イーダース
イーダース(古希: Ἴδας, Īdās)は、ギリシア神話の人物または精霊。長母音を省略してイダスとも表記される。アイギュプトスの息子、アパレウス(またはポセイドーン)の息子、山の精霊ダクテュロスの1人に同名のものがいる。
アイギュプトスの息子
[編集]アイギュプトスの50人の息子の一人。彼ら兄弟はダナオスの娘たちと結婚し、イーダースはヒッポディケーを妻としたが、他の夫たちと同様、眠っている間に妻に殺された。
アパレウスの息子
[編集]メッセーネー王アパレウスとアレーネーの息子。イーダースだけあるいは兄弟のリュンケウスともどもポセイドーンの子だとする説もある。リュンケウスと並び称され、二人は「アパレウスの子たち」という意味で、アパレーティダイとも呼ばれる。スパルタのディオスクーロイ、すなわちカストールとポリュデウケースの兄弟と敵対した。
イーダースはエウエーノスの娘マルペーッサを妻として、娘のクレオパトラーを得た。クレオパトラーはメレアグロスの妻となった。
ディオスクーロイとの反目
[編集]アパレウスの兄弟レウキッポスの娘にヒーラエイラとポイベーがあり、二人はイーダースとリュンケウスの妻とする約束が交わされていた。しかし、カストールとポリュデウケースが姉妹をさらって妻としたため、イーダースとリュンケウスはディオスクーロイを恨み、二組の兄弟は反目するようになった。
マルペーッサの略奪
[編集]エウエーノスは足の速い馬を持ち、娘のマルペーッサに求婚者が現れると、戦車競走を挑んで破り、相手の首を取っていた。このマルペーッサにアポローンが求愛しようとしたところ、いち早くイーダースがポセイドーンに頼んで翼を持つ馬が牽く戦車を借り、マルペーッサをさらった。エウエーノスは自慢の戦車で後を追ったが、リュコルマース河まできても追いつけず、これを恥じて飼い馬をすべて殺して河に身を投げた。このことから河はエウエーノスと呼ばれるようになった。
エウエーノスから逃れたイーダースがメッセーネーまで来たとき、アポローンがマルペーッサを奪い取ろうとしてイーダースと争った。この闘いはゼウスが仲裁に入り、マルペーッサに二人のいずれかを選択させることにした。マルペーッサは、アポローンは不死の神であり、自分が年老いたときには捨てられてしまうだろうと考え、人間であるイーダースを選んだ。
対決
[編集]イーダースとリュンケウスは、ディオスクーロイとともにイアーソーン率いるアルゴナウタイの航海に加わった。航海中、マリアンデューノイ人の国でイドモーンが猪に突かれて死んだ事件では、イーダースがこの猪を槍で殺した。帰還するとカリュドーンの猪狩りにも参加した。
ディオスクーロイとはその後も一時的に協力し合い、4人でアルカディアで牛を略奪した。イーダースは牛の群れの分配を委ねられた。イーダースは牛を1頭殺し4等分に分け、早食い競争で最初に1人分を食べ尽くした者が群れの半分を受け取り、2番目の者が残りの半分を取ると定めた。このことを宣言するや、イーダースは自分の分をあっという間に食べ尽くし、つづいてリュンケウスの分まで平らげてしまった。ディオスクーロイはこの取り決めに抗議したともいうが、イーダースとリュンケウスは構わず、略奪したすべての牛の群れを追いながらメッセーネーに引き上げた。
これに怒ったディオスクーロイは、スパルタの兵を率いてメッセーネーに迫った。このときイーダースとリュンケウスは、ターユゲトス山にポセイドーンへの生け贄を捧げるために不在だった。カストールとポリュデウケースは、木の裏に隠れて二人を待ち伏せした。その場所はアパレウスの墓の近くだった。しかし、リュンケウスの鋭い目がたちまち隠れた兄弟を見い出し、イーダースの投げた槍でカストールは串刺しにされた。ポリュデウケースが槍でリュンケウスを倒したが、イーダースはアパレウスの墓石を引き抜いて投げつけ、ポリュデウケースの頭に命中したので彼は昏倒した。そこで、ゼウスが雷霆を撃ってイーダースを殺した。一説には、カストールがリュンケウスを倒し、イーダースがカストールを倒し、ポリュデウケースがイーダースを倒したともいうが、いずれにせよ、生き残ったのはポリュデウケース一人であった。
系図
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