ビブリオテーケー

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ギリシア神話
Zeus Otricoli Pio-Clementino Inv257.jpg
主な原典
イーリアス - オデュッセイア
神統記 - ギリシア悲劇
ビブリオテーケー - 変身物語
オリュンポス十二神
ゼウス - ヘーラー
アテーナー - アポローン
アプロディーテー - アレース
アルテミス - デーメーテール
ヘーパイストス - ヘルメース
ポセイドーン - ヘスティアー
ディオニューソス
その他の神々
カオス - ガイア - エロース
ウーラノス - ティーターン
ヘカトンケイル - キュクロープス
タルタロス - ハーデース
ペルセポネー
ヘーラクレース - プロメーテウス
ムーサ - アキレウス
主な神殿・史跡
パルテノン神殿
ディオニューソス劇場
エピダウロス古代劇場
アポロ・エピクリオス神殿
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ビブリオテーケー』(日本語訳名:『ギリシア神話』、ギリシア語: ΒιβλιοθήκηBiblioteke、ラテン語名:Bibliotheca(「文庫」の意))は、伝統的なギリシア神話と英雄伝説の概要を述べた本。3巻から成る。この種類の書籍として、古代より現在にまで伝存した唯一のもので、世界の起源からトロイア戦争までのギリシア神話の系統的概説書である。

概説[編集]

『ビブリオテーケー』は、今日では紀元1世紀から2世紀頃に編集されたと考えられている。古代においては写本が現在にまで伝存していることより、かなり広く知れ渡っていたと推定されるものの、この本に直接言及した記録は存在していない[1]。著者を示唆する記述と共に、この本に言及したのは東ローマ帝国の高僧であった9世紀のポーティオスであり、それ以降、ツェツェースなどの注釈学者によって頻繁に引用されるようになった[2]

東ローマ帝国においては、紀元10世紀より帝国が滅亡する15世紀の頃まで文献学者によって研究され注釈されて来たが、西欧がこの書物を知るのは、東ローマ帝国滅亡により、その文化的遺産の多くを継承した15世紀以降となる。ルネサンスにおけるラテン文学を通じてのギリシア神話理解の時代以降に、真の古代ギリシアの探求や研究が始められたので、西欧では、この書籍が一般の研究者に知られるようになるのは、更に遅い時代となる。しかし、この書籍は、独特の内容と構成を持ち、すなわち紀元前5世紀以前の古代ギリシア神話の姿を伝えているため、古典研究者にとって重要な資料となった。また、現代の詩人・文学者のロバート・グレーヴス(1895年 - 1985年)まで多くの作家等に影響を与えた。

この書籍の内容は、古代のギリシア神話の包括的な系統誌で、英雄神話の中の諸王朝の物語や、ヘーラクレースイアーソーンペルセウス、そしてトロイア戦争の概説とそこに登場するアキレウスヘクトールヘレネーといった英雄や女性にまつわるエピソードが語られる。紀元前5世紀以前の文献を基に神話をまとめているため、ローマ神話の影響が排除された内容となっている。ギリシア神話の主要な文献として、参考書として、更に、オウィディウスなどのラテン語作家がある意味で歪曲したとも言える、本来の古代ギリシア神話の姿を伝えるものとして重要な意味を持つ。

作者[編集]

現存するいくつかの写本にはその著者として「アポロドーロス」(Απολλόδωρος)という名前が示されている。このアポロドーロスは、サモトラケのアリスタルコスen:Aristarchus of Samothrace)の弟子、アテーナイのアポロドーロス紀元前180年頃生)と見なされてきた。アテーナイのアポロドーロスは、『年代記』(Χρονικα)を著し、ディオドルス・シクルスはこの年代記の記法を利用した。またホメーロスに関する注釈も著したことが知られている[3]

しかし、このテキストには、おそらく1世紀の人物と考えられる[4]、ローマの年代記作者カストール(Kastor)の引用が含まれている(II.1.3)。また、アテーナイのアポロドーロスの著作は殆どが散逸し、今日伝存していないが、僅かに残る文章と比較しても、合理的で整然とした文献学的記述を行うアテーナイのアポロドーロスと『ビブリオテーケー』の編集方法は同一人の作品とは考えがたいということもあり、19世紀末に、ローベルトなどが、別人説を唱え、今日、本書の著者はアテーナイのアポロドーロスではないと考えられている。

古代において、アポロドーロスという名は一般的な名であった(語源的には、「アポローン, Apollon 」と「贈り物, doron 」の合成形の男性名詞形とも見える)。アテーナイのアポロドーロス以外にも、名を知られるアポロドーロスが十人近く存在するので、本書『ビブリオテーケー』の作者として、pseudos(偽)+Apollodoros で、pseudo-Apollodros またはそのラテン語形の pseudo-Apollodorus とも呼ばれた。これは19世紀末より20世紀にかけてのことである。

pseudo-Appollodrus(対応日本語呼称は「偽アポロドーロス」)という呼び方は今日でもなお使用されている。例えば、『エンサイクロペディア・ブリタニカ』の2005年CD版は、Bibliotheca の作者をこの形の名で呼んでいる[5]。他方、このような呼び方はせず、単にアポロドーロスとしたり、Apollodrus mythographus というような名を使っている例もある[6]

本書の別称[編集]

この本は、日本語では高津春繁の訳本が半世紀以上に渡り流布した結果、『ギリシア神話』という名称が定着している。他方、英語ではこの本を簡単に「Library and Epitome」と呼んだりする。

『ビブリオテーケー』は元々は4巻あったのが、3巻の一部と4巻が消失してしまった。一方で、「摘要(エピトメー、epitome)」という全体の再編集版があり、そこに消失した部分の内容の概略が残されている。

日本語訳[編集]

  • アポロドーロス『ギリシア神話』 高津春繁訳 岩波文庫 改版1978年(初版1953年) ISBN 4-00-321101-4

参考文献[編集]

  • 高津春繁 『古代ギリシア文学史』 <岩波全書>岩波書店 改版1977年、復刻2008年
  • 高津春繁 『ギリシア神話』 岩波新書 1965年
  • 呉茂一 『ギリシア神話』 新潮社 改版1994年、ISBN 4-10-307103-6、新潮文庫上・下巻
  • Encyclopaedia Britannica 2005 CD version
  • Simon Hornblower et al., eds. The Oxford Classical Dictionary 3rd ed. rev. Oxford UP. ISBN 978-0-19-860641-3

脚注[編集]

  1. ^ アポロドーロス、まえがき、p.4。
  2. ^ アポロドーロス、まえがき、p.3。
  3. ^ "Apollodorus (6)", Classical Dictionary, p.124。
  4. ^ アポロドーロス、まえがき、pp.3-4。
  5. ^ "Greek mythology, Other literary works", Encyclopedia Britannica, 2005
  6. ^ 高津春繁『古代ギリシア文学史』、及び "Authors and Books", Classical Dictionary, xxx、呉茂一『ギリシア神話』。

関連書籍[編集]

  • Diller Aubrey, 1983. Studies in Greek Manuscript Tradition, (Amsterdam) pp. 199-216. Abstract. Originally as "The Text History of the Bibliotheca of Pseudo-Apollodorus", in Transactions of the American Philological Association 66 (1935), pp. 296-313.

外部リンク[編集]