アムピトリーテー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
マリウス・ジャン・アントナン・メルシエen)の作品『アンフィトリテ』。1889~1900年。ウォルターズ美術館所蔵

アムピトリーテー古希: Ἀμφιτρίτη, Amphitrītē)は、ギリシア神話海神ポセイドーンの妃である。アンフィトリーテー長母音を省略してアムピトリテアンピトリテアンフィトリテとも表記される。名前の意味は「大地を取り巻く第三のもの」、即ち海をあらわす。聖獣はイルカで、ヴェール王笏がその象徴となる。

アムピトリーテーは、ネーレウスオーケアノスの娘ドーリスとの間にもうけた50人の娘ネーレーイデスの1人で[1][2]、ポセイドーンとの間に、トリートーン[3][4]、ロデー[4]、ベンテシキューメーを生んだ[5]。子供のうち、トリートーンは上半身が人間、下半身がイルカ(または魚)の姿をした海神である。ロデーは太陽神ヘーリオスの妻となった。ベンテシキューメーはエウモルポスを育てたといわれる。

神話[編集]

ホメーロスとヘーシオドス[編集]

アムピトリーテーはホメーロスの『オデュッセイア』によると、青黒い瞳をしており、大波を起こすとされ[6]、海の巨大な怪魚や海獣を数知れず飼っているとされている[7]。しかしホメーロスにおいては十分な擬人化が進んでおらず、単に海を指すと思われる個所もある[8]ヘーシオドスの『神統記』では、アムピトリーテーは同じネーレーイデスのキューモドケー、キューマトレーゲーとともに、荒れ狂う風を鎮めることができ[9]、ポセイドーンとの間にトリートーンを生んだと詠われている[3]。また『ホメーロス風讃歌』の「アポローン讃歌」によると、レートーデロス島アルテミスアポローンを出産したとき、ディオーネーレアーテミスをはじめとする多くの女神たちとともに立ち会ったという[10]

ポセイドーンとの結婚[編集]

テーセウスに指輪と金の王冠を授けるアムピトリーテー。両者の間にアテーナーが描かれている。
前490~500年頃のキュリクス。陶工はエウフロニオス、画家はオネシモス。ルーブル美術館所蔵

後世の神話では、しばしばアムピトリーテーとポセイドーンの結婚の物語が語られている。それによればアムピトリーテーは姉妹たちとともにナクソス島で踊っているときにポセイドーンによってさらわれた[11]。あるいはポセイドーンの求婚に最初は抵抗したが、ポセイドーンからイルカをプレゼントされ、婚姻を承諾した[12]

またエラトステネスによると、アムピトリーテーははじめポセイドーンを嫌って海の西端のアトラースのもとに逃げ、彼女の姉妹たちによって匿われた。そこでポセイドーンがイルカにアムピトリーテーを探させると、1頭のイルカが大西洋の島にアムピトリーテーがいるのを発見し、説得してポセイドーンのところに連れて行った。その結果ポセイドーンはアムピトリーテーと結婚できたのであり、この功績によってイルカは天に上げられているか座となった[13]

オッピアノスもまたエラトステネスとほぼ同じ神話を述べている。それによるとアムピトリーテーが隠れたのはオーケアノスの宮殿であった。そしてポセイドーンはイルカから隠れ場所を教わると、すぐさま拒絶するアムピトリーテーを奪い、結婚したという[14]

ポセイドーンはもともと大地の神だったが[15]、アムピトリーテーとの結婚によって海も司るようになったともいわれる[16]

テーセウス伝説[編集]

アムピトリーテーはテーセウス伝説にも登場している。アテーナイの英雄テーセウスがミーノータウロス生贄としてクレータ島に連れてこられたとき、ミーノース王は彼がポセイドーンの子であることを信じなかった。ミーノースは自分の指輪をはずして海に投げ入れ、本当にポセイドーンの子でもなければ指輪を取ってくることなどできないだろう、と言った。そこでテーセウスは海に潜ってポセイドーンの王宮に行き、アムピトリーテーからミーノースの指輪と、さらにアムピトリーテーから黄金の冠を授かって戻ったという[17]

ギャラリー[編集]

ネプチューンとアンピトリーテーのモザイク画。315年~325年頃。ルーブル美術館所蔵

脚注[編集]

  1. ^ ヘーシオドス『神統記』243。
  2. ^ アポロドーロス、1巻2・7。
  3. ^ a b ヘーシオドス『神統記』930~933。
  4. ^ a b アポロドーロス、1巻4・6。
  5. ^ アポロドーロス、3巻15・4。
  6. ^ 『オデュッセイア』12巻60。
  7. ^ 『オデュッセイア』5巻422、12巻97。
  8. ^ 『オデュッセイア』3巻91。
  9. ^ ヘーシオドス『神統記』252~254。
  10. ^ 『ホメーロス風讃歌』第3歌「アポローン讃歌」94。
  11. ^ 『オデュッセイア』3巻91に対する古註(カ-ル・ケレーニイ『ギリシアの神話 ―神々の時代』p.232)。
  12. ^ シブサワ・コウ 『爆笑ギリシア神話』 光栄
  13. ^ エラトステネス、31。
  14. ^ オッピアノス『漁夫訓』1巻386~393。
  15. ^ マイケル・グラント、ジョン・ヘイゼル 『ギリシア・ローマ神話事典』 大修館書店
  16. ^ カ-ル・ケレーニイ『ギリシアの神話 ―神々の時代』p.224、231、232。
  17. ^ パウサニアス、1巻17・3。

参考文献[編集]

外部リンク[編集]

関連項目[編集]