東京の地下鉄

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東京の地下鉄(とうきょうのちかてつ)は、東京都特別区及びその周辺で運行されている地下鉄である。

本項では、以下の定義1の路線を中心に必要に応じて定義2の路線について解説する。

  1. 東京地下鉄株式会社(東京メトロ)が経営する各路線及び東京都(東京都交通局)が経営する地下鉄(都営地下鉄)。
  2. 定義1に加え、旧運輸省都市交通審議会(後に運輸政策審議会を経て国土交通省交通政策審議会に移行)において『東京○号線』の計画番号を与えられた路線。
  3. 東京都特別区内のすべての地下鉄道路線。

概要[編集]

当初、東京の地下鉄の事業者は、東京地下鉄道及び東京高速鉄道の路線を引き継いだ帝都高速度交通営団(交通営団)のみであった。東京都は、大都市公共交通公営主義の観点から営団の解体・併合を求めており、また地下鉄建設の計画を持っていた。また、沿線人口が増え、都心乗り入れを図る各私鉄会社は、太平洋戦争後に国鉄山手線内側に至る地下路線(既存自社路線の延伸として)の免許を相次いで申請した[注 1]。仮に私鉄各社に免許申請を認めて、各社がそれぞれ独自に地下鉄を建設すると、首都・東京の都市計画に影響を来たすこと、営団のみではインフラストラクチャー整備に多額の費用が掛かり、地下鉄建設に対応できないことなどから、運輸省による行政指導が入り、最終的には運輸大臣の諮問機関である都市交通審議会で、都営地下鉄浅草線を皮切りに東京都交通局も地下鉄建設・経営に参入、各私鉄は独自に都心乗り入れするのではなく、同局並びに営団と相互乗り入れすることに決定された(戦後の経緯については「日本の地下鉄」の項も参照のこと)。計画路線には、1号線より順番に番号が与えられ、営団地下鉄・東京都交通局と、一部は相互乗り入れ先である私鉄により、路線が建設されていった。

帝都高速度交通営団は、2004年4月1日特殊法人から民営化され、東京地下鉄株式会社(東京メトロ)となった。民営化により発足した東京地下鉄の株主は、日本国政府財務大臣)と東京都の2者であり、東京都は都営地下鉄を運営する事業者であると同時に、もう一方の地下鉄事業者の株主でもある。同日から、東京メトロと都営地下鉄の駅には駅ナンバリングが導入され、各駅に路線を示すアルファベットと駅番号を示す2桁の数字が割り振られている(例:東京メトロ銀座線の渋谷駅には「G-01」)。また、それ以前より路線別にラインカラーが割り振られており(正式制定は1970年)、利用者の利便性を図っている。

こういった経緯により東京は1つの都市において民営と公営の2つの地下鉄事業者が存在しており、これは日本の都市の中では唯一である。路線数や利用者数・路線距離・駅数などはいずれも東京メトロの方が都営地下鉄よりも多い。このような現状は利用者にとってもわかりにくいことから、都営地下鉄と東京メトロの統合議論も存在するが、進展のない状況にある。

東京メトロと都営地下鉄の各路線は、両事業者で東京都23区内の大半[注 2]を縦横無尽に結んでおり、東京メトロ副都心線と都営浅草線を除く全ての地下鉄路線が都心千代田区を経由する。両事業者の路線・駅数の合計は、世界各都市の地下鉄路線で4番目に多い。その数は、東京メトロ9路線180駅と都営地下鉄4路線106駅の総計13路線286駅(2020年6月6日現在)である。

なお、皇居の地下は、一部路線が皇居外苑をわずかにかすめる程度で、中心部は通っていない。これは、戦前からの皇居(宮城)に対する意識に加えて、仮に皇居の下に路線を建設しても駅が設置できず、さらに東京都心は皇居を囲むようにオフィス街や官庁街が広がっており、それらを経由して路線を敷設した方が多くの利用者が見込めるからである[注 3]。それゆえ、永田町霞が関大手町付近などは複数の路線が集積し、地下鉄のジャンクション・ターミナル駅となっている。

また東京の地下鉄は、前述の通り私鉄(一部は旧国鉄・現JR東日本)との相互直通運転が前提となっており、集電方式が特殊な東京メトロの銀座線・丸ノ内線(共に集電方式が第三軌条式標準軌)と都営地下鉄の大江戸線(リニアモーター式で標準軌)を除き、JR線・各私鉄線と軌間を合わせ、相互直通運転を実施している。大阪名古屋などの他都市と比べて、相互直通運転が盛んに行われているといえる。

東京の地下鉄は直通運転のため郊外鉄道と同等の規格で建設されることが多い(副都心線)

沿革[編集]

東京の地下鉄路線網の変遷(ただしJR・私鉄などの開業・廃止は描写しておらず、2008年のものである)

路線[編集]

東京メトロ・都営地下鉄の路線[編集]

