歓喜天

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歓喜天(かんぎてん、Skt:Vinayaka、Ganapati)は、仏教の守護神である天部の一つ。また、聖天(しょうてん)、大聖歓喜天、大聖歓喜大自在天、大聖歓喜双身天王、象鼻天(ぞうびてん)、天尊(てんそん)。あるいはVinayaka、Ganapatiを音写して、毘那夜迦(びなやか)、誐那缽底(がなぱてい)ともいう。

ちなみに「聖天」は「しょうでん」と濁って読む場合が多い。

象頭人身の単身像と立像で抱擁している象頭人身の双身像の2つの姿の形像が多い。人頭人身の形像も見られる。

目次

[編集] 歴史的由来

  • ヒンドゥー教ヴィナーヤカ(Vinayaka、無上)、ヴィグネーシュワラ(Vigneshwara、障碍除去)、ガネーシャ(Ganesa、群集の長)、ガナパティ(Ganapati、群集の主)、またはナンディケシュヴァラ(Nandikesvara)に起源を持つ。古代インドでは、もともとは障碍を司る神だったが、やがて障碍を除いて財福をもたらす神として広く信仰された。
  • 聖天の名称は、大日如来もしくは観自在菩薩の権化身であるために、歓喜天の本身(大日如来もしくは観自在菩薩)を表すために「聖」の字を用いて聖天としたという。

[編集] 密教経典における説話

密教の経典(金剛乗経典)では以下のように説かれている。

  • 大聖歡喜雙身大自在天毘那夜迦王歸依念誦供養法(だいしょうかんきそうしんだいじざいてんびなやかおうきえねんじゅくようほう)では、毘那夜迦(Vinayaka)は摩醯首羅大自在天王(Maheshvara)の第一子であり諸悪を働いていたものの、観音菩薩の化身で常に善利を修める扇那夜迦(Senayaka)によって調伏・調和されて兄弟夫婦となった。
  • 四部毘那夜迦法では、観音菩薩が美女になり畏れの無い施与によって毘那夜迦(Vinayaka)の欲望を満足させたため、大慈悲心が生じて仏教の護法神となった。
  • 大聖歓喜天使咒法経(だいしょうかんぎてんししゅほうきょう)では、以下のご利益が説かれる。
    • 除病除厄(有衆生疾苦 神狂及疥癩 疾毒衆不利 百種害加悩 誦我陀羅尼 無不解脱者
    • 富貴栄達(上品持我者 我与人中王 中品持我者 我与為帝師 下品持我者 富貴無窮已 恒欲相娯楽 無不充満足
    • 恋愛成就(若有求女人 夫心令得女 我悉令相愛
    • 夫婦円満(夫妻順和合
    • 除災加護(持我陀羅尼 我皆現其前 夫妻及眷属 常随得衛護 我有遊行時 誦我即時至 遇於険難処 大海及江河 深山険隘処 獅子象虎狼 毒虫諸神難 持我皆安穏

[編集] 密教の解釈

  • 東密台密ともに、大日如来が方便のため、権現として毘那夜迦天(Vinayaka)になったと解釈されている。欲望を抑えきれない類の衆生に対して、まずは願望を成就させてあげることで心を静めさせて仏法へ心を向かわせる。の含光法師は、その著書で聖天は最高の利生方便をもたらすと説いている。
  • チベット仏教(蔵密)では軍荼利明王が歓喜天を調伏した姿で表現されることもあり、軍荼利明王は歓喜天を支配するとされる。そのため、歓喜天への礼拝祈祷時に軍荼利明王の真言も併せて唱えることもある。

[編集] 両界曼荼羅

  • 両界曼荼羅に描かれているものは、すべて単身の二臂像である。

[編集] 形像

聖天(双身歓喜天)
平安時代の図像集『別尊雑記』(心覚 撰)巻42より

[編集] 概要

象頭人身の形像が多いが、人頭人身の形像もある。大聖歡喜雙身毘那夜迦天形像品儀軌(だいしょうかんぎそうしんびなやかてんぎょうぞうひんぎぎ)等に基づいて、男天・女天2体の立像が向き合って抱擁している歓喜仏的なものが通例である。ヒンドゥー教のガネーシャ神と同様に単体多臂像(腕が4本または6本)もあるが、造像例は少ない。

