捕鯨問題

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捕鯨問題(ほげいもんだい)とは、クジラおよびイルカの捕獲の是非に関する国際的な論争、摩擦問題である。

目次

[編集] 概要

基本的には、今後捕鯨を行うことに賛成か、反対かの対立構造と捉えられることが多く、以下のような構図で理解されているのが一般的である。

国際捕鯨委員会(加盟国82カ国)の内、捕鯨推進国は34カ国あり、現在では主に食糧として捕鯨をしている国々には、ロシア日本ノルウェーアイスランドフェロー諸島デンマーク自治領)などが挙げられる。なお未決定(中立)国は中華人民共和国など3カ国存在する。また、捕鯨国でありながらアメリカ合衆国は捕鯨に反対している。一方で捕鯨国のカナダは、国際捕鯨委員会を脱退している。

捕鯨反対国は、食用のための捕鯨が廃れて灯火燃料や機械油用の鯨油目的の捕鯨に移行していた元捕鯨国、EU規模での加盟勧奨がなされたことから、一切の捕鯨の経験を有さないEU加盟諸国、ラテンアメリカ諸国(反捕鯨の立場を鮮明にしているアルゼンチンやブラジルなどが主導するかたちで、他のラテンアメリカ諸国も反捕鯨の立場で足並みをそろえている)、オーストラリア及びニュージーランド、等が中心となっており、これに与するNGOも多い。

しかし、現実の構図はこの一般的理解よりもはるかに複雑であり、問題を単純化、一般化するのは必ずしも容易ではない。何故ならノルウェー、日本のような近代の捕鯨大国は、常に鯨肉と併せて鯨油も重要な生産物としてきたし、日本といえども大戦前のある時期には鯨油だけを目的として南極で大規模な捕鯨活動を展開していた。反捕鯨の意見を表明する個人や団体にも、捕鯨全体を否定する立場のものだけでなく、少数民族原住民の伝統捕鯨は可とするもの、大資本の企業による遠洋の商業主義的な捕鯨には反対だが小規模資本の沿岸捕鯨なら可とするもの、生態系の保護を議論の中心に掲げるものから動物愛護運動として活動するものなど、相互に異質なさまざまな立ち位置が存在する。

また、この問題は一時期、欧米諸国の自然保護団体を始め、彼らに同調した自動車産業団体や、農産物生産者等によって利用され、日本人に対しての人種偏見反日運動ジャパンバッシングなどの一つとして、過激な運動やパフォーマンスも行われた[1]。反捕鯨の運動にも参入しているグリーンピースシーシェパードといったNGOの活動船と日本やノルウェーなどの捕鯨船とのトラブル、特にシーシェパードの暴力的な示威活動による問題も起きており、日本の捕鯨船との衝突事故は日本国内でセンセーショナルに報道された。

日本国内の世論の多数は捕鯨自体に積極的に賛成というよりは、他国による自国文化への干渉に対するナショナリズム的な反応として反捕鯨を非難することが多い。

捕鯨推進派である日本国内にも、捕鯨反対派NGOが存在することや、捕鯨問題を扱う国際捕鯨委員会に捕鯨をしたことのない国家が参加していること、マスコミで広く報道されている構図と関わっている専門家の捉えている構図に少なからぬズレが見られることなども、問題の複雑さを物語っている。

[編集] 争点

現時点での捕鯨を巡る争点は、下記の8つである。

  1. 資源としてのクジラ
  2. 自然保護問題としてのクジラ
  3. クジラ知的生物論
  4. 文化としての捕鯨
  5. 原住民生存捕鯨
  6. ホエールウォッチングとの対立
  7. 人道的捕殺問題
  8. 国際法上の争点

以下で、それぞれの争点について詳述する。

[編集] 資源としてのクジラ

捕鯨問題を扱う国際機関である国際捕鯨委員会(IWC)は鯨資源の維持を目的とした組織である。つまり捕鯨を持続的に行うための組織であることはIWC設立の根拠となる国際捕鯨取締条約にも明確に記載されている。

IWC科学委員会が北大西洋に限定して実施した調査では、ミンククジラ等の種では管理された捕鯨による絶滅の可能性は限定的であるとされている。しかしRMSと呼ばれる監視・監督制度を巡って、捕鯨反対国が厳密な監視・監督制度を要求したことで、この調査結果に基づく捕鯨再開の目処は立っていない。捕鯨賛成派は下記の鯨食害論や「増えてきたクジラを間引くならば問題はない」と主張する[2] 。

