アクトール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

アクトール古希: Ἄκτωρ, Aktōr)は、ギリシア神話の人物である。長音を省略してアクトルとも表記される。同名の人物が多数知られており、代表的な人物として、

のほか多くの人物が知られている。以下に説明する。

ミュルミドーンの子[編集]

このアクトールは、プティーアーの王ミュルミドーンアイオロスの娘ペイシディケーの子で、アンティポス[1][2]エリュシクトーン[3][4]エウポレメイア[5][6]、ヒスキュラと兄弟[7]河神アーソーポスの娘アイギーナとの間に[8]メノイティオス[6][8][9][10][11][12][13]イーロス[14]あるいはエウリュティオーンをもうけた[15][16]

アクトールの名前はプティーアー王家の系譜に現れるが、この人物がメノイティオスの父アクトールであるかどうかについては曖昧である。また一般的にメノイティオスはロクリス地方のオプースと結びついている[11][13][17][18]シケリアのディオドーロスによると、アクトールはプティーアーの王であり、ペーレウスポーコス殺しの罪で亡命してくると、彼の罪を浄めた。またアクトールには男子がいなかったため、ペーレウスに王権を継がせたという[19]。しかしディオドーロスは他の箇所ではアクトールに息子メノイティオスがいたと述べている[13]アポロドーロスでは、ペーレウスが亡命したときのプティーアーの王は息子のエウリュティオーンとなっている[16]

アルキュオネーの子[編集]

このアクトールは、巨人アトラースプレーイオネーの娘アルキュオネー(プレイアデスの1人)とポセイドーンの子で[20]、アイトゥーサ、ヒュリエウスヒュペレーノール[21]、エポーペウス、ベーロス[20]、ヒュペレース、アンタースと兄弟[22]

デーイオーンの子[編集]

このアクトールは、ポーキス地方の王デーイオーンとクスートスの娘ディオメーデーの子で、アステロディアー、アイネトス、ピュラコスケパロス[23]、ニーソスと兄弟[24]ヘーシオドスによるとプローテシラーオスの父[25]

ポルバースの子[編集]

このアクトールは、エーリス地方の王の1人ポルバースと[26][27]エペイオスの娘ヒュルミーネーの子で[26]アウゲイアース[27][28]ティーピュスと兄弟[6][29]。モーリオネーとの間に、モリオネと呼ばれる双子の兄弟エウリュトスクテアトスをもうけた[30][31][32][33]。彼らの本当の父はポセイドーンであるとも[30][31][32]、生まれてきた子供は結合双生児であったともとも言われる[30][31][34][35]

シケリアのディオドーロスによると、父ポルバースはもともとテッサリアー地方のラピテース族の王であったが、後にエーリス地方の王アレクトールに招かれて王権を分け与えられ[27]、アクトールは兄弟のアウゲイアースとともにその後を継いだ[36]。一方、パウサニアースはディオドーロスと似た系譜伝承を述べているが[26]、アクトールとアウゲイアースを兄弟としていない[37]。またエーリス地方の王の1人アマリュンケウスをテッサリアー地方の出身とする一方で、アクトールの一族をエーリス地方の出身としている[26]

なお、アクトールは母の名前にちなんだ都市ヒュルミーネー英語版を建設したと伝えられている[26]

アカストスの子[編集]

このアクトールは、テッサリアー地方の都市イオールコスの王アカストスの子である。アルゴナウタイの1人[38]。誤ってペーレウスに殺された[39]

アゼオスの子[編集]

このアクトールは、プリクソスの子孫にあたるオルコメノス王クリュメノス[40]の子アゼオスの子で、娘アステュオケーの父。アステュオケーはアレースとの間にアスカラポスイアルメノスを生んだ[41][42]

オイノプスの子[編集]

このアクトールは、アイスキュロスの悲劇『テーバイ攻めの七将』によるとテーバイ人オイノプスの子で、ヒュペルビオスと兄弟。テーバイがアドラーストス率いる七将の攻撃を受けたとき、ヒュペルビオスがオンカ・アテーナーの門でヒッポメドーンと戦ったのに対し[43]、アクトールはアムピーオーン王の墳墓に近い北の門でパルテノパイオスと戦った[44]

アイネイアースの部下[編集]

