中国の宗教

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Religion in China, year 2010.png

中国の宗教(ちゅうごくのしゅうきょう)では、中国大陸において誕生、発達ないしは伝来した宗教について詳述する。

概要[編集]

中国は世界でも随一の宗教揺籃の地として知られる[1]。なかんずく儒教道教仏教三教を構成。中国文化を形成する上で歴史的にも重要な役割を果たし[2][3]たのみならず、伝統的な民俗宗教にも取り入れられてゆく[4]家族中心かつ、特段順守するべき事柄が存在しないのも特徴と言える。

なお、中国の信仰体系に言及する中で、「宗教」というを使用することを良しとせず、もっぱら「文化的習慣」や「思想体系」、「哲学」といった言い回しを好む学者が一部に存在する[5]。そのため、何を宗教と呼ぶべきか、あるいは誰を宗教者とするべきかについては、未だ明確な合意が得られていない[6]

歴代皇帝天命を唱え、宗教儀式にも名を連ねてきたが、1949年以降無神論を旨とする共産党政権樹立に伴い、中国本土では宗教に制限が掛けられることとなる。現在公式には仏教道教イスラム教プロテスタントおよびカトリックの5宗教を認知。カトリックについては、ローマ・カトリック教会から中国天主教愛国会の分離を進めている[7]。中国南部の守護神神たる媽祖や、国生みの祖であり民族精神の発露たる黄帝[8][9]の他、を司る財神盤古などに対する信仰も厚い。

河南省にある魯山大仏を始め、世界最長の像の多くが国内にあり、そのほとんどは2000年代に建立された仏像神像である。近年では世界最長のパゴダ[10]仏塔も建立[11]。このように、1世紀以降発達を見た中国の仏教は、現代においても随一の影響力を誇る存在として名高い[12]

また、研究者の間では「仏教や道教、地方の民俗宗教との明確な境界線が存在しない」との指摘があるが、ピュー研究所による調査によると、国民の22%が民俗宗教に帰依しており、18%が仏教徒という[13]。しかしながら、多くの中国国民が民俗宗教と仏教との双方を信仰している所を見ると、重なり合う部分もある点に注意されたい。2010年に行われた調査では、10数億人が何らかの形で民俗宗教や道教に帰依しており、7億5400万人 (56.2%) が祖先崇拝を、の存在を信じているのが2億1500万人 (16%) に留まり[14]、1億7300万人 (13%) が民俗宗教と区別が付かない程度にまで道教を取り入れているという[12]。同調査では1億8500万人 (13.8%) が仏教徒であり、3300万人 (2.4%) がキリスト教徒、2300万人 (1.7%) がイスラム教徒とされる[12]

少数民族の一部は地域的な宗教に加えて、在来の宗教を信仰。キリスト教徒は各種調査で数%とされる[15][16][17][18]。イスラム教徒は1 -2%である[19]法輪功天道唯心聖教といった新宗教も国内各地に点在[20]。宗教としての儒教は、知識人の間で人気が高い[21]。また、主要民族宗教としては、チベット仏教の他、回族ウイグル族が帰依するイスラム教が挙げられる。

キリスト教7世紀以来確立されたものの、10世紀から14世紀にかけての迫害の結果、衰微を来たしている[22]イエズス会宣教師が再導入を図ったのは、16世紀のことであった。プロテスタントやカトリックによる伝道がキリスト教の存在を世に知らしめ、19世紀半ばの太平天国の乱に影響を与えることとなる。

共産政権下では外国の宣教師が追放処分に付され、ほとんどの教会が閉鎖を余儀無くされる。学校病院児童養護施設も差し押さえに遭い[23]文化大革命期には多くの聖職者が投獄[24]改革開放政策が採られ始めた1970年代末以後、キリスト教に対する信仰の自由が緩和、から任命された司教がカトリックの集会に出席することが許されるようになった[25]

歴史[編集]

古代および先史時代[編集]

今日一般的に東アジアと呼ばれる地域(現在の中国の国境を含む)で中華文明や世界宗教が生まれるのに先立ち、シャーマニズムのようなアニミズム信仰が部族単位で行われるのが一般的であった[26]

諸葛亮を祀った寺院(郷里である山東省沂南県にて)

中国文明黎明期以後、道教がアニミズムや民俗宗教、シャーマニズムのような、より原始的な形態から発展を遂げ始める[27]。道教は儒教や他の民俗宗教と並んで伝統宗教の1つとされるが、中国史上最長の記録を誇る[28]シャーマニズムも、漢民族を含む様々な民族の間で今なお行われている。しかし、漢民族の歴史においてはシャーマニズムに関する文献が乏しい[29][30][31][32][33][34]

