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キャブレター

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Bendix-Technico 製の ストロンバーグ式1バレル ダウンドラフトキャブレターModel.BXUV-3と、部品各部の名称

キャブレター(: carburetor)はガソリンなどを燃料とする予混合燃焼機関において、電気などの動力源を利用せずにベルヌーイの法則を利用して燃料を霧状にして空気に混合する装置である。英語ではcabreterと表記される場合や、イングランド地域の英語でcarburettorと表記される場合もあり、"kahr-buh-rey-ter"(米)や"kahr-byuh-ret-er"(英)と発音される[1]日本語では気化器と呼ばれる場合もあり、戦前や戦後間もなくの頃は原語の発音により近いカーブレーターと表記されることもあった。[2]

概要

キャブレターの基本概要図

キャブレターの語源は、「炭化水素を混合する」という意味の動詞"carburet"に動作主名詞を形成する接尾辞"-or"または"-er"を加えたものである[1]イングランド地域の英語car burettorは液体を少量添加するための器具ビュレットの車両用という意味である。[独自研究?]

以前は家庭でも見られた、アイロンがけや障子張りに用いられた、口で吹くタイプの霧吹きや、塗装や薬剤散布に用いられる、吸い上げ式のスプレーガンと同じ原理。

キャブレターに供給される燃料はボウルと呼ばれる部屋に一時貯まる。ボウルは開放構造で内部は大気圧に保たれている。常に燃料に浸かる場所には燃料の取り込みを制限するジェットと呼ぶ小穴があり、その先は複雑な形をしたチューブポートにつながっている。

一方、エンジンの回転に伴い、ポンピングにより発生した負圧によりキャブレターに吸い込まれる空気は、ベンチュリと呼ばれる流路を絞った部位を通過する。そのベンチュリ部では、いわゆる「ベンチュリ効果」により空気の流速が上がり、大気圧より圧力が低下する(低下の度合いはベルヌーイの定理によりわかる)。圧力が最も低くなる場所に、前述のポートがある。ポートは通常小さな穴、もしくは溝状である。こうしてポート付近に大気との圧力差が生まれることでボウルの燃料はチューブ内を突き進み、ポートから霧吹きのように拡散して、混合気が作られる。

スロットルバルブを操作してもキャブレターは燃料の流れ自体は制御しない。キャブレターのスロットルバルブは飽くまでも吸入空気の量を制御するだけであり、吸入空気量に応じてジェットで計量された燃料が吹き込まれるだけである。

ベンチュリ形式

ウェーバーの固定ベンチュリ(55DCO-SP型)

固定ベンチュリ型

ベンチュリ部を通過する吸気速度が燃料の吐出量を決定するタイプ。高性能エンジン用のウェーバーソレックスをはじめ、多くのアメリカ車日本車の一部のダウンドラフトキャブレターに見られる。今日ではこのタイプのキャブレターを製造するメーカーは少なくなっているが、日本国内ではオーイーアール(OER)が旧式のソレックスなどの更新向けにこのタイプのキャブレターの製造販売を続けている。

オートバイにおいては、ハーレー・ダビッドソン1989年までこの形式のキャブレターを使用し続けていた事が著名である。特に戦前から戦後間もなくに掛けて使用されたリンカート(Linkart)キャブレターは、日本製の陸王でも日本気化器のライセンス生産品が搭載されていた。しかし、陸王倒産後の1960年代以降は、国産オートバイではこの形式のキャブレターが採用される事はなくなった。

可変ベンチュリ型

吸気通路の開口面積をスライド式のバルブで変化させる方式。エンジン回転の全域にわたって適切な吸気流速が得られる。自動車においては、日立、ゼニス・ストロンバーグを始めとするサイドドラフト・SUキャブレターが最も一般的に使用された。今日まで残るものではCV型とVM型の2方式に大別される。

負圧型

CV(Constant Velocity または Constant Vacuum)型では、アクセルワイヤーは空気の流量を調整するバタフライバルブのみを操作する。ベンチュリ部はバキュームピストンによって形成され、その下端には穴が開けられている。バキュームピストンにはダイヤフラム式では膜が付いており、膜の片側にはベンチュリ部の負圧がかかり、反対側は大気に開放されている。バキュームピストンはバネで支持され、バネの力と負圧のバランスでベンチュリ径が流量に応じて自動的に決まり、流量確定後は流速がほぼ一定になるように自動調節される。吸入負圧の小さな2ストロークエンジンには適さない。ベンチュリ径が運転者の操作で直接変化しないため、急激な荒いアクセル操作に寛容だが、エンジンレスポンスが悪いともいえる。しかし過渡特性が操縦性に大きく影響する二輪車においては、インジェクションに取って代わられるまでは原付と2ストローク車、競技用車を除けば一般的な存在であった。自動車においてはダイヤフラムを使用しないSU式が一般的であるが、やや特殊な存在である。

ピストンバルブ型

VM (Villiers Monoblock または Variable Manifold) 型は、アクセルワイヤーが直接ピストン型のスロットルバルブを操作するため、空気の流量調整と同時にベンチュリ部の口径を直接変化させることになり、鋭いエンジンレスポンスが得られる一方、エンジンが求める混合気吸入量を超えてスロットルバルブを開けると空気の流速が低下して燃料の供給が滞るなど、運転者の技能によって大きくエンジン性能が左右される。スロットルバルブの形状を表してピストンバルブ式とも呼び、VM型においてはスロットルバルブをピストンバルブと呼ぶことが多い。

強制開閉式

可変ベンチュリー式においてピストンバルブが自動開閉する負圧式に対して、これを直接操作するVM型(ピストンバルブ式)を一般的に強制開閉式と呼ぶ。本来は誤用であるが、表現としては理に適っているため、現在では専門誌においても広く浸透している。 本来の強制開閉式とはスロットルバルブの閉じ側もワイヤー等により確実に操作できる方式を指すが、現在では、「両引きあるいは2本引き(スロットル)」などと言わなければ伝わらない事が多い。

