「アサ」の版間の差分
実や油のカンナビノイド、一般社団法人北海道産業用大麻協会、使用の罰則無し、万葉集、栃木試験場 |
遺伝や形態 |
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| 英名 = [[:en:cannabis|Cannabis]]<br>[[w:hemp|Hemp]] |
| 英名 = [[:en:cannabis|Cannabis]]<br>[[w:hemp|Hemp]] |
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和名'''アサ'''('''麻'''、英名''Cannabis'')は、学名'''カンナビス・サティバ''' (''Cannabis sativa'')といい、[[中央アジア]]原産<ref name="Bkika2"/>とされる[[アサ科]]アサ属で'''大麻草'''(たいまそう)とも呼ばれる<ref name="大麻草品種"/><ref name="naid40002727610"/>、一年生の[[草本]]である。雌雄異株。ことわざ、麻の中の蓬(よもぎ)が凡人を感化する善人に麻をたとえているように、高くまっすぐ生育する。人類が栽培してきた最も古い植物のひとつ。茎は[[植物繊維]]として紙や布など様々に、実(種子)は食用や生薬の'''麻子仁'''(マシニン)として、[[ヘンプ・オイル|麻の実油]]は食用や燃料など、成分を[[医療大麻]]にと様々な形で用いられてきた。実は大豆に匹敵する高い栄養価がある。[[神宮大麻|伊勢神宮の神札の大麻]]と呼ぶ由来となった植物であり、過去には米と並んで主要作物として盛んに栽培されてきた。[[第二次世界大戦]]中に農林省が日本原麻を設立した日本でも<ref name="原麻設立"/>、終戦後に[[連合国軍最高司令官総司令部|GHQ]]の指令により規制したが{{sfn|山本郁男|1992}}、繊維用品種まで強く規制され伝統継承の問題が生じている<ref name="伊勢志摩伊勢麻"/>。20世紀半ばより国際的に大麻が規制されたが、21世紀初頭には医療大麻、違法かつ非犯罪化という緩い規制への変化、米国首都での嗜好大麻の合法化など例外も増えてきた<ref name="規制緩和"/>。 |
和名'''アサ'''('''麻'''、英名''Cannabis'')は、学名'''カンナビス・サティバ''' (''Cannabis sativa'')といい、[[中央アジア]]原産<ref name="Bkika2"/>とされる[[アサ科]]アサ属で'''大麻草'''(たいまそう)とも呼ばれる<ref name="大麻草品種"/><ref name="naid40002727610"/>、一年生の[[草本]]である。雌雄異株。ことわざ、麻の中の蓬(よもぎ)が凡人を感化する善人に麻をたとえているように、高くまっすぐ生育する。人類が栽培してきた最も古い植物のひとつ。茎は[[植物繊維]]として紙や布など様々に、実(種子)は食用や生薬の'''麻子仁'''(マシニン)として、[[ヘンプ・オイル|麻の実油]]は食用や燃料など、成分を酩酊や[[医療大麻]]にと様々な形で用いられてきた。実は大豆に匹敵する高い栄養価がある。[[神宮大麻|伊勢神宮の神札の大麻]]と呼ぶ由来となった植物であり、過去には米と並んで主要作物として盛んに栽培されてきた。[[第二次世界大戦]]中に農林省が日本原麻を設立した日本でも<ref name="原麻設立"/>、終戦後に[[連合国軍最高司令官総司令部|GHQ]]の指令により規制したが{{sfn|山本郁男|1992}}、繊維用品種まで強く規制され伝統継承の問題が生じている<ref name="伊勢志摩伊勢麻"/>。20世紀半ばより国際的に大麻が規制されたが、21世紀初頭には医療大麻、違法かつ非犯罪化という緩い規制への変化、米国首都での嗜好大麻の合法化など例外も増えてきた<ref name="規制緩和"/>。 |
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'''[[大麻]]'''(たいま)として、1961年の[[麻薬に関する単一条約]]で国際統制されるのは、繊維や種子や園芸「以外」を目的とした花や果実のついた枝端である<ref name="単一条約1"/><ref name="単一条約2"/>。一方、日本では[[大麻取締法]]の大麻として繊維型の品種「も」葉と花穂が規制されており<ref name="大麻草品種"/>、種子や茎を除外している。 |
'''[[大麻]]'''(たいま)として、1961年の[[麻薬に関する単一条約]]で国際統制されるのは、繊維や種子や園芸「以外」を目的とした花や果実のついた枝端である<ref name="単一条約1"/><ref name="単一条約2"/>。一方、日本では[[大麻取締法]]の大麻として、カンナビス・サティバ・エル繊維型の品種「も」葉と花穂が規制されており<ref name="大麻草品種"/>、種子や茎を除外している。品種の葉や花には向精神性の[[テトラヒドロカンナビノール]] (THC) が多く、摂取すると陶酔する。薬用型あるいはマリファナと呼ばれる<ref name="pmid17712811"/>。 |
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'''ヘンプ''' ([[:en:Hemp|hemp]]) は、繊維利用のために品種改良した麻の呼称で、繊維利用の研究が進んだ欧米諸国でそう呼ばれ、規制法で表記される植物名のカンナビスと区別している。[[ディーゼルエンジン]]などに使用できる[[化石燃料]]よりも低公害の油をとることもでき<ref>10キログラムの麻の実から約2リットルのオイルを搾ることができる。[http://colocal.jp/topics/think-japan/tsukuru/20140909_36676.html 麻でまちおこし 鳥取県智頭町の挑戦。「八十八や」後編(ヘンプカープロジェクト)] コロカル Local Network Magazine 2014年9月9日</ref>、近年その茎から採れる丈夫な[[植物繊維]]が[[エコロジー]]の観点から再認識されている。 |
'''ヘンプ''' ([[:en:Hemp|hemp]]) は、繊維型とされ、繊維利用のために品種改良した麻の呼称で、繊維利用の研究が進んだ欧米諸国でそう呼ばれ、規制法で表記される植物名のカンナビスと区別している。[[ディーゼルエンジン]]などに使用できる[[化石燃料]]よりも低公害の油をとることもでき<ref>10キログラムの麻の実から約2リットルのオイルを搾ることができる。[http://colocal.jp/topics/think-japan/tsukuru/20140909_36676.html 麻でまちおこし 鳥取県智頭町の挑戦。「八十八や」後編(ヘンプカープロジェクト)] コロカル Local Network Magazine 2014年9月9日</ref>、近年その茎から採れる丈夫な[[植物繊維]]が[[エコロジー]]の観点から再認識されている。 |
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広義には、アサは麻繊維を採る植物の総称であり、[[亜麻]]や[[苧麻]](カラムシ)、[[黄麻]](ジュート)、[[マニラ麻]]、[[サイザル麻]]を指すことがあるが、本項目とは別の植物である。 |
広義には、アサは麻繊維を採る植物の総称であり、[[亜麻]]や[[苧麻]](カラムシ)、[[黄麻]](ジュート)、[[マニラ麻]]、[[サイザル麻]]を指すことがあるが、本項目とは別の植物である。 |
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== 種 == |
== 種 == |
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[[ファイル:Cannab2 new.png|thumb|right|大麻の形態学による違い]] |
[[ファイル:Cannab2 new.png|thumb|right|大麻の形態学による違い]] |
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真の野生の大麻は失われており、人間が栽培した種に起源をもつ<ref name="pmid17712811"/>。現在の分類体系では、 |
