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四輪操舵

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en:Quadrasteerが作動中のシボレー・シルバラード

四輪操舵 (よんりんそうだ、4 Wheel Steering4WS)とは、自動車の操舵方法の一種。四輪自動車の全車輪に対して能動的に舵角を与えることにより、高い速度域での車両安定性を向上させる、あるいは極低速域での小回り性を向上させる方法である。三軸(六輪)以上の車両の場合、一部の車軸が操舵機構を持たないものがある。

概要

一般的な自動車では、ハンドル操作によって前輪に舵角を与えて方向転換を行うのが一般的である。この際、後輪は進行方向を向いたままであるため、運動エネルギーが大きな場合には車両の横滑りが発生する、また、舵角が大きい場合には内輪差が大きくなるなどの不都合が起こる。四輪操舵方式ではハンドルによる前輪の操舵情報を後輪に対しても与えることにより、操舵時のこうした問題を解消することを目的としている。

同位相と逆位相

四輪操舵は、同位相方式と逆位相方式に大別される。それぞれ、同相・逆相と略されることもある。

同位相方式
舵角を前輪と同じ方向にする方式。転舵時に発生するヨーを抑えることで、車両の安定性を高める。高速域での車線変更などでの横滑りを抑える。縦列駐車にも適している。
逆位相方式
舵角を前輪と逆の方向にする方式。回転半径を小さくすることが可能になる。ただし、後輪の軌跡や、リアオーバーハングが外側に膨らむ、車庫入れや縦列駐車などで、後退しながら転舵する場合の車輪の軌跡がわかりにくい、壁や縁石に寄せられない、などのデメリットがある。

乗用車では、走行速度やハンドルの操舵角度により、同位相と逆位相を連続的に制御しているものが多く、後退時にはキャンセル(中立で固定)できるものもある。

大型・特殊車両(消防車ラフテレーンクレーンなど)では、特に内輪差の低減と小回り性能の向上を目的として、逆位相方式の四輪操舵機能が採用される。また、2階建てバスや三軸観光バスや全長15メートルの2階建てバスメガライナーなどは最後軸に逆位相方式のパッシブステア機能がある。また、牽引型の連節バスにも付随車の車軸に逆位相方式のステア機能が装備されている。

制御方式

四輪操舵は、機械式と電気制御式に大別される。

機械式
ステアリングと前後輪とをギアやシャフトなどの機構で接続し制御するもので、ホンダ1987年プレリュードに搭載した。ステアリングの切れ角に応じて、後輪があらかじめ機構にプリセットされた切れ角(同位相・逆位相両方)で切れる。電気制御が介入しないため信頼性は高いが、細かな制御はできない。
電気制御式
ステアリングの切れ角に応じて、後輪を電気制御されたアクチュエータで動かすもので、代表例は日産HICAS/HICAS-II/SuperHICAS1985年 - 1988年に採用されたHICASは油圧による後輪の同位相制御のみを行っていたが、1989年5月発表のスカイライン(R32型系)に採用されたSuperHICASからは逆位相制御が組み込まれ、ステアリングの切り始めに一瞬のみ逆位相となり、ヨーモーメントを発生させたのち、同位相制御へと移行する機構を持っている。機械式と比べ、容易にその動作を無効化することができた。

採用例

1971年から1972年にかけて、アポロ計画のJミッションで使われた月面車に四輪操舵システムが採用された。

この場合、一方の系統が故障した場合でも、もう一方の系統で操舵できるように冗長性をもたせるためのものであった。→フォールトトレラント設計

2011年12月現在においては、大型のバストラック・特殊車両で採用されているが、乗用車においては、日産自動車の日産・スカイライン日産・フーガ。レクサスの4代目GS[1]。欧州メーカーでは、BMW5代目7シリーズ6代目5シリーズにインテグレイテッドアクティブステアリングの名称で採用している[2][3]。また、F1など一部のモータースポーツ種目においては、四輪操舵装置が規定で禁止されているものもある。F1では1993年ベネトンB193Bで採用されていた。