反対派は「科学的調査は長期的なデータがなくまた捕鯨国によるごまかしもあるために信頼できない」「合法的鯨肉を隠れ蓑として禁漁種の鯨肉が流通している状況が改善されるまでは全面禁漁が妥当」と批判する。

[編集] 自然保護問題としてのクジラ

大別すると「漁業による海洋の過剰搾取の問題」と「海洋の状況悪化による問題」とがある。また、派生的に「鯨食害論」という主張も捕鯨推進側から主張されている。

絶滅の速さは今日では1日に約100種で千年前の安定期において1年で約0,1~1種であったことから約3万~30万倍になっているともいわれる。毎年多くの絶滅危惧種(ヨウスコウカワイルカなど)が地球上から消え去っているが、捕鯨対象の鯨類において「緊急な保護が必要ではない」との主張もあり、その他の絶滅危惧種に対する無謬性が問われている。

公海利用に関する国際法上の根拠
日本は海の憲法と言われる国連海洋法条約に基づき「公海の利用は自由」としているが、反捕鯨国は「公海の利用には国際社会の合意が必要」という国際法上の根拠に乏しい考え方である。なお、過去には多くの国が公海捕鯨を行ってきたが、現在では日本以外の捕鯨国は、ノルウェーも含めて原則として近海捕鯨・沖合捕鯨しか行っておらず、公海での捕鯨をめぐる争点は主として日本のみを対象としたものとなっている。
海洋の過剰搾取問題
過剰搾取問題は、「人間による捕鯨を含む漁業によって海洋生態系が撹乱されている」という観点からの問題提起である。捕鯨は、海洋生態系ピラミッドの頂点に立っていた鯨類をバイオマス換算で半分以下まで減らしたという推測があり、その結果海洋生態系はかなりのダメージを受けている可能性があると指摘されている(鯨類の餌としての水産資源消費も鯨類のバイオマス総量に比例して激減していると推測されること、鯨類の死体を経由しての生態系ループもまた激減していること、などが理由)。これまでの人類による海洋の過剰搾取を見直す必要があるという主張があり、「過剰搾取・過剰漁獲のシンボル」として捕鯨が否定されるという流れである。
なお、この問題は単に鯨類だけの問題ではなく、特定魚種の集中的漁獲などともからんでいる。日本は、たとえばマグロ(ミナミマグロやタイセイヨウマグロを含む)について現在も同様の問題を抱えていると指摘されているため、なおさら日本の捕鯨に対する風当たりは強くなっている。
海洋の状況悪化という問題
海洋の状況悪化という問題は、化学物質汚染などにより海洋生態系の状況は悪化しているうえ、オゾン層破壊による紫外線の増加(そして、紫外線の増加に伴う、海洋生態系ピラミッド最下層の植物性プランクトンへのダメージ、そこから生態系ピラミッド上層に向けての悪影響)によってこれから更に悪くなる可能性が強いという指摘である。そこから「海洋の利用は抑制に転じるべき」という結論が引き出されている。
鯨食害論
日本鯨類研究所は世界中の鯨類が食す餌(魚、オキアミ、端脚類カイアシ類といった甲殻類、イカなどの軟体動物を包括する)の消費量は2.8~5億トンと推定。これは大隈清治と田村力が37種の鯨の基礎資源量に基づいて算出したものである。計算根拠等はIWCに報告され、また「Competition for food in the ocean: Man and other apical predators」[1]と題する論文としてFAOを通じてWEBでも公表されている。この量は世界中の人間による漁獲量9千万トンの3倍~6倍であるとした上で、鯨のみを保護する事によって海洋生態系に悪影響を与えると主張している。これがいわゆる「鯨食害論」である。
鯨は、人類が誕生する以前から海洋生態系に組み込まれる形で、海洋生物を消費し、鯨もその中で死後、糧になることを繰り返してきたにも関わらず、今頃何故それが主張されるのか、また捕鯨対象種以外の種をわざわざ含む説自体を疑問視する[3]意見もある。
また、「北太平洋のミンククジラ個体群がオキアミよりも、サンマイワシなど群居性の中小型魚を多く捕食していたことは専門家にとっては古くからの常識であり一般向けの動物学啓蒙書籍にも広く記されていた事実[4]だったにもかかわらず、最近になって調査捕鯨の成果として人間の食料になる魚類の大量捕食が判明したかのような広報がなされた」「鯨類の総バイオマス量が激減している以上、鯨類が消費する水産資源も激減しているはず」などが指摘されている。
一方、「南極で餌をとる鯨などはオキアミを主として食すこと、マッコウクジラなどのように深海の軟体動物を食べることなど、人間の漁業と競合していない部分の方が遥かに大きい」、また「計算の対象となった世界中の鯨類にはイルカなど捕鯨対象種以外の種を含んでいる」などにより、2.8~5億トンと言う数字を漁獲量と比較して競合を論ずるのは不適当であり重大な誤解を招くという反論もある。事実、この数字を算定した上記大隅/田村論文では、捕鯨対象種のIWC所管のヒゲ鯨に限っては、直接人間の漁業と競合する魚の消費量を1200万~2400万トンと推定しており、これは漁獲量の15~30%にしか相当しない。

