オイディプース

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ドミニク・アングルによるオイディプス

オイディプース(またはオイディプス、エディプスとも。ギリシア語:Οἰδίπους、ラテン文字表記:Oedipus)は、ギリシア神話の登場人物。テーバイの王ラーイオス(ライオス)とその妻イオカステー(イオカステ。メノイケウスの娘。エピカステーとも)の間の子。実の父を父と知らず殺し、実の母を母と知らず交わったため、オイディプースの名は「エディプスコンプレックス」の語源になった。

目次

[編集] 物語

[編集] 誕生

ラーイオスは神から子供を作るべきではないとの神託を受けた。神託によると、もし子供を作ればその子供がラーイオスを殺すというのである。しかしラーイオスは酔ったおりに妻イオカステーと交わり、男児をもうけた。

神託を恐れたラーイオスは、男児を殺そうと考えたが殺すには忍びなく、男児の踵をブローチで刺し、従者に男児を渡して男児をキタイローンの山中に置き去りにするよう命じた。

しかし従者もまた男児を殺すには忍びないと考えたため、従者はキタイロンの山中にいた羊飼いに男児を渡し、遠くへ連れ去るように頼んだ。コリントスポリュボスとその妻メロペー(異説ではペリボイア、メドゥーサとも)が子供が生まれなくて困っていたため、羊飼いは男児を二人に渡した。

ブローチで刺された男児の踵が腫れていた為、ポリュボスとメロペーは男児をオイディプース(腫れた足)と名づけた。

[編集] 旅立ち

成長したオイディプースは、他のものよりも勝っていたため、これを嫉んだ者達は、オイディプースはポリュボスとメロペーの間の実子ではないと詰った。疑いながらも不安に思ったオイディプースはポリュボスとメロペーとに詰問したが、満足のいく回答が得られず、この為オイディプースは、自分がポリュボスとメロペーとの実子であるかを神々に聞くため、デルポイアポローンの神託を受けた。しかしアポローンはオイディプースの問いに答えず、代わりに別の神託をオイディプースに与えた。

神託はオイディプースに、「故郷に近寄るな、両親を殺すであろうから」と教えた。ポリュボスとメロペーとを実の両親と信じるオイディプースはコリントスを離れ、旅に出た。

[編集] 父殺し

戦車に乗って旅をしている最中、ポーキスの三叉路に差し掛かったところで、前から戦車に乗ったラーイオスがあらわれた。ポリュポンテースというラーイオスの従者が、オイディプースに道を譲るよう命令し、オイディプースがこれに従わぬのをみるやオイディプースの馬を殺した。これに怒ったオイディプースはポリュポンテースとライオースとを殺した(殺害方法には、打ち殺したという説と谷底に突き落としたという説がある)。

ラーイオスが名乗らなかった為、オイディプースは自分が殺した相手が誰であるかを知らなかった。ラーイオスはプライタイアイ王ダマシストラトスが埋葬し、ラーイオス亡き後のテーバイは、メノイケオスの子クレオーンが摂政として治めた。

[編集] スピンクス退治

ギュスターヴ・モローによるスフィンクスとオイディプス

オイディプースはポーキスの三叉路から逃げてテーバイへと向かった。この頃テーバイではヘーラーにより送られたスピンクス(スフィンクス)という怪物に悩まされていた。

スピンクスはテュポーンを父とし、エキドナを母とする怪物で、女面にして、胸と脚と尾は獅子で、鳥の羽を持っていた。スピンクスはムーサより謎を教わって、ピーキオン山頂に座し、そこを通るものに謎を出して、謎が解けぬ者を喰らっていた。

この謎は「一つの声をもちながら、朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものは何か。その生き物は全ての生き物の中で最も姿を変える」というものであった。

この謎が解かれた時スピンクスの災いから解放されるであろうという神託をテーバイ人達は得ていた為、この謎を解くべく知恵を絞ったが何人も解く事は出来ず、多くの者がスピンクスに殺された(一説によるとクレオーンの子ハイモーンもまたスピンクスに殺された)。この為クレオーンは、この謎を解いた者にテーバイの街とイオカステーを与えるという布告を出した。

テーバイに来たオイディプースはこの謎を解き、スピンクスに言った。

「答えは人間である。何となれば人間は幼年期には四つ足で歩き、青年期には二本足で歩き、老いては杖をついて三つ足で歩くからである」(注:スピンクスの問いの答えは「オイディプース」であるという穿った異説もある。後述)

謎を解かれたスピンクスは自ら城山より身を投じて死んだ。これは謎が解かれた場合死ぬであろうという予言があったためである(悔しさのあまり身を投じたという異説もある)。

[編集] テーバイ王となり、母と交わる

スフィンクスを倒したオイディプースは、テーバイの王となった。そして実の母であるイオカステーを、母であるとは知らずに娶って二人の男児と二人の女児を儲けた。二人の男児はそれぞれエテオクレースポリュネイケースといい、二人の女児はそれぞれアンティゴネーイスメーネーという。

[編集] 真実を知る

この項の記述はソポクレースの『オイディプス王』の要約である。

オイディプースがテーバイの王になって以来不作と疫病が続いた。クレオーンがデルポイに神託を求めた所、不作と疫病はラーイオス殺害の穢れの為であるので殺害者を捕らえ、テーバイから追放せよという神託を得た。

