アトピー性皮膚炎
| ウィキペディアは医学的助言を提供しません。免責事項もお読みください。 |
アトピー性皮膚炎(アトピーせいひふえん、英語:atopic dermatitis)とは、アレルギー反応と関連があるもののうち皮膚の炎症(湿疹など)を伴うもので過敏症の一種。アトピーという名前は 「場所が不特定」 という意味のギリシャ語 「アトポス」 (atopos - a=不特定、 topos=場所) から由来し、1923年 コカ(coca) という学者が 「遺伝的素因を持った人に現れる即時型アレルギーに基づく病気」 に対して名づけた。
「アトピー性皮膚炎」 という言葉が医学用語として登場するのは、1933年である。アメリカ人のザルツバーガー皮膚科医が、皮膚炎と結びつけて 「アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis)」 という病名をはじめて使用した。医学用語としては気管支喘息、鼻炎などのほかのアレルギー疾患にも冠されるが、日本においては慣用的に「アトピー」のみで皮膚炎のことを指すことが多い。
目次 |
[編集] 概要
日本皮膚科学会ガイドラインでは、アトピー性皮膚炎は表皮、なかでも角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリアー機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、多彩な非特異的刺激反応および特異的アレルギー反応が関与して生じる、慢性に経過する炎症と掻痒をその病態とする湿疹・皮膚炎群の一疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。
[編集] アトピー素因とは
・家族歴・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)
・IgE 抗体を産生しやすい素因
など。
また、一般に慢性に経過するも適切な治療により症状がコントロールされた状態に維持されると、自然寛解も期待される疾患である。と明記されている。
[編集] 原因
- 腸内・表皮・肺・口腔内等による細菌叢
- 体内に常在する細菌叢による、アトピーとの関連が解明されつつある(細菌叢とは様々な微生物群が存在環境下の要因(栄養など)により抑制しあうことでバランスが取れている状態)。体内に常在しているとアトピー体質になりやすい細菌、なりにくい細菌について示唆した研究がアメリカで行われていた。更なる研究が待たれる[要出典]。
- 遺伝的要因
- 栄養要因
- 環境要因
- 一般的にアトピー性皮膚炎では下記の生活指導が有用である[7]。
- その他の説
[編集] 皮膚炎の症状
- 乳児湿疹と混同される場合もある。その炎症は頭部に始まり、次第に顔面に及ぶ。そして体幹、手足に下降状に広がる。
- 幼児期-学童期には、関節の内側を中心に発症し、耳介の下部が裂けるような症状(耳切れ)を呈する。
- 思春期以後は、広範囲にわたり乾いた慢性湿疹の症状を呈する。
- 眉毛の外側が薄くなる(ヘルトゲ兆候)。
- 発赤した皮膚をなぞると、しばらくしてなぞったあとが白くなる(白色皮膚描記)。
- 乾燥して表面が白い粉を吹いたようになり、強い痒みを伴う
- 赤い湿疹、結節などができ、激しい痒みを伴う。痒疹を伴うこともある。
- 湿潤した局面から組織液が浸出することがある。
- 慢性化すると、鳥肌だったようにザラザラしたものができ、皮膚が次第に厚くなる。
- しこりのあるイボ状の痒疹ができることがあり、この場合難治性である。イボになることもある。
- 思春期以降は、手指に症状が表れ易くなり、爪元から第二関節あたりが特に酷く荒れやすい
- 児童期が湿潤型、思春期以降は乾燥型の皮膚炎を起こすのがアトピーの特徴である
- 湿潤型は主に首周りや肘膝関節裏、乾燥型は頭皮、額、肩、内腿、内椀に発症し易いのが特徴である。また乾燥型に切り替わるとき、湿潤型の症状は軽快する傾向がある。
- 思春期以降は、頭皮に大量のフケが出るケースが多い
[編集] 検査
- 血液検査
-
- 好酸球・IgEなどの上昇がみられる。IgEは総IgEと特異的IgEがあり、特異的IgEではダニなどのアレルギーが悪化要因となっていないかが調べられる。
- TARC (Thymus and Activation-Regulated Chemokine)は、血清で測定するケモカインの一種である。病勢に比例して上昇する(健康保険適応あり)。
- VAS (visual analog scale)
- 主観的な掻痒の程度の指標。100%が最も痒みが強い時、0%がまったく痒みがない時として、何%かをみる。主観に頼るため一般的な指標になりにくいが、痒みの改善度をみるのには非常に有用である。また、掻痒だけでなく、掻痒によって生じる睡眠障害の程度もこの指標が利用される。
- SCORAD (SCORing Atopic Dermatitis)
