もある)。このことに怒り、ミーノースは武力を行使してアテーナイを攻めるのだが、彼はまた、アイゲウスの兄弟ニーソスが統治していたメガラに対する侵攻も行った。

ニーソスの髪の中には緋色の毛が一本混じっていた。神託により、この毛が生えている間は、メガラの安全は保障されていた。事実、戦力的に優位なクレータの侵攻が開始されてから半年が経過しているにもかかわらず、メガラの町はいまだ健在であった。

そんな中、メガラの王女であるスキュラは、戦争が始まって半年以上、毎日城の塔の上から戦闘の行方を眺めていた。彼女は町を包囲している敵将兵たち、ひとりひとりの顔は無論のこと、その名前さえも覚え、特に興味を示したのが、クレータの王かつ軍勢の総大将のミーノースだった。彼の圧倒的な戦いぶりを見ているうちに、スキュラは彼に恋心を抱くき、ミーノースのために何か自分にできることはないか、と考えるまでに至った。自分の国と父に対する罪悪感もあるが、結局はミーノースへの愛が勝った。彼女は色々考えた末、ニーソスの緋色の髪の毛をミーノースに渡して彼に取り入ることを決めた。

そして父が眠っている隙に忍び寄り、その髪の毛を切り取ることに成功した。スキュラは自力でミーノースの下まで行き、彼に例の髪の毛を差し出した。そして、驚く彼に対して、自分がメガラの王女であることを告げ、父の国と家とを彼に渡し、愛する彼自身以外のどんな報酬も一切求めないことを告げた。しかしミーノースの方は、狂気とも言える彼女の行動に戦慄を覚え、激しく嫌悪した。そして彼女に対し、神々によって滅ぼされてしまえ、クレータの地を汚させるわけにはいかない、などと罵った。クレータがメガラを攻め落とすと、ミーノースはメガラに対し、公正な条件で協定を結ぶと誓い、早々に軍勢を引き上げることにした。クレータの艦隊が撤収していくのを見てスキュラは怒り狂い、海に潜り込むと猛烈な勢いで艦隊に追いつき、ミーノースの乗る船の船尾にしがみついた。しかし、そこに一匹の尾白鷲が飛んできて、彼女を襲った。それはニーソスが憎き娘に復讐しようとその姿を変えたものであった。鷲にしつこく襲われたスキュラは、ついに船尾から手を離してしまった。しかし、彼女は一羽の鳥(白鷺と語られることもある)へと姿が変わったため、溺死を免れたが、その後は永遠にその鷲に襲われ続けることとなったとされる。

この物話に関しても諸説ある。その一つにおいては、ニーソスの緋色の髪の毛が抜かれると、彼は死ぬだろうとの神託がされていた。スキュラはこの髪の毛を切り、彼を殺した。そしてスキュラに求愛されたミーノースは怒りと戦慄を覚え、彼女を船尾に縛り付けて溺死させたという。

関連項目[編集]