近世・近代[編集]

マテオ・リッチ(左)および徐光啓(右)(1607年出版されたユークリッド原論中国語版より)

16世紀以降、イエズス会宣教師団が中国と西洋との橋渡しをする上で、重要な役割を果たすこととなる。イエズス会は天文学数学機械工学といった西洋の科学宮廷に広めた一方、中国国内で布教する際、孔子に対する崇敬や祖先崇拝をも教義に取り入れてゆく(典礼問題[35]

20世紀満州族を主体とする清朝で幕を開けたが、支配層が伝統宗教を嗜好したこともあり、北京天壇で行われる宗教儀式に参加。皇帝の周辺では、チベット仏教がダライラマを精神的かつ現世の指導者として認識するようになった。

天壇(1860年

20世紀半ばまでには、キリスト教が活発な動きを見せ、1949年には「カトリック系学校だけで500万人の学生を教え、カトリック系病院医師が3000万人程度を診療し、カトリック系児童養護施設だけで1500カ所擁した」という[36]。なお、中華民国初代臨時大総統の孫文や、その後継者である中国国民党総裁蒋介石は、何れもキリスト教徒であった。

中華人民共和国[編集]

中華人民共和国1949年10月1日に成立するが、同国政府は無神論を標榜。宗教を封建主義や海外の植民地主義の象徴と見做しつつ、政教分離の維持に努めた。しかし、文化大革命期には宗教抹殺政策が採られ、宗教施設の大規模な破却が行われることとなる[37]

文化大革命が終焉した1970年代末に入ると、こうした政策もかなり緩和され、爾来宗教に対する寛容性が見られるようになった。1978年中華人民共和国憲法第36条では、信教の自由に関して次のような記述がある。

市民が如何なる宗教をも信じたり信じていなかったりすることを、国家機関や公共組織、個人が強制しない。宗教を信じたり信じていなかったりすることを理由に差別もしない。国家は通常の宗教活動を擁護する。何人も宗教を利用して社会秩序を乱し、市民の健康を害し、または国家の教育体制に干渉し得ない。[38]

1980年代半ば以来、仏教寺院道観の大規模な再建計画が進んだ。近年では政府が仏教や道教に対する支持を表明し、2006年世界仏教フォーラムを、翌年には老子道徳経に関する国際フォーラムをそれぞれ主催[39]。このように、政府は両者を中国文化に不可欠な要素と見做している[40]

中国共産党は無神論組織を標榜してはいるが、現在公式には仏教、道教、イスラム教、プロテスタント、カトリックの5宗教を許可(カトリックに関してはローマ・カトリック教会から中国天主教愛国会を分離)[7][41]。ただし、ある程度は宗教組織に対する統制もある[42]

寺院経済[編集]

民俗宗教に基づく社会が、如何に清朝期の中国における旺盛な草の根資本主義や、現代台湾の資本主義の発展に貢献したかに関する研究がある[43][44][45][46]。「儀式経済」や「寺院経済」と共に、民俗宗教の復興運動が、農村部における現在の経済発展の鍵ともなっている[47][48][49]

省別の動勢[編集]

世界最大の翡翠像である鞍山玉仏苑遼寧省鞍山市

仏教徒が全国にむらなく分散しているが、広東福建といった華南の諸では、正一教と深く混淆した民俗宗教の復興が最も目覚ましい[50]。なお、華北では全真教が盛んである。この他、四川省天師道が発展した地域として知られる。

キリスト教は、浙江省安徽省といった東端かつ沿岸部の地域にほとんど集中。当該地域は太平天国の乱の影響を最も受けているが、河南省河北省でも信徒が見られる。

チベット仏教は、チベットチベット人人口の大部分を占める西端の省の他、北部では内モンゴルにおいて最も有力な宗教であるが、漢民族の間にも徐々に浸透[51][52]

イスラム教は寧夏など回族の地域や、新疆ウイグル自治区において多数派を占める。また、独自の伝統的な民族宗教トンパ教など)を信仰する非漢民族は多い。宗教としての儒教は知識人の間に普及[21]

共産党政府は無神論を謳っており、宗教的自由をしばしば抑圧。このため、政府と諸宗教との間の関係は、かつては芳しくなかった[53]。近年では宗教、なかんずく大乗仏教や道教、民俗宗教のような伝統宗教にも門戸を開き、「調和社会」を築く上で宗教の役割を強調している[54]

統計[編集]

上海大学2007年に行った調査によると、16歳未満の国民の31.4%が何らかの宗教を信仰しているという。仏教や道教、イスラム教の他キリスト教が主要宗教であり、その信者のみで67.4%に上るとする調査もある。全信者の約66.1%が仏教や道教などであり、キリスト教徒は12%に過ぎない[55][56]

