ゼウス

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1680年にスミルナにて発見されたゼウス像
ギリシア神話
Zeus Otricoli Pio-Clementino Inv257.jpg
主な原典
イーリアス - オデュッセイア
神統記 - ギリシア悲劇
ビブリオテーケー - 変身物語
オリュンポス十二神
ゼウス - ヘーラー
アテーナー - アポローン
アプロディーテー - アレース
アルテミス - デーメーテール
ヘーパイストス - ヘルメース
ポセイドーン - ヘスティアー
ディオニューソス
その他の神々
カオス - ガイア - エロース
ウーラノス - ティーターン
ヘカトンケイル - キュクロープス
タルタロス - ハーデース
ペルセポネー
ヘーラクレース - プロメーテウス
ムーサ - アキレウス
主な神殿・史跡
パルテノン神殿
ディオニューソス劇場
エピダウロス古代劇場
アポロ・エピクリオス神殿
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ゼウス古希: ΖΕΥΣ, Ζεύς, Zeus)は、ギリシア神話主神たる全知全能の存在[1]。全宇宙や天候を支配し、人類と神々双方の秩序を守護する天空神であり、オリュンポス十二神をはじめとする神々の王でもある。全宇宙を破壊できるほど強力なを武器とし、多神教の中にあっても唯一神的な性格を帯びるほどに絶対的で強大な力を持つ[2]

概要[編集]

ゼウスはローマ神話ではユーピテル(ジュピター)にあたる。オリュムポスの神々の家族および人類の両方の守護神・支配神であり、神々と人間たちの父と考えられた。

ゼウスは天空神として、全宇宙や雲・雨・雪・雷などの気象を支配していた。キュクロープスの作った雷霆(ケラウノス)を主な武器とする。その威力はオリュンポス最強と謳われるほど強大なもので、この雷霆をゼウスが使えば世界を一撃で熔解させ、全宇宙を焼き尽くすことができる[3]テューポーンと戦う際には、万物を切り刻む魔法の刃であるアダマスの鎌も武器としていた。雷霆の一撃をも防ぎ、更に敵を石化させるアイギスの肩当て(胸当てや楯という説も)を主な防具とするが、この防具はよく娘のアテーナーに貸し出される。

「光輝」と呼ばれる天界の輝きを纏った鎧に山羊革の胸当てをつけ、聖獣は、聖木はオーク。主要な神殿は、オークの木のささやきによって神託を下したエーペイロスの聖地ドードーナ、および4年ごとに彼の栄誉を祝福してオリンピック大祭が開かれたオリュンピアにあった。この他にも、「恐怖」という甲冑をギガントマキアーにおいて着用している。

系譜[編集]

ティーターン神族のクロノスレアーの末の子(長男の説もある)で、ハーデースポセイドーンの弟。正妻は姉妹であるヘーラーであるが、レートーや姉のデーメーテール等の女神をはじめ、多くの人間の女性とも交わり、子をもうけたといわれる。

オリュンポス十二神の中では、メーティスとの間にアテーナー、レートーとの間にアポローンアルテミス、ヘーラーとの間にアレースヘーパイストス、またテーバイの王女セメレーとの間にディオニューソスをもうけた。

また様々な人間の女性との間に、たとえばダナエーとの間にペルセウスを、アルクメーネーとの間にヘーラクレースを、レーダーとの間にディオスクーロイをといったように多数の子供たちをもうけたことになっている。これらゼウスの子とされる英雄を半神(ヘロス)といい、古代ギリシアでは下級の神として広く祀られた。これらの伝説は、古代ギリシアの各王家が、自らの祖先をゼウスとするために作り出された系譜とも考えられる。ゼウスが交わったとされる人間の女の中には、もとは地元の地母神であったと考えられるものもいる。女神や人間と交わるときのゼウスはしばしば変化したとされ、ダナエーのときには黄金の雨、レーダーのときには白鳥などの獣の形に変身したといわれる。

ゼウスの一族の系譜図

王位簒奪戦争[編集]