真の野生の大麻は失われており、人間が栽培した種に起源をもつ<ref name="pmid17712811"/>。現在の分類体系では、単一の種 ''Cannabis sativa''、あるいは亜種 ''sativa''だけでなく、''indica'' との2種、また ''ruderalis'' を加えて3種として言及される<ref name="pmid28107530">{{cite journal|last1=Scali|first1=Monica|last2=Dufresnes|first2=Christophe|last3=Jan|first3=Catherine|coauthors=et al.|title=Broad-Scale Genetic Diversity of Cannabis for Forensic Applications|journal=PLOS ONE|volume=12|issue=1|pages=e0170522|year=2017|pmid=28107530|pmc=5249207|doi=10.1371/journal.pone.0170522|url=http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0170522}}</ref><ref name="pmid22014239"/>。かつて[[クワ科]]とされていたが、DNAの類似性から[[アサ科]]にまとめられる。形態的にも、[[托葉]]が相互に合着しない、[[種子]]に[[胚乳]]がある等の点でクワ科と区別できる。 |
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:'''''Cannabis''''' |
:'''''Cannabis''''' |
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:::''C. sativa'' subsp. ''ruderalis'' |
:::''C. sativa'' subsp. ''ruderalis'' |
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カンナビス・サティバ ''Cannabis sativa'' は、[[レオンハルト・フックス|フックス]]が1542年の草本誌で最初に用い、欧州の麻(hemp)が描かれていた<ref name="pmid17712811">{{cite journal|last1=Russo|first1=Ethan B.|title=History of Cannabis and Its Preparations in Saga, Science, and Sobriquet|journal=Chemistry & Biodiversity|volume=4|issue=8|pages=1614–1648|year=2007|pmid=17712811|doi=10.1002/cbdv.200790144}}</ref>。1753年の『植物の種』(''Species Plantarum'')で[[カール・フォン・リンネ|リンネ]]が、単一型として割り当てたが、しばらくすると[[ジャン=バティスト・ラマルク|ラマルク]]は短く精神作用のあるインディカ''indica'' をインド亜大陸の形態学的に異なるものだと説明した<ref name="pmid17712811"/>。{{仮リンク|リチャード・エヴァンズ・シュルテス|en|Richard Evans Schultes|label=シュルテス}}や Anderson は、形態学的に''Cannabis sativa L.''(高く育ち、繊維、種子、精神作用に使われる)、''Cannabis indica Lam.''(短く、ハシシがとれる)、''Cannabis ruderalis Jan.''(短く、枝分かれがない)の3種を推定した |
カンナビス・サティバ ''Cannabis sativa'' は、[[レオンハルト・フックス|フックス]]が1542年の草本誌で最初に用い、欧州の麻(hemp)が描かれていた<ref name="pmid17712811">{{cite journal|last1=Russo|first1=Ethan B.|title=History of Cannabis and Its Preparations in Saga, Science, and Sobriquet|journal=Chemistry & Biodiversity|volume=4|issue=8|pages=1614–1648|year=2007|pmid=17712811|doi=10.1002/cbdv.200790144}}</ref>。1753年の『植物の種』(''Species Plantarum'')で[[カール・フォン・リンネ|リンネ]]が、単一型として割り当てたが、しばらくすると[[ジャン=バティスト・ラマルク|ラマルク]]は短く精神作用のあるインディカ''indica'' をインド亜大陸の形態学的に異なるものだと説明した<ref name="pmid17712811"/>。{{仮リンク|リチャード・エヴァンズ・シュルテス|en|Richard Evans Schultes|label=シュルテス}}や Anderson は、形態学的に''Cannabis sativa L.''(高く育ち、繊維、種子、精神作用に使われる)、''Cannabis indica Lam.''(短く、ハシシがとれる)、''Cannabis ruderalis Jan.''(短く、枝分かれがない)の3種を推定した。 |
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2003年の短い[[反復配列|反復配列]]によるDNA指標は、繊維型と薬物型を明確に区別しなかった<ref name="pmid17712811"/><ref name="pmid12505473">{{cite journal|last1=Gilmore|first1=Simon|last2=Peakall|first2=Rod|last3=Robertson|first3=James|coauthors=et al.|title=Short tandem repeat (STR) DNA markers are hypervariable and informative in Cannabis sativa: implications for forensic investigations|journal=Forensic Science International|volume=131|issue=1|pages=65–74|year=2003|pmid=12505473|doi=10.1016/S0379-0738(02)00397-3}}</ref>。繊維型と薬用型の区別は、THCの量によって決定されており、形態的な区別はできない<ref name="pmid28107530"/>。 |
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⚫ | 2004年、 Karl Hillig と Paul Mahlberg は157種の麻の体型的な化学分類を行い、現在のカザフスタンにおけるサティバ ''sativa''の起源的な発生地、西ヒマラヤを起源とするインディカ ''indica'' の地図を描き、また中央アジアの ''ruderalis'' は第三の遺伝子プールが推定される<ref name="pmid17712811"/>。サティバとインディカの分裂は人間の介入に先行している可能性があった<ref name="pmid17712811"/>。カンナビノイドの合成につながる遺伝的な起源は、インディカにあるようである<ref name="pmid17712811"/>。2005年の研究も[[RFLP|断片長多型]]はこれを裏付ける<ref name="pmid17712811"/>。また、8か国53の大麻から、[[ルテオリン]]-C-グリクロニドはサティバから検出されるが、インディカからの検出はまれであり[[遺伝子流動]]が制限されている<ref name="pmid17712811"/>。 |