[編集] クジラ知的生物論

捕鯨反対派のなかには、クジラの巨大な容積や、音波によって同族間の緊密なコミュニケーションをとっているらしいこと、ヒトと同様の哺乳類である事を挙げて、「知能が高い動物を食べるのは残酷である」と食のタブーとする意見がある。そもそもなぜ知能が低いと食べて良いのか、知能が高いと食べてはいけないかについては、決して科学的根拠が語られることがないのがこの論の常である。

それに対して当然出てくる反証は数多い。一つは「脳容積と知能レベルは必ずしも一致しない(後期のネアンデルタール人は、現生人類よりも脳容積が大きかった可能性が高い)」「脳の大部分の機能は身体機能の維持に使われる。脳重量と総体重の比でいえば、イヌやネコにも劣る」「クジラが駄目でブタが良いというのは、単なる感情的差別である」など、「クジラの知能が特別に高いわけではない」と言う立場であり、また、脳や神経の細胞分布などから、知能はイヌ程度だと推定されるとする分析結果もある。基本的に人間を含む動物にとって「知能が優れている」という事は「身体機能のある部分の機能が突出」している以上の意味はなく、クジラの巨大な脳は複雑な海中の環境に適応したもので、豚や犬、人間と比較するものでもない(それぞれの動物は枝分かれした進化の突端に過ぎない、参考「系統樹」)。科学的には、知能という定義不明瞭な生物の一能力をもって鯨の保護価値を論じることに意味がないことはほぼ決着がついている。

また知能の高低と殺してよいもの、そうでないものを結びつけることに合理的な理由はないうえに、その論法を用いれば知能が低い人間は殺害してもよいという考えに結びつくのではないかという人権平等論、イデオロギー論からの批判もある[5]

反捕鯨国のマスコミ、NGOの論調より、このような価値観が反捕鯨の世論の形成の根底にあるという主張はあるが[6]、現実には、上記にあるように科学的決着が付けられているゆえ国際捕鯨委員会(IWC)等公式の場でこの系統の主張がなされることは少ない。

[編集] 文化としての捕鯨

食用利用の歴史的経過については鯨肉も参照 食用利用以外の歴史的経過については捕鯨文化鯨骨鯨ひげ鯨油も参照

[編集] 食文化

過去に捕鯨歴がある反捕鯨国の多くもまた、当初は沿岸捕鯨からスタートしている。しかしそれらの原始的沿岸捕鯨は資源の枯渇を招き、徐々に沖合・遠洋へと漁場をシフトしていった。この時期にはまだ冷凍技術がなく漁場から鯨肉を持ち帰れなかったため、保存可能な鯨油や資材(ヒゲなど)のみを対象とする産業構造になった(過去に捕鯨歴がある反捕鯨国について「鯨肉食文化が存在しなかった」とするのは誤り)。

日本においては鯨食はただ単に食料としてではなく、平安時代からは公家滋養強壮として、戦国時代には武士が戦いに勝つための縁起担ぎ贈答の最高級品として珍重した、江戸時代からは組織捕鯨の隆盛と共に庶民にも親しまれ、時節ハレの日に縁起物として広く食されるようになった。そのため日本においては世界でも突出する、多種多様な鯨料理が生まれ現在も伝承されているが、捕鯨問題に係わりその文化の消失が危惧される。

沿岸捕鯨が廃れなかった理由は異なるが、ノルウェーなどに鯨肉食文化が残り、現在も捕鯨推進国となっている事情も類似している。なお、日本については、近時の調査捕鯨拡大に伴い鯨肉の在庫量が増加している[2]という報道があり、鯨肉の需要は現在は減っているとの見方もあるが、実際には消費量は近年は拡大傾向にありまた在庫量は一定の水準を保っている[3][4]。これは長引く商業捕鯨停止で卸業者が減少してしまったために流通が滞っているとの指摘もあるが、年二回しか卸されない捕鯨特有の事情があるためと水産庁などは説明している。[5]