このアクトールは、アイネイアースの部下である。トロイアー陥落後、アイネイアースに従ってイタリアまで航海した。ラティウムの武将ウォルケンスとの戦いでエウリュアロスが戦死したとき、その母がひどく嘆き悲しんだ。そのためイーリオネウスアスカニオスの命で、イーダイオスとともに彼女を城壁から引き離して屋根のある場所まで運んだ[45]

その他の人物[編集]

脚注[編集]

  1. ^ ヘーシオドス断片10(Turner papyrus, fr.3-4 col.III)。
  2. ^ アポロドーロス、1巻7・3。
  3. ^ レスボスのヘッラーニーコス断片F7”. Barbaroi!. 2022年5月15日閲覧。
  4. ^ アイリアーノス、1巻27。
  5. ^ ロドスのアポローニオス、1巻51行-55行。
  6. ^ a b c d ヒュギーヌス、14話。
  7. ^ ヒュギーヌス『天文譜』2巻14”. ToposText. 2022年5月14日閲覧。
  8. ^ a b ピンダロス『オリュンピア祝勝歌』第9歌70行。
  9. ^ 『イーリアス』11巻785行。
  10. ^ 『イーリアス』16巻14行。
  11. ^ a b ロドスのアポローニオス、1巻69行-70行。
  12. ^ a b アポロドーロス、1巻9・16。
  13. ^ a b c シケリアのディオドーロス、4巻39・1。
  14. ^ ロドスのアポローニオス、1巻72行。
  15. ^ アポロドーロス、1巻8・2。
  16. ^ a b アポロドーロス、3巻13・1。
  17. ^ アポロドーロス、3巻13・3。
  18. ^ ストラボーン、9巻4・2。
  19. ^ シケリアのディオドーロス、4巻72・6。
  20. ^ a b ヒュギーヌス、157話。
  21. ^ アポロドーロス、3巻10・1。
  22. ^ パウサニアース、2巻30・8。
  23. ^ アポロドーロス、1巻9・4。
  24. ^ ヒュギーヌス、198話。
  25. ^ ヘーシオドス断片154d(Berlin papyrus 9739 col.IV)。
  26. ^ a b c d e パウサニアース、5巻1・11。
  27. ^ a b c シケリアのディオドーロス、4巻69・3。
  28. ^ アポロドーロス、2巻5・5。
  29. ^ ヒュギーヌス、18話。
  30. ^ a b c アポロドーロス、2巻7・2。
  31. ^ a b c ヘーシオドス断片13(Michigan papyrus inv. 6234 fr.1)。
  32. ^ a b ヘーシオドス断片14(『イーリアス』11巻750行への古註)。
  33. ^ パウサニアース、5巻1・10‐2・2。
  34. ^ ヘーシオドス断片15a(『イーリアス』23巻638行-642行への古註A)。
  35. ^ ヘーシオドス断片15b(『イーリアス』11巻行710行への古註T)。
  36. ^ シケリアのディオドーロス、4巻69・4。
  37. ^ パウサニアース、5巻1・8。
  38. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』15a。
  39. ^ ヨハネス・ツェツェース英語版『リュコプローン注解』901。
  40. ^ パウサニアース、9巻37・1。
  41. ^ 『イーリアス』2巻511行-516行。
  42. ^ パウサニアース、9巻37・7。
  43. ^ アイスキュロス『テーバイ攻めの七将』485行-525行。
  44. ^ アイスキュロス『テーバイ攻めの七将』526行-567行。
  45. ^ ウェルギリウス『アエネーイス』9巻500行-503行。
  46. ^ オウィディウス『変身物語』5巻79行。
  47. ^ ヨハネス・ツェツェース『リュコプローン注解』488。
  48. ^ ウァレリウス・フラックス、1巻146行。
  49. ^ ロドスのアポローニオス、2巻911行。
  50. ^ スタティウステーバイス』8巻135行。
  51. ^ スタティウス『テーバイス』11巻354行-381行。
  52. ^ 『イーリアス』16巻179行-192行。
  53. ^ ヒュギーヌス、102話。
  54. ^ 『オデュッセイアー』23巻228行。
  55. ^ ウェルギリウス『アエネーイス』12巻94行。
  56. ^ ウェルギリウス『アエネーイス』12巻92行-100行。

参考文献[編集]