テューデウス
テューデウス(古希: Τυδεύς, Tȳdeus)は、ギリシア神話に登場する人物である。長母音を省略してテュデウスとも表記される。 カリュドーン王オイネウスと、ヒッポノオスの娘ペリボイアの息子で、テーバイ攻めの七将の一人。メレアグロスの異母弟に当たる。トロイア戦争の英雄ディオメーデースの父。
神話
[編集]生い立ち~アルゴスへ
[編集]オイネウスはアルタイアーの死後、ペリボイアを妻としてテューデウスが生まれたとされる。一説には、テューデウスはオイネウスとその娘ゴルゲーとの子であるともいう。成人したテューデウスは人を殺して国を追われ、アルゴスへ逃れた。殺した相手はオイネウスの兄弟アルカトオス、あるいは王位を狙う陰謀を企てたメーラスの息子たちだとも、さらにはテューデウスの兄弟オーレニアースだったともいう。
アルゴスの王宮でテーバイから来たポリュネイケースと争っているところを王アドラストスに見出され、二人はアドラストスの娘たちの婿となった。テューデウスはデーイピュレーと結婚し、二人の間にディオメーデースが生まれた。アドラストスは婿となった二人を祖国に戻すことを約束し、まずはポリュネイケースをテーバイに戻すため、将を招集した。
テューデウスはアドラストスに協力して将たちに参集を説いて回り、戦いに反対したアムピアラーオスの召集にも成功した。一説には、アムピアラーオスの妻エリピューレーにハルモニアーの首飾りを贈るようポリュネイケースに進言したのはテューデウスであったともいう。しかし、このことはアムピアラーオスの恨みを買う結果となった。
テーバイ攻め
[編集]戦いの前に開かれたネメアー競技祭では、テューデウスは拳闘で優勝した。テーバイへの使者として遣わされたときは、テーバイ人と一騎討ちしてことごとく勝利し、50人の武装兵に待ち伏せを受けたがこれも打ち破ってアルゴス陣に帰還した。
戦いでは、テューデウスはクレーニダイ門を攻めた[1]が、敵将メラニッポスに腹部を傷付けられた。テューデウスが半死となって倒れたとき、アテーナーはゼウスの霊薬を使ってテューデウスを不死にしようとした。しかし、アムピアラーオスがメラニッポスの首を切り取ってテューデウスに投げると、テューデウスはその頭蓋を割って脳をすすった。アテーナーはこれを嫌悪して恩恵を施さなかったため、テューデウスは死んだ[2]。アテーナーはテューデウスの息子ディオメーデースも庇護した。
系図
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脚注
[編集]- ^ アイスキュロスによればテューデウスが攻めたのはプロイティデス門であり、エウリーピデースによれば、ホモロイデス門となっている。
- ^ ロバート・グレーヴスによると、テューデウスの死の物語となった元の図像は、物語とは逆に、インドの『マハーバーラタ』でビーマが敵の血をすするのと同様、アテーナーはテューデウスの行為を嘉してメラニッポスの亡霊に神酒を注いでいるところではなかったかとする。敵の脳をすするのは、戦闘の技を高める行為として古くから行われ、もともとヘレーネス(古代ギリシア人)が自ら持ち込んだものである。これは後に野蛮な行為だと考えられるようになったが、ヘーロドトスの時代には、スキュティア人のあいだで実行されていた。
参考書籍
[編集]- 『ギリシア悲劇 I アイスキュロス』(高津春繁ほか訳、ちくま文庫) (ISBN 4-480-02011-X)
- 『ギリシア悲劇 IV エウリピデス(下)』(岡道男ほか訳、ちくま文庫) (ISBN 4-480-02014-4)
- アポロドーロス『ギリシア神話』(高津春繁訳、岩波文庫)
- ロバート・グレーヴス『ギリシア神話』(上・下、高杉一郎訳、紀伊國屋書店)
- カール・ケレーニイ『ギリシアの神話』(「神々の時代」・「英雄の時代」、高橋英夫訳、中央公論社)
- R・L・グリーン『ギリシア神話 テーバイ物語』(眞方陽子訳、ちくま文庫) (ISBN 4-480-02592-8)