- 発疹の範囲(熱傷 9の法則に準じる)、紅斑・苔癬化などの発疹の多様性、VAS(掻痒・睡眠障害)を数値化し点数にし、重症度を評価する。合計108点満点。アメリカ等で普及している。
[編集] 主な合併症
[編集] 皮膚疾患
- アトピー性皮膚炎体質の人は一般に皮膚が弱く、子供の頃におむつかぶれを起こしやすかったり、各種の化粧品、塗り薬、洗剤などによる接触性皮膚炎を起こしやすいことが知られている。
- アレルギー反応が強い箇所を中心に、結節を伴う痒疹(結節性痒疹)を生じることがある。慢性化、難治化することもある。
- 円形脱毛症の合併も知られている。
[編集] 感染症
- 細菌に関しては、重度の湿疹病変から進入した黄色ブドウ球菌などによる伝染性膿痂疹(とびひ)をとくに幼児において多く合併することで知られている[7]。
- 伝染性軟属腫(水いぼ)などのウイルスによる皮膚疾患に感染しやすく、アトピー性皮膚炎患者が単純ヘルペスを罹患すると重症化することが知られている(カポジ水痘様発疹症)。
[編集] 眼科疾患
最近では白内障や網膜剥離を合併するケースが増えてきている[7]。 網膜剥離に関しては、特に顔面の症状が酷い際の掻破、顔をたたいてかゆみを紛らわせる行動などの物理的な刺激の連続により発生すると考えられている。白内障については原因は
- 網膜剥離と同様、顔や瞼の痒みから強く擦ったり叩いたりするからではないか
- 水晶体は発生学的に皮膚細胞と同じ分類に入るため、アトピー性皮膚炎と同様な病変が起こるのではないか
といった説がある。いずれにせよ、加齢に伴って発症する通常の老人性白内障とは異なる原因で発生すると考えられており、また水晶体が皮質からではなく核から濁ってゆく事が多いという症状のパターンの違いから、「アトピー性白内障」と呼ばれることもある。ステロイド内服の副作用として白内障があげられることから、原因としてステロイド外用剤の副作用が疑われたが、外用剤との因果関係は統計がないため不明である(内服薬の副作用として発生する際は、白内障ではなく緑内障の発生率のほうが高い)。外用剤のみで治療されているアトピー性皮膚炎患者では緑内障の方が少ないということから、ステロイド外用剤は直接白内障とは関連がないとの結論に至っている。
[編集] 医療機関の療法及び薬
- ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)[8]
- ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)外用剤は、免疫反応を抑制し、症状を改善する効果がある。外用剤にはランクがあり、「Weak(弱い)」「Medium(普通)」「Strong(やや強い)」「Very Strong(かなり強い)」「Strongest(最も強い)」に分けられ、症状の度合い・炎症の発生部位によって使い分ける。ステロイド外用剤の副作用には、皮膚萎縮、皮膚感染症の誘発、毛細血管拡張などがある。またステロイド外用剤によるproactive療法(アトピー性皮膚炎が寛解している際でも週に1~2回ステロイドを外用することにより症状の増悪を予防する)は再発を予防する目的で各国で行われている使用法である。TARC試験と合わせたアトピー性皮膚炎の皮膚症状のコントロールの方法として注目されている。また、外用剤は、内服薬に比べ副作用が少ないとされている。
- タクロリムス外用薬(プロトピック軟膏)[8]
- タクロリムスという免疫抑制薬を外用剤として製剤化したものである。濃度は成人用では0.1%、小児用は0.03%である。1993年から治験として使われ始め1999年6月に認可された。ステロイドの「strong」の強さをもつ一方、正常な皮膚には作用せず(分子量が大きいため)、炎症が強く壊れた皮膚にのみ浸透していく性質があり、顔や首などステロイドによる副作用が強く現れやすい顔面や頸部に使われやすい。特にアトピー性皮膚炎で生じる頚部のさざなみ様沈着には効果が高いとされている。使用開始初期にヒリヒリとした刺激感や火照りを感じる人もいるが、徐々に治まってくる事が多い。妊娠中・授乳中は使用禁止となっている。また、胎児や新生児・乳児への影響については報告されていないが、日本では小児用は2歳以上16歳未満、成人用は16歳以上の適応となっている。外用後の強い日光浴は避けるべきとされている。また皮膚癌やリンパ腫の発生リスクの問題に関しても、タクロリムス軟膏外用を行っても自然発生率を超えるものではないとの報告がみられるようになってきた。
- 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬[8]
