東海地震
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
東海地震(とうかいじしん)とは駿河湾内に位置する駿河トラフで周期的に発生する海溝型地震。マグニチュード8級と想定される。
関東地震(南関東~静岡県)、東南海地震(中京~南紀)、南海地震(南紀~四国)としばしば連動する(同時期または2~3年後に発生する)。本来、地震名は発生後に命名される物であるが、周期性が確認できる事から、発生前から「東海地震」の名で呼ばれている。
目次 |
[編集] 概説
太平洋ベルト地帯の一角、殊に東海道ベルト地帯の中央で起きる大地震ということで、その被害は甚大な規模になると予想される事から、政府は対策を決定する。
1978年に「大規模地震対策特別措置法」を制定し、その中で静岡県下を中心とした「地震防災対策強化地域」を設定し、体積歪計やGPSなどの観測機器を集中して設置することで世界でも例を見ない警戒宣言を軸とした「短期直前予知を前提とした地震対策」をとることになる。
その後20年を経過して、観測データの蓄積や技術の向上によって想定を見直すこととなり、2002年には愛知県や長野県下まで「地震防災対策強化地域」が拡大された。
約100~150年の周期で発生することは明らかになっており、将来的には必ず発生する地震であるため、被害を最小限にするために、行政機関は阪神・淡路大震災の反省を踏まえた対策を実施している。幕末に起こった東海地震や関東地震から150周年を迎える事や、近年の自然災害の多発などから、しばしば「○月○日に東海地震が発生する」という風聞やデマが流れる。最近では2004年12月12日発生するという物や、2008年9月13日愛知県岡崎市で発生するという物があったが、これらの風聞は根拠が乏しく、注意が必要とされる。
日本付近では、東海地震のほかにも東南海、南海、北海道太平洋側、東北太平洋側など、各所で海溝型の地震が発生するが、東海地震のみに上記のような特別な監視体制と地震対策が設定されている。これは、1854年に発生した安政東海地震の震源域のうち、東南海の部分では90年後の1944年に東南海地震が発生し、プレートの歪みが解消されたが、東海地震の震源域では地震が発生しておらず、歪みの蓄積したプレートが割れ残ったままになっているという学説が提唱されたことによる。学説が提唱された1976年には東南海地震から32年が経過し、この歪みが限界近くに達していると推定されたことから、数年以内に地震が発生してもおかしくないと考えられ、特別の体制が組まれることとなった。
しかし、提唱から30年以上を経過しても東海地震が発生しなかったことで、この説を唱えた石橋克彦(当時神戸大学理学部惑星科学科教授)は、2006年に静岡新聞の取材に対して、当時の説は誤っていたという見解を明らかにした(3月27日朝刊)。但し、これは東海地震の発生の細かいメカニズムと発生時期の予測、特に“1940年代に東海地震だけ発生しなかったので、東海地震はいつ発生してもおかしくないはず”という理論についての見直しであって、東海地震そのものを否定する考えではない[1]。
上記のように観測網の整備が進んでいる為、事前の予知が可能なほぼ唯一の地震とされていたが、ほかの地域でも観測網の整備が進んだことで、プレスリップをはじめさまざまな地震前駆現象を捉えることが可能となり、研究者の間では「東海地震だけが事前予知可能」という見方はほとんどされなくなった。
地震の基本的メカニズムが十分に解明されていない現状では、予知が可能なのはプレスリップが生じた場合に限られるというのが大多数の研究者の認める所である。プレスリップが生じない場合、またはそれが微弱で、検出できずに予知に失敗する可能性、現象の進展が余りに急激で警戒宣言が間に合わない可能性もある。
予知できることを前提にするのではなく、予知無しで地震が発生する事も想定して、対策を練るべきであるといった意見は、近年強まりつつある。特に政府や行政に対して、「地震予知に莫大な予算を使うよりも、耐震化などの防災分野に予算を使うべき」といった厳しい意見もある。
[編集] 歴史
歴史上の「東海地震」の名称には現在の東南海地震の震源域が含まれる事に注意する必要がある。
