バフムートの戦い

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バフムートの戦い
2022年ロシアのウクライナ侵攻におけるドンバスの戦い
Russian bombing in Bakhmut, August 5.jpg
ロシア軍の爆撃を受けたバフムート(8月5日)
2022年8月1日 - 現在
(5ヶ月4週間)
場所ウクライナの旗 ウクライナ
ドネツィク州バフムート(バフムト)
現況 継続中
衝突した勢力
ウクライナの旗 ウクライナ
指揮官
不明 不明
部隊

ロシア陸軍


ワグネル・グループ

ウクライナ陸軍

ウクライナ空中機動軍

ウクライナ国家親衛隊

ウクライナ領土防衛隊
被害者数
不明 不明
民間人8人死亡、3人負傷

バフムートの戦い(バフムートのたたかい)は、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻のうち、ドネツィク州バフムート(バフムト[8])をめぐるロシア連邦軍ウクライナ軍による一連の軍事衝突である。ウクライナ東部におけるドンバスの戦いの一環。

序章[編集]

ウクライナ東部のドンバス地方では2014年以来、ウクライナと、ロシア連邦および親ロシア派の対立・衝突が続いていた(ドンバス戦争)。ロシアは2022年2月24日にウクライナ各地へ侵攻を開始し、一部を支配下に置いていたドネツィク州とルハーンシク州からも部隊を進撃させ(ウクライナ東部攻勢)、セベロドネツクと7月初旬のリシチャンシクでの戦闘後、ロシアと分離主義勢力はルハンスク州全域を占領し、戦場はスラヴャンスク、バフムート、ソレダルの各都市に移った。

ロシア連邦軍は5月17日からバフムートへの砲撃を開始し、2歳の子供を含む5人が死亡した[9][10]。5月22日にポパスナが陥落し、ウクライナ軍はバフムートの陣地を強化するために同市から撤退した[11]。その間、ロシア連邦軍はバフムート‐リシチャンシク高速道路を前進し、リシチャンシク‐セベロドネツク地域に残っているウクライナ軍が危険に晒された[12][13]。高速道路沿いのロシア連邦軍の検問所は後に破壊されたが、5月30日にコンスタンチノフカ英語版 - バフムート高速道路沿いで戦闘が再開し、ウクライナ軍は高速道路の防衛に成功した[14][15]

バフムートの砲撃は6月から7月にかけて続き、7月3日に始まったシヴェルシクの戦い後、エスカレートした[16]。7月25日、ウクライナ軍はヴフレヒルスカ発電所とその近くの町ノヴォルハンスケから撤退し、ロシア連邦軍と分離主義勢力にバフムートに対する「小さな戦術的アドバンテージ」を与えた[17]。2日後の7月27日、ロシアはバフムートを砲撃し、民間人3人が死亡、3人が負傷した[18][19]

戦闘[編集]

2022年11月戦闘中のウクライナの塹壕
2022年11月バフムートの塹壕にいるウクライナ人兵士
バフムート郊外の無人地帯

7月27日、バフムート近郊の火力発電所周辺で戦闘があり、ウクライナ軍が撤収した。イギリス国防省はロシア側の戦力を民間軍事会社ワグネル・グループであると分析した[20]

8月1日、ロシア軍はバフムートの南と南東の居住地に大規模な地上攻撃を開始した。ロシアのテレグラムチャンネルのVoennyi Osvedomelは、ロシア軍がバフムートから2km以内にいると主張して、野原で破壊された車両の映像を公開した。ロシア国防省は、バフムートでの戦いと攻撃が始まったと発表した[21][22]。翌日、ロシア連邦軍はバフムートの南東で一定の成功を収め、バフムートの北東と南東で攻撃作戦を続けた。ウクライナ軍参謀本部は、伝えられるところではロシア連邦軍航空機が空爆を強化し、都市への地上攻撃を開始したと報告した。激しい戦闘が市の南東郊外で起きた[23]。8月3日、ロシア連邦軍はコデマ、セミヒリヤ、Travneve、Vyimka、ベレストヴェ、Bakhmuts'ke、Opytneの居住地方面からバフムート方面への空爆とミサイル攻撃を続けた[24]。翌日の8月4日、ロシアのテレグラムチャンネルは、ロシアの砲兵隊に支援されたワグネルの傭兵が東側からバフムートのパトリス・ルムンバ通りへと突破し、バフムートとシヴェルシク間の道路上に築かれたウクライナ軍の道路封鎖が破壊されたことを発表した[25]