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2011年に、麻の[[ゲノム]]の草案が発表されている<ref name="pmid22014239">{{cite journal|last1=an Bakel|first1=Harm|last2=Stout|first2=Jake M|last3=Cote|first3=Atina G|coauthors=et al.|title=The draft genome and transcriptome of Cannabis sativa|journal=Genome Biology|volume=12|issue=10|pages=R102|year=2011|pmid=22014239|pmc=3359589|doi=10.1186/gb-2011-12-10-r102|url=https://genomebiology.biomedcentral.com/articles/10.1186/gb-2011-12-10-r102}}</ref>。薬用型と繊維型の遺伝子的な相違は、用途によって栽培してきた慣行によりヒト遺伝子に例るとヨーロッパ人と東アジア人の程度であるが、サティバとインディカでは栽培の慣行のためかその祖先を同定することは部分的にしかできない<ref name="pmid26308334">{{cite journal|last1=Tinker|first1=Nicholas A.|last2=Sawler|first2=Jason|last3=Stout|first3=Jake M.|coauthors=et al.|title=The Genetic Structure of Marijuana and Hemp|journal=PLOS ONE|volume=10|issue=8|pages=e0133292|year=2015|pmid=26308334|pmc=4550350|doi=10.1371/journal.pone.0133292|url=http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0133292}}</ref>。 |
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本項とは別の植物として、広義に麻とされる種類には、イラクサ科の[[カラムシ|苧麻]](カラムシ)、アマ科の[[アマ (植物)|亜麻]]など、植物学上の分類が異なる20種類がある{{sfn|松田恭子|2012|p=21}}。これらに麻の字があてられたのは、屋根の下で茎をこすり繊維を取り出すことからきており、強くて長い繊維を総称しているため、明治以降に外来のマニラ麻などと区別するために、本項アサが大麻と名付けられた{{sfn|松田恭子|2012|p=21}}。ほかに[[シナノキ科]]の[[黄麻]](ジュート)、[[バショウ科]]の[[マニラ麻]]、[[キジカクシ科]]の[[サイザル麻]]もアサと呼ばれることがある。 |
本項とは別の植物として、広義に麻とされる種類には、イラクサ科の[[カラムシ|苧麻]](カラムシ)、アマ科の[[アマ (植物)|亜麻]]など、植物学上の分類が異なる20種類がある{{sfn|松田恭子|2012|p=21}}。これらに麻の字があてられたのは、屋根の下で茎をこすり繊維を取り出すことからきており、強くて長い繊維を総称しているため、明治以降に外来のマニラ麻などと区別するために、本項アサが大麻と名付けられた{{sfn|松田恭子|2012|p=21}}。ほかに[[シナノキ科]]の[[黄麻]](ジュート)、[[バショウ科]]の[[マニラ麻]]、[[キジカクシ科]]の[[サイザル麻]]もアサと呼ばれることがある。 |
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==成分== |
==成分== |
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葉・花には薬理作用がある成分が多く含まれる。 |
葉・花には薬理作用がある成分が多く含まれる。特に、雌の花穂に樹脂が生成され、THCが多く、これを原料にハシシが製造される。 |
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麻には、100以上のTHCのような[[カンナビノイド]]が含まれる。体内では神経調節物質として{{仮リンク|エンドカンナビノイド|en|endocannabinoids}}(内因性カンナビノイド)が産生され、そのカンナビノイド受容体は全身に広がっており多くの異なる機能に関与しているため、そのことが大麻の医療応用性の広さの理由となる。<ref name="pmid26398738"/>麻の実(種子)にも少なくとも鳥の餌用として日本で販売されていた10製品や<ref name="naid110003649170">{{Cite journal |和書|author1=松永民秀 |author2=渡辺和人 |author3=吉村英敏 |author4=山本郁男 |date=1998-09-01 |title=市販の大麻種子中のカンナビノイドの定量とその薬毒理作用 |journal=藥學雜誌 |volume=118 |issue=9 |pages=408-414 |naid=110003649170 |doi=10.1248/yakushi1947.118.9_408 |url=http://doi.org/10.1248/yakushi1947.118.9_408}}</ref>、麻油から少ないながらカンナビノイドは検出されている<ref name="naid110003641854">{{Cite journal |和書|author1=世取山守 |author2=岡田安雄 |author3=鈴木邦夫 |date=1992 |title=キャピラリーガスクロマトグラフィーによる大麻油中のカンナビノイドの定量 |journal=衛生化学 |volume=38 |issue=undefined |pages=471-475 |naid=110003641854}}</ref>。 |
麻には、100以上のTHCのような[[カンナビノイド]]が含まれる。体内では神経調節物質として{{仮リンク|エンドカンナビノイド|en|endocannabinoids}}(内因性カンナビノイド)が産生され、そのカンナビノイド受容体は全身に広がっており多くの異なる機能に関与しているため、そのことが大麻の医療応用性の広さの理由となる。<ref name="pmid26398738"/>麻の実(種子)にも少なくとも鳥の餌用として日本で販売されていた10製品や<ref name="naid110003649170">{{Cite journal |和書|author1=松永民秀 |author2=渡辺和人 |author3=吉村英敏 |author4=山本郁男 |date=1998-09-01 |title=市販の大麻種子中のカンナビノイドの定量とその薬毒理作用 |journal=藥學雜誌 |volume=118 |issue=9 |pages=408-414 |naid=110003649170 |doi=10.1248/yakushi1947.118.9_408 |url=http://doi.org/10.1248/yakushi1947.118.9_408}}</ref>、麻油から少ないながらカンナビノイドは検出されている<ref name="naid110003641854">{{Cite journal |和書|author1=世取山守 |author2=岡田安雄 |author3=鈴木邦夫 |date=1992 |title=キャピラリーガスクロマトグラフィーによる大麻油中のカンナビノイドの定量 |journal=衛生化学 |volume=38 |issue=undefined |pages=471-475 |naid=110003641854}}</ref>。 |
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アサに含まれる陶酔成分が[[テトラヒドロカンナビノール]] (THC) であり、その効果を打ち消す成分が[[カンナビジオール]] (CBD) である。 |
アサに含まれる陶酔成分が[[テトラヒドロカンナビノール]] (THC) であり、その効果を打ち消す成分が[[カンナビジオール]] (CBD) である。 |
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アサの薬用型、繊維型といった品種は、THC と CBD の含有率によって決定され、薬用型では THC が2-25%含まれ CBD は少なく、繊維型では CBD が THC よりも多く THC が0.25%未満である<ref name="大麻草品種"/>。アメリカ、カナダ、オーストラリアでは、THC が0.3%未満の品種を産業用ヘンプと呼ぶ<ref name="大麻草品種"/>。40ほどの品種が登録されている<ref name="大麻草品種"/>。 |