クジラ=知的生物論とも重複する部分ではあるが、クジラを食料として捕獲してきた捕鯨国には「食文化としての鯨肉食」が存続するのに対して、反捕鯨国の多くはクジラを食料としてきた歴史が途絶えて久しいため、「クジラを『食料』と見る文化が生き残っているか、そういう文化が生き残っておらず、保護の対象となる『野生動物』と見る」という見解の相違を生じている。このことがクジラの食料利用、特に商業利用における対立の根幹である。

[編集] 伝統捕鯨

日本では江戸時代鎖国政策によって遠洋航海が可能な船の建造が厳禁だったため、沿岸鯨類資源の枯渇による遠隔捕鯨化に伴う産業的な拡大は限定的だった。ただし、鯨肉は入手できたため鯨肉食文化が維持された。これは、明治以降の沿岸捕鯨の近代化・沖合捕鯨の開始・南極海商業捕鯨(輸出向けの鯨油の確保による外資稼ぎが主目的で、冷凍船の導入などで持ち帰りが可能に。)にもある程度引き継がれた。

捕鯨を行った国や民族全てにおいて『伝統文化』ととらえるのか、または、「産業だった捕鯨」と「文化まで昇華した捕鯨」と区別するのか、日本においては古式捕鯨と遠洋捕鯨を区別せず伝統文化とするか、など判断基準が多岐になっているため、非常に多様な見解の相違を生む要因となっている。

捕鯨は文化的な価値基準に左右され、推進・反対が明確になりやすい。このため、韓国における犬食や、アメリカの北方先住民(いわゆるエスキモー)による捕鯨・アザラシ狩猟といった文化間対立と同様、捕鯨問題も他文化への攻撃を伴ったナショナリズム愛国心の喚起に利用されることがある。[要出典]

[編集] その他の文化

日本において捕鯨の資源として鯨肉以外も様々な形で利用されてきた。その資源の枯渇が、日本の伝統や文化と係わり、そのあり方に懸念が生じている。「花おさ」に代表される縁起物としての工芸品でもある鯨細工は、クジラの歯・骨や鬚を源材料としており、その他にも人形浄瑠璃のエンバ板や、歌舞伎の肩持ちやカラクリ人形のゼンマイに使われ、捕鯨禁止による資源の枯渇が、文化の真性を阻害するという主張がある。

しかしながら、それらの鯨類由来の資材は、大量に必要になるものではなく、寄り鯨などからも得ることができ、一定の在庫はある。また鯨髭は調査捕鯨対象のミンククジラからも入手可能である(種の違いにより多少の差異はある)。在庫不足よりは、在庫管理・流通手配の問題が大きいという指摘もある。

[編集] 原住民生存捕鯨

現代でも、グリーンランドやアメリカのアラスカ州、ロシアなど北極圏に住む北方先住民などは、原住民生存捕鯨として一定の捕鯨が認められている。世界各地の先住民による伝統捕鯨は、「原住民生存捕鯨」というカテゴリでIWCでも認められており、反捕鯨国も支持している。なお、この原住民生存捕鯨は、原則として近代的なノルウェー式捕鯨[7]と異なる伝統的な捕鯨手法に基づくものとされている(ただし致死時間の短縮に寄与する銃器の使用などは認められている)。

だが、2002年のIWC下関会議では、原住民生存捕鯨枠には反捕鯨国が含まれる一方で、日本に対しては捕獲枠がいっさい認められず、調査捕鯨も引き続き反捕鯨国からの非難の対象だったこと、また先住民には絶滅危惧種であるホッキョククジラなどの捕獲を認める一方で、日本に対しては絶滅の危機に直面しているわけではないミンククジラの捕獲も許さないという対応の差から、日本はこの要求に対して「反捕鯨国による二重基準である」と反発し、生存捕鯨の採択を否決に持ち込んだ。このため、生存捕鯨枠の運用は一時停止を余儀なくされた。ただし、日本が求める沿岸捕鯨は、日本の伝統捕鯨とは捕獲方法も対象鯨種も異なり、「原住民生存捕鯨」と同じカテゴリで認められる可能性はない。日本側も生存捕鯨ないしは「第三のカテゴリの捕鯨」であると主張していた。

日本は2000年からの第II期北西太平洋鯨類捕獲調査において、IUCNレッドリストで「絶滅危機」(EN : Endangered)に分類されているイワシクジラの調査捕鯨を開始した(『日本捕鯨協会 捕鯨問題Q&A』)。イワシクジラの生息数は5万~6万頭と考えられており、年間100頭程度の捕獲はイワシクジラの安定的な生息には影響を与えないというのが日本の主張である。対してIUCNの基準は生息数の現状のみで判断するものではなく、過去から現在に向けて野生生物が受けてきた影響を考慮するものである。これが更に問題を混迷させる一因となっている。