その他

上記の2形式に該当しない物として、フォードの開発したVV(Variable Venturi)型が挙げられる。「MOTORCRAFT.VV」の商品名で知られ、1977年から1991年まで、主にピックアップや大型トラックを中心に搭載された。

この形式は固定ベンチュリ型ダウンドラフトキャブレターをベースに、スロットルポジションセンサーでスロットルバルブの開度を監視しながら、メータリングロッドの付いた可動式ベンチュリをサーボモーターで動かしてベンチュリ径を常時変化させていくというもので、CV式の亜種とも言えるような形式である。[3]

信頼性にやや難があったとされ、ステージド・マルチバレルキャブレターが主流であったアメリカでもフォードの一部車種のみの採用で終わった。

自動車用キャブレター

エンジンに搭載される全ての燃料装置に求められる要素は:

  • エンジンの吸入空気量を正確に測定し、
  • 吸入空気量に応じた正確な量の燃料をエンジンに供給し、
  • 尚かつ空気と燃料をきめ細かく均等に混合した混合気を生産出来なければならない。

この作業は、空気と燃料(ガソリン)が理想的な流体であれば容易なことであるが、実際には空気と燃料及び両者の混合気は粘着性、流体抗力、慣性などの影響を受けてその性質を複雑に変化させる上、エンジンの回転数によって混合気の流速自体が変化するため、その制御には極めて複雑な動作機構が必要となる。

また、燃料装置には様々な気温気圧、エンジン回転数、エンジン負荷、及びコーナリング負荷(遠心力)などの諸条件の変動を克服した上で、冷間始動、暖気完了後の温間再始動、アイドリング及び低速負荷走行、全開加速、高速高負荷・フルパワー巡航、パーシャルスロットル開度による低負荷巡航など、あらゆる走行・始動条件で適切な空燃比の混合気をエンジンに供給しなければならない。さらに近年では、排気ガス規制の克服のための補正すらも必要となってくる。

キャブレターはこれら全ての条件の下で正しく機能するように発展してきた燃料装置であり、ほとんどのキャブレターが作動原理の項で述べられているごく基本的な気化機能の他に、様々な条件下での補正機能を持つ「系統」と呼ばれるメカニズムを有している。

アイドリング系統

スロットルバルブが完全に閉じている位置から僅かに開かれる時、スロットルバルブの後ろでは高速な気流が発生する。この時、最も気流の気圧が低圧になる部分に設けられたアイドリングジェット(アイドルジェット)、またはパイロットジェット、スロージェットなどと呼ばれる追加の燃料供給穴からアイドリングに必要な量の燃料が供給される。

アイドリングジェットに対して、通常のスロットル操作によりベンチュリへの燃料供給を行うジェットをメインジェットと呼ぶ。アイドリングジェットはスロットルバルブがアイドリング開度の状態の時のみ動作し、通常の開度では燃料供給は行わない。

スロットルバルブをアイドリングに適した開度に固定するための機構として、アイドリングアジャストスクリューと呼ばれるネジが備え付けられている。このネジを締め込むことでスロットルバルブはより開き(アイドリング回転数が上がる)、緩めることでスロットルバルブはより閉じる(アイドリング回転数が下がる)。

スロットル系統(メイン系統)

スロットルバルブが次第に開けられる時、バレル内の流速が速まっていくのに従って、ベルヌーイの定理によりインテークマニホールドの吸入負圧は次第に小さくなり、バレル内部の気圧も次第に上がっていく。この時、負圧によって作動していたアイドリング系統は動作を停止する。

同時にベンチュリを通過する空気の流速も速まり、このときにベンチュリの中央付近に設けられたメインジェットから燃料が供給される。キャブレターによっては、1個以上の小径なブースターベンチュリ(追加ベンチュリ)が、メインベンチュリの内部に設置され、スロットルバルブ微動時におけるメインベンチュリ流速変化の鈍さを補っている。スロットルバルブが次第に閉じられていき、バレル内部の流速が弱まり、吸入負圧が増大してアイドリング系統が再び燃料供給を開始するまで、上記の動作は継続して行われ続ける。

パワージェット(パワーバルブ)

パワージェット(パワーバルブ)とは、高回転高負荷時にメインジェットからの燃料供給を補助する機構のこと。スロットルバルブ全開やそれに近い領域でメインジェットのみでは燃料が不足がちになる場合に、燃料を追加供給することで燃焼室をより低い温度に保ち(燃料冷却という)、プレイグニッションデトネーションを防ぐ働きがある。

パワージェットは、バレル内負圧とスプリングで開閉制御されるバルブである。バレル内負圧が大きい時は閉じており、バレル内圧力が大気圧に向けて高まるに従い開くようになっている。スロットルバルブが開いていくに従って吸入負圧は減少し、パワージェットのバルブスプリングはパワージェットを少しずつ開いていく。スロットルバルブが全開状態ではバレル内は大気圧に近くなり、パワージェットも全開となる。

パワージェットはそのエンジンの特性に応じて補正する燃料量が厳密に設定されるため、オートバイ用キャブレターなどの場合には予め設定が固定されており、一部の市販レーサー車両を除いて[4]調整が不可能な場合が多い。

初期の2ストロークエンジンに用いられたパワージェットの中には、4ストロークエンジンのパワージェットとは逆に、バレル内が高い負圧状態の時に開き、正圧に近い状態になると閉じる設定のものが用いられているキャブレターが存在した。これは、全開領域で混合比がやや薄めになることで、より高回転まで回転が伸びていく2ストロークエンジンの特性を活かした物である。このような動作をするキャブレターの場合には、常用回転域では常にパワージェットから燃料が供給されるため、メインジェットはパワージェットが無い同サイズのキャブレターよりもやや薄めの番手が選択される。しかし、エンジン高回転域で過度にパワージェットからの燃料供給を減らすとエンジン焼き付きのリスクが大きくなる。近年の2ストロークエンジンのパワージェットはもっとシンプルな構成であり、バルブはなく、フロート室から上流側の天井部分にバイパスが設けられているだけである。これにより、吸入負圧が大きくなった時のみ、燃料が吸い出される。