そこでオイディプースは、ラーイオス殺害者を捕まえよ、殺害者を庇う者があればその者も処罰するとテーバイ人達に布告を出した。オイディプースはクレオーンの薦めにより、テーバイに住む高名な予言者で目しいのテイレシアースにライオスの殺害者を尋ねる事にした。

自らの子に手をひかれオイディプースの前に現われたテイレシアースは、卜占により真実を知ったが、その真実をオイディプースに伝えるのは忍びなく思い予言を隠そうとした。しかしオイディプースがテイレシアースを詰った為、テイレシアースは怒りに任せ、オイディプースに不作と疫病の原因はテーバイ王その人にあると言った。これを聞いたオイディプースは激怒し、クレオーンがテイレシアースと共謀してテイレシアースに偽の予言をさせているのだと誤解した。この為オイディプースはクレオーンを呼び出して詰問したが、身に覚えのないクレオーンは反駁するのみであった。そこにイオカステーが現われ、オイディプースとクレオーンとの罵り合いを仲裁した。

イオカステーは、テイレシアースの予言を気に病むオイディプースを安心させるため、オイディプースに、予言など当てにならないのだと言い、その例としてラーイオスとイオカステーの間に産まれた子供の話をした。ラーイオスとイオカステーはもし子供を作ればその子供がラーイオスを殺すとの神託をその昔受けたが、ラーイオスはポーキスの三叉路で何者かに殺されてしまい、この予言は当たらなかったとオイディプースに伝えた。

しかしながらこの話を聞いたオイディプースはかえって不安に陥った。何となればオイディプースは、過去ポーキスの三叉路で人を殺した事があるからである。不安に陥ったオイディプースをイオカステーがたしなめ、ラーイオスが殺害された際殺害を報せた生き残りの従者を呼んで真実を確かめる事を忠言した。忠言に従ったオイディプースはその従者を求めたが、従者はオイディプースが王位についた頃にテーバイから遠く離れた田舎に移り住んでいた。予言が実現された事を知った従者は、恐ろしさのあまりテーバイの見えぬところへと何も言わずに逃げたのである。

オイディプースがラーイオス殺害者と従者とを追っていると、彼のもとにコリントスからの使者が訪れた。使者はコリントス王ポリュボスが死んだ為コリントス王の座はオイディプースのものになったと伝え、オイディプスにコリントスへの帰国を促した。

しかし、自分の両親を殺すであろうという神託受けていたオイディプースは帰国を断った。何となればオイディプースは、ポリュボスとメロペーとを実の父母と信じていたからである。この為使者は、オイディプースに、ポリュボスとメロペーとは実の父母ではないのだと伝えた。これを聞いたイオカステーは真実を知り、自殺するためその場を離れた。しかし未だ真実を悟らないオイディプースはイオカステーが自殺しようとしている事に気づかず、女ゆえの気の弱さから話を聞く勇気が失せて部屋に戻ったのだと思い違いをした。

まもなくラーイオスが殺害された際に、そのことを報せた生き残りの従者がオイディプースのもとに連れて来られた。この従者はオイディプースをキタイローンの山中に捨てる事を命じられた従者と同一人物であった。

従者はオイディプースに全てを伝えた。真実を知ったオイディプースは、イオカステーを探すべくイオカステーの部屋を訪れた。するとイオカステーは縊れていた。オイディプースは縄をほどきイオカステーを下ろしたが、時すでに遅く、イオカステーは死んでいた。

罪悪感に苛まれたオイディプースは、狂乱のうちに我と我が目をイオカステーのつけていたブローチで刺し、自ら盲(めしい)になった。このブローチは、オイディプースの幼少期にラーイオスがオイディプースの踵を傷つけたものと同一のものである。

失明したオイディプースは、クレオーンの前に現われた。クレオーンが目の事を問うた所、オイディプースは、もし目が見えたなら冥府を訪れたときどのような顔をして父と母とを見ればよいのか、と答えた。そして自らをテーバイから追放するようクレオーンに頼み、自ら乞食になった(一説によると追放され、息子たちもそれを妨げなかった)。

[編集] 最期

娘と共に諸国をさすらったオイディプースは、その後アテーナイに辿り着いた。アテーナイ王テーセウスはオイディプースを手厚く庇護し、コローノスの森でオイディプースが最期を迎えることを認める。テーセウスに見守られ、ようやく安息の地を得たオイディプースは地中へ姿を消した(『コロノスのオイディプス』)。

[編集] 異伝

古い形の伝説では、オイディプースは、自分の母を妻にしている事を知った後でもそのまま王であり続けている。

イーリアス』には、オイディプースが戦場で死んだと記されている。

また一つの解釈として、スピンクスの謎かけの答えは「オイディプース」であるとも言われる。

それは、初めは立派な人間(=二つ足)であったが、母と交わるという獣の行いを犯し(=四つ足)、最後は盲目となって杖をついて(=三つ足)国を出て行く、と言うオイディプースの数奇な運命を表すものである(この解釈では朝・昼・夜という時系列は、青年期・壮年期・老年期となる)。

この解釈は『オイディプス王』(2002年野村萬斎主演)でも演じられた。

[編集] ギリシャ悲劇の作品

この伝説は、ギリシア悲劇に再三取り上げられ、以下のものが現存している。

[編集] 文献

ウィキメディア・コモンズ
  • ソポクレース著『オイディプス王』
  • ソポクレース著『コロノスのオイディプス』

[編集] 外部リンク