Whale Whores

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Whale Whores
サウスパーク』のエピソード
話数シーズン13
第11話
監督エリック・ストーフ
トレイ・パーカー
脚本トレイ・パーカー
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W.T.F.
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The F Words

Whale Whores』はアメリカのコメディ・セントラルのテレビアニメシリーズ『サウスパーク』の第192話(シーズン13第11話)である。アメリカでは2009年10月28日に放送された。

捕鯨問題と原爆投下を扱ったタイトルであり、両者をパロディ化しつつも、前者については捕鯨妨害活動をするシー・シェパードとそのリーダーであるポール・ワトソンを批判的に、後者については日本人の負った深い傷として真摯に描いている[1][2] 。また、『チンポコモン』と同じく、日本または日本人をテーマに扱い、鳩山由紀夫首相と並び、日本の代表者的な存在として「アキヒト」(天皇)が登場する。
日本における公開予定はなく、公式サイト「South Park Studios」における英語版の放送のみとなっている。

エピソード名は、ディスカバリーチャンネルにおける人気番組『ホエール・ウォーズ英語版』のパロディ。作中でシー・シェパードのメンバーが語るように、シー・シェパードを揶揄するタイトルとなっている。

あらすじ[編集]

主人公・スタンは誕生日にデンバー水族館に連れて行ってもらい、ドルフィン・エンカウンター(イルカとの触れ合い)を体験する。しかし、いざイルカとの触れ合いが始まるという時に、日本人が大挙して来襲、すべてのイルカを虐殺してしまう。日本人の行動は徐々にエスカレートし、「ファック・ユー・ホエール!」「イクラー!」などと叫びながら、アメリカ各地に出現してイルカ・鯨・などの海洋哺乳類を虐殺、しまいにはアメリカンフットボールチームのマイアミ・ドルフィンズのメンバーまで虐殺する。ニュースではこの問題について首相に対するインタビューも行われているが、首相はイルカと鯨に激しい憎しみを見せ、「ファック・ユー・ホエール!ファック・ユー・ドルフィン!」と叫んで中指を立てる。

その夜、「日本人のせいでひどい誕生日になってしまったな」とスタンを慰める父親に、スタンは「なぜ日本人はイルカや鯨を殺すの?」と質問する。スタンの父親は「我々まともな人と違って、日本人はイルカや鯨が好きじゃないんだ」と答え、スタンがイルカの死体と撮影した記念写真を手渡す。スタンは日本人を止めるため行動を起こすことを決意、カイルやカートマンを誘うが、カイルには「日本人は昔から鯨を食べている、異文化の人々がやることに口出しするべきじゃない」とたしなめられ、カートマンに至っては「おいらもケニーも間抜けな馬鹿クジラなんて糞どうでもいい!」[3]とスタンを突き放した。

気落ちするスタンだったが、バターズからシー・シェパードの存在を知らされ、参加を決意。この時点で、シー・シェパードを扱ったテレビ番組「Whale Wars」が放送されており、スタンもシー・シェパードの一員として番組の収録に立ち会うことになる。しかし、いざ日本の捕鯨船に対したシー・シェパードの面々は、自分で自分を殴って「身を挺して鯨を守っている」と自己満足したり、捕鯨船に対して「臭い瓶」(stinky bottles)を投げ、「奴らを臭くしてやった」と無邪気に喜んでいるだけ。スタンが撃沈を提案しても、リーダーのポール・ワトソンは「それは違法だ」と言って却下してしまう。直後、捕鯨船の反撃に遭い、ポールは無意味に死亡する。

「我々は抗議団体ではない、海賊だ」と自称しながら積極的攻撃を行わないシー・シェパードにしびれを切らしたスタンは、独断で小型の信号拳銃を探し出し、捕鯨船の燃料タンクを狙撃して爆沈させてしまう。スタンは船長に就任、テレビ番組も大人気を博すようになる。スタン率いるシー・シェパードが過激な活動をすればするほどマスコミは盛り上がり、スタンは一躍英雄となる。しかし、マスコミにとって、シー・シェパードはあくまで「リアリティーショーの人気者」に過ぎなかった。ラリー・キング・ライブに出演すると、「あなたがリアリティー番組に出演するためのモチベーションは何ですか?」など無意味な質問をされる上、メンバーもテレビに出演できたことに無邪気に喜ぶだけ。怒ったスタンは途中降板して任務に戻ってしまうが、番組は『The Real Whale Wars』(真の鯨戦争)とタイトルを過激に改めてますますヒートアップする。

