キュクロープス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
エラスムス・フランキスキErasmus Francisci)の著書に見られるキュクロープスの挿絵
ギリシア神話
Zeus Otricoli Pio-Clementino Inv257.jpg
主な原典
イーリアス - オデュッセイア
神統記 - ギリシア悲劇
ビブリオテーケー - 変身物語
オリュンポス十二神
ゼウス - ヘーラー
アテーナー - アポローン
アプロディーテー - アレース
アルテミス - デーメーテール
ヘーパイストス - ヘルメース
ポセイドーン - ヘスティアー
ディオニューソス
その他の神々
カオス - ガイア - エロース
ウーラノス - ティーターン
ヘカトンケイル - キュクロープス
タルタロス - ハーデース
ペルセポネー
ヘーラクレース - プロメーテウス
ムーサ - アキレウス
主な神殿・史跡
パルテノン神殿
ディオニューソス劇場
エピダウロス古代劇場
アポロ・エピクリオス神殿
ウィキプロジェクト

キュクロープス (Κύκλωψ) は、ギリシア神話に登場する卓越した鍛冶技術を持つ単眼の巨人であり、下級である一族。あるいは、これを下敷きとして後世に誕生した伝説の生物をも指す。

長母音を省略してキュクロプスとも表記される。英語読みサイクロプス (Cyclops) でも知られる。

呼称[編集]

ギリシア語 Κύκλωψ の原義は "κύκλος" (kyklos, 円、丸) と ωψ (ōps, ) から求められる「丸い眼」にあり、額の中央に丸い眼が一つだけ付いていることに由来する。

ラテン語Cyclops (キュクロープス)。 英語名は Cyclopsサイクロプス)であり、cyclo- からの派生語[1]は全て同根の関係にある。 この英語名の発音も仮名転写され、日本語では一般的となっている。フランス語では cyclope (スィクロプ)、ドイツ語では Kyklop (キュクロープ)。中国語では「独眼巨人」、もしくは、音訳で「基克洛普斯」と記す。

なお、その名に因んだ事象、および、ここから派生した二次創作物については、項目「サイクロプス」経由で辿ること。ただし、キュクロプスの逸話に副い、それ自体を扱った著名なものに限り、本項目に記載した。

神としてのキュクロプス[編集]

天空神ウーラノスと大地母神ガイアの息子たちで、アルゲース (Arges) 、ステロペース (Steropes) 、ブロンテース (Brontes) の三兄弟から構成される。いずれもに関連する名前であり、雷の精だったのではないかといわれる。

彼らは父神に嫌われ、兄弟族のヘカトンケイル族とともに奈落タルタロスへ落とされた。弟族のティターン神の一人クロノスが政権を握ったあとも、久しく拘禁されたままであった。しかし、ティーターノマキアーの時、ゼウスらによって解放される。キュクロプス達はその礼として、ゼウスには雷霆を、ポセイドーンには三叉の銛を、ハーデースには隠れを造った。

以後はヘーパイストスのもとで鍛冶業を続けたといわれる。その一方で、息子アスクレーピオスをゼウスの稲妻で失ったアポローンの八つ当たりを食らい、皆殺しにされたとの悲劇的な異伝もある。

怪物としてのキュクロープス[編集]

『オデュッセイア』に登場する単眼巨人ポリュペーモス

ホメーロス叙事詩オデュッセイア』の第9歌に登場するキュクロープス族は、上述の高次元的存在としてのキュクロープスとは大きく異なり、旅人を食らうただ粗暴なだけの怪物である。ポセイドーン神を父に持つポリュペーモスも含めて、そうであった。

キュクロープスの巨石建造物[編集]

イオニア人アカイア人ドーリア人という第3派ギリシア人より前の時代のペロポネーソス半島ではミュケーナイ(ミケーネ)、ティーリュンスアルゴスなどに代表されるミュケーナイ文明が栄えたが、それらは巨石によって城砦その他を築き上げるものであった。

遅れてこの地に入り定着した第3派ギリシア人は、先人が残した大掛かりな巨石建造物の数々を見るにつけ、これらを巨人キュクロープスの手になるものと考え、「キュクロープスの石造物(Cyclopean masonry)」と呼び倣わすようになったらしい。これは英国のストーンヘンジに代表されるストーンサークルヨーロッパ各地のメンヒルドルメンといった巨石記念物が神秘的に見られ、巨人の遺した物と考えられたのに似ている部分がある。

芸術と娯楽のなかのキュクロープス[編集]

出土品、美術作品[編集]

二次創作物[編集]

  • 映画『シンドバッド七回目の冒険』 - 有名な特撮映画。『オデュッセイア』に登場の一族以上に怪物化されてはいるが、宝物の守護者としての怪物キュクロープスが描かれている。

単眼巨人は何であったのか[編集]

英国はロンドン自然史博物館の地質博物館内、地球ギャラリーに展示されているキュクロープスの模型(なぜこれが地質学関連の展示物なのかについては、後述の節「単眼巨人は何であったのか」を参照のこと)

製鉄の神[編集]

天目一箇神(アメノマヒトツノカミ)と天津麻羅(アマツマラ)はともに日本神話に登場する製鉄と鍛冶の神であり、キュクロプスと同じく、一つ眼である。同様に、踏鞴(たたら)製鉄に関連して神に近い巨人であるダイダラボッチ隻眼(せきがん)とされる場合がある。また、妖怪一本だたらは先の天目一箇神が凋落した姿とも考えられている。これら、製鉄(全世界的にはさらに古きを含めて「製錬」と言うべき)と隻眼(単眼)の関連性は注目に値する。「隻眼#神話・伝説の中の隻眼」も参照。

このほかにも、日本の妖怪・一つ目小僧がそうであるように、逃亡を防ぐ目的で故意に片目を潰した人身御供用の人間を神格化したことに起源するとも言われる存在も、世の中にはある。

先天性の一つ眼、ほか[編集]

関連性は証明されないが、可能性として無視のできないものに、先天性奇形の一種である単眼症(cyclopia)がある。これは、上述の隻眼(後天性の隻眼)とは異質である。差別され排斥される対象であった異形の人間は、どのような時代にも、口伝する人々の傍らにいたのであり、伝承上の異形の存在との関係を、無いとばかりは言えないであろう。

ゾウの頭蓋骨に由来か[編集]

Dwarfelephant.jpg

地質学的知見からは、「出土したゾウ頭蓋骨化石に由来がある」との説が唱えられている。 ゾウの頭蓋骨の正面には、長大な鼻に見合う巨大な鼻腔が一つ開いている。彼らの眼窩(がんか)は側面に位置している上、鼻腔に比べて遥かに小さい。そのため、「ゾウを見たことの無かった当時の人々が鼻腔を眼窩と勘違いし、“頭部前面に一つ眼を具えた怖ろしげな巨人像”を想起したのではないか」という推論である。なお、ここで言う「当時の人々」とは、よく知られている“自然科学の発達した全盛期のギリシア文明期の人々”のことではなく、“ギリシア文化に連なる不特定のきわめて古い時代に生きた人々”を指す。

右の画像:コビトゾウ (Dwarf Elephant) の頭蓋骨化石標本。ドイツ、ミュンヘンのヘラブルン動物園 (Tierpark Hellabrunn) 所蔵。

関連項目[編集]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ circle (サイクル)、cycloidサイクロイド、擺線)、cyclingサイクリング)、bicycle (バイシクル)、motorcycle (モーターサイクル)、cycloneサイクロン)、cyclosporineシクロスポリン)、等々。