ゼウスの生誕に関する古代伝説のひとつによれば、父クロノスはわが子に支配権を奪われる不安にかられ、生まれた子供を次々に飲み込んでしまった。そこでゼウスを生んだとき、母レアーは産着で包んだ石をかわりにクロノスに飲ませることでゼウスを救った。ゼウスはクレーテー島で雌山羊のアマルテイアの乳を飲み、ニュムペーに育てられた。

成人したゼウスは、嘔吐薬によってクロノスに女を含め兄弟たちを吐き出させ(この時飲み込まれた順とは逆の順で吐き出されたが、これがポセイドーン等にとって第2の誕生にあたり、よって兄弟の序列が逆転されたともされている)、父親に復讐をしたがっている彼らと共に、全宇宙の支配権を巡る戦争であるティタノマキアを勃発させた。

この大戦においてゼウスは雷霆を投げつけ、宇宙をも揺るがす衝撃波と雷火によってティーターン神族を一網打尽にした。雷光は全空間に漲り、ティーターンたちは瞬く間に目を焼かれて視力を奪われた。雷霆の威力は想像を絶し、見渡す限りの天地を逆転させ[4]、地球や全宇宙、そしてその外側のカオスをも焼き払うほどであった[5]。この猛攻撃の甲斐あってゼウスたちはクロノスなどのティーターン神族を打ち倒し、敗者であるティーターン神族は宇宙の深淵であるタルタロスに封印された。

その後ゼウスとポセイドーンとハーデースは支配地をめぐってくじ引きをし、それぞれ天空と海と冥界の主となった。更に、ゼウスはその功績から神々の最高権力者と認められた。

巨人族との戦い[編集]

全宇宙の支配権が確立したティタノマキア後も、ゼウスの支配を揺るがすような出来事が起こった。ゼウスは全宇宙の支配を護る為に防衛戦を展開しなければならなかった。

その一つが巨人族ギガースとオリュンポスの神々の戦いであるギガントマキアであり、これはタルタロスに我が子であるティーターン神族を幽閉されたことに怒ったガイアが仕向けた大戦であると言われている。ギガースは山を軽々と持ち上げるほどの腕力を持ち、神々に対しては不死身であったが、人間なら殺すことができ、ゼウスは半神半人である自らの息子ヘーラクレースをオリュンポスに招いて味方にした。

ギガースたちは島や山脈といったありとあらゆる地形を引き裂きながら大軍で攻め入ってきたが、迎撃を開始した神々とヘーラクレースによって尽く打ち倒された。へーラーに欲情して犯そうとしたギガース・ポルピュリオーンは、彼女を犯す前にゼウスの雷霆によって戦闘不能にされ、最後はヘーラクレースの毒矢によってとどめを刺された。ギガースたちは神々によって島や山脈を叩き付けられて封印され、ヘーラクレースの強弓によって殺戮された。ギガントマキアはゼウスたちの圧勝に終わった[6]

最終決戦[編集]

ギガントマキアでゼウスたちを懲らしめられなかったガイアは、タルタロスと交わり、ギリシア神話史上最大にして最強の怪物テューポーンを生み出してオリュンポスを攻撃させた。テューポーンは頭が星々とぶつかってしまうほどの巨体を有しており、両腕を伸ばせば東西の世界の果てにも辿り着いた。神々と同じく不老不死で、肩からは百の蛇の頭が生え、炎を放つ目を持ち、腿から上は人間と同じだが、腿から下は巨大な毒蛇がとぐろを巻いた形をしていた。テューポーンは世界を大炎上させ、天空に突進して宇宙中も暴れ回った。これには神々も驚き、動物に姿を変えてエジプトの方へと逃げてしまった。しかし、ゼウスただ一人だけがその場に踏み止まり、究極の怪物にして怪物の王テューポーンとの壮絶な一騎打ちが始まった[7]

ゼウスは雷霆とアダマスの鎌でテューポーンを猛攻撃し、テューポーンは万物を燃やし尽くす炎弾と噴流でそれを押し返した。この決戦は天上の宇宙で繰り広げられ、これによって全秩序は混沌と化し、全宇宙は焼き尽くされて崩壊した[8]。両者の実力は拮抗していたが、接近戦に持ち込んだゼウスがテューポーンの怪力に敗れ、そのとぐろによって締め上げられてしまう。テューポーンはゼウスの雷霆とアダマスの鎌を取り上げ、手足の腱を切り落とし、デルポイ近くのコーリュキオンと呼ばれる洞窟へ閉じ込めた。そしてテューポーンはゼウスの腱を熊の皮に隠し、番人として半獣の竜女デルピュネーを置き、自分は傷の治療のために母ガイアの元へ向かった。