以上のように、原住民捕鯨については、反捕鯨国が「クジラを獲らせろ」、捕鯨推進国が「獲らせるな」と主張するという、ねじれ現象が生じている。これについて捕鯨推進派は、「アメリカは絶滅危惧種の鯨の保護より、自国民である北方先住民の利益を優先させている」と主張している。

[編集] ホエールウォッチングとの対立

また近年、鯨類を観察する対象とするホエールウォッチングが産業として成立し成長してきたため、その対象である鯨類を殺傷する捕鯨との対立が注目されつつある。遠洋捕鯨ではあまり関係がないが、伝統との関係が密接な沿岸捕鯨では深刻な対立を引き起こす場合がある。

ホエールウォッチングが一定規模の産業である地域の中には、たとえばブラジルなどのように、捕鯨よりもホエールウォッチングのほうが経済的に効率が良いと主張している国もある。船をチャーターし、宿泊し、お土産を買うというような形で地元経済に貢献している。

世界的にはまれな事例ではあるが、特にホエールウォッチングと捕鯨が近隣で行われている場合、船に寄ってくる鯨が捕獲されてしまい、鯨が人間を避けるようになる。日本でも太地町で捕鯨を行っている漁師と、那智勝浦町のホエールウォッチング業者との間での争いが起きた。

[編集] 人道的捕殺問題

最新の食肉用家畜の屠殺においては、専用の道具(主に屠殺銃)および炭酸ガス麻酔法を用いた安楽死が多いのに対し、鯨は専用施設内での殺処理が行えない。致命傷でなければ死ぬまで時間がかかる場合があり、偏見による批判が加えられる場合がある。この争点は、しばしば「牛や豚を食うのも鯨を食うのも同じだ」という主張に対しての「家畜類を殺すこととクジラを殺すこととの違い」を理由とした反論とされる。

乗組員の安全性や人道的視点などからの致死時間短縮は比較的古くから問題とされており、鯨を感電死させる電気銛などの研究が戦前からあった。日本でも1950年代に電気銛の試験が行われ、鯨の即死が確認されたものの、有効射程の短さなど運用上の困難から主力にはならなかった。その後、砲手の技量向上や対象鯨種の小型化による即死増加などから、IWCでは非人道的ではないとの結論に達していた。

捕鯨反対派は人道的捕殺を大きく取り上げるようになった。日本の調査捕鯨で二番銛に用いていた電気銛が、不必要な苦痛を与え非人道的であるとし、1997年にはIWC総会でイギリスとニュージーランドにより電気銛の使用禁止が提案された。対して日本がライフルを中心に切り替える旨を表明し、これを評価する国が多かったため、イギリスなども提案を撤回した[6]

致死時間の長さの一因について日本鯨類研究所は「年齢測定のために耳垢栓を無傷で入手する必要があり、致命傷を与えうる部位のうち頭部を避けて捕鯨砲を打ち込んでいたため」と説明。その後独自に開発した効率の高い爆発銛の使用や、耳垢栓を損なう可能性を甘受して頭部に致命傷を与えることを厭わないとする政策転換で対応、その後は陸上野生動物のケースに劣らない即死率と平均致死時間を達成している、と反論している[7]。 日本鯨類研究所が発表したデータによれば、2005-2006年の調査捕鯨において、平均致死時間(銛命中から致死判定まで)は104秒、即死率は57.8%である(抗議団体の妨害を受けていない場合)[8]。ノルウェーが発表した2000年のデータでは、平均致死時間が136秒、即死率が78%である[9]