任務のさなか、カートマンとケニーが現れ、鯨を守りたいと申し出る。テレビ目当てであることを見抜いたスタンは拒否するが、二人は強引に抗議船に乗船してしまう。そのまま抗議活動に向かうスタンたちだったが、シー・シェパードの人気に嫉妬し、自分たちの番組の人気がなくなったと怒る『ベーリング海の一攫千金』のカニ漁船と番組スタッフが、スタンと彼が率いるシー・シェパードの抗議船に対する妨害活動に出る。スタンとシー・シェパードは対策が練れずに困り果てていたが、そこに数頭の鯨が現れ、船の周囲をアピールするように泳いだ後、カニ漁船を連れ去ってしまう。「鯨たちは誰が自分の味方か知っているんだ!」とスタンたちは喜んだが、その直後日本の零戦の編隊が現れ、「ボンサーイ!」[4] の絶叫と共に神風特攻で周囲の鯨を殺してしまう。スタンたちは驚き慌てるがなす術なく、抗議船も特別攻撃により撃沈され、シー・シェパードのメンバーは全員死亡する。スタン、カートマン、ケニーの三名は辛うじて生き残ったものの捕まってしまい、日本の監獄に収容される。

日本の監獄で、スタンは「アキヒトさま」と言われる人物に会う。スタンは彼に捕鯨をやめるよう訴えるが、アキヒトは「君にそのようなことを言う権利はない。我々が真実を教えよう」と語り、広島の原爆記念館に三人を連れて行く。アキヒトは、原爆の被害や後遺症の悲惨さを一通り説明した後、日本人はこの事件を許すことはできないと語る。さらに、アキヒトはこの原爆を投下したのがイルカと鯨だったとし、証拠としてエノラ・ゲイ操縦席に座るイルカと鯨の写真を見せる。「イルカや鯨に対する激しい憎悪が虐殺に繋がっており、彼らを絶滅させるまで日本人は戦うのだ」と説明するアキヒト。あまりのことにショックを隠せないスタンが、その写真をどこで手に入れたのかと聞くと、アキヒトは「爆撃の翌日にアメリカ政府がくれたのだ。だから日本はその翌日アメリカ政府と仲直りし、戦争を終えたのだ」と答えた。思わず真実を語ろうとするスタンだが、カートマンが制止し「こいつらは原爆を落とした奴らを絶滅させるつもりなんだぞ!」と耳打ち。自らがアメリカ人であり、日本政府に逮捕されている身として、スタンは一瞬ためらいつつも一計を案じ、アメリカに残るカイルに電話をする。カイルは素早く合成写真を作り、日本へ送る。

改めて鳩山由紀夫やアキヒトと会見したスタンたち三人は、「真実の証拠写真」として、カイルが合成した写真を手渡す。そこには、エノラ・ゲイを操縦する鶏と牛の姿が写っていた。これを見た鳩山やアキヒトらは激怒、「イルカや鯨はスケープゴートだったんだ!」と叫ぶ。やがて、イルカや鯨に代わり、全米各地で日本人が鶏と牛を虐殺するようになる。その様子をきょとんと見守るスタンに、父が一言。

「よかったな、息子よ。これで日本人もまともになった。俺たちと同じだな」

解説[編集]