ゼウスが囚われたことを知ったヘルメースパーンはゼウスの救出に向かい、デルピュネーを騙して手足の腱を盗み出し、ゼウスを治療した。力を取り戻したゼウスは再びテューポーンと壮絶な戦いを繰り広げ、深手を負わせて追い詰める。テューポーンはゼウスに勝つために運命の女神モイラたちを脅し、どんな願いも叶うという「勝利の果実」を手に入れたが、その実を食べた途端、テューポーンは力を失ってしまった。実は女神たちがテューポーンに与えたのは、決して望みが叶うことはないという「無常の果実」だったのである。

敗走を続けたテューポーンは悪あがきとして全山脈をゼウスに投げつけようとしたが、雷霆によって簡単に弾き返され、逆に全山脈の下敷きになってしまう。最後はシケリア島まで追い詰められ、エトナ火山を叩き付けられ(シケリア島そのものを叩き付けたとする説もある)、その下に封印された。以来、テューポーンがエトナ山の重圧を逃れようともがくたび、噴火が起こるという。こうしてゼウスはテューポーンとの死闘に勝利し、もはや彼の王権に抗うものは現れなかった。

また、神統記によれば、ゼウスはテューポーンと全宇宙を揺るがす激闘の末に、雷霆の一撃によって世界を尽く溶解させて、そのままテューポーンをタルタロスへと放り込んだのだという。

世界の平定[編集]

ガイアがまだ権威を持っていた宇宙の原初期には、森羅万象はオリュンポスの神々に対して反抗的で、全物質が支配から逃れようと暴れ出した。ガイアは地母神と言われているが、その支配領域は大地だけではなく、天をも内包する世界そのものにまで及んでいたからだ。万物の反抗は、何もかも覆してしまうかのような大変動に繋がった。大陸はねじれて震え、山々はばらばらに引き裂かれて岩石や火砕流を吐き出した。河は流れを変え、海は隆起して全ての大陸は海中へと没した。全物質の攻撃により、世界は混沌と化した。

しかし、ゼウスは宇宙を統制し、森羅万象を押さえ込んで混沌とした世界をその意に従わせた。大地はもう揺らがなくなり、山々も平穏になった。大陸は海中から姿を現し、もう海が暴れることもなくなった。ゼウスは世界を平定し、再び宇宙に調和が訪れた[9]

人物[編集]

ホメーロスの記述にみるゼウスは、2つの異なる姿で描かれている。一面ではゼウスは弱者の守護神、正義と慈悲の神、悪者を罰する神としてあらわされる。しかし同時に、次々と女性に手をだしては子孫を増やし、不貞を妻に知られまいとあらゆる手段を講じる神としても描かれている。

元来はバルカン半島の北方から来てギリシア語をもたらしたインド・ヨーロッパ語族系征服者の信仰した天空神であったと考えられ、ヘーラーとの結婚や様々な地母神由来の女神や女性との交わりは、非インド・ヨーロッパ語族系先住民族との和合と融合を象徴するものと考えられる。また自分たちの系譜を神々の父までさかのぼりたいという、古代ギリシア人の願望としても説明されることがある。

多くのインド・ヨーロッパ語族系言語を用いる民に共通して信仰された天空神に由来し、その祖形は、ローマ神話におけるユーピテルの原型であるデイオス・パテール、あるいは普通名詞「神」を表すデイオス、デウス、古層のインド神話の天空神ディヤウス北欧神話テュールらに垣間見ることができる。

好色なこの父神は、ギリシアにおける道徳意識の高まりとともに、しだいに好ましくない存在となった。

出典[編集]