幾つかの固定ベンチュリー型キャブレターではパワージェットの代わりとなる高回転高負荷時の増量機構として、可変ベンチュリー型のジェットニードルと同じメータリングロッドステップアップロッドと呼ばれる機構を用いる物もある。メータリングロッドとは全体がテーパー状に加工されている棒であり、メインジェットにある燃料通路孔に刺し込まれるようセットされている。メインジェットにある燃料通路孔の直径は不変であるため、そこに刺し込まれたテーパー状の棒を出入りさせると燃料通路の断面積を変化させることができる。この棒は吸入負圧により上下するバキュームピストン(ダイアフラム)もしくはスロットルリンケージに取り付けられており、スロットルバルブが開かれてバレル内の吸入負圧が減少する中、スロットルバルブの開動作と連動しメインジェットから強制的に引き抜かれることで、メインジェットの燃料流量を次第に増量していく。このようなロッド機構は1950年代に米国Carter社の2ベンチュリー式4バレルキャブレターで初めて採用され、その後1980年代にCarter社が自動車用キャブレターの製造を終えるまでには1バレルから4バレルまで全てのキャブレターに搭載されるようになった。2ステージキャブレターの場合には通常、プライマリーバレルにのみメータリングロッドが使用されるが、 Rochester Quadrajet のようにセカンダリーバレルにもこのロッドを搭載する物も存在する。

加速ポンプ

パワージェットが高回転域での全般的な燃料増量補正を行うのに対して、加速ポンプは車両急加速などを目的とした急激なスロットルバルブ開操作を補う噴射ポンプである。緩慢なスロットルバルブ開操作では作動しない。

チョーク系統

チョーク弁が実用化される以前の旧式キャブレターはティクラーを用いる。

その他の系統

EFEヒーターを裏面からみたところ。1985年式オールズモビル・Cutlass Supreme Broughamの2バレルダウンドラフトキャブレターに用いられていたもの。

これらの各系統は相互作用を行う為に機械的なリンケージもしくは吸入負圧を用いたダイヤフラム制御、もしくは気圧・気温センサーなどを用いた電子制御機器によるサーボ機構により複雑にリンクして動作を行っている。エンジンレスポンスの向上、あるいは排ガス規制適合のためにこのような制御が行われている。

一部の車両は冷間始動時の始動性向上を目的に初期燃料気化促進装置(EFE)と呼ばれる機構を持つものがある。これはインテークマニホールドとキャブレターの間に挟み込まれる格子状の電熱ヒーターであり、燃料の気化をより促進する効果のほか、格子によりインテークマニホールドや燃焼室内に乱流を引き起こして燃焼効率を向上させる効果もある。

このEFEの乱流効果に似た理論として、2ストロークエンジンのリードバルブに多孔プレートを取り付けクランクケースおよび燃焼室内に乱流を引き起こす機構が、YSP藤沢の山本俊彦により考案され特許が取得されている。[5]

燃料チャンバー

フロートチャンバー

1950年代のホーリー製"Visi-Flo" Model.1904キャブレターのフロート室。ガラス製フロートボウルが用いられていた

キャブレターには、バレルへの安定した燃料供給を常に保つために、フロートチャンバー(フロートボウル)と呼ばれる燃料の一時貯蔵場所が設けられている。フロートチャンバーの中には真鍮樹脂、あるいはコルクなどで作られた浮き(フロート)が内蔵されており、このフロートによって開閉されるフロートバルブが設けられている。フロートチャンバーへは燃料ポンプや燃料タンクからの重力落下によって燃料が常時加圧供給されているが、フロートバルブの働きで、溢れることなく一定量の燃料がフロートチャンバーに貯蔵される。

フロートバルブの作動原理は貯水槽(例えば水洗トイレ)の定量貯水原理とよく似ており、

  1. 燃料ポンプまたは燃料自重でフロートチャンバー内に燃料が送られると、フロートが上昇する。
  2. 持ち上がったフロートはフロートバルブを押し上げ、燃料流入通路を閉じる。
  3. 燃料が消費され、フロートチャンバー内の油面(燃料液面)が下がると、フロートも下がり、フロートバルブが再び開く。

この一連の動作により、燃料流入通路の開閉を常に繰り返し、フロートチャンバー内の油面を一定の高さに保つ。

通常、フロートチャンバー内の油面はフロートのアームを曲げるか、フロートの止めネジの調整により任意に高さを調整できる。これはフロート油面調整とも呼ばれ、フロートの油面の高低がメインジェットの燃料流量に影響を与えるため、多連装キャブレターにおいて各チャンバーの油面を揃えることは重要な調整項目の一つである。

もしもフロートが何らかの原因で破損して浮力を失った場合、フロートバルブが流入する燃料を停止出来なくなってフロート室から燃料が溢れるオーバーフローを引き起こす。特に真鍮製フロートの場合は燃料気化の際に発生するワニス成分により腐食して穴が開く場合があるため、長期間エンジンを作動させない場合にはフロートチャンバーから燃料を抜いておくなどの措置を取ることが望ましい。

フロートチャンバー内は、フロートの浮力を適正に維持するため常に大気圧になるようエアベントチューブなどにより外部との通気性が確保されている。もしもこのエアベントチューブが何らかの原因で塞がれてしまうと、フロートチャンバーの気圧はバレルの吸入負圧によって真空に向かい、フロートの浮力が無くなってオーバーフローが発生する。

ダイヤフラムチャンバー

チェーンソー草刈機などの手で持つ機械に使用されるキャブレターにおいては、機械がどんな対地姿勢でもエンジンへの混合気供給を維持しなければならないことから、鉛直に対し概ね姿勢が変わらないことを前提とする通常のフロートチャンバー機構を採用することができない。そのため負圧で作動するダイヤフラムを用いたダイヤフラムチャンバーが用いられている。