[編集] 国際法上の争点

上記のようなそもそも制限が必要・妥当であるかの議論は別に、国際法上の捕鯨に関する「権利」と「制限の根拠」について、下記の論点が存在する。

海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)[10]
海の憲法とも評される国際条約で日本も1996年に批准している。同条約では第116条〜第120条において、締約国による「公海での自由な漁業の権利」を認める一方、漁獲高を維持するための「資源保護」に協力する義務があると定めている。また第65条において、締約国は海洋哺乳類の保存のために協力するものとし、鯨類については国際捕鯨委員会等の国際機関を通じて管理を行なう義務があるとされている。したがって、もしIWCを脱退すればモラトリアムなどのルールに縛られない一方、「今以上に反捕鯨勢力から違法だという批判にさらされ、それに対する法的反論が難しい」(森下丈二水産庁漁業交渉官の発言)」ことが日本の捕鯨政策決定者によっても認識されている。
南極海洋生物資源保存条約[11]
同条約では第6条において、同条約のいかなる規定も、国際捕鯨取締条約に基づき有する権利を害し及びこれらの条約に基づき負う義務を免れさせるものではない旨を規定している。
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)[12]
同条約では付属書Ⅰにシロナガスクジラ、ザトウクジラ、ミンククジラなどの鯨類を掲載し、これらについては商業目的での貿易並びに海からの持込を禁じている。「海からの持込」規定は、ワシントン条約の適用範囲を、公海での漁獲・捕獲活動に広げる意義を有している。条約案が検討された当初の構想ではクジラ類に対するIWCでの規制が不十分であるとの自国の環境保護団体からの強い突き上げを受け、米国政府が「海からの持込」規定を条約草案に挿入、73年に開催されたワシントン条約採択会議で強く同条項の盛り込みを求め、この結果挿入された経緯がある[8]。日本は鯨類に関してミンククジラ、イワシクジラ(北太平洋のものを除く)、ニタリクジラ、ナガスクジラ、イラワジイルカ、マッコウクジラ、アカボウクジラにつき留保を付しており[13]、上記鯨種については同条約の適用を免れる。但し留保を付していないザトウクジラと北太平洋に生息するイワシクジラについては、公海上での標本捕獲・持込について、当該持込がされる国の科学当局(日本では鯨類の場合、水産庁)が、標本[9]の持込が当該標本に係る種の存続を脅かすこととならないと助言していること、当該持込がされる国の管理当局(日本では鯨類の場合、水産庁)が、標本が主として商業目的のために使用されるものではないと認め、同管理当局が持ち込みに先立ち上記についての証明書の発給を行なう必要がある(第3条5項)。なお、経済的な利益獲得のための活動や、経済的利用のための活動は商業的とみなされること、非商業的側面が際立っていると明らかにはいえないあらゆる利用方法は、第3条5項の文言にある「主として商業目的」であると解釈するものとされている(ワシントン条約第5回締約国会議決議5.10)。以上から鑑み、日本によるザトウクジラと太平洋イワシクジラ捕獲はワシントン条約の諸規定を侵害する違法行為にあたるとの見解が元ワシントン条約事務局長で国際法学者のピーター・サンド教授により提起されている。[10]。これに対して日本鯨類研究所は、商業目的であるか否かについての判断は締約国に委ねられていると主張している(日本鯨類研究所)。なおワシントン条約違反行為等に関しては、締約国会議の下に常設委員会が設けられており、同委員会は締約国会合において採択された諸決議に即し、条約違反国に対する貿易制裁を締約国へ勧告する権限を有している[11]

[編集] 汚染の問題

沿岸域の鯨肉は安全性に問題があるとも言われる。生態系ピラミッドの上位である他のマグロやカジキなどの魚類(蓄積の値はクジラほどではないと言われるが)についても同様の指摘がある。

人間・自然由来の海洋の化学物質が生態系ピラミッドの上位者であるクジラ類・イルカ類の体内に濃縮されること、特に、年齢を重ねるごとに脂溶性の物質が脂肪細胞に蓄積されることが、研究によって明らかになっている。その主たるものは、水銀および有機塩素系化合物(PCB等)である。

日本においては、厚生労働省が妊婦を対象とした魚介類の摂食ガイドラインを設定し、その後改訂作業も行っている[12]。その中で、マグロやキンメダイと並び、ハクジラ類も摂取量の目安が定められている。ただし、これはあくまで妊婦のみを対象としたもので、それ以外は幼児や授乳婦を含めて制限は必要とされていない。またミンククジラなどのヒゲクジラ類は汚染が軽度であるとして、沿岸域のものも含めて制限の対象外である。

[編集] 捕鯨問題の経緯

捕鯨の発達に関しては、詳しくは捕鯨#捕鯨の歴史を参照。

[編集] 世界における捕鯨の経緯

現在では反捕鯨側に立っている国々も、過去には捕鯨国だった場合がある。それらの国々の捕鯨も、最初は沿岸捕鯨から始まった。

鎖国中の日本と異なり遠洋航海が可能だった国々では、沿岸捕鯨で鯨が減れば、沖合捕鯨・遠洋捕鯨へと移行し、さらに他の漁場へ移動して捕鯨を続けた。初期には食肉利用も行っていたが、十分な保存技術がなかったため、鯨油・ヒゲなどの資源のみを目的とするようになった。