  1. ^ 里中満智子・名古屋経済大学助教授西村賀子解説 『マンガギリシア神話1 オリュンポスの神々』 中公文庫、2003年。以下は同書の参考文献。
    • K・ケレーニイ 『ギリシアの神話-神々の時代』 植田兼義訳、中公文庫、1985年。
    • K・ケレーニイ 『ギリシアの神話-英雄の時代』 植田兼義訳、中公文庫、1985年。
    • 呉茂一 『ギリシア神話 上・下』 新潮文庫、1979年。
    • アポロドーロス 『ギリシア神話』 高津春繁訳、岩波文庫、1953年。
    • 『四つのギリシャ神話-ホメーロス讃歌より』 逸見喜一郎・片山英男訳、岩波文庫、1985年。
    • ヘーシオドス 『神統記』 広川洋一訳、岩波文庫、1984。
    • ヘーシオドス 『仕事と日』 松平千秋訳、岩波文庫、1986年。
    • ホメーロス 『イーリアス 上・中・下』 呉茂一訳、岩波文庫、1953・56・58年。
    • ホメーロス 『オデュッセイア 上・下』 松平千秋訳、岩波文庫、1994年。
    • 串田孫一 『ギリシア神話』 筑摩書房、1961年。
    • 山室静 『ギリシャ神話 付北欧神話』 現代教養文庫・社会思想社、1963年。
    • T・ブルフィンチ 『ギリシア神話と英雄伝脱 上・下』 佐渡谷重信訳、講談社学術文庫、1995年。
    • 阿刀田高 『ギリシア神話を知っていますか』 新潮社、1981年。
    • D・ベリンガム 『ギリシア神話』 安部素子訳、PARCO出版、1993年。
    • F・ギラン 『ギリシア神話』 中島健訳、青土社、1982年。
    • 『ギリシア神話物語』 有田潤訳、白水社、1968年。
    • 高津春繁 『ギリシア・ローマ神話辞典』 岩波書店、1960年。
    • L・マルタン監修 『図説ギリシア・ローマ神話文化事典』 松村一男訳、原書房、1997年。
    • 水之江有一編 『ギリシア・ローマ神話図詳辞典』 北星堂書店、1994年。
    • 吉村作治編 『NEWTONアーキオVOL.6 ギリシア文明』 ニュートンプレス、1999年。
    • A・ピアソン 『ビジュアル博物館37 古代ギリシア』 同朋舎出版、1993年。
    • F・ドゥランド 『古代ギリシア 西欧世界の黎明』 西村太良訳、新潮社、1998年。
    • 周藤芳幸 『図説ギリシア エーゲ海文明の歴史を訪ねて』 河出書房新社、1997年。
    • 青柳正規他 『写真絵巻 描かれたギリシア神話』 小川忠博撮影、講談社、1998年。
    • R・モアコット 『地図で読む世界の歴史 古代ギリシア』 桜井万里子監修 青木桃子他訳、河出書房新社、1998年)。
    • 村川堅太郎編著 『世界の文化史跡3 ギリシアの神話』 高橋敏撮影、講談社、1967年。
    • P・ミケル 『カラーイラスト世界の生活史3』 木村尚三郎他監訳、東京書籍、1984年。
    • P・コノリー 『カラーイラスト世界の生活史21』 木村尚三郎他監訳、東京書籍、1986年。
    • P・コノリー他著 『カラーイラスト世界の生活史25』 木村尚三郎他監訳、東京書籍、1989年。
    • 『ATENES THE CITY AND ITS MUSEUMS』 Eldptike Athenon S.A.、1979年。
    • Piero Ventura&Gian Paolo Ceserani 『TROIA L'avventura di un mondo』 Arnoldo Mondadori Editore、1981年。
  2. ^ 呉茂一『ギリシア神話(上)』、新潮文庫、1969
  3. ^ ヘーシオドス 『神統記』 広川洋一訳、岩波文庫、1984。
  4. ^ フェリックス・ギラン、『ギリシア神話』中島健訳、青土社、1991。
  5. ^ ヘーシオドス 『神統記』 広川洋一訳、岩波文庫、1984。
  6. ^ 『ギリシア神話』アポロドーロス
  7. ^ 『ギリシア神話』アポロドーロス
  8. ^ 『図書館』アポロドーロス
  9. ^ フェリックス・ギラン、『ギリシア神話』中島健訳、青土社、1991