アサの薬用型、繊維型といった品種は、THC と CBD の含有率によって決定され、薬用型では THC が2-25%含まれ CBD は少なく、繊維型では CBD が THC よりも多く THC が0.25%未満である<ref name="大麻草品種">{{Cite journal |和書|author=赤星栄志|date=2013-1 |title=大麻草の品種とTHC(マリファナ成分) |url=http://agri-biz.jp/item/detail/7658|journal=農業経営者|volume=|issue=2013年2月号|pages=48-50}}</ref>。アメリカ、カナダ、オーストラリアでは、THC が0.3%未満の品種を産業用ヘンプと呼ぶ<ref name="大麻草品種"/>。40ほどの品種が登録されている<ref name="大麻草品種"/>。 |
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日本の本州に自生するアサは、THCの含有率が0.08%から1.68%であり、CBDの多い繊維型である<ref name="大麻草品種"/>。日本では、後述する品種が改善された「とちぎしろ」で THC が0.2%から0.3%<ref name="大麻草品種"/>、古来栽培されてきた在来種では1%前後である{{sfn|松田恭子|2012|p=22}}。 |
日本の本州に自生するアサは、THCの含有率が0.08%から1.68%であり、CBDの多い繊維型である<ref name="大麻草品種"/>。日本では、後述する品種が改善された「とちぎしろ」で THC が0.2%から0.3%<ref name="大麻草品種"/>、古来栽培されてきた在来種では1%前後である{{sfn|松田恭子|2012|p=22}}。 |
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一般に、登録された種苗は、品種の純性を保つために専門機関によって隔離栽培され、種子が栽培者に提供される。この仕組みを遵守することで、産業用に栽培される大麻に向精神性の成分が含まれないようにすることは十分に可能であり、事実[[フランス]]などでは問題は起こっていない。 |
一般に、登録された種苗は、品種の純性を保つために専門機関によって隔離栽培され、種子が栽培者に提供される。この仕組みを遵守することで、産業用に栽培される大麻に向精神性の成分が含まれないようにすることは十分に可能であり、事実[[フランス]]などでは問題は起こっていない。 |
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また、品種が同じでも用途に応じて栽培方式が違う。繊維型は縦に伸ばすために密集して露地に植えられる方式が主であるが、薬用型は枝を横に伸ばすために屋内栽培が多い。こうした理由のため、嗜好目的のためのアサを産業用だと偽って栽培するのは困難である。 |
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===とちぎしろ=== |
===とちぎしろ=== |
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それでも昔から生産者の間では収穫期のアサ畑では「麻酔い」をすることが経験的に知られていた<ref name="大麻草品種"/>。1974年から品種を改善しており |
それでも昔から生産者の間では収穫期のアサ畑では「麻酔い」をすることが経験的に知られていた<ref name="大麻草品種"/>。品質のいい白木という品種に、無毒の在来種をかけあわせて{{sfn|松田恭子|2012|p=23}}、1974年から品種を改善しており1982年に品種名「とちぎしろ」として種苗登録された<ref name="naid40002727610">{{Cite journal |和書|author=高島大典 |date=1982-10 |title=無毒アサ「とちぎしろ」の育成について |journal=栃木県農業試験場研究報告 |issue=28 |pages=p47-54 |naid=40002727610 |url=http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010272153|format=pdf}}</ref>。無毒アサ、無毒大麻と呼ばれている<ref name="naid40002727610"/><ref name="naid40017439363"/>。THC含有率は0.2%であり、先に述べた産業用ヘンプの基準にも適合する<ref name="大麻草品種"/>。1984年には栃木県の麻はすべてとちぎしろに転換され、それからも品種の選別、精製過程の改善を経て期待通りの製品が出荷できるまでになった<ref name="静かな夜"/>。 |
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アサはその繁殖プロセスから、[[花粉]]が周囲2km程度に飛散する<!--出典なし-->。THCの多い種と交配することで容易にTHCの多い種になることから、1984年には栽培種をすべてとちぎしろに移行し、無毒の状態は毎年検査され保たれている<ref name="naid40017439363">{{Cite journal |和書|author=黒崎かな子 |date=2011-01 |title=お国自慢-地方衛生研究所シリーズ(10)無毒大麻「とちぎしろ」の開発-栃木県保健環境センター |journal=公衆衛生 |volume=75 |issue=1 |pages=69-71 |naid=40017439363}} [http://medicalfinder.jp/doi/pdf/10.11477/mf.1401102008 要旨]</ref>。 |
アサはその繁殖プロセスから、[[花粉]]が周囲2km程度に飛散する<!--出典なし-->。THCの多い種と交配することで容易にTHCの多い種になることから、1984年には栽培種をすべてとちぎしろに移行し、無毒の状態は毎年検査され保たれている<ref name="naid40017439363">{{Cite journal |和書|author=黒崎かな子 |date=2011-01 |title=お国自慢-地方衛生研究所シリーズ(10)無毒大麻「とちぎしろ」の開発-栃木県保健環境センター |journal=公衆衛生 |volume=75 |issue=1 |pages=69-71 |naid=40017439363}} [http://medicalfinder.jp/doi/pdf/10.11477/mf.1401102008 要旨]</ref>。薬用型は、葉の先の色が違い一見して分かるが、それが生育していたことはない{{sfn|松田恭子|2012|p=24}}。 |
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それでも栃木県は種を厳重に管理して県外への譲渡を認めておらず、2016年12月には規定を改正して県内栽培者に県外からの研修生や見学の受け入れを禁止した<ref name="神社困った">{{Cite news|url=http://www.nikkei.com/article/DGKKASDG10H0W_Q7A210C1CC0000/|title=「細る国産麻 神社困った」の解説記事「大麻 減らぬ乱用」|work=|publisher=[[日本経済新聞]]夕刊|date=2017年2月10日}}</ref>。 |
それでも栃木県は種を厳重に管理して県外への譲渡を認めておらず、2016年12月には規定を改正して県内栽培者に県外からの研修生や見学の受け入れを禁止した<ref name="神社困った">{{Cite news|url=http://www.nikkei.com/article/DGKKASDG10H0W_Q7A210C1CC0000/|title=「細る国産麻 神社困った」の解説記事「大麻 減らぬ乱用」|work=|publisher=[[日本経済新聞]]夕刊|date=2017年2月10日}}</ref>。 |
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===違法栽培等=== |
===違法栽培等=== |