柔軟性が高い材質で作られたダイヤフラムが燃料チャンバーの蓋となっており、エンジンが始動すると吸入負圧によってダイヤフラムバルブが開き、チャンバー室内に燃料を導入する。ダイヤフラムバルブはメインジェットの燃料流量とほぼ等しくなるよう流量が調整されているため、チャンバー内の油量が一定に維持される。

このダイヤフラム式チャンバーは機種によっては、エンジン始動時に新しい燃料をフロート内に供給する為の燃料ポンプ(プライミングポンプ)を兼ねている場合がある[6]。プライミングポンプとして製作されているダイヤフラムチャンバーは、ダイヤフラムを直接指で何度も押す事で燃料タンクから強制的に燃料が吸い上げられる為、長期保管後の再始動時などにはダイヤフラムチャンバー内に燃料が残っているかを目視確認し、必要に応じてプライミングポンプ操作をした後に始動操作を行う。

オートバイ用キャブレター

二輪車のキャブレター(矢印)
キャブレターのフロート(矢印)

最近の四輪車は主に燃料噴射装置(フューエルインジェクション)を採用しているが、二輪車では現在でも多く見ることができる。上記の自動車用キャブレターの作動原理を基本として、オートバイ用キャブレターは以下の系統により構成される。

  • フロート系統:走行中のキャブレターへの安定した燃料供給を司る。フロートチャンバー(フロート室、フロートチャンバとも呼ばれる)、フロート(浮き)、フロートバルブ(燃料流入量調節バルブ)で構成される。
  • メイン系統:中速回転(パーシャル=部分負荷域)から高速回転(フル=高負荷域)における燃料の計量などを司る。
    メインジェット、メインジェットホルダ(メインエアブリードと一体)、ジェットニードル、ニードルジェット、メインエアジェットで構成される。
  • スロー系統:アイドル時や低速回転時の燃料の計量などを司る。スロージェット(または、パイロットジェット)、スロージェットホルダ、バイパスポート、アイドルポート、スローエアジェットで構成される。
  • スターター系統:エンジン始動時の燃料の計量などを司る。チョーク弁機構もこの系統である。

フロート系統以外はエンジンの状態に適した混合気をシリンダーに供給するために分かれている。フロートチャンバーから吸い上げられた燃料は、ブリードで空気を混入され、各系統のポートからメインボア内に噴出する。これが空気の流れによってシリンダー内に導かれるが、この時はまだ燃料は気化されておらず状である。その後、圧縮行程時の熱によって一気に気化して混合気となり、燃焼に適した均一な状態となる。

なお、基本構造は自動車用のキャブレターとほぼ同じではあるが、純正採用されているキャブレターの殆どがその車種のエンジン出力に合わせて専用設計されている物であり、一部の社外販売品の競技用キャブレターを除き、部品交換で調整可能な項目がメインジェット、スロージェット、ジェットニードル(段数)、パイロットスクリュー(エアスクリュー)の4項目程度に限定されていることがほとんどである。そのため、排気量の大きなエンジンに載せ替える場合には、可能であればキャブレターもそのエンジンの物に同時交換することが望ましいとされている。

特にCV型キャブレターの場合は、バキュームピストン及びバキュームピストンスプリングがそのエンジンの設計負圧に合わせて設定されているため、排気量の大きな上級車種の部品でボアアップを行う場合や、排気量の異なる他車種への流用を行う場合には、厳密にはバキュームピストンをその車種の純正部品(同メーカーのCVキャブレターが純正キャブレターとして設定されていれば、の話であるが)に交換しなければ、正確なセッティングが行いきれない可能性があることに注意が必要である。

現状

最近の四輪車・二輪車は、排ガス規制への対応もあり、キャブレターではなく、燃料噴射装置(フューエルインジェクション)を採用するものが増えている。2008年現在、乗用車、商用車に関わらず新車で購入可能なガソリン四輪車では軽自動車を含め、キャブレターを搭載したモデルは完全に姿を消している。排ガス規制の対象外でもっぱらキャブレターが使われていた原付を含む二輪車も2006年から排ガス規制の対象となり、キャブレターから燃料噴射装置への移行が順次進められている。日本においては平成12年度排出ガス規制の施行を目前に控えた平成11年(1999年)までは電子制御式キャブレターのガソリン四輪車が軽トラックなどの軽商用車及び一部のライトバンや小型トラック[7]に存在したが、平成12年(2000年)までにはこれらの車種も全て燃料噴射装置に置き換えられた。

燃料噴射方式がコンピュータセンサーにより流入空気(酸素)量と排気ガス中の残存酸素量、オルタネーターエアコンコンプレッサーパワーステアリングポンプなどの負荷変動を絶えず検知して供給燃料の無駄を減らし、かつ三元触媒が効率良く働く空燃比としているのに比べ、キャブレターの燃料供給量は、メインボア内の負圧と各種ジェットによる規制で決めているため、その量はかなりアバウトであり燃費と環境対策の対応は難しくなっている。昭和53年規制適合車(乗用車の認定型式が「E-」ではじまるもの)や後年の平成10年アイドリング規制適合車(乗用車の認定型式が「GF-」ではじまるもの)のごく一部までは見られた形式であったが、制御技術の進化により1990年代に入るとインジェクション車が大半を占めるようになった。

二輪車でも大型車を中心に燃料噴射装置を採用している車種が増加しているが、四輪車に比べ趣味性が強いこともあってかアバウトであるが故のキャブレター独特の粗野なフィーリング(所謂エンジンのトルクに谷があったり、パワーバンドに入ると強烈なパワーを発揮するなど)にも根強い人気がある。スロットルを回すとダイレクトでエンジンに反応があるのも人気が衰えない要素の一つと思われる(FI車はスロットルを回すと、エンジンが反応するまでに極々僅かではあるがタイムラグが生じる)。