1980年代終盤、日本メーカーの乗用車においては四輪操舵を採用した車種がいくつか発売されたが、雑誌などのメディアが強く注目したものの、販売は伸び悩み、それらの次期モデルからは以下にあげる理由によって四輪操舵の採用が減少していった。その理由のひとつは、機構追加による複雑化、重量の増加と新規技術ゆえの価格上昇である。もうひとつの理由は、自ら運転免許を取得して運転するようになる前から誰もが二輪操舵の挙動に慣れきっているため、四輪操舵がもたらす「理想的な」挙動に対して違和感を覚えてしまい、その良さが「クセの強さ」と認識されてしまったことである。具体的には、右左折時に運転者の予想よりも車体後部が外側に振り出すことや、車庫入れ後退時に狙った通りに車が動かないと感じることなどが挙げられる。日本のように車庫・駐車場事情がそれほど良くない場合、壁にぴったりと寄せられないことは不都合を招く場合もある。

さらにはチューニングカーの世界においては重量や挙動に対する不満から4WSを取り外してしまうケースも珍しくない。主に日産車向けに、「ハイキャスキャンセラー」なるパーツも発売されている。

過去の量産乗用車への採用例

パッシブステア

能動的に後輪を操舵する四輪操舵と異なり、リアサスペンションのストローク量に応じて後輪のトー角をコントロールし、回頭性や安定性を向上させる方法にパッシブステアがある。狭義では「トーコントロールシステム」の範疇であり、四輪操舵には含めない。

通常の後輪独立懸架では、ホイールがストロークする際、車両が安定寄りとなるトーインを常に保つように設定されている。また、リジッドアクスルトーションビームのような固定車軸の場合は、ストローク時に起こるアクスルステアをアーム長やゴムブッシュ塑性変形でコントロールし、リアアクスル全体を旋回中心向きに変位させ、安定を保っている。

これに対しパッシブステアは、ブッシュの変形を利用するまでは変わらないが、旋回初期の極浅いロールの際、後輪を一瞬だけトーアウト(逆位相)にコントロールするものである。動作が受動的できであるためアクチュエーターはなく、タイロッドを持たない点が四輪操舵とは異なる。挙動を乱しスピンに至らないよう、外輪のみをトーアウトとするものもある。主に前輪駆動車やスポーツカーの一部で、回頭性を向上させるための「きっかけ」として用いられる。簡単な構造で四輪操舵に近い効果を実現できる反面、高度な制御を行うことはまったく不可能である。また、ブッシュの破断や経年劣化により動作が変動する点も弱点となる。商標としては、マツダのナチュラル4WS、いすゞニシボリック・サスペンションSAABの ReAxs(リアクシス)などがある。マツダでは現行車にも採用されているが、かつてほど大々的に宣伝されてはいない。

日産・パルサー (N12型系)、マツダRX-8RX-7 (FC、FD)、ユーノス・ロードスター (NA、NB、NC)、いすゞ・ジェミニ (3代目)とPAネロ、SAABではGM傘下となってからの各車に採用例がある。

モータースポーツでは、これが操作性の低下を招く不確実要素となるため、たわみブッシュを硬質な物質で作られたものに交換することがある。実際にサーキット走行などにおいては、「トーコンキャンセラー」、「ニシボリ殺し」などといったアフターマーケットパーツで機構をキャンセルすることが一般的であった。

脚注

  1. ^ レクサスアクティブセーフティー
  2. ^ 【BMW 7シリーズ 新型発表】4輪操舵システムで小回りスイスイ
  3. ^ インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング(前後輪統合制御ステアリング・システム)
  4. ^ 4WSが採用されていたのはバージョンL(型式:CXD)のみ。バージョンEを含む他のグレード(型式:CXW)には採用されていない。

関連項目