ピュー研究所によると、2010年現在、中国の人口の21.9%が民俗宗教を信仰しており、18.2%が仏教徒、5.1%がキリスト教徒、1.8%がイスラム教徒で、0.8%がその他宗教となっており、52.2%が無宗教であった[13]

脚注[編集]

  1. ^ Living in the Chinese Cosmos, ASIA FOR EDUCATORS (Columbia University)
  2. ^ Yao, Xinzhong (2010). Chinese Religion: A Contextual Approach. Continuum. p. 11. ISBN 9781847064769. http://books.google.com/books?id=GuINLKnJp0AC&pg=PA11#v=onepage&q&f=false. 
  3. ^ Miller, James (2006). Chinese Religions in Contemporary Societies. ABC-CLIO. p. 57. ISBN 9781851096268. http://books.google.com/books?id=S4vg8BQrqA4C&pg=PA57#v=onepage&q&f=false. 
  4. ^ Xie, Zhibin (2006). Religious Diversity and Public Religion in China. Ashgate Publishing. p. 73. ISBN 9780754656487. http://books.google.com/books?id=peah4XTpqnkC&pg=PA73#v=onepage&q&f=false. 
  5. ^ Taylor, Rodney L. "Proposition and Praxis: The Dilemma of Neo-Confucian Syncretism" Philosophy East and West Vol. 32, No. 2 (Apr., 1982). pg. 187
  6. ^ "Appropriation and Control: the Category of 'Religion', and How China Defines It" Chapter Three in Gunn, Torri (2011). Defining Religion with Chinese Characters: Interrogating the Criticism of the Freedom of Religion in China.. Ottawa, Ontario: University of Ottawa. pp. 17–50. http://www.ruor.uottawa.ca/en/bitstream/handle/10393/19878/Gunn_Torri_Kenneth_2011_thesis.pdf?sequence=3. 
  7. ^ a b Rowan Callick; Party Time - Who Runs China and How; Black Inc; 2013; p.112
  8. ^ Over 10,000 Chinese Worship Huangdi in Henan”. China.org.cn (2006年4月1日). 2011年10月17日閲覧。
  9. ^ The Yan-huang Culture Festival and Worshiping Ceremony
  10. ^ Photo in the News: Tallest Pagoda Opens in China – National Geographic”. News.nationalgeographic.com (2010年10月28日). 2011年10月17日閲覧。
  11. ^ Buddha Relics Enshrined in World's Highest Pagoda”. En.chinagate.cn. 2011年10月17日閲覧。
  12. ^ a b c 2010 Chinese Spiritual Life Survey conducted by Dr. Yang Fenggang, Purdue University’s Center on Religion and Chinese Society. Statistics published in: Katharina Wenzel-Teuber, David Strait. People’s Republic of China: Religions and Churches Statistical Overview 2011. Religions & Christianity in Today's China, Vol. II, 2012, No. 3, pp. 29-54, ISSN: 2192-9289.
  13. ^ a b The Global Religious Landscape”. Pew Research Center. p. 46 (2012年12月). 2012年3月3日閲覧。
  14. ^ これら2つの統計は、公的に認知されている5宗教に1つでも属している者を除外している点に注意
  15. ^ “Survey finds 300m China believers”. BBC News. (2007年2月7日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/6337627.stm 2010年5月22日閲覧。 
  16. ^ Purdue Newsroom – Prof: Christians remain a small minority in China today”. Purdue.edu (2010年7月26日). 2011年10月17日閲覧。
  17. ^ ANALYSIS 1 May 2008 (2008年5月1日). “2008 Pew Forum survey”. Pewforum.org. 2011年10月17日閲覧。
  18. ^ The Pew Forum on Religion and Public Life: "Global Christianity: A Report on the Size and Distribution of the World's Christian Population – Appendix C: Methodology for China" 19 December 2011
  19. ^ CIA – The World Factbook – China”. Cia.gov. 2011年10月17日閲覧。
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  22. ^ http://www.orthodox.cn/localchurch/jingjiao/nest1.htm
  23. ^ Geoffrey Blainey; A Short History of Christianity; Viking; 2011; p.508
  24. ^ Geoffrey Blainey; A Short History of Christianity; Viking; 2011; p.531
  25. ^ Geoffrey Blainey; A Short History of Christianity; Viking; 2011; p.532
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  35. ^ Geoffrey Blainey; A Short History of Christianity; Viking; 2011; p.384
  36. ^ Geoffrey Blainey; A Short History of Christianity; Viking; 2011; p.508
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