航空用レシプロエンジンにはキャブレター、インジェクター(インジェクション = 燃料噴射式)のいずれの方式を使うものもある。高G下での燃料の安定供給の要求が厳しい事と、背面飛行の際の燃料欠乏やを防ぐ為に特殊な設計が必要とされるため、軍用機では自動車よりも先行して燃料噴射装置への移行が進んでいった。しかし現在ではほとんどジェットエンジンへと移行している。民間小型機ではレシプロエンジン機も使用されているが、信頼性その他の問題からキャブレターが長く使われており、燃料噴射装置への移行は近年の事である。

一般的にキャブレター方式は燃料噴射式に比べ、電気が不要で、構成部品が少なく、製品コストも低い特徴を持つ。磨耗や折損などの機械的トラブルがあるものの、電気的トラブルは通常無いため、用途によっては進んで導入する価値がある。このため、チェーンソー刈払機などのエンジンでは、依然としてキャブレターが使われている。

また、構造に対する知識と整備の心得があれば、個人でのメンテナンスやリビルドも十分可能であり、エンジン出力をコントロールする感覚が楽しめることと相まって、二輪やクラシックカーなど、趣味の世界では、いまだ主流となっている。

一方、一般の自動車修理サービス業での現実は、自動車(四輪車)のほとんどすべてが燃料噴射式に切り替わってしまった(自動車の新車でのキャブレター採用は、一部の小型登録車【主に1500cc以下のクラス】や軽自動車の安価な機種に電子制御キャブレターが使われていた1990年代が最後となった)ため、新車を主に扱う自動車ディーラーだけでなく、幅広く車を扱う専業の自動車整備工場であっても、キャブレターを整備する技術が維持継承されているところは少なくなってしまった。また、高性能エンジン用のソレックスやウエーバーにおいても、製造メーカーの消滅や部品の製造廃止などによって、新品のジェットやベンチュリの入手が年々難しくなってきており、整備技術の途絶も相まって一般の整備工場では整備やセッティングが困難となる事例も珍しくはなくなっている。

ある程度年配のドライバーになると、「アクセルを数回踏んでから(エンジンが冷えている状態ではアクセルを3~4回踏み、エンジンが暖まっている状態ではアクセルを全体の約1/2程度を踏みこむ)」セルモーターを回す人がいるが、キャブレター車時代の名残である。 オートチョーク機構の作動のため、このような「儀式」が必要であった。

特有の不具合

キャブレター車特有の不具合として、イグニションスイッチを切ってもエンジンが止まらない現象=ランオン(run on)が発生することがある。これは長年の使用によりエンジン燃焼室内にカーボンが堆積している車に時折見られるもので、スパークプラグの点火が止まってもカーボンの燃焼が火種となって混合気の燃焼が継続し、それによりエンジンが回り吸気が続くためキャブレターからの燃料供給が止まらず、結果、エンジンが止まらなくなるものである。この現象が発生した時には、サイドブレーキを引きフットブレーキも踏んでから、雑にクラッチをつないで故意にエンストを起こして止める方法がある。点火プラグによらない爆発であることから、「ディーゼリング」と呼ばれることもある。

また、フロート系統の不具合により、フロート内の燃料がインテークパイプ内に溢れ続けるオーバーフローという症状が発生する事もある。重度なオーバーフローはシリンダー内へ燃料が溜まる要因となり、場合によってはウォーターハンマーによるエンジン破損を招く恐れがあるため、症状を発見した場合には直ちにフロートチャンバーの油面調整や、フロートバルブの交換などの修理を行うことが望ましい。

寒冷地においては、霧化の際にキャブレターの周囲から気化熱が奪われることで、キャブレター本体に結露や凍結などが発生し、霧化が行えなくなることでエンストが発生するアイシングが起きる場合がある。アイシングによりスロットルバルブが凍結して張り付くことで、エンジン回転が低下しなくなる重大なトラブルが発生する場合もある。このため、車種によってはキャブレター本体にエンジンで暖められた冷却水を導入し、キャブレター本体を暖めることでアイシングの発生を防止する対策を採っているものもある。

逆に酷暑の場合や、冷却系統の重大なトラブル、燃料配管の取り回しの不具合などにより、キャブレターが過度に熱せられることでフロートチャンバー内の燃料が沸騰し、霧化が行えなくなる事でエンストが発生するパーコレーションが起きる場合もある。通常、純正キャブレターの場合は余程の酷暑で無い限りは余り起こらない現象であるが、チューニングを実施し大幅に出力が向上したエンジンや、社外品のキャブレターを導入して燃料配管の取り回しを変更した場合は、このトラブルに注意が必要となる。

分類

1961年式フェラーリ・250TRスパイダーの、フェラーリ・コロンボ Type125 "テスタロッサ"エンジン。6個のウエーバー・ダウンドラフト2バレルキャブレターを持ち、12気筒別々に1バレルずつ燃料を供給する。当然ながら、調整も12気筒個別に行わなければならず、整備には大変高度な技量が必要とされる。

キャブレターの呼ばれ方は多種多様である。

有するボアの数による分類

吸気する穴(ボア)の数を数えて、~バレルと呼ぶ。 2バレル、4バレルなど偶数が多い。例えば、直列4気筒エンジンにサイドドラフトキャブレターを選択する場合には2バレルキャブレターを2個搭載する。V型8気筒エンジンにダウンドラフトキャブレターを選択する場合には4バレルキャブレターを2個搭載する。