東京地下鉄(東京メトロ)と都営地下鉄の路線図
東京メトロ
都営地下鉄

以下の表では、冒頭の「定義1」の路線について、都市交通審議会の路線番号順に示す。

  • 「色」「記号」は東京地下鉄(以下、表において「東京メトロ」)・都営地下鉄共通のラインカラー及び識別アルファベットを表す。
路線番号 開業順 記号 事業者 路線名 区間 キロ程 備考
1号線 3   A 10/都営地下鉄 浅草線 西馬込駅 - 押上駅 18.3 km
2号線 4   H 03/東京メトロ 日比谷線 北千住駅 - 中目黒駅 20.3 km
3号線 1   G 01/東京メトロ 銀座線 浅草駅 - 渋谷駅 14.2 km
4号線 2   M 02/東京メトロ 丸ノ内線 池袋駅 - 荻窪駅 24.2 km
Mb 丸ノ内線分岐線 中野坂上駅 - 方南町駅 3.2 km
5号線 5   T 04/東京メトロ 東西線 中野駅 - 西船橋駅 30.8 km 終点側は千葉県
6号線 6   I 11/都営地下鉄 三田線 白金高輪駅 - 西高島平駅 24.2 km
目黒駅 - 白金高輪駅 2.3 km 第二種鉄道事業区間[備考 1]
7号線 11   N 08/東京メトロ 南北線 目黒駅 - 赤羽岩淵駅 21.3 km [備考 1]
8号線 8   Y 06/東京メトロ 有楽町線 和光市駅 - 小竹向原駅 - 新木場駅 28.3 km [備考 2] 起点付近は埼玉県
9号線 7   C 05/東京メトロ 千代田線 綾瀬駅 - 代々木上原駅 21.9 km
綾瀬駅 - 北綾瀬駅 2.1 km 鉄道要覧では「千代田線の別線」扱い
10号線 10   S 12/都営地下鉄 新宿線 新宿駅 - 本八幡駅 23.5 km 終点付近は千葉県内
11号線 9   Z 07/東京メトロ 半蔵門線 渋谷駅 - 押上駅 16.8 km
12号線 12   E 13/都営地下鉄 大江戸線 都庁前駅 - 清澄白河駅 - 都庁前駅 - 光が丘駅 40.7 km
13号線 13   F 09/東京メトロ 副都心線 和光市駅 - 小竹向原駅 - 渋谷駅 11.9 km [備考 2][備考 3] 起点付近は埼玉県内
  1. ^ a b 目黒駅 - 白金高輪駅間は南北線と三田線の共用区間で、東京地下鉄(南北線)が第一種鉄道事業者、東京都交通局(三田線)が第二種鉄道事業者である。
  2. ^ a b 都市交通審議会の記述では、和光市駅 - 小竹向原駅間は13号線(副都心線)の区間となっているが、実際には有楽町線と副都心線の共用区間として運行されている。なお、共用区間の営業キロは先に開業した有楽町線に含め、副都心線の営業キロは小竹向原駅 - 渋谷駅間のものとしている(共用区間を含めない)。
  3. ^ 副都心線開業前は先行開業していた小竹向原駅 - 池袋駅間を有楽町線新線として営業していた。

2事業者以外の路線[編集]

以下の表では、冒頭の「定義2」の路線のうち、上表に含まれない路線について、都市交通審議会の路線番号順に示す。いずれも東京メトロまたは都営地下鉄と直通運転を行っている。

なお、都市交通審議会の路線表記では直通運転される地上区間を含める場合があるが、ここでは日本地下鉄協会地下鉄営業路線現況(2019年4月現在) (PDF) における「地下鉄営業キロ」に掲げられた区間について示す。なお、東葉高速鉄道東葉高速線は「東京5号線」の一部で東京メトロ東西線の実質的な延伸区間であるが、全区間東京都の区域外であり、日本地下鉄協会が「地下鉄営業キロ」に含んでいないため本表からは除外している。また、小田急電鉄小田原線代々木上原駅 - 梅ヶ丘駅間および成城学園前駅付近、京王電鉄京王線柴崎駅 - 相模原線京王多摩川駅間の地下区間も、都市計画上はそれぞれ9号線・10号線として連続立体交差事業が行われているものの、「地下鉄営業キロ」に含まれていないため同様に除外している。

路線番号 記号 会社名 路線名 区間 キロ程 備考
1号線   KK 京浜急行電鉄 本線 品川駅 - 泉岳寺駅 1.2 km 鉄道要覧では「本線(品川駅 - 浦賀駅間)の支線」扱い
7号線   SR 埼玉高速鉄道 埼玉高速鉄道線 赤羽岩淵駅 - 浦和美園駅 14.6 km 起点付近をのぞき大半が埼玉県
8号線   SI 西武鉄道 西武有楽町線 練馬駅 - 小竹向原駅 2.6 km
10号線   KO 京王電鉄 京王線京王新線 (新線)新宿駅 - 笹塚駅 3.6 km 「地下鉄営業キロ」上では新宿 - 幡ヶ谷間2.7 km
鉄道要覧では「京王線の複々線区間の一部」扱い
11号線   DT 東急電鉄 田園都市線 渋谷駅 - 二子玉川駅 9.4 km 旧「新玉川線」区間