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北海道では自生するアサを採取してマリファナを生成する個人愛好家もいる<ref>北海道警察本部編『[http://www.police.pref.hokkaido.jp/statis/images/hokuto_anzen2006.pdf 平成17年版 北斗の安全]』(PDF) 北海道警察、30頁、2006年7月</ref>。過去に栽培されていたものが野生化しているため人里に近いことが多く、特に北海道が野生化に適しているようである<ref name="古代の森"/>。 |
北海道では自生するアサを採取してマリファナを生成する個人愛好家もいる<ref>北海道警察本部編『[http://www.police.pref.hokkaido.jp/statis/images/hokuto_anzen2006.pdf 平成17年版 北斗の安全]』(PDF) 北海道警察、30頁、2006年7月</ref>。戦前、麻の生産が奨励されており{{sfn|松田恭子|2012|p=26}}、過去に栽培されていたものが野生化しているため人里に近いことが多く、特に北海道が野生化に適しているようである<ref name="古代の森"/>。 |
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基本的に発芽防止処理が施されているが<ref name="naid130004485349">{{Cite journal |和書|author1=桐原美穂 |author2=川端三十一 |date=2010 |title=大麻種子の発芽能力鑑定法 |journal=日本法科学技術学会誌 |volume=15 |issue=1 |pages=59-64 |naid=130004485349 |doi=10.3408/jafst.15.59 |url=http://dx.doi.org/10.3408/jafst.15.59}}</ref>、七味唐辛子の麻の実や<ref>{{cite news |title=大麻所持容疑で作家の故・吉川英治氏の孫を逮捕、「七味唐辛子の実から栽培」/神奈川県警 |url=http://www.kanaloco.jp/article/24837 |date=2011-2-11 |newspaper=神奈川新聞 |accessdate=2017-10-1}}</ref>、鳥の餌の麻の実から大麻を栽培し逮捕された例はある<ref>{{cite news |title=鳥の餌「麻の実」から大麻栽培 男を起訴 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG02H1B_S6A101C1CC0000/ |date=2016-11-2 |newspaper=日本経済新聞 |accessdate=2017-10-1}}</ref>。(後述するが種子は国際法、日本法共に規制対象ではない) |
基本的に発芽防止処理が施されているが<ref name="naid130004485349">{{Cite journal |和書|author1=桐原美穂 |author2=川端三十一 |date=2010 |title=大麻種子の発芽能力鑑定法 |journal=日本法科学技術学会誌 |volume=15 |issue=1 |pages=59-64 |naid=130004485349 |doi=10.3408/jafst.15.59 |url=http://dx.doi.org/10.3408/jafst.15.59}}</ref>、七味唐辛子の麻の実や<ref>{{cite news |title=大麻所持容疑で作家の故・吉川英治氏の孫を逮捕、「七味唐辛子の実から栽培」/神奈川県警 |url=http://www.kanaloco.jp/article/24837 |date=2011-2-11 |newspaper=神奈川新聞 |accessdate=2017-10-1}}</ref>、鳥の餌の麻の実から大麻を栽培し逮捕された例はある<ref>{{cite news |title=鳥の餌「麻の実」から大麻栽培 男を起訴 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG02H1B_S6A101C1CC0000/ |date=2016-11-2 |newspaper=日本経済新聞 |accessdate=2017-10-1}}</ref>。(後述するが種子は国際法、日本法共に規制対象ではない) |
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人類による植物の栽培の早期から人類と共存してきており、それは人類による栽培ゆえに真の野生種は絶滅したと考えられているほどである<ref name="pmid5531363">{{cite journal|last1=Pollio|first1=Antonino|title=The Name of Cannabis: A Short Guide for Nonbotanists|journal=Cannabis and Cannabinoid Research|volume=1|issue=1|pages=234–238|year=2016|pmid=5531363|doi=10.1089/can.2016.0027}}</ref>。縄文時代早期から前期の日本の9500-10500年前の複数の貝塚からアサの果実(実)が見つかっており、栽培された可能性は高いが、いずれにせよ食用であるため利用されていたことには間違いがない<ref name="古代の森">{{cite web |title=アサについて |url=http://kodainomori.jp/cannnabis.html |date=2017<!--2017年のアクセス時に2017年の文献が含まれている-->|publisher=古代の森研究舎 |accessdate=2017-9-20}}</ref>。 |
人類による植物の栽培の早期から人類と共存してきており、それは人類による栽培ゆえに真の野生種は絶滅したと考えられているほどである<ref name="pmid5531363">{{cite journal|last1=Pollio|first1=Antonino|title=The Name of Cannabis: A Short Guide for Nonbotanists|journal=Cannabis and Cannabinoid Research|volume=1|issue=1|pages=234–238|year=2016|pmid=5531363|doi=10.1089/can.2016.0027}}</ref>。縄文時代早期から前期の日本の9500-10500年前の複数の貝塚からアサの果実(実)が見つかっており、栽培された可能性は高いが、いずれにせよ食用であるため利用されていたことには間違いがない<ref name="古代の森">{{cite web |title=アサについて |url=http://kodainomori.jp/cannnabis.html |date=2017<!--2017年のアクセス時に2017年の文献が含まれている-->|publisher=古代の森研究舎 |accessdate=2017-9-20}}</ref>。 |
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薬としての最初の使用は、起源前2700年前 |