有する機能による分類
  • シングルステージキャブ
ひとつのボアで全域をまかなうシンプルなキャブレター。ステージドキャブと区別するため、このように呼ばれる。機能が同じボアがボディにふたつ並んだ2バレルもある。
  • ステージドキャブ
バレル内部に作動回転域の異なる複数のボアを有するキャブレター。基本はアイドルから軽負荷域を受け持つプライマリーボアと、高負荷域を受け持つセカンダリーボアで構成される2ステージであるが、ボアの直径の相違やチョークバルブの有無などで、外観からシングルステージの2バレルと判別可能である。これを並列に収める2ステージ4バレルもある。珍しい機構としてヤマハ・V-MAXのVブーストシステムがある。
吸気方向による分類

実装条件によって吸気を下に落とす、上に送る、水平に流すなど臨機応変に設計されるため、ダウン/アッパードラフト、ホリゾンタル(サイドドラフト)などがある。何度傾けるとそう呼ぶかの定義は明らかでない。

1990年式日産・マイクラのMA10Sエンジン。FF横置きエンジンの典型的なレイアウトである後方吸気・前方排気形式の為、ダウンドラフトキャブレターを採用している。廉価な車両に多いP字型エアクリーナーボックスで、最低限の部品点数でエンジン前方からの走行風の吸気を実現している。
  • アッパードラフト
戦前以前の古いエンジンでよくみられた形式。吸入空気はキャブレターの下部より入り込んで、上方のインテークマニホールドへ混合気が抜けていく。この形式には、キャブレターがオーバーフローなどの不具合を起こしてもシリンダー内に燃料が流入することが無いという利点があった。また、キャブレターの下にオイルバス式のエアクリーナーボックスを置くことで、燃料が漏れてもエアクリーナーの油槽が燃料を受け止めるため、車両外部に燃料が漏れ出すことを防ぐことが出来た。紙製のエアクリーナーが存在しなかった時代には、理に適ったシステムであった。
現在でも、幾つかの航空機用エンジンでこの形式が使われている。
  • ダウンドラフト
吸入空気がキャブレター上部より入り込み、下方のインテークマニホールドへ混合気が抜けていく形式。
アメリカでは実用的な紙製エアクリーナーが登場した1930年代後半から、この形式が主流となった。エンジン直上にキャブレターを置く形となるため、アメリカで第二次世界大戦後に主流となったV型8気筒エンジンとの相性が良かったためである。日本では富士重工業製の水平対向エンジンや、東洋工業製のロータリーエンジンが初期の頃からこの形式を積極的に採用していた。これもエンジンルーム内のエンジンとキャブレターの位置関係によるものである。
1979年式 Evinrude Type I 船舶用サイドドラフトキャブレター
なお、縦置きエンジン時代に主にサイドドラフトを採用していたメーカーでも1980年代後半以降、前輪駆動形式による横置きエンジンが主流となってくると、次第にダウンドラフトの採用が増えていった。これは横置きレイアウトの特性上吸気を後ろ、排気を前とすることが多く、サイドドラフトではエンジン後方に配置した場合、エアインテークパイプの取り回しに難があったためである。前輪駆動が本格的に普及し始めると同時に燃料噴射装置が一般化したため、極めて短期間の内に姿を消していったが、軽自動車の廉価グレードでは1990年代の中盤までエンジン直上に設けられた「P字」形状のエアクリーナーボックスを持つキャブレター仕様車を散見することが出来た。
  • ホリゾンタル(サイドドラフト)
KPGC10型スカイラインGT-RのS20型エンジン。縦置きエンジンにミクニソレックスサイドドラフト2バレルキャブレターを3連装している。エアクリーナーボックスは純正でエンジン左前方のグリル付近から走行風の吸気を行っている。
吸入空気がキャブレター側面より入り込み、反対側のインテークマニホールドへ混合気が抜けていく形式。ヨーロッパでは第二次世界大戦後に、エンジンルームの空きスペースが減少するのに応じて、この形式が主流となった。日本においても、V型エンジンがあまり登場せず直列エンジンが主流であったために、後輪駆動形式による縦置きエンジンが主流だった時代には特にスポーティエンジンにおいてこの形式の採用が多かった。
オートバイや船舶用船外機でもスペースの制約上この形式の採用が多く、現在では最も広く見られる形式となっている。
実装個数による定義

ツインキャブ、6連キャブなど。これは同じキャブレターが何個連装されているかを表す。直列に多気筒が並ぶ内燃機の燃焼室に等分な混合気を送る場合、気筒数分連結されることが多い。自動車では一般的に高性能を謳うものとして扱われるがオートバイでは一般的である。そのため、オートバイではキャブレターの数は宣伝として使われない。

マルチバレルキャブレター

ホーリー製Model#2280 2バレルキャブレター
ホーリー製の高性能2ステージ4バレル・ダウンドラフトキャブレター

ごく基本的なキャブレターには1個のベンチュリーしかないが、大排気量のエンジンやキャブレター内の流速を向上させてより高出力の発揮を狙ったのエンジンに用いられるキャブレターでは1個以上のベンチュリやバレルを持つものがある。大きな内径の2本のバレルを持つ2バレルや4本の4バレルなどは高性能多気筒エンジンにおいては1気筒辺り1バレルを割り当てられる事が多い。かつては日本製の直列6気筒エンジンには2バレルキャブレター3連装、アメリカ製のV型8気筒エンジンには2バレルキャブレター4連装などの構成がよくみられた。

比較的気筒数の少ないエンジンにおいては、吸入負圧に応じてメインバレル(プライマリーバレル)と同径か或いはより小径の二次バレル(セカンダリーバレル)を機械的なリンケージや負圧ダイヤフラムで作動させるものが存在する。低回転で吸入負圧が高い際にはプライマリーバレルのみを作動させて吸入空気の流速を増加させ、トルクを確保。高回転域ではセカンダリーバレルを作動させて大量の燃料を供給し、出力向上を図る目的でこのようなシステムが導入される。このようなキャブレターはステージドキャブレターと呼ばれ、2ステージ2バレル等と表記される。