19世紀末にはノルウェー式捕鯨が開発され、ナガスクジラ科の捕獲も進んだ。南極海でも20世紀初頭に本格的な捕鯨が始まり、1931年にシロナガスクジラ捕獲はピークとなる。以後もナガスクジラなどのより小型の鯨種に移行して捕獲が続いたが、最終的には、鯨類資源の減少と鯨油需要の低下から不採算となる。1960年代に英国・オランダ・豪州などが捕鯨から撤退した。

[編集] 日本における捕鯨の経緯

日本の鯨肉食文化は縄文弥生時代から存在し、弥生時代にはより大型の鯨の捕鯨も行われていたとみられる。北海道でも古代に捕鯨が始まっていた。江戸時代には鯨組の成立など大規模化が進み、セミクジラなどを組織的に捕獲して、鯨油や鯨肉などとして商品化していた。

江戸時代末期になり、アメリカイギリスなどの諸国からの多数の捕鯨船が日本近海で活動した(この頃の遠洋捕鯨は「アメリカ式捕鯨」と呼ばれる帆船捕鯨。「白鯨」などで描写された)。その結果、日本近海でも鯨の個体数は激減し、日本の古式捕鯨は壊滅的打撃を受けた(なおペリーからの開国要求や、その後締結された日米和親条約は捕鯨船への補給を名目とし、小笠原諸島に居住している米国系日本人は、定着したアメリカ捕鯨船員の子孫)。

その後、明治時代になると近代捕鯨法が導入され、定着したのはノルウェー式捕鯨だった。これにより捕鯨対象鯨種もシロナガスクジラなどが中心となる。古式捕鯨法は、1878年(明治11年)の太地における海難事故「大背美流れ」などの海難事故もあって打撃を受け、九州の一部を除き近代捕鯨産業への変身には失敗して、沿岸域でのゴンドウクジラやミンククジラを対象とした捕鯨として存続した。もっとも、古式捕鯨の行われた地域は近代捕鯨産業でも重要な拠点だった。捕鯨が近代化され沖合捕鯨へと漁場を拡大するのと平行して、日本も1934年以降は鯨油を目的として南氷洋まで船団を派遣して捕鯨を実施。第二次大戦が始まると、母船式捕鯨は一旦中止された。

戦後、日本の食糧事情を改善するため、大量かつ容易に確保が可能な蛋白源としてクジラが注目され、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の協力も得て捕鯨が推進され、南氷洋での捕鯨も復活した。

[編集] 捕鯨規制

国際的な捕鯨規制が始まったのは1930年代である。1931年のジュネーブ捕鯨条約、1937年の国際捕鯨取締協定などが結ばれた。セミクジラとコククジラの禁漁や、漁期制限、未成熟個体の捕獲禁止などが内容だった。鯨油の生産調整も行われた。日独ソなどはこうした条約への参加には積極的でなかった。日本は1939年に加盟するはずだったが、第二次世界大戦の勃発のため未加盟に終わった。

戦後の1946年、上記の各条約を発展させる形で、国際捕鯨取締条約が結ばれた。これにもとづき1948年に国際捕鯨委員会(IWC)が設置され、日本も独立直後の1951年に加入した(捕鯨国のうちスペイン・ポルトガル・チリ・ペルーは1970年代以降の加盟)。捕獲枠は1963年以降大きく縮小され、1966年にザトウクジラとシロナガスクジラは禁漁となった。コスト上昇に耐えられず、捕鯨業から撤退する国が増えた。IWCでは、1974年に鯨種ごとの規制である新管理方式(NMP)を導入。これによりナガスクジラやイワシクジラの禁漁措置が適切に行われるなど一定の成果を収めた。残る捕獲対象はミンククジラ・マッコウクジラ・ニタリクジラのみとなった。

1960年代末、鯨類全面禁漁の意見が出始めた。米国は1972年国連人間環境会議で商業捕鯨の10年間一時停止を提案し採択された。IWCでも同年にモラトリアム提案を提出したが、これは否決された。1979年にはIWCでインド洋の保護区指定などが採択される。

1982年、反捕鯨国多数が加入したことでIWCで商業捕鯨モラトリアムが採択される。これは、NMP方式によるミンククジラの捕獲枠算定が、蓄積データ不足で行えないことを名目とするものである。日本・ノルウェー・ペルー・ソ連の4カ国が異議申し立てをしたが、その後日本とペルーは撤回し、1988年に日本は商業捕鯨から撤退した。異議撤回の背景には、米国による水産物輸入停止などの制裁措置があった。同様の制裁措置は、1990年代にはアイスランドに対しても行われた。アイスランドは1992年以降一時IWCを脱退していたが、2003年にモラトリアム条項に異議ないし留保を付して再加入している。