薬としての最初の使用は、起源前2700年前の伝説の中国の皇帝の[[神農]]の教えを伝える2世紀の『[[神農本草経]]』に書かれている<ref name="pmid26398731">{{cite journal|last1=Pain|first1=Stephanie|title=A potted history|journal=Nature|volume=525|issue=7570|pages=S10–S11|year=2015|pmid=26398731|doi=10.1038/525S10a|url=https://www.nature.com/nature/journal/v525/n7570_supp/full/525S10a.html}}</ref>。『神農本草経』には、麻の花穂「麻蕡」(まふん)として集録されるが、古代中国の文書でもこのようなシャーマニズム的な使用はみられない<ref name="pmid16810401">{{cite journal|last1=Zuardi|first1=Antonio Waldo|title=History of cannabis as a medicine: a review|journal=Revista Brasileira de Psiquiatria|volume=28|issue=2|pages=153–157|year=2006|pmid=16810401|doi=10.1590/S1516-44462006000200015|url=http://dx.doi.org/10.1590/S1516-44462006000200015 }}</ref>。中国の[[新疆ウイグル自治区]]にて、2700年前に精神活性あるいは占いに用いられたとみられる大量貯蔵された大麻が発掘されており<ref>{{cite journal|authors=Russo EB, Jiang HE, Li X, et al.|title=Phytochemical and genetic analyses of ancient cannabis from Central Asia|journal=Journal of Experimental Botany|volume=59|issue=15|pages=4171–4182|year=2008|pmid=19036842|pmc=2639026|doi=10.1093/jxb/ern260|url=http://jxb.oxfordjournals.org/content/59/15/4171.full}}</ref>、2500年前の中国の古代都市の[[車師]]の墓地からも、花穂の特徴から摂取を目的としたと考えられる大麻が出土している<ref>{{cite web |author=Jason Bittel、ルーバー荒井ハンナ・訳 |title=2500年前の墓から完全な大麻草13本を発見 |url=http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/100600012/ |date=2016-10-07 |publisher=ナショナル・グラフィック日本語版 |accessdate=2016-12-28}}</ref>。シャーマニズムは中国ではむしろ制限されてきたが、インドでの大麻の普及に貢献した遊牧民族に一般的である<ref name="pmid16810401"/>。ヒマラヤで発展した仏教の[[密教]]では、瞑想を容易にするため大麻が用いられた<ref name="pmid16810401"/>。 |
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=== 日本 === |
=== 日本 === |
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[[神道]]では神聖な植物として扱われ、日本の皇室にも麻の糸、麻の布として納められている。『[[古語拾遺]]』に神道の祭祀で貢った品物の中に麻も含まれ『[[延喜式]]』にも同様である<ref name="万葉植物">{{cite web |author=庄司信洲 |title=麻の理美 万葉植物から伝統文化を学ぶ |url=http://www.aichi-kyosai.or.jp/service/culture/internet/japan/tradition/tradition_1/post_1255.html |publisher=愛知県民共済 |accessdate=2017-10-1}}</ref>。古来の古墳からは荒妙(あらたえ)だけでなく、現在絹で作られる和妙(にぎたえ)も麻で作られていたことが分かっている<ref>{{Cite book |和書|author=[[鳥居龍蔵]]|date=1935|title=上代の日向延岡|url=https://books.google.co.jp/books?id=9Qa3R-AJ9oEC&pg=PT246|publisher=|pages=87-94}}</ref>。また、『[[古語拾遺]]』によれば、現在の千葉県にあたる古名「[[総国]]」は麻の稔る土地であることから命名されたと伝えられている(ただし、近年の考古資料などの研究から、本来の表記は「捄国」で麻の稔った房を意味していたとする見方が出されている)<ref>『千葉県の歴史 通史編 古代2』(千葉県、2001年)第1編第2章「房総三国の成立」 </ref>。[[伊勢神宮]]の特に重要な祭典では、麻を頭に巻いたりたすき掛けにしており<ref name="伊勢志摩伊勢麻"/>、この祭式は[[一之宮貫前神社|貫前神社]]の[[式年遷宮]]でもみられる<ref>{{YouTube|bSRtPGpaE|映画「麻てらす 〜よりひめ 岩戸開き物語〜」予告編}}</ref>。 |
[[神道]]では神聖な植物として扱われ、日本の皇室にも麻の糸、麻の布として納められている。『[[古語拾遺]]』に神道の祭祀で貢った品物の中に麻も含まれ『[[延喜式]]』にも同様である<ref name="万葉植物">{{cite web |author=庄司信洲 |title=麻の理美 万葉植物から伝統文化を学ぶ |url=http://www.aichi-kyosai.or.jp/service/culture/internet/japan/tradition/tradition_1/post_1255.html |publisher=愛知県民共済 |accessdate=2017-10-1}}</ref>。古来の古墳からは荒妙(あらたえ)だけでなく、現在絹で作られる和妙(にぎたえ)も麻で作られていたことが分かっている<ref>{{Cite book |和書|author=[[鳥居龍蔵]]|date=1935|title=上代の日向延岡|url=https://books.google.co.jp/books?id=9Qa3R-AJ9oEC&pg=PT246|publisher=|pages=87-94}}</ref>。また、『[[古語拾遺]]』によれば、現在の千葉県にあたる古名「[[総国]]」は麻の稔る土地であることから命名されたと伝えられている(ただし、近年の考古資料などの研究から、本来の表記は「捄国」で麻の稔った房を意味していたとする見方が出されている)<ref>『千葉県の歴史 通史編 古代2』(千葉県、2001年)第1編第2章「房総三国の成立」 </ref>。[[伊勢神宮]]の特に重要な祭典では、麻を頭に巻いたりたすき掛けにしており<ref name="伊勢志摩伊勢麻"/>、この祭式は[[一之宮貫前神社|貫前神社]]の[[式年遷宮]]でもみられる<ref>{{YouTube|bSRtPGpaE|映画「麻てらす 〜よりひめ 岩戸開き物語〜」予告編}}</ref>。 |
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栃木県農業試験場は1917年(大正6年)には、日本の研究拠点となり、1929年には麻の優良品種「栃試一号」を開発し、また「南押原一号」もであり、全国の作付けのおよそ半分を栃木県が占めた<ref name="静かな夜">{{Cite journal |和書|author=|date=|title=農業試験場のプロジェクトX 6 静かな夜を取り戻せ!~無毒麻品種「とちぎしろ」の育成|url=http://www.pref.tochigi.lg.jp/g59/documents/prox06asa.pdf|format=pdf|journal=くらしと農業|volume=|issue=|page=}}</ref>。戦前、日本の小学校の教科書では栽培方法や用途が教えられ<ref>理科研究会『[{{NDLDC|813876/35}} 小学理科詳解 高等第1学年]』1909年(明治42年)、58-60頁。</ref>、中学生や教員には、昔から広く栽培され、特に衣服に重宝されたと教えられている<ref>松村任三,斎田功太郎 著 『[{{NDLDC|832562/52}} 中等植物教科書]』1897年(明治30年)、91-93頁。</ref><ref>浜幸次郎,稲葉彦六 著 『[{{NDLDC|825946/43}} 新理科書教員用2巻]』1901年(明治34年)、82頁。</ref>。1940年には、繊維の需要拡大により麻の流通を統制するための一元機関として、農林省が日本原麻を設立する<ref name="原麻設立">「原麻配給統制へ 日本原麻設立」『朝日新聞』1940年6月7日4面</ref>。 |