しかし、1バレル当たり1気筒を担当させるセッティングを施している高性能エンジンでは、このような機構は無意味となってしまう。アメリカで広く用いられているV型8気筒エンジン向けの最新型4バレルスポーツキャブレターの場合は、左右バンクに1つずつのキャブレターを配置するが、1気筒1バレルという割り当てを行うのではなく、2本ずつのプライマリー/セカンダリーバレルがエンジン負荷に応じて作動する2ステージ4バレル仕様を採用している。

Rochester社が1965年から自社の"Quadrajet"4バレルキャブレターに採用しているスプレッドボアシステムでは、通常の2ステージキャブとは逆にプライマリーバレルが小さく、セカンダリーバレルが大きい構成を持っている。小さなプライマリーバレルは低速回転時のトルクとドライバビリティの向上を促し、大きなセカンダリーバレルは全開走行時の出力向上をより促進させる働きを持つ。大径セカンダリーバレルの燃料供給量を最適に調整するために、セカンダリーバレルの先端には吸入負圧により開閉する補助空気弁が装備され、メインジェットにも通常の2ステージキャブのセカンダリーには省略されることが多いメータリングロッドが設けられ、高回転域でもスムーズなフィーリングが実現されるようになっている。

キャブレターと過給器(キャブターボ)

ターボチャージャースーパーチャージャーは古くは第二次世界大戦当時から既に実用化されていたが、自動車には1962年にシボレーシボレー・コルヴェアオールズモビル・カトラスにオプション扱いでターボエンジンが少数生産された程度で、1970年代後半に燃料噴射装置の普及が進むまでは、モータースポーツに用いられる車両を除いてはなかなか量産車両への本格的な採用が行われなかった。事実上世界初の量産ターボ車である1973年のBMW・2002ターボですら機械式インジェクションであり、キャブターボ仕様の市販車は電子制御式キャブレターと併用したものを除いては純然たるスポーツキャブレターと併用したものは前述のシボレー車やロータス・エスプリなどのごく一部のスーパーカーを除いてほとんど存在しない。それには以下のような理由が関係している。

キャブレターに過給器を取り付ける場合には、スロットルバタフライがキャブレター本体に内蔵されている関係上、通常は過給器とインテークマニホールドの間にキャブレターが置かれる。キャブレターのバレルにブーストが掛かっても圧力が大気圧以上であるため、フロートの動作には問題はない。しかしブースト状態から急激にアクセルを緩めると、スロットルバルブにより圧縮圧がタービン側にはじき返されるバックタービン(サージング)が発生する。燃料噴射装置の場合にはこの際に燃料を完全にカットするように制御されているが、キャブレターの場合はバックタービンの負圧で大量の燃料が吸い出されて混合気となってエアクリーナー吸入口まで逆流してしまい、これに引火することでエアクリーナーインテークパイプを吹き飛ばす凄まじいバックファイアが発生する場合がある。[8]このバックファイアが頻発するとエアクリーナーはもちろん、キャブレター本体やタービンのインペラーにも大きなダメージを与えかねないために、反射圧を外部へ放出するブローオフバルブが考案されるようになった。

1968年式AMC・AMXのドラッグレース仕様。大排気量V8エンジンにボンネットからはみ出す程の巨大なスーパーチャージャーとエアスクープ付きの吸い込みレイアウトのダウンドラフトキャブレターを単純に積み重ねる構成は、ある意味典型的なアメリカ車を示すカリカチュアともなった

V型8気筒エンジンにスーパーチャージャーを搭載する場合には、スーパーチャージャーの吸入口にキャブレターを取り付ける場合がある。ターボの場合でも、キャブレターをターボチャージャーの前に配置する場合がある。このような吸い込み式レイアウトは過給器の後ろにキャブレターを取り付ける押し込み式に比べてキャブセッティングや過給システムの構築が容易であり、構成上バックタービンが発生しないメリットがあるとされるが、インジェクション仕様ではまず起こり得ない過給器内部に混合気が吹き込まれ圧縮される状況が発生する。仮にこの状況でバックファイアが発生すると、インタークーラースーパーチャージャー、キャブレター本体が吹き飛ばされる[9]といった危険なトラブルが発生する。過給器と吸気バルブの間に燃焼室からの逆火を遮るスロットルバルブが存在しないため、フルスロットルの全開過給の最中にバックファイアが混合気に引火して吸気システム全体を破壊することも珍しくはない。

市販車両のターボやスーパーチャージャーエンジンは、車両の安全確保の為に極めて早期の内にインジェクションに改装され、日本国内では現在ではキャブレターでの過給器仕様は手がける者も少なくなっているが、アメリカでは高度な電子制御システムを構築する余力のないプライベーターの手によりドラッグレースを中心に未だに広く行われている。競技の性質上ブローオフバルブを敢えて装備しないドラッグレース仕様のキャブターボやスーパーチャージャーエンジンでは、更に極端にオーバーラップの大きいハイカムナイトラス・オキサイド・システムなどを併用することも珍しくないため、現在では安全規則としてナイロン製の頑丈な布で過給器やインテークマニホールドを覆い、ボルトで布を固定して部品の飛散防止対策を施すことが義務付けられているが、参加車両が吸気系統を破壊する程の凄まじいバックファイア[10]を起こして走行不能に陥る光景は競技会場の日常的な風景でもある。

キャブレターの調整

キャブレター仕様のエンジンは空燃比が濃すぎても(リッチ)薄すぎても(リーン)本来の性能が発揮出来ない。通常、キャブレターには1個以上のニードルバルブ[11]が設けられており、これを開閉することである程度の燃調調整が可能となっている。特にレシプロ航空機の場合は高度によって空気密度が変化するため、操縦室内に空燃比計と共にキャブレターの燃調を調整する操作盤が設けられていることも多い。ガソリンの空燃比には理論空燃比と呼ばれる数値があり、14.7の理論空燃比に近づくようにキャブレターを調整するのが望ましいとされている。