8月10日、ロシア軍は市の中心部を爆撃し、民間人7人が死亡、6人が負傷し、店舗、民家、高層ビルが被害を受けた[26]。翌日、ロシア軍はYakovlivka、Bakhmutska、Zaytsevo、Vershina、ダチャの地域で攻撃を行いつつ前進し、ウクライナ軍の守備の突破を試みた。

10月8日、ウクライナの大統領ウォロディミル・ゼレンスキーは、現在も制圧を試みるロシア軍と防衛するウクライナ軍との間で激戦地となっていることを発表した[27]。この10月頃には、バフムートを攻めるロシア軍の主力は民間軍事会社であるワグネルに置き換わっており、撤退が続くロシア軍の戦線の中で突出する形で維持されていた[28]

11月上旬までに、バフムート周辺の戦闘は塹壕戦に移り、泥沼の膠着状態に陥った。激しい砲撃と銃撃戦により毎日数百人の死傷者が出るこの地域は、「ウクライナ戦争で最も血まみれで残酷で残忍なセクター」とも言われた[29]。また、ロシア側の主力であるワグネルの創設者は、「われわれの任務はバフムートそのものではなく、ウクライナ軍を破壊し、戦闘力を低下させることだ。(中略)この作戦は『バフムートの肉ひき機』と呼ばれるようになった」と発言している[30][31]

12月1日、ロシア軍は郊外の村を制圧。一部部隊は多数の犠牲を出しながら市南部近郊に達した[32]。ただし、ウクライナ側も度々押し返している[33]。同月20日[8]、ゼレンスキー大統領は訪米直前にバフムートを訪れて将兵を激励した[34]

脚注[編集]

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出典[編集]