[編集] 象頭の意義

象頭である理由は、含光記(毘那夜迦誐那鉢底瑜伽悉地品秘要・歓喜天法)によれば、「菩薩権現にて、作障者を正見に誘入せんが爲(ため)に象頭を現す。卽(すなわ)ち瞋恚強力(しんにごうりき)ありと雖(いえど)も、能(よ)く養育者及び調御者に随(したが)ふ。此の尊然(しか)り。障身を現せども、能(よ)く 歸依(きえ)の人(ひと)乃至(ないし)歸佛(きぶつ)者に随うと云えり。」と記されている。

[編集] 作例

日本仏教には珍しく、後期密教の無上瑜伽やタントラ教の歓喜仏を連想させるような男尊・女尊が抱擁し合う表現を含むため、双身歓喜天像は秘仏とされて一般には公開されないのが普通である。

歓喜天の彫像は、円筒形の厨子に安置された小像が多く、浴油供によって供養することから金属製の像が多い。鎌倉市宝戒寺の歓喜天像は高さ150センチを超す木像で、制作も優れ、日本における歓喜天像の代表作といえる。

[編集] 修法と御利益・信仰

[編集] 密教修法

日本の密教(東密・台密)では、歓喜天を本尊とした修法として、歓喜天法(聖天法)がある。

  • 歓喜天を祀る密教寺院には鳥居が設けられていることがあり、、鳥居及び歓喜天を祀る建物注連縄を見受けることがある。
  • 修法中、祈願が遅いときは、軍荼利明王の真言、障礙のあるときは十一面観世音菩薩の真言を唱える。(本項目の「密教の解釈」を参照。)
  • 修法(供養法)として、浴油供(よくゆく)・華水供(けすいく)・酒供(しゅく)などがある。
    • 修法を行うときには、円形の円壇を用いる。方壇(四角形の壇)を用いる場合は、供物を円形に並べて供える。方壇の上にさらに円壇を設ける場合もある。
    • 壇上に安置されている歓喜天の背後に、生花を挿した華瓶(けびょう)を一口(1個)を置く。
  • 浴油供 
    • で歓喜天を沐浴させる。器に清浄な油を入れて適温に暖めて、その油を柄杓などで汲んで、歓喜天の像に油を注ぐ。108回を単位として、1日に7回行う。
  • 華水供 
    • 浴油供に対する供養法。初夜(午後6時~10時)の供養法。天部の諸尊は、午後にはを摂らないので、飲食物を供えずに、の刻(午前2時~4時)に汲んだを意味する、井華水(せいかすい)、(華水(けすい)とも言う。)を閼伽香水(あかこうずい)として供える。もしくは、その水に花を浮かべて供え、供養する。なお、古来より、寅の刻に汲んだ水は水量が盛んで、水にが湧(わ)いていないとされ、極めて清浄な水であるため、諸仏諸尊に供する水として最適であるためである。
  • 酒供

[編集] 御利益

  • 特に最澄が「六天講式」を定め、「そもそも我等、仏法を興隆して、衆生を利益せんとせども、志あっても力無し。仏像を造立し経巻を書写するに、儀あれども遂ぐるなし。このこと誰が人憐れみをなさんや。この念何時に伏するを得んや。唯だ本尊聖者を願い、貧を転じて福を与えるの術を施すべし。」(わたしたちが仏教を興隆させて民衆に奉仕したいと思っても無力である。こういう時には人の助けを借りることも出来ないが、歓喜天を信仰して貧乏を転じて福を与える術を行うべきだ)と述べ、「貧乏人でもこの神の名を聞けばたちまち裕福になり、卑しい地位の人間でも高い地位につけるであろう」と教えている。
  • 大聖歓喜天使咒法経(だいしょうかんぎてんししゅほうきょう)によれば、除病除厄、富貴栄達、恋愛成就、夫婦円満、除災加護などの御利益があるとされている。(本項目の「密教経典における説話」を参照。)