現在では、法律上もマスコミ報道上も、「東海」地震が独立した地震で、「東南海・南海」地震がセットの地震のように扱われている。しかし地震学的には、駿河湾で発生する「東海」、愛知県沖から三重県沖で発生する「東南海」、潮岬沖から四国沖で発生する「南海」という3区分[2]を行ったうえで、3つの地震が単独で起こる場合もあるが、東海・東南海が同時に起こったり、3つが同時に起こったりすることもあるとしている。また、これとはまったく異なるパターンで地震が発生する可能性も、少なからずあるとされる。
- 684年(天武13年)地質調査によると仁和南海地震と同時期に発生したと考えられる[3]。
- 887年(仁和3年)仁和南海・東海地震
- 京都で民家、官舎の倒壊による圧死者多数。特に摂津での被害が大きかった。[4]
- 1096年(永長元年)永長地震
- 皇居の大極殿に被害があり、東大寺の巨鐘が落下、近江の勢田橋が落ちた。津波により駿河で民家、社寺400余が流失。
- 1498年(明応7年) 明応地震 M8.4
- 記録上最古の東海地震(含東南海)。紀伊から房総にかけてと甲斐に大きな揺れがあった。津波の被害が大きく、伊勢大湊で家屋1,000戸、溺死者5,000人。伊勢志摩で溺死者10,000人、静岡県志太郡で溺死者26,000人などの被害。
- 1605年(慶長10年)慶長地震 M7.9
- 犬吠崎から九州までの太平洋沿岸に津波が来襲し、八丈島で死者57人、紀伊西岸広村で700戸流失、阿波宍喰で死者1,500人、土佐甲ノ浦で死者350人、、室戸岬付近で400人以上が死んだ。
- 1707年(宝永4年)宝永地震 M8.4
- 1854年(安政元年) 安政東海地震(安政大地震) M8.4
- 1944年(昭和19年)12月7日 東南海地震 M7.9
[編集] 東海地震の直前予知体制と措置
[編集] 地震防災対策強化地域
地震防災対策強化地域とは大規模地震対策特別措置法による警戒が必要な地域で、次の条件のどちらかを満たしている市町村を指す。
- 地震の揺れによる被害については震度6弱以上の地域。
- 津波による被害については20分以内に高い津波(沿岸で3m以上、地上で2m以上)が来襲する地域。
強化地域の市町村は警戒宣言が公布されると原則として次のような処置を行う。
- 電気・ガス・水道
- 引き続き供給するが、なるべく使用しないよう呼びかける。
- その他のライフライン
- 引き続き供給する。
- NTTなどの電話
- 場合によっては通話規制を行う可能性がある(公衆電話(青・黒・黄のみ)・防災用電話は優先して確保される)。
- 鉄道
- 強化地域内では最寄の安全な駅に停車。運行を停止し(津波や土砂崩れにより危険な駅は通過する)、強化地域外からの進入は禁止する。
- 主な鉄道事業者の強化区域に関わる区間(列車の運行が停止される区間)は次のとおり。
- ※ JR東日本・・・東海道本線(藤沢~熱海間)、相模線(全線)、伊東線(全線)[5]
- ※ JR東海・・・東海道新幹線(東京~岐阜羽島間)、東海道本線(熱海~大垣間)、中央本線(南木曽~瑞浪間および春日井~金山(~名古屋)間)、御殿場線(全線)、身延線(全線)、飯田線(全線)、武豊線(全線)、関西本線(名古屋~四日市間)、紀勢本線(三瀬谷~新宮間)、参宮線(全線) [6]
- ※ 小田急電鉄・・・小田原線(相武台前~小田原間)、江ノ島線(藤沢~片瀬江ノ島間) [5]
- ※ 相模鉄道・・・本線(大和~海老名間) [5]
- ※ 箱根登山鉄道・・・全線 [5]
- ※ 伊豆箱根鉄道・・・大雄山線(全線) [5]
- ※ 名古屋鉄道・・・名古屋本線(豊橋~名鉄名古屋~名鉄岐阜間)、豊川線(全線)、西尾線(全線)、蒲郡線(全線)、三河線(全線)、豊田線(全線)、常滑線(全線)、空港線(全線)、築港線(全線)、河和線(全線)、知多新線(全線)、犬山線((名鉄名古屋~)栄生~岩倉間)、小牧線(上飯田~小牧間)、津島線(全線)、尾西線(森上~弥富間)、瀬戸線(栄町~尾張旭間) [7]
- ※ 近畿日本鉄道・・・名古屋線(近鉄名古屋~川越富洲原間)、山田線(明星~宇治山田間)、鳥羽線(全線)、志摩線(全線) [8]
- ※ 遠州鉄道・・・全線 [9]
- バス・タクシー
- 運行を停止する。なお、警戒宣言の前段階の「東海地震注意情報」の発表で運行を取りやめるバス事業者も少数ながらある(例:岐阜県各務原市の各務原市ふれあいバス(発表翌日から[10]))。
- 道路
- 強化地域内への進入を制限し、避難路及び緊急輸送路では交通規制、または制限減速運転を行う(一般道路20km、高速道路40km)。
- 銀行・郵便局・劇場など
- 一部のATMを除き、営業を停止する。
- デパート・スーパー