  1. ^ Ukraine resists Russia’s invasion. Day 23: Russian troops not able to advance, more terror against civilians, Russia to brandish nuclear weapons”. Ukraine Crisis media center (2022年3月19日). 2022年8月15日閲覧。
  2. ^ Rhythm of War: A Thunderous Blast, and Then a Coffee Breakニューヨーク・タイムズ
  3. ^ Bakhmut の防御で、ウクライナ軍はあらゆる面から攻撃 ラジオ・フリー・ヨーロッパ
  4. ^ 東部前線で戦うワグネルの「使い捨て兵士」 ウクライナ AFP
  5. ^ 迫撃砲でロシア軍陣地攻撃 破壊されたバフムートの町AP通信
  6. ^ Exhausted Ukrainian soldiers return from eastern front”. France24 (2022年5月1日). 2022年8月15日閲覧。
  7. ^ 前線のどこにも敵の前で放牧していません。特定の分野では、将来の成功を準備しています-ウクライナ大統領の演説 ウクライナ大統領府
  8. ^ a b ゼレンスキー氏 東部要衝を訪問」『読売新聞』夕刊2022年12月21日3面(2023年1月4日閲覧)
  9. ^ Від Вугледара до Бахмута. Росія сьогодні масовано обстрілює Донецьку область”. РБК-Україна (2022年5月17日). 2022年8月15日閲覧。
  10. ^ Кількість жертв обстрілу будинку у Бахмуті зросла до п'яти, серед них дворічна дитина”. Укрінформ (2022年5月18日). 2022年8月15日閲覧。
  11. ^ RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, MAY 22, ISW(戦争研究所, https://understandingwar.org/backgrounder/russian-offensive-campaign-assessment-may-22 
  12. ^ Траса Бахмут-Лисичанськ опинилася під обстрілом ворога”. Мілітарний (2022年5月24日). 2022年8月15日閲覧。
  13. ^ Окупанти прорвали українську оборону в районі Попасної”. Ukrainian Military Pages (2022年5月25日). 2022年8月15日閲覧。
  14. ^ Ukrajinske trupe brane vitalni put na istoku”. Free Europe (2022年5月30日). 2022年8月15日閲覧。
  15. ^ ЗСУ ліквідували ворожий блокпост на трасі з Бахмута до Лисичанська”. Букви (2022年5月26日). 2022年8月15日閲覧。
  16. ^ Russians trying to improve tactical position in Bakhmut direction”. Ukrinform (2022年6月16日). 2022年8月15日閲覧。
  17. ^ Russians prepare offensive on Siversk, Soledar – General Staff” (英語). ウクルインフォルム (2022年7月26日). 2022年8月15日閲覧。
  18. ^ New photos show heartbreaking destruction in Bakhmut, Ukraine” (英語). ニューヨーク・ポスト (2022年7月28日). 2022年8月15日閲覧。
  19. ^ July 27, 2022 Russia-Ukraine news” (英語). CNN (2022年7月28日). 2022年8月15日閲覧。
  20. ^ ロシア軍、東部要衝バフムトで攻勢 ウクライナ部隊は一部撤退か”. 毎日新聞 (2022年7月28日). 2022年9月19日閲覧。
  21. ^ Russian Offensive Campaign Assessment, August 1” (英語) (2022年8月1日). 2022年8月15日閲覧。
  22. ^ August 1, 2022 Russia-Ukraine news” (英語) (2022年8月2日). 2022年8月15日閲覧。
  23. ^ Russian Offensive Campaign Assessment, August 2” (英語) (2022年8月2日). 2022年8月15日閲覧。
  24. ^ War update: Enemy focusing efforts in Bakhmut direction” (英語). ウクルインフォルム (2022年8月3日). 2022年8月15日閲覧。
  25. ^ The Wagner PMC, supported by Russian artillery, was able to break through to Patrice Lumumba Street in Bakhmut from the eastern side. Insider reports that an AFU roadblock was destroyed in the – XUA-фото войны” (英語) (2022年8月4日). 2022年8月15日閲覧。
  26. ^ 7 killed, 6 injured in Russia’s attack on Bakhmut” (英語). ウクルインフォルム (2022年8月10日). 2022年8月15日閲覧。
  27. ^ ウクライナ軍、東部要衝のバフムトで激戦=ゼレンスキー大統領”. ロイター (2022年10月9日). 2022年10月9日閲覧。
  28. ^ 東部前線で戦うワグナー(ワグネル)の「使い捨て兵士」 ウクライナ”. AFP (2022年11月1日). 2022年11月8日閲覧。
  29. ^ Bakhmut ‘has reputation as most bloody, cruel and brutal part of front’”. news.yahoo.com. 2022年12月29日閲覧。
  30. ^ バフムートの「肉ひき機」 恐怖の激戦地を駆ける救急隊員たち”. www.afpbb.com. 2022年12月29日閲覧。
  31. ^ 矢野 義昭「本格攻勢に出始めたロシア軍と崩壊寸前のウクライナ軍」JBpress(2022年12月21日)2023年1月4日閲覧
  32. ^ バフムート近郊のロシア軍、一定の前進も大量の死傷者か”. CNN (2022年12月2日). 2022年12月3日閲覧。
  33. ^ ロシア軍のバフムート地区の進軍が鈍化=戦争研究所”. www.ukrinform.jp. 2022年12月29日閲覧。
  34. ^ 激戦地から「極秘の旅」ゼレンスキー氏『読売新聞』朝刊2022年12月23日(国際面)同日閲覧