その後、少ないデータでも捕獲枠が算定できる改訂管理方式(RMP)が1994年に採択されて、現在までに北西太平洋のミンククジラについては捕獲枠の試算が完了している。現在のIWCでは捕獲枠の実効確保のための監視などの枠組み(RMS)の交渉が行われていたが、2006年に交渉は決裂した。なお、グリーンピースなどの環境保護団体は、たとえRMSが採択されても乱獲を防げないと主張し、一切の商業捕鯨に反対している。またモラトリアムとは別に、南極海については保護区とする付表修正が採択され、南太平洋と南大西洋についても、それぞれオーストラリアなどと南米諸国により保護区化が提案がされている。

日本は生態系調査を目的とする調査捕鯨に切り替えている。2000年頃にアメリカは、日本の調査捕鯨停止を求め、形式的ながら制裁を再度発動した。日本は沿岸捕鯨の復活を訴え続けてきたが、2007年のIWC総会でも認められず、政府代表団は「日本の忍耐は限界に近い」と脱退を示唆した。1997年にアイルランドから「調査捕鯨を段階的に終了し全公海を保護区とする代わりに日本の沿岸捕鯨を認める」とする妥協案が提示され継続的に審議されたが、合意に至らなかった[13]

[編集] 捕鯨の再開

商業捕鯨モラトリアムを留保していたノルウェー1993年に商業捕鯨実施を公式に認めた。またアイスランドも2003年から2007年にかけて調査捕鯨を実施したほか、2006年に商業捕鯨再開を認め、2007年の1期のみ操業した。また、韓国も2009年6月23日に国際捕鯨委員会総会で捕鯨活動を再開したいと公式に要請した[14]

[編集] 捕鯨を問題としている人々の活動

詳細は「グリーンピース (NGO)」、「シーシェパード」をそれぞれ参照

捕鯨に反対している団体が、捕鯨をおこなっている船や人に対して実力行使を行っており、「窃盗事件」「器物破損」や「傷害事件」を多数起している。

[編集] 注釈

  1. ^ 外務省 「国際漁業問題への日本の取り組み」
  2. ^ ただし、ミンククジラの増加に関しては、度々引き合いに出される76万頭という生息数は下方修正されており、増加自体は1970年頃を境に停止している。ミンククジラの項参照。
  3. ^ 「常識はウソだらけ」ワック 小松正之は「鯨80種は全て食用になる」とコメントしている。
  4. ^ 村山司、笠松不二男『ここまでわかったクジラとイルカ』講談社 (1996)155ページ。また『貝と水の生物』旺文社(1977年)では「オキアミ、魚、小甲殻類」と表記されている。
  5. ^ 三浦 淳 反捕鯨の病理学 第四回
  6. ^ 日本鯨類研究所 1996年 3月発行「鯨研通信」第 389号
    三浦 淳 反捕鯨の病理学 第二回
  7. ^ 捕鯨#捕鯨の歴史のノルウェー式捕鯨の説明も参照。
  8. ^ 真田康弘「CITESとIWCとの相互連関の起源:『海からの持込』規定のCITESへの導入と付属書における鯨類の取り扱いを巡って」『環境情報科学論文集21』(2007年)、315~320頁。
  9. ^ ワシントン条約にいう「標本」とは、動物または植物の個体などを指す(条約第1条 (b) )
  10. ^ Peter Sand, "Japan's ‘Research Whaling’ in the Antarctic Southern Ocean and the North Pacific Ocean in the Face of the Endangered Species Convention (CITES)," Review of European Community & International Environmental Law, Vol. 17, No. 1 (2008), pp. 56-71. このほか、以下を参照。河北新報2008年1月21日付「捕鯨問題 日本の戦略 東北大学准教授石井敦氏に聞く」」 (IFAWホームページ)
  11. ^ Rosalind Reeve, Policing International Trade in Endangered Species: The CITES Treaty and Compliance (London: Earthcan, 2002)
  12. ^ 厚生労働省「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項の見直しについて」
  13. ^ やってる「ふり」だけ?の沿岸小型捕鯨再開提案~国際捕鯨委員会・2007総会ウォッチ(5) JANJAN 2007年6月28日
  14. ^ 「蔚山での捕鯨活動の再開を認めてほしい」 中央日報 2006年6月25日
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[編集] 関連項目

[編集] 関連書籍

[編集] 外部リンク・参考文献