ニードルバルブの調整でもなお不足する場合にはメインジェットやアイドリングジェット、エアージェットなどを交換してさらに調整を行う。場合によってはブースターベンチュリを交換する必要もあり、極端に濃い燃調を示す場合にはオーバーフローを疑ってフロート油面の調整を行う必要もある。さらに、連装キャブレターの場合には各キャブレターのスロットルバルブがきちんと同調しているかを負圧計を用いて調整しなければならない。バックファイアが頻発する場合にはタペット点火時期を調整してみて、仮にハイカムを組んでいる場合には安全性を考慮してローカムに変更することも検討する。始動性が極端に悪くアフターファイアが出る場合にはスロー系統の調整の前に、点火プラグの熱価を焼け型に変更してみる必要もある。

自動車やオートバイの場合でも空燃比計を使用することでより正確なセッティングが可能となるとされているが、最終的には実際に走行してみてボコつきや息継ぎなどが無い状態になるまでじっくり調整していくことが望ましい。このため、キャブレターを調整する際にはある程度以上ジェット類を始めとするインナーパーツを揃えていることが必須となるのだが、古いキャブレターの場合は新品のジェットが手に入らない場合も多くなってきている。

キャブレターの混合気の質を直接チェックする方法は、ガス分析装置を使用して排気ガスに含まれる一酸化炭素炭化水素および酸素含有量を測定するか、特別な碍子を持つ点火プラグを通して直接燃焼室の炎を見る方法が挙げられる。この点火プラグはガラス状の透明な碍子を持っており、海外では「Colortune」[12]の商品名で販売されている。Colortuneの解説書では、理想的な燃焼の炎色は「ブンゼンブルー」とされており、燃調がリッチであれば炎色は黄色に。リーンであれば白っぽい青色を示すとされている。

また、点火プラグの碍子や電極の焼け色を見ることである程度まで空燃比を推測することが可能である。もしもプラグの碍子が乾燥して黒く煤けている場合には燃調が濃いことを示し、白か薄いグレーを示している場合には燃調が薄いことを示している。キャブレター仕様の場合には狐色か茶色に近いグレーであることが望ましいとされる。

電子制御式キャブレター

アメリカや日本では1980年代前半から、O2センサーの信号に合わせて、ECUの制御で燃調を変更出来る電子制御式キャブレター[13]が広まった。既存のキャブレター仕様の部品構成を大きく変えることなく、80年代の排ガス規制に十分対応できたことや、キャブレターでの過給器仕様を燃料噴射装置よりも安価で、かつ通常キャブでのキャブターボ仕様より遙かに安全に実現できることから、廉価な車両を中心に幅広く採用された。 しかし、1990年代中盤以降になると燃料噴射装置の価格が量産効果により大幅に低下し、排ガス規制も更に強化される傾向となったことから、こうした電子制御式キャブレターは現在では完全に廃れてしまっている。

オートバイでは高地補正スロットル開度と連動した点火時期調整などを自動的に行う電子制御機器が搭載されたキャブレターを採用する車種が多くなっているが、これは厳密には自動車の電子制御式キャブレターとは異なるものである。

主なキャブレター製造メーカー

日本

      • NCV 小型二輪車用CVキャブレター
      • CV CVK 中、大型二輪車用CVキャブレター
      • CVHD/ハーレー・ダビッドソンOEM。32Φ,30Φ)
    • 固定ベンチュリ
      • KEIHIN H-D(1989年までのハーレー・ダビッドソンOEM)
  • ミクニ製キャブレター
    • TM
    • TMR
    • VM
    • BW / BV 産業用・汎用
    • BS / BST / BSR 二輪・ATV用
    • BN フロートレス 水上バイク
    • ミクニ・ソレックス(自動車向け固定ベンチュリキャブレター)
  • ヨシムラ製キャブレター
    • TM-MJN(28φ,26φ,24φ)
    • TMR-MJN
    • FCR-MJN(39φ,28φ)
  • 日立(主に日本車向けSUキャブレターを製造していた)
  • テイケイ気化器(TKキャブレターの商品名でオートバイや自動車の純正キャブレターを製造している)
  • オーイーアール(OER) http://www.oer.co.jp(現在でも自動車向け固定ベンチュリキャブを製造販売する数少ない国産メーカー)

ヨーロッパ

アメリカ

その他

  • Argelite(ホーリーとマニエッティ・マレリのアンダーライセンスの元で、アルゼンチン市場にキャブレターを出荷するメーカー)

参考資料

基本情報
特許関係

アメリカ

その他

脚注

  1. ^ a b Random House Dictionaryより。
  2. ^ フォード V-8 新型カーブレーターカタログ
  3. ^ Ford Motercraft 2バレルキャブレターのパーツリスト
  4. ^ HRCによる RS125R/RS250Rのパワージェット設定法の説明
  5. ^ YSP藤沢代表取締役 山本俊彦氏の研究、特許
  6. ^ [1]
  7. ^ 日産・ダットサントラックNA20Sエンジン搭載車など。
  8. ^ 自然吸気キャブレターのバックファイアでもエアクリーナーが吹き飛ぶことがあるが、過給器仕様の場合は加圧された多量の混合気がバックタービンで逆流して一気に着火するため、その危険度は自然吸気の比ではない。
  9. ^ バックファイアでスーパーチャージャーがキャブレターごと吹き飛んだ事例
  10. ^ このような状況である。動画の車両はRX-7・SA22Cに20Bペリフェラルポートエンジン、スーパーチャージャーに吸い込みレイアウトのダウンドラフトキャブを装備という仕様だが、バックファイアでボンネットが吹き飛ぶ程の爆発を起こしている。
  11. ^ オートバイの場合はスロー系統のパイロットスクリュー(エアスクリュー)のみの場合が多い
  12. ^ Colortune”. Autoexpertproducts.com. 2009年9月5日閲覧。
  13. ^ 電子制御キャブの一例であるホンダ・PGM-CARB
  14. ^ Expolded view”. Lectronfuelsystems.com. 2009年9月5日閲覧。

外部リンク