  • シー・シェパードによる過激な捕鯨妨害のみを皮肉っているのではない。作中において、捕鯨船はシー・シェパードに妨害され、そのシー・シェパードはカニ漁船に妨害されるが、これらの妨害合戦を「視聴率稼ぎ」のみを目的とした側面から描くことで、アメリカのマスメディアと一般大衆に対して辛辣な皮肉を与えている。すなわち、シー・シェパードによる過剰なまでのマスメディア露出、そしてそのマスメディア露出を目的とした暴力的な妨害のエスカレート、さらにマスメディアがそれを煽り、視聴者がますます過激なものを求めるという、昨今のアメリカにおけるリアリティショーの隆盛とその手法に対する皮肉である。
  • シー・シェパードのリーダーであるポール・ワトソンは特に批判の対象となっており、作中では赤ら顔に出っ腹のだらしない男として描かれ、効果のない嫌がらせ攻撃やヤラセ演出に終始するだけで何一つ成果をあげずに呆気なく殺されてしまう。また、スタンに船長が代わった際の雑誌巻頭に「新しいリーダーは、前みたいな嘘つきのデブではない!」と書かれたり、スタンが出演したテレビ番組において解説者が「ポールが嘘つきの自己満足野郎だなんてことは誰でも知ってますよ!」と言ったりしている。
  • タイトルの「Whores」は「Wars」のもじり。「whore」という言葉は一般に売春婦を意味するが、蔑称として「尻軽女」程度の意味でも使われる。
  • 作中で日本人の群衆が叫ぶ「イクラー!」は、日本人観光客が頻繁につかう「いくら?」という言葉である。[要出典]
  • シー・シェパードが捕鯨船を攻撃する際、「臭い瓶」(stinky bottles)を投げて「奴らを臭くしてやった!」と言っているが、「stinky」には「臭い」以外に「ダサい」という意味がある[要出典]。これは実際にシー・シェパードが日本の調査捕鯨船に酪酸入りの瓶を投げていることからきている。
  • エピソード中盤でスタンが出演する『ラリー・キング・ライブ』は、実在する同名の番組のパロディであり、ラリー・キング自身もそっくりに描かれている。また、シー・シェパードやポール・ワトソンは実際にこの番組に出演しており、作中で描かれているのと似たはしゃぎっぷりを披露している。
  • 実際の動画を用いた、約1分におよぶ原爆被害の解説がある。これはアメリカにおける全国規模のテレビ番組では画期的な出来事である[要出典]
  • アキヒトが原爆について説明する際、例によって悪童カートマンはアクビをしたりニヤニヤ笑ったりしているが、そのたびにスタンが真剣な表情で彼を止めている。また、カートマン自身もアキヒトに睨み付けられるに及んで彼に謝っている。サウスパークの全エピソードを通しても、真意はともかくカートマンが謝るというのはきわめて稀であり、ファンから見れば衝撃的ですらある。ここに原爆に対する作者の真摯な態度、解決していない問題については笑いに変えることを慎む謙虚な姿勢が現れている。
    • 作者はこの他にも、エイズをエピソードに織り込む際も笑いは一切取らず、エイズがいわゆる「不治の病」でなくなった時点で「AIDS is finally funny」(エイズがついに笑いになった)として「解禁」するなど(シーズン6第1話『ジャレットは「エイズ」持ち』、原題:Jared Has Aides)、過激なプロットで知られながらも、笑いとする対象については慎重な態度を取っている。
  • アキヒトは当時の天皇と同じ名前で、顔もそっくりに描かれているが、『チンポコモン』の天皇とは異なり、彼が天皇であることを示す描写やセリフはない。一方で鳩山由紀夫は「首相」と呼ばれているが、アキヒトや鳩山の性格や言動などはポール・ワトソンなど他の登場人物に比較すると、実在の人物に依っているとは言い難いキャラクターになっている。もっとも、鳩山に関しては首相に就任したばかりの時期であったために資料が不足していたであろうことは推察できる。
  • 最終的には日本人が鶏や牛を虐殺するようになるが、作者は、スタンの父に「これで日本人もまともになった」と言わせることで、鶏や牛を大量に屠殺しながら鯨やイルカの屠殺はヒステリックに攻撃するアメリカの風潮を揶揄している。これは逆説的に言えば、動物を殺すことを「残酷」や「普通」といった概念で片付けられるのかという問題提起でもある。

脚注[編集]

  1. ^ Murphy, Dan (2009年10月29日). “South Park puts spotlight on Paul Watson and his "Whale Wars"”. The Christian Science Monitor. http://www.csmonitor.com/World/Global-News/2009/1029/south-park-puts-spotlight-on-paul-watson-and-his-whale-wars 2010年1月11日閲覧。 
  2. ^ d'Estries, Michael (2009年10月29日). “South Park "Whale Whores" Manages To Hilariously Offend Everyone Equally”. ecorazzi. http://www.ecorazzi.com/2009/10/29/south-park-whale-whores-manages-to-hilariously-offend-everyone-equally/ 2010年1月11日閲覧。 
  3. ^ "Stan, me and Kenny don't give two shits about stupid-ass whales!" "ass whales" は "ass hole" の韻を踏んだ言葉遊び。
  4. ^ これは英語圏で「バンザイ」と「ボンサイ」が混同されやすいことを元にしたジョークである。
    • 公式ビデオクリップの英語字幕では「BONSAI!」と表記されており、作中の特攻隊員は「ボンサーイ」と発音している。ただしタイトルは『BONZAI!!!』。
    BONZAI!!! - South Park (Video Clip) | South Park Studios Global”. 2023年8月7日閲覧。
    • マシ・オカ#『HEROES』関連「脚本家が万歳のつもりで台本にBonsaiと書いてあった」。
    • Wikipedia 英語版の「Bonsai」には「Not to be confused with Banzai (バンザイと混同しないで下さい)」との注意書きが表示される。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]