エコファシズム

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エコファシズム(: Ecofascism)は、環境保護動物愛護などを理由に、異論を排除して全体主義的な政策を推進し、権威主義人権抑圧などを正当化しようとするイデオロギーの一種である[† 1]

通常は、過激あるいは破壊活動を伴う環境保護活動を行ったり、過剰な環境保護を要求したり、「環境保護」を名目に他者に自身の思想や行動への賛同を強要したり、あるいはいわゆる環境利権を貪るなどの団体や活動家に対して、批判的な立場から使用される用語である。

思想的背景[編集]

エコファシズムの思想的な背景には、大幅な人口減の必要性を唱えるネオ・マルサス主義の影響を受けた生物学者のギャレット・ハーディンによる優生学的な選別思想[1][2]が基盤にあるだけでなく、ロマン主義情緒主義(emotionalism)との結びつきも指摘されている[3]

環境倫理[編集]

ギャレット・ハーディン[4]が唱えた「救命ボートの倫理」において、環境収容力を超えては生物が生き残れないとの指摘は評価されたが、人口過剰である途上国を見捨てるべきだとの結論には批判がなされた。また、「土地倫理」において、全体性のために個々の犠牲を強いる思想と批判を受けたアルド・レオポルドや、その思想を受け継ぎ、 生態系の保護のためには人間の排除も辞さない生態系中心主義を唱えたキャリコット[5]の主張は、エコファシズム的な思想として批判を受けている。

人口研究の生物学者ポール・R.エーリック(Paul R. Ehrlich)が広めた「人口爆弾」や「人口爆発」、「人口という疫病」などの用語はエコ・ファシズム的な表現とされ、人間を汚染物質として扱うなど、人間への侮蔑をともなう一方で、エコ中心主義者がそれらの用語を用いる場合、自分がその対象であるとは考えないなどの特徴があげられる[6]。人口過剰に対する警戒は他の集団との反目に発展しやすく、科学主義による人種差別を正当化する恐れがあるとの指摘がある[7][† 2]

動物の権利論者トム・リーガン(Tom Regan)は1983年に記した著書[8]の中で、アルド・レオポルドの土地倫理やキャリコットの生態系中心主義に対して、環境ファシズム(environmental fascism)[9][10]であると指摘し[11]、歴史家のローデリック・F・ナッシュ(Roderick F. Nash)はキャリコットの主張に対して人を犠牲して病原菌の権利を擁護する倫理であるとの批判を行っている[12]

ナチス全体主義とエコロジー[編集]

エコロジーの思想的な基盤にはドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルの寄与が指摘されており、ヘッケルの種の優生学的保存などの社会ダーウィニズム的な主張はナチスによるホロコーストを支える理論的な根拠として扱われたことから、エコロジーとナチスのファシズムの二つの思想の潮流を辿ると、いずれもヘッケルを介するという点で共通項をあげることができる[13]

ナチス政権下のドイツでは、1933年に動物保護法、1934年に国家狩猟法、1935年に国家自然保護法が制定され、動物の虐待の禁止、麻酔なしの生体解剖の禁止、野生生物の保護のため雑木林の保護などが行われた。その一方で、などの動物を忌み嫌い、捕虜ユダヤ人に対しては動物以下の扱いが行われた。これは人間と動物の境界を曖昧にすることによって、人間に対する殺人のハードルを動物のレベルにまで下げることになったためとの解釈が行われている[14]

用例・事例等[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 三省堂「大辞林 第二版」では、「環境保全を口実として全体主義・権威主義・人権抑圧などを正当化する思想。」としている。
  2. ^ デイヴィット・ペッパー (1994), p. 296 「アメリカで国家が援助する産児制限のための診療所の数は、黒人の割合に関係し、黒人の多産を抑えたいために、70パーセントは南部10州(アメリカの全人口の一九パーセント)にあるとする研究もある(Simon, 1981)。」
  3. ^ Rob van Ginkel (2004), p. 67 “From his vessel the Sirenian, Paul Watson said through the loudspeaker system ‘Just because you were born stupid doesn’t mean you have to be stupid!’9 Alternatively, the Makah and their supporters dubbed the anti-whaling advocates ‘eco-fascists’, ‘eco-colonialists’, ‘eco-terrorists’, ‘eco-bullies’ or ‘racists’.”
  4. ^ 『動物保護運動の虚像‐その源流と真の狙い‐』梅崎義人、成山堂書店
  5. ^ 山本弘「“環境問題のウソ”のウソ」楽工社、2008年、288-291頁 「温暖化問題は原発業界の陰謀?」ISBN 490306316X

出典[編集]

  1. ^ デイヴィット・ペッパー (1994), p. 258
  2. ^ 尾関周二ほか (2005), p. 170
  3. ^ デイヴィット・ペッパー (1994), p. 252
  4. ^ Tragedy of the commons
  5. ^ J. Baird Callicott, Companion to a Sand County Almanac: Interpretive and Critical Essays ISBN 0299112349
  6. ^ デイヴィット・ペッパー (1994), p. 257
  7. ^ デイヴィット・ペッパー (1994), p. 258
  8. ^ Tom Regan (1983, 1985, 2004). The Case for Animal Rights. University of California Press. ISBN 0520243862. http://www.animal-rights-library.com/texts-m/regan03.pdf. 
  9. ^ Environmental Ethics (Internet Encyclopedia of Philosophy)
  10. ^ Environmental Ethics (Stanford Encyclopedia of Philosophy)
  11. ^ 川本隆史ほか (2000), p. 107
  12. ^ 川本隆史ほか (2000), pp. 107, 108
  13. ^ 尾関周二ほか (2005), p. 15
  14. ^ ボリア・サックス (2002), p. 229
  15. ^ Rob van Ginkel (2007), p.22
  16. ^ 米ディスカバリーチャンネル本社で立てこもり、犯人を射殺, AFPBB News, 、2010年9月2日
  17. ^ 米TV局ディスカバリーCで立てこもり 警察が犯人射殺、男のトンデモ主張は…産経ニュース、2010年9月2日
  18. ^ Andrew Leonard (2010年9月1日). “How Malthus drove the Discovery Channel gunman crazy”. Salon (Salon Media Group): p. 1. http://www.salon.com/technology/how_the_world_works/2010/09/01/malthus_and_the_discovery_gunman/index.html 2010年11月7日閲覧。 
  19. ^ Mark Potok (2010年9月1日). “Apparent Eco-Terrorist Holding Hostages at TV Building”. Hatewatch (blog), Southern Poverty Law Center. 2010年11月7日閲覧。
  20. ^ http://savetheplanetprotest.com/
  21. ^ James Delingpole (2010年9月2日). “James Lee is Al Gore is Prince Charles is the Unabomber”. UK Telegraph. http://blogs.telegraph.co.uk/news/jamesdelingpole/100052207/james-lee-is-al-gore-is-prince-charles-is-the-unabomber/ 2010年11月7日閲覧。 
  22. ^ 古川愛哲『江戸の歴史は大正時代にねじ曲げられた』講談社 2008年 ISBN 4062724790
  23. ^ 槌田敦「CO2温暖化説は間違っている 誰も言わない環境論(1)」ほたる出版、2006年2月、ISBN 4434074105
  24. ^ 「13歳からの反社会学」角川書店 261、262頁、ISBN 404885075X

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]