- 買い物客を外に誘導し、営業を中止する。耐震性の確保された店は極力営業を続ける。
- 病院
- 外来診療を中止する。
- 学校
- 授業を打ち切り閉鎖する。児童・生徒は帰宅させるかまたは保護者に引き渡す。なお、東海地震注意情報が発表された時点で授業を打ち切るとしている学校も多い。
- 中京競馬場
- 開催中止。勝馬投票券の発売・払戻業務も打ち切り。
- WINS名古屋(中央競馬場外発売場/愛知県)・WINS石和(山梨県)
- 中京競馬場同様、勝馬投票券の発売・払戻業務を打ち切り。
強化地域内の市町村については次の資料を参照のこと。
- 平成20年版消防白書 付属資料21 東海地震に係る地震防災強化対策地域
[編集] 想定される東海地震とその防災体制
[編集] 想定震源域
1979年に中央防災会議が示した想定震源域は、静岡県富士市付近から、西に約50km、そこから南南西に約100km、東に約50km、北北東に約100kmとたどって作られる平行四辺形を範囲とする地域であった。
地震学者の間では、山梨県南部町~大井川中流~掛川市~浜松市海岸部~浜名湖南方近海~浜名湖南方沖約80km、そこから大きく南東に弧を描きながら再び南部町付近までたどって作られる形を範囲としている。
2001年に中央防災会議は想定震源域を見直し、地震学者の間で言われている震源域にほぼ重なる長方形の地域を震源域とした。
いずれも、駿河トラフから北に行くにしたがって深くなる、プレートの境界面が震源域であり、一部では陸地の直下に震源域がある。
[編集] 想定
2003年に東海地震対策専門調査会が報告した被害想定によれば、冬の午前5時にM8・最大震度7の東海地震が発生した場合、死者は最大1万人、冬の午後6時に発生した場合火災による被害は25万棟に及ぶと推定されている。
M8規模となると考えられているため、静岡県・愛知県・岐阜県・三重県などで最大震度6強以上となることが予想され、揺れによる被害は比較的広範囲に及ぶと考えられている。また、揺れによる建物の倒壊などはもちろんのこと、埋立地の液状化現象、堤防の損傷や液状化による低地への影響、東海道新幹線や東名高速道路などの基幹交通網への影響などが、起こる可能性のある被害と考えられている。 そのためJR東海では東海道新幹線のバイパス線となるリニア中央新幹線の2025年開業実現に向けて調査・調整を行っている。
一方、地震による長周期地震動が、関東や関西といったやや離れた地域の高層建築物内において大きな被害をもたらす可能性が指摘されている。
[編集] 緊急消防援助隊・広域緊急援助隊
全国の消防本部や警察本部などでは東海地震のような大災害に備えて数千人規模の緊急消防援助隊や広域緊急援助隊を結成している。
2005年6月10日・11日に静岡県において2000人規模で緊急消防援助隊が大規模救助訓練を行い、その訓練の中で遠方から援助に来る際の給油にかなり手間取ったことが問題視され、消防車の燃料タンクの容量を3~4倍に増やすか、飛行機の空中給油のように高速道路を走行中でも給油可能なシステムを立ち上げるか議論されている。
[編集] 超東海地震
上記のような想定東海地震の3倍の地殻変動を伴う「超東海地震」が、1000年周期で発生する可能性が指摘されている[11]。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
[編集] 脚注
- ^ 石橋克彦私の考え2006年3月27日付静岡新聞1面記事 <東海地震説に「間違い」> は「誤報」
- ^ 地質調査や文献など基づくこの地域の各地震の影響範囲が3つに分けられることに加え、フィリピン海プレートがこの地域で3つにひび割れていると考えられていることなどが、3区分の根拠となっている。
- ^ 遺跡で検出された地震痕跡による古地震研究の成果活断層・古地震研究報告,No.1,p.287-300,2001
- ^ 東海道、南海道の地震防災システム研究所
- ^ a b c d e 東海地震の情報と対策 神奈川県
- ^ 東海地震に関する警戒宣言が発令された場合の列車の運転について 東海旅客鉄道
- ^ 列車運行に支障がある場合の取扱い 名古屋鉄道
- ^ 東海地震に関するお知らせ 近畿日本鉄道
- ^ 東海地震への対応 遠鉄グループ
- ^ 東海地震・東南海地震対策 各務原市役所
- ^ 「地殻変動3倍の『超』東海地震、千年周期で発生か」『asahi.com:地殻変動3倍の「超」東海地震、千年周期で発生か - 社会』朝日新聞社、2007年9月4日。