栃木では麻の在来種に「白木」「赤木」「青木」があり、品質のいい白木が多く栽培されてきた{{sfn|松田恭子|2012|p=23}}、栃木県農業試験場は1917年(大正6年)には、日本の研究拠点となり、1929年には麻の優良品種「栃試一号」を開発し、また「南押原一号」もであり、全国の作付けのおよそ半分を栃木県が占めた<ref name="静かな夜">{{Cite journal |和書|author=|date=|title=農業試験場のプロジェクトX 6 静かな夜を取り戻せ!~無毒麻品種「とちぎしろ」の育成|url=http://www.pref.tochigi.lg.jp/g59/documents/prox06asa.pdf|format=pdf|journal=くらしと農業|volume=|issue=|page=}}</ref>。戦前、日本の小学校の教科書では栽培方法や用途が教えられ<ref>理科研究会『[{{NDLDC|813876/35}} 小学理科詳解 高等第1学年]』1909年(明治42年)、58-60頁。</ref>、中学生や教員には、昔から広く栽培され、特に衣服に重宝されたと教えられている<ref>松村任三,斎田功太郎 著 『[{{NDLDC|832562/52}} 中等植物教科書]』1897年(明治30年)、91-93頁。</ref><ref>浜幸次郎,稲葉彦六 著 『[{{NDLDC|825946/43}} 新理科書教員用2巻]』1901年(明治34年)、82頁。</ref>。1940年には、繊維の需要拡大により麻の流通を統制するための一元機関として、農林省が日本原麻を設立する<ref name="原麻設立">「原麻配給統制へ 日本原麻設立」『朝日新聞』1940年6月7日4面</ref>。 |
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このように日本においては、第二次世界大戦以前は国家により大麻の栽培・生産が奨励されていたが、戦後の[[1947年]](昭和22年)4月23日に[[連合軍総司令部]](GHQ)が[[ポツダム宣言]]に基づき公布した大麻取締規則その後の[[大麻取締法]]によって、産業用大麻にまで規制強化を行うようになった{{sfn|山本郁男|1992}}。GHQが日本に公布した「大麻取締規則」をさかのぼると、アメリカ合衆国での[[万国阿片条約]]に基づいた、アメリカ国内での厳しい大麻取締規定であるが、国際あへん会議での大麻についての議論であったため、大麻の独特の薬理作用と、ほかの麻薬との作用の違いが不明確なまま、麻薬とされるに至ることになった{{sfn|山本郁男|1992}}。 |
このように日本においては、第二次世界大戦以前は国家により大麻の栽培・生産が奨励されていたが、戦後の[[1947年]](昭和22年)4月23日に[[連合軍総司令部]](GHQ)が[[ポツダム宣言]]に基づき公布した大麻取締規則その後の[[大麻取締法]]によって、産業用大麻にまで規制強化を行うようになった{{sfn|山本郁男|1992}}。GHQが日本に公布した「大麻取締規則」をさかのぼると、アメリカ合衆国での[[万国阿片条約]]に基づいた、アメリカ国内での厳しい大麻取締規定であるが、国際あへん会議での大麻についての議論であったため、大麻の独特の薬理作用と、ほかの麻薬との作用の違いが不明確なまま、麻薬とされるに至ることになった{{sfn|山本郁男|1992}}。 |
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{{Quotation|大麻は御承知の通り麻の纎維の原料植物であります。これは当初日本におきましては、大麻は麻薬の原料植物であるということを考えておらなかつたのでありまするが、連合軍が進駐以来日本の麻を調べましたところ、これが取締りの対象になるものである。そういうような解釈のもとで、先方よりメモランダムが出まして、これによつて大麻取締法を制定しまして取締ることになつたのであります。そうして今までわが国におきましては、大麻から麻薬をつくつてこれを悪用する、あるいはこれを使用する、そういうようなことが全然なかつたわけでありまして、現在もまたありませんのでございます。しかしながら原料植物である大麻を大量に使いますと、麻薬をとることもでき得るわけでありますので、一応これを取締る必要はあるわけであります。|里見卓郎(薬務局麻薬課長) - {{Cite conference|title=衆議院会議録厚生委員会 |conference=第7回国会|volume=12|date=1950-3-3|url=http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/007/0790/00703130790012a.html }}}} |
{{Quotation|大麻は御承知の通り麻の纎維の原料植物であります。これは当初日本におきましては、大麻は麻薬の原料植物であるということを考えておらなかつたのでありまするが、連合軍が進駐以来日本の麻を調べましたところ、これが取締りの対象になるものである。そういうような解釈のもとで、先方よりメモランダムが出まして、これによつて大麻取締法を制定しまして取締ることになつたのであります。そうして今までわが国におきましては、大麻から麻薬をつくつてこれを悪用する、あるいはこれを使用する、そういうようなことが全然なかつたわけでありまして、現在もまたありませんのでございます。しかしながら原料植物である大麻を大量に使いますと、麻薬をとることもでき得るわけでありますので、一応これを取締る必要はあるわけであります。|里見卓郎(薬務局麻薬課長) - {{Cite conference|title=衆議院会議録厚生委員会 |conference=第7回国会|volume=12|date=1950-3-3|url=http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/007/0790/00703130790012a.html }}}} |
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日本における大麻の栽培者数は、1950年代には2-4万人であったが、1960年代には1万人を下回り、大幅な減少を続けていくことになる{{sfn|山本郁男|1990}}。1963年には、大麻所持の罰則が「懲役3年以下または3万円以下の罰金」から「懲役5年以下」へと改正されて重罰化されたが、この際に何らかの根拠を伴って重罰化された訳ではないとする主張もみられる{{sfn|山本郁男|1992}}。事実上新規での栽培許可が出ないため、1994年には栽培者は157名{{sfn|山本郁男|1996}}、2009年末には56人にまで減少している{{sfn|松田恭子|2012|p=21}}。 |
日本における大麻の栽培者数は、1950年代には2-4万人であったが、1960年代には1万人を下回り、大幅な減少を続けていくことになる{{sfn|山本郁男|1990}}。1963年には、大麻所持の罰則が「懲役3年以下または3万円以下の罰金」から「懲役5年以下」へと改正されて重罰化されたが、この際に何らかの根拠を伴って重罰化された訳ではないとする主張もみられる{{sfn|山本郁男|1992}}。事実上新規での栽培許可が出ないため、1994年には栽培者は157名{{sfn|山本郁男|1996}}、2009年末には56人にまで減少している{{sfn|松田恭子|2012|p=21}}。1970年、1979年、1985年ごろにも麻ブームは起きている<ref name="naid130004433795">{{Cite journal |和書|author=川村隆一 |date=2005 |title=近江上布 |journal=繊維学会誌 |volume=61 |issue=9 |pages=P.249-P.252 |naid=130004433795 |doi=10.2115/fiber.61.P_249 |url=http://dx.doi.org/10.2115/fiber.61.P_249}}</ref>。 |
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栃木県の野州大麻は[[神道]]の神事用に栽培され、広島県では漁網、長野県では畳糸であり[[鬼無里村|鬼無里]](きなさ・地名)での技術が高く、繊維では滋賀県の近江上布、岩手県の亀甲織、奈良県の奈良晒(ならざらし)のように伝統工芸として残っている{{sfn|松田恭子|2012|p=27}}。群馬の岩島麻は、過去に上州北麻と呼ばれ「吾妻錦」「黄金の一」といった最上級の製品を生産しており<ref name="岩島"/>、織物としての風合いがよく幻の麻と言われる<ref>[https://kotobank.jp/word/%E5%B2%A9%E5%B3%B6%E9%BA%BB-888735 岩島麻](コトバンク)、『朝日新聞』朝刊群馬全県2地方2009年9月17日の記載 </ref>。1977年には岩島麻保存会が発足し、後に群馬県選定保存技術第一号に認定されている<ref name="岩島">{{cite web |author=東吾妻郡教育委員会 |title=【群馬県】古代より綿々と伝えられてきた伝統技術〜岩島麻保存会〜 |url=http://jimoto-b.com/1942 |date=2014-1-16 |publisher=地元びいき |accessdate=2017-10-1}}</ref>。天皇即位の[[大嘗祭]](だいじょうさい)は、徳島県の三木家による麻の献上が通例であったが、[[明仁|平成天皇]]の即位大嘗祭では、技術が途絶えた徳島に岩島麻保存会が技術を提供した<ref name="岩島"/>。 |
