ワグナー・グループ
ワグナー・グループ[1](ロシア語: Группа Вагнера、英語: Wagner Group)は、ロシアの民間軍事会社(PMC)。
複数の紛争にて、ロシア連邦政府の対外政策に沿う形で傭兵として派遣され[1]、親ロシア系武装勢力や外国軍と共に戦うことが多い準軍事組織だとされている。2014年クリミア危機やシリア内戦、リビア内戦[1]での活動で知られている。
ただし、ロシア連邦大統領報道官ドミトリー・ペスコフは記者団に対して、「ロシアには民間警備会社はあるが、民間軍事会社はない」と説明している[2]。
概要[編集]
ロシア系PMCの先駆けで、香港に拠点を置いていたスラヴ軍団に所属[3]していたドミトリー・ウトキン(GRU麾下の元スペツナズ中佐)により創設された[4]。組織名はアドルフ・ヒトラーが好んだ作曲家ワグナーを意味し、これをウトキンがコールサインとして使っていたことが由来である[5]。5000人以上いる社員のうち2000人ほどが戦闘要員であり、ロシア連邦軍および警察の出身者以外にもチェチェンやイングーシなどの親露派元民兵なども所属している。
経営者はウラジーミル・プーチン大統領と懇意なオリガルヒのエブゲニー・プリゴジンという説が一般的であり、主にロシア連邦軍が公式には介入していない状況において、特殊部隊や民兵、サイバー戦争、プロパガンダ工作などを組み合わせて展開されるハイブリッド戦争に従事しているとみなされている[6]。2013年にはウクライナ内戦でロシア軍がウクライナ領内で活動していない状況を作るため投入され、シリア内戦において、ロシア連邦軍が直接介入する前に要員を派遣していた。また、これらの海外での活動において、ワグナー社はGRUより支援・調整を受けているといわれている[4]。
2021年12月13日、欧州連合(EU)はワグナーなど3社と創業メンバーである元GRU将校らへの経済制裁を発動した[7]。プリゴジンの活動にはロシア企業だけでなく、香港の企業も支援しているとされ[8]、アメリカ合衆国財務省は香港の企業にも経済制裁を行っている[9][10]。
また、中央アフリカ共和国での内戦でワグナー社を取材しようとしたジャーナリストが死亡しており[11]、彼らが暗殺に関与した疑いがある。
2020年以降、ワグナー社が軍事クーデターとイスラム勢力の攻勢に揺れるマリ共和国で活動していることが判明。マリ政府とロシア政府は否定しているもののアメリカアフリカ軍(AFRICOM)の司令官は、インタビューにて「ワグナーはロシア軍の支援を受けている。ロシア空軍機が彼らを現地へ移送している」とロシア政府が関与していると示唆。また、フランスの外相は、ワグナーの傭兵がイスラム過激派との闘いを口実にマリ暫定政権を支援していると非難するとともに、「ロシア機で移送されてくる傭兵について、ロシア当局が知らないとしたら驚くべきことだ」と言及している[12]。
活動したとされる事案[編集]
- ウクライナ紛争(ドンバス戦争)における親露派への支援
- シリア内戦におけるバッシャール・アサド政権への支援
- スーダンにおけるオマル・アル=バシール政権への支援[13]
- 2014年リビア内戦におけるハリファ・ハフタル率いるリビア国民軍(LNA)への支援[14][1](傭兵に加え戦闘機を投入した可能性もある)[15]
- 中央アフリカ共和国の内戦における政府支援
- ベネズエラにおけるニコラス・マドゥロ政権への支援
- 2020年ベラルーシ大統領選挙への介入疑惑[2]
- 2022年ロシアのウクライナ侵攻でのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の暗殺未遂[16]。
脚注[編集]
- ^ a b c d 「リビア内戦 攻守逆転/トルコ介入 暫定政権優位に」『毎日新聞』朝刊2020年6月14日(国際面)2020年7月23日閲覧
- ^ a b 「ロシア国籍の33人 ベラルーシが拘束 民間の戦闘員と主張」『朝日新聞』朝刊2020年8月1日(国際面)2020年8月2日閲覧
- ^ Gostev, Aleksandr; Coalson, Robert (16 December 2016). "Russia's Paramilitary Mercenaries Emerge From The Shadows". Radio Free Europe/Radio Liberty.
- ^ a b “軍用神経剤による暗殺、ニセ情報工作、傭兵部隊工作~プーチンの悪事のデパート「ロシア情報機関」(後編)”. 黒井文太郎. (2018年3月15日)
- ^ プーチンが動かす傭兵集団「ワグネル」の汚い役割 - ニューズウィーク日本版、2022年3月閲覧
- ^ “【ロシア深層】「ハイブリッド戦争」で暗躍する民間軍事会社”. 産経ニュース. (2020年7月14日) 2020年8月2日閲覧。
- ^ 「ウクライナに戦闘員派遣 EU、ロシア企業制裁」『朝日新聞』朝刊2021年12月15日(国際面)同日閲覧
- ^ “Part 3. Not «Wagner Group» but Prigozhin’s army” (英語). Муниципальный сканер (2019年5月10日). 2019年6月26日閲覧。
- ^ “UPDATE 1-U.S. Treasury Department imposes sanctions on individuals, entities tied to Putin ally” (英語). ロイター (2020年7月16日). 2020年11月17日閲覧。
- ^ “The United States Imposes Sanctions on Russian Financier’s Global Sanctions Evasion Network” (英語). アメリカ合衆国国務省 (2020年7月15日). 2020年11月17日閲覧。
- ^ “【プーチン帝国の謀略】(4)「許されざる取材」の記者3人、ロシアに消されたか”. 黒井文太郎 (JBPress). (2018年8月6日) 2020年7月23日閲覧。
- ^ “マリにロシア人傭兵、米軍が確認”. AFP (2022年1月24日). 2022年1月24日閲覧。
- ^ “Fake news and public executions: Documents show a Russian company's plan for quelling protests in Sudan”. CNN. 2019年6月26日閲覧。
- ^ “The Libyan army has explained the invitation of the Russian PMCs - FreeNews English - FreeNews-en.tk”. freenews-en.tk. 2017年12月12日閲覧。
- ^ “「ロシアがリビアへ派遣した戦闘機の写真」、米アフリカ軍が公開”. AFP (2020年5月27日). 2020年5月26日閲覧。
- ^ “Ukraine's Zelensky nearly assassinated three times this week - report”. THE JERUSALEM POST. (2022年3月4日)