ボン教

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ボン教寺院(四川省)

ボン教( -きょう)はチベットの民族宗教である。ポン教(ぽんきょう)とも表記・呼称される。

概説[編集]

一般のチベット人にとってボンチベット文字:བོན་; ワイリー方式bon)とは、漠然とチベットの仏教伝来以前の土着の宗教を指す場合と、「ユンドゥン・ボン」を自称する宗教・宗派を指す場合とがある[1]。文献資料は仏教伝来以後のものしか存在していないが、8-10世紀の敦煌文献からチベットの古代宗教についてある程度研究されており[2]、古代チベット王国(吐蕃)ではボンとシェンという司祭が祭祀を執り行っていたとされている[3]。後世の人々はこの古代宗教をボンと呼んだが、最初期の文献においてボンとは組織的な宗教ではなく司祭の呼称であり、宗教はチュー(法、慣習)で、ラチュー(神の法)とミチュー(人の法)とが区別されていた。一方、成立宗教としてのボン教はチベットで仏教が復興し始める11世紀以降に組織されたと考えられている[4]

ボン教徒は、ボン教の中に取り込まれた古い宗教である「原始的なボン」、ボン教徒がブッダと崇めるトンパ・シェンラプ・ミウォが創始した宗教伝統である「ユンドゥン・ボン」、儀礼面で仏教の影響を受けた「新しいボン」とを区別する[5]。ユンドゥン・ポンも用語の面などで仏教の影響を受けているが、ボン教徒は仏教とは異なる独自の思想であることを自負している。

ユンドゥン・ボン[編集]

ユンドゥン・ボン(永遠のボン)は古代から続くとされるチベット人独特の総合宗教である。

起源[編集]

その起源は相当古くに遡り、人類最古の文化のひとつに数えられている。一般にボン教はチベットの土着の宗教であると認識されることが多いが、ユンドゥン・ボンはその開祖であるシェンラプによってチベット西方のタジク(ペルシア方面のこと)やシャンシュンからもたらされた教えであるとボン教徒は信じている。ボン教とチベット仏教は相互に影響しながら発展してきた歴史があり、それぞれのなかに互いの影響を見てとることができる。ただし、ボン教には中央アジアにおける古代文明の痕跡がより色濃く見られることが指摘されている。

特徴[編集]

ボン教はその体系を構築する際にインドで発生した仏教の用語を用いたため、チベットの宗教としての独自性のない「剽窃者」の烙印を押されてきた。しかし、その経典の中身をよく見てみると、インド仏教思想の枠の中では収まらないことが明らかになりつつある。またチベット文化の源泉のひとつとして、仏教の中には見当たらない独特の要素をもっていることが指摘されている。こうした事情から今日、ボン教はチベット学や中央アジア史の最も先進的な研究対象のひとつと考えられている。ただし、一般にチベット仏教に由来しない民俗・信仰を「ボン教」としてひとくくりに認識しがちであるが、数ある民間宗教と厳密な意味でのボン教は区別するべきである。

ボン教教団の総本山はメンリ僧院英語版སྨན་རི་sman ri)。その他にチベット内に存在する主な僧院としては、ユンドゥリン僧院、ナルシ僧院がある。総本山のメンリ僧院は現在、北インドにその機能を移している。

チベット仏教ニンマ派(古派)との相互影響が指摘されている。ゾクチェンという瞑想が伝えられていることも、ニンマ派と共通する点である。両者のゾクチェンの用語は基本的に同じものであるが、その系譜や見解は異なる。

伝承では、チベットの西方にあるという神秘の国オルモルリンのシェンラプ・ミウォ英語版を始祖とする。

インド起源の仏教では「右繞」(うにょう)すなわち時計回りに巡って行くことを善しするが、ボン教には「左繞」(さにょう)すなわち左廻りを善しとする。このようなささいな相違に加え、最も異なるのはその系譜である。ボン教とチベット仏教の関係は、いわば「仲の良い双子の兄弟」に例えることが可能である。

「それがチベット語で“チュー”と呼ばれようが、“ボン”と呼ばれようが、ダルマのことを特にボン教徒は宗派の派閥のことだとは思っていない。ダルマとは根源的な真実をそのまま表したもののことであり、時代と歴史を通じて何度も繰り返し述べられてきたもののことなのだ。根源的な真実のことばかりか、永遠の真実のことなのだ。ダルマとはただ単に特定の時代、つまり紀元前6世紀の北インドで生み出されたもののことだけを意味しない」 John Reynolds, Yungdrung Bon, The Eternal Tradition,7.

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  1. ^ 三宅 2004, p. 230
  2. ^ エリアーデ & 鶴岡 2000, p. 124.
  3. ^ Van Schaik 2011, p. 24.
  4. ^ Van Schaik 2011, p. 99.
  5. ^ 森孝彦 2007, pp. 236-237.

参考文献[編集]

  • 三宅伸一郎 「第37章 仏教国で生き続けたマージナルな宗教―ボン教」『チベットを知るための50章』 石濱裕美子編著、明石書店、2004年
  • デイヴィッド・スネルグローヴ、ヒュー・リチャードソン 『チベット文化史』 奥山直司訳、春秋社、2003年ISBN 4393112326
  • ミルチア・エリアーデ 「第三十九章 チベットの宗教」『世界宗教史6』 鶴岡賀雄訳、筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2000年
  • Sam van Schaik (2011). Tibet: A History. Yale University Press. 
  • シャルザ・タシ・ギャルツェン 『智恵のエッセンス: ボン教のゾクチェンの教え』 ロポン・テンジン・ナムダク解説、森孝彦訳、春秋社、2007年ISBN 9784393135303
  • Tenzin Namdak (2006). Bonpo Dzogchen teachings. Vajra Publications. ISBN 978-99946-720-5-9. 
  • Samten Gyaltsen Karmay; Yoshihiko Nagano (長野泰彦) (2002). The Call of the Blue Cuckoo: An Anthology of Nine Bonpo Texts on Myths and Rituals. Senri ethnological reports 32. Bon studies 6. National Museum of Ethnology. ISBN 490190602X. 
  • 『チベット ポン教の神がみ』[リンク切れ] 国立民族学博物館編、千里文化財団、2009年。

関連項目[編集]

  • 九寨溝 - 多くの観光客が訪問するボン教地域

外部リンク[編集]

チベットのボン教とは