- 痒みが強い場合、必要に応じて抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬を使用する。アトピー性皮膚炎の患者では、発疹→痒み→掻破行為→発疹にて悪循環になっていることが多い。そのため、その悪循環を断つという意味で痒みを抑える効果のある抗アレルギー薬は有効である。効果が現れるのには数週間ほど時間がかかるという特徴がある。 その他、IPD(アイピーディー)というTh2活性阻害薬が使用されることがある。アトピー性皮膚炎では、Th2細胞の亢進・サイトカインの中のIL-4・IL-5(アレルギー症状を誘発するもの)の産生の増加がみられることがあるため、効果があるとされている。その他、痒疹タイプの皮疹に対してトラニラストも使用される。
- 保湿外用薬 [8]
- 実際の処方では、ワセリン、プラスチベース®等の油性のものや、適度に水分を含んだクリーム状の保湿剤(ヒルドイド®ソフト軟膏等)がよく処方されるが、医療機関で処方されるものだけでなく、薬局・薬店で購入できるスキンケア製品でも効果が期待できる。ただし患者の敏感な皮膚は製品によっては接触性皮膚炎を起こすこともあり、使用感がよく、かぶれを起こさない製品を選択することが重要である。いろいろ試して、自分に合う保湿剤を探索するのが良い。今後さらにの具体的な使用法やセルフケアについてのエビデンスの蓄積が期待される。
- シクロスポリン内服療法[8]
- シクロスポリン内服療法は、アトピー性皮膚炎治療の強力な選択肢として、本邦でも2008年に承認された(先発品のネオーラルのみ)。シクロスポリン内服療法にあたっては、適応、投与量、使用期間について添付文書やガイドラインを遵守すべきであり、患者またはその家族に有効性及び危険性を予めよく説明し理解を得た上で投与する必要がある。TDM(薬物血中濃度測定)が必要。
- 漢方療法[8]
- アトピー性皮膚炎に対する漢方療法も行われる。治療薬は多数の種類がある。十分に質の高い効果が得られることもある。
- 合併症[8]
- アトピー性皮膚炎(AD)には様々な病原微生物感染症が合併しやすいことが知られている。ウイルス性疾患としては、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus; HSV)や伝染性軟属腫ウイルス(molluscum contagiosum virus; MCV)による皮膚感染症がよく知られている。いずれも、健常者においても認められる感染症であるが、比すると罹患率が高く、重症化すると広範囲に小水疱が波及する状態となり、カポジ水痘様発疹症、疱疹性湿疹と呼ばれる。伝染性軟属腫は、健康な小児では自然消退も認められるが、湿疹病変や乾燥した皮膚に合併しやすく、ADの患者では広範に拡大し難治化しやすいと言われている。
[編集] オーダメイド医療
「個人の遺伝子情報に応じた医療の実現プロジェクト」(オーダメイド医療実現化プロジェクト)の対象疾患となっており、一部の大学病院において匿名で血液を提供することで間接的に参加することができる。
[編集] その他
- 痒みが強く睡眠がとれない場合、必要に応じて睡眠薬を使用することがある。
- 掻破による傷がある場合、亜鉛華軟膏を使用することがある。
[編集] 差別問題
- ビートたけしが「北野ファンクラブ」(フジテレビ)でビートルズ『レット・イット・ビー』の替え歌で、サビ部分を「アトピー」と歌う等、アトピー患者をからかうような内容が問題になった。
- 「はねるのトびら」(フジテレビ)のコント「村田さなえ」においてアトピー患者を馬鹿にしたような表現があり問題になった。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ Ono SJ[Author] AND "Annu Rev Immunol"[Journal]2000;18:347-66.[1]
- ^ http://ndb.nal.usda.gov/
- ^ キャノーラ油、大豆油、オリーブ・オイル、ゴマ油、コーン油、ひまわり油
- ^ ω-6脂肪酸
- ^ http://www.kinjo-u.ac.jp/orc/document/topic4.pdf
- ^ http://ci.nii.ac.jp/naid/110004624905
- ^ a b c d 日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」PDF
- ^ a b c d e f g 厚生労働省研究班(よりよい治療のためのEBMとデータ集)[2]
[編集] 参考文献
- 神田奈緒子「抗真菌薬はアトピー性皮膚炎の患者T細胞のIL-4、IL-5を抑制する」、『日本医真菌学会』第45巻、2004年、 137-142頁。 PDF
[編集] 外部リンク
- 財団法人日本アレルギー協会 -JAANet 診療ガイドラインあり
- 社団法人日本皮膚科学会 診療ガイドラインあり
- アトピー性皮膚炎についていっしょに考えましょう。 厚生労働省科学研究に基づいた一般向け情報サイト。
- 日本アトピー治療学会アトピーについての治療法など
[編集] 診断ガイドライン
[編集] 治療ガイドライン