[編集] 一般信者の作法と信仰

大聖歓喜天和讃に歓喜天の深い慈愛が詠われているように、諸神仏に捨てられた祈願も歓喜天に一心にすがれば救って下さると信じられている。

一般には、夫婦和合、子授けの神としても信仰されている。

  • 一般信者にも祈祷作法が定められている。宗派・寺院によって様々であるが一般的には以下の通りである。
    • 体を清潔すること。
    • 般若心経、観音経、大聖歓喜天使咒法経(偈)のいずれか一つ以上を読誦する。
    • 聖天・十一面観世音菩薩の真言を唱える。
    • 勤行に精励する。
    • 歓喜天礼拝のための読誦用の経典や次第・作法などを纏めた「経本」は寺院によって差異はあるが、上述の項目に加えて以下の内容はよくみられる。

[編集] 俗信・迷信

俗に聖天様は人を選ぶといわれ、非道な人間には縁を結ばないし、勤行を一生怠ってはいけないともいわれる。また、いい加減な供養をするとかえって災いがあるとか、子孫七代の福をも吸い上げるなどの迷信がある。

[編集] 梵字

種子(梵字)は 「gah,/ガハ」(ギャク)を二つ重ねた「ギャクギャク」である。

種字を2つを並べることで、双身歓喜天を表し、重ねた種字には涅槃点が加えられている。これは障碍(しょうげ)が已(や)んで、涅槃に入った解釈であるという。

[編集] 真言

オン キリ(ク) ギャク ウン ソワカ(Aum Hrih Gah Hum Svaha)

邦訳すれば、「オーム、離因縁・離塵垢・自在・涅槃証得 円満 調伏 スヴァーハー」だが、キリ(ク)は十一面観世音菩薩の種字、ギャクは歓喜天の種字、ウンは軍荼利明王の種字なので、「オーム、十一面観世音菩薩(種字) 歓喜天(種字) 軍荼利明王(種字) スヴァーハー」と解釈できる。

最初のクは苦しみを抜くと言う意味から抜いて唱えることが多いといわれることもあるが、実際は、日本で「キリク」と読む部分はもともとの梵音「フリーヒ(Hrih)」が訛ったものであり、「フリーヒ」を真言宗では「キリク」、天台宗で「キリ」と読むに過ぎない。よって、その他の真言陀羅尼でも、「フリーヒ(Hrih)」の日本での読みが宗派によってそのようになる場合がある。

大聖歓喜天使咒法経では、双身歓喜天の一字咒「オン ギャク ギャク キリ(ク) オン カ ウン ソワカ(Aum Gah Gah Hrih Aum Ha Hum Svaha)」が説かれる。

[編集] 陀羅尼

ナモ ビナヤキャ シャカ シツチ ボキャシャ タニャ タアチャ ナチャ シュバテイ ヤウ シツダン キャヤ シバ タハヤバ ダサシャヤ バリバチ ソワカ[1]

[編集] 供物

[編集] 歓喜団・歓喜丸

歓喜天の供物として、歓喜団(かんぎだん)、または、歓喜丸(かんぎがん)という菓子がある。インドの菓子であったが、日本では、歓喜天・双身毘沙門天に限った供物になる。材料や作り方については、さまざまな説があり、石榴(ざくろ)・(いちご)など11種あるとされ、また、調伏・息災など祈願の目的によっても種類が違うという説がある。今では、米粉を水で混ぜて、平たい餅にして、中に小豆粉、切った串柿薬種を入れてで煮る。形は、端をひねって、石榴(ざくろ)の形に模す。

[編集] 酒・大根

聖天供(歓喜天供)に供物として、歓喜団・歓喜丸と共に、大根が一緒に供えられる。

[編集] 歓喜天にかかわる名数

[編集] 日本二大聖天

日本二大聖天は、

[編集] 日本三大聖天

日本三大聖天は、東西の二大聖天(待乳山聖天生駒聖天)に、

の内のどれか一山を加えた、計三山の聖天を指すのが一般的である。

[編集] 歓喜天を祀る日本各地の主な寺院

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[編集] 脚注

  1. ^ 大聖歓喜天使咒法経