乗り入れ区間[編集]

東急目黒線へ乗り入れる東京メトロ南北線(右)と、都営三田線(左)
田園調布駅 - 多摩川駅 2019年8月)

使用車両[編集]

東京の地下鉄で使用される車両は自社所有及び直通運転を行う鉄道会社所有のもので、外観も独特なものが多い。地下鉄路線のほとんどはトンネル内径が狭く非常時に列車側部に脱出することができないため[注 7]、列車の先頭部と最後部の双方に非常時脱出用貫通扉の設置が義務付けられた地下鉄等旅客車が導入・運行されている。

以下に自社所有で現在運転を行っている営業車両のみを挙げる。相互乗り入れ路線の車両及び過去に走っていた車両は該当路線を参照。

連携・提携など[編集]

東京地下鉄と都営地下鉄を隔てる壁が撤去された九段下駅のホーム

2つの事業者が存在することから、割引運賃の設定や共通フリーきっぷの発売など、様々な連携や提携が実施されている。また東京都から、多重行政解消のため、両者の一元化が提起されることがあるものの、都営地下鉄の莫大な建設負債問題があり、東京地下鉄や国土交通省が難色を示している。

他方、2010年から2011年にかけて実施された協議では、当時の副知事猪瀬直樹が求めていた一元化については先送りとされたものの、東京都の承諾なしでの東京地下鉄の株式売却を阻止し、乗継割引額の引き上げや、両者間の連絡駅の拡充などの実施について合意した[1]

2017年6月には、同年に東京地下鉄の社長に就任した山村明義が、都営地下鉄との運賃の通算化(乗り継ぎの場合に初乗り料金を二重に徴収するのをやめ、どちらかの料金体系で運賃を決定すること)について検討を進めていることを明らかにしたが、両事業者にとって減収要因となるという問題もあり、実現には困難が予想されている[2]

他の地下路線[編集]

東京には狭義の「地下鉄」以外にも地下路線が多い(京葉線の東京駅構内)

日本地下鉄協会地下鉄営業路線の現況 (PDF) において、同協会が「地下鉄」と認識している東京都特別区内の鉄道路線・区間(日本地下鉄協会会員の運営する地下路線・区間)には、上述のほかに以下のものがある。

これらの路線は、建設の経緯(地下鉄乗り入れを目的としないターミナル部の地下化や貨物線の旅客化など)から「都市交通審議会」でも「東京○号線」の呼称が与えられておらず、一般的に「地下鉄」とはあまり認識されていない。東京臨海高速鉄道りんかい線は大半が地下路線であるが、国土交通省の統計資料など[3]では「地下鉄」と認識されていない。

また、このほか日本地下鉄協会の会員ではない鉄道事業者が運行する地下路線として、首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス秋葉原駅 - 八潮駅間(北千住駅付近を除く)がある。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 各社が都心延伸申請を行う中、西武鉄道だけは都心延伸への動きがなかった。
  2. ^ 23区のうち、世田谷区葛飾区には東京メトロ・都営地下鉄とも路線を持たない(他社線に乗り入れている区間は存在する。なお葛飾区には地下を走行する路線も存在しない)。目黒区は日比谷線が中目黒駅を終点とするのみ(ただし中目黒駅は東急電鉄の管轄)。一方で、一部の路線は千葉県埼玉県内にも乗り入れる。
  3. ^ なお、運輸政策審議会答申第18号における京葉線延伸では、皇居を東西に貫く構想ルートが示されている。
  4. ^ THライナーはさらに東武動物公園駅 - 久喜駅
  5. ^ 特急ロマンスカーの一部はさらに伊勢原駅 - 小田原駅 - 小田急箱根鉄道線箱根湯本駅および相模大野駅 - 江ノ島線片瀬江ノ島駅(片乗り入れ)
  6. ^ S-TRAINの一部はさらに飯能駅 - 吾野駅(通過)- 西武秩父線西武秩父駅
  7. ^ 現行法令上は新鉄道技術省令の解釈基準における「建築限界車両限界の基礎限界との間隔が側部において400mm未満の区間」に該当する。
  8. ^ 両国駅には地下方面用のホームはない。

出典[編集]

  1. ^ 都営地下鉄・東京メトロ:一元化問題 サービス向上先行 乗り継ぎ割引駅も/東京 - 2011年2月4日 毎日新聞都内版
  2. ^ 都営地下鉄との運賃通算化検討 東京メトロ新社長 - 日本経済新聞・2017年6月29日
  3. ^ 例えば、 国土交通省鉄道局 編『数字でみる鉄道2006』財団法人運輸政策研究機構、2006年10月。 など。

参考資料[編集]

  • 井上広和; JRR (1987), 東京の電車, カラーブックス, 保育社, ISBN 978-4586507306 
  • 、1997、「京成電鉄特集」、『鉄道ピクトリアル』632巻(1月増刊号)、電気車研究会
  • 、1998、「京浜急行電鉄特集」、『鉄道ピクトリアル』656巻(7月増刊号)、電気車研究会

関連項目[編集]

外部リンク[編集]