栃木県の野州大麻は[[神道]]の神事用に栽培され、広島県では漁網、長野県では畳糸であり[[鬼無里村|鬼無里]](きなさ・地名)での技術が高く、繊維では滋賀県の近江上布、岩手県の亀甲織、奈良県の奈良晒(ならざらし)のように伝統工芸として残っている{{sfn|松田恭子|2012|p=27}}。近江上布は、苧麻の糸と麻の意図とが組み合わされて用いられる<ref name="naid130004433795"/>。群馬の岩島麻は、過去に上州北麻と呼ばれ「吾妻錦」「黄金の一」といった最上級の製品を生産しており<ref name="岩島"/>、織物としての風合いがよく幻の麻と言われる<ref>[https://kotobank.jp/word/%E5%B2%A9%E5%B3%B6%E9%BA%BB-888735 岩島麻](コトバンク)、『朝日新聞』朝刊群馬全県2地方2009年9月17日の記載 </ref>。1977年には岩島麻保存会が発足し、後に群馬県選定保存技術第一号に認定されている<ref name="岩島">{{cite web |author=東吾妻郡教育委員会 |title=【群馬県】古代より綿々と伝えられてきた伝統技術〜岩島麻保存会〜 |url=http://jimoto-b.com/1942 |date=2014-1-16 |publisher=地元びいき |accessdate=2017-10-1}}</ref>。天皇即位の[[大嘗祭]](だいじょうさい)は、徳島県の三木家による麻の献上が通例であったが、[[明仁|平成天皇]]の即位大嘗祭では、技術が途絶えた徳島に岩島麻保存会が技術を提供した<ref name="岩島"/>。 |
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北海道では、過去に衣服や漁網用に使用されていた経緯や[[土壌改良]]効果などを見込んで、2013年に「産業用大麻可能性検討会」が開催され、産業用途への再活用が検討されている。また、公的機関による試験栽培なども進められている<ref>[http://www.sankei.com/west/news/161229/wst1612290006-n2.html 「大麻で町おこし」は大ウソ!?裏切られた鳥取県は「栽培全面禁止」…産業用の生産現場に広がる波紋]産経ニュース(2016年12月29日)2016年12月30日閲覧</ref>。2016年には一般社団法人北海道産業用大麻協会となった。 |
北海道では、過去に衣服や漁網用に使用されていた経緯や[[土壌改良]]効果などを見込んで、2013年に「産業用大麻可能性検討会」が開催され、産業用途への再活用が検討されている。また、公的機関による試験栽培なども進められている<ref>[http://www.sankei.com/west/news/161229/wst1612290006-n2.html 「大麻で町おこし」は大ウソ!?裏切られた鳥取県は「栽培全面禁止」…産業用の生産現場に広がる波紋]産経ニュース(2016年12月29日)2016年12月30日閲覧</ref>。2016年には一般社団法人北海道産業用大麻協会となった。 |
2017年10月10日 (火) 13:11時点における版
アサ | |||||||||||||||||||||
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アサ Cannabis
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Cannabis L. | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
アサ | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
Cannabis Hemp | |||||||||||||||||||||
種 | |||||||||||||||||||||
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和名アサ(麻、英名Cannabis)は、学名カンナビス・サティバ (Cannabis sativa)といい、中央アジア原産[1]とされるアサ科アサ属で大麻草(たいまそう)とも呼ばれる[2][3]、一年生の草本である。雌雄異株。ことわざ、麻の中の蓬(よもぎ)が凡人を感化する善人に麻をたとえているように、高くまっすぐ生育する。人類が栽培してきた最も古い植物のひとつ。茎は植物繊維として紙や布など様々に、実(種子)は食用や生薬の麻子仁(マシニン)として、麻の実油は食用や燃料など、成分を酩酊や医療大麻にと様々な形で用いられてきた。実は大豆に匹敵する高い栄養価がある。伊勢神宮の神札の大麻と呼ぶ由来となった植物であり、過去には米と並んで主要作物として盛んに栽培されてきた。第二次世界大戦中に農林省が日本原麻を設立した日本でも[4]、終戦後にGHQの指令により規制したが[5]、繊維用品種まで強く規制され伝統継承の問題が生じている[6]。20世紀半ばより国際的に大麻が規制されたが、21世紀初頭には医療大麻、違法かつ非犯罪化という緩い規制への変化、米国首都での嗜好大麻の合法化など例外も増えてきた[7]。
大麻(たいま)として、1961年の麻薬に関する単一条約で国際統制されるのは、繊維や種子や園芸「以外」を目的とした花や果実のついた枝端である[8][9]。一方、日本では大麻取締法の大麻として、カンナビス・サティバ・エル繊維型の品種「も」葉と花穂が規制されており[2]、種子や茎を除外している。品種の葉や花には向精神性のテトラヒドロカンナビノール (THC) が多く、摂取すると陶酔する。薬用型あるいはマリファナと呼ばれる[10]。
ヘンプ (hemp) は、繊維型とされ、繊維利用のために品種改良した麻の呼称で、繊維利用の研究が進んだ欧米諸国でそう呼ばれ、規制法で表記される植物名のカンナビスと区別している。ディーゼルエンジンなどに使用できる化石燃料よりも低公害の油をとることもでき[11]、近年その茎から採れる丈夫な植物繊維がエコロジーの観点から再認識されている。
広義には、アサは麻繊維を採る植物の総称であり、亜麻や苧麻(カラムシ)、黄麻(ジュート)、マニラ麻、サイザル麻を指すことがあるが、本項目とは別の植物である。
種
真の野生の大麻は失われており、人間が栽培した種に起源をもつ[10]。現在の分類体系では、単一の種 Cannabis sativa、あるいは亜種 sativaだけでなく、indica との2種、また ruderalis を加えて3種として言及される[12][13]。かつてクワ科とされていたが、DNAの類似性からアサ科にまとめられる。形態的にも、托葉が相互に合着しない、種子に胚乳がある等の点でクワ科と区別できる。
- Cannabis
- Cannabis sativa L.
- C. sativa subsp. sativa
- C. sativa subsp. sativa var. sativa
- C. sativa subsp. sativa var. spontanea
- C. sativa subsp. indica
- C. sativa subsp. indica var. indica
- C. sativa subsp. indica var. kafiristanica
- C. sativa subsp. ruderalis
- C. sativa subsp. sativa
- Cannabis sativa L.
カンナビス・サティバ Cannabis sativa は、フックスが1542年の草本誌で最初に用い、欧州の麻(hemp)が描かれていた[10]。1753年の『植物の種』(Species Plantarum)でリンネが、単一型として割り当てたが、しばらくするとラマルクは短く精神作用のあるインディカindica をインド亜大陸の形態学的に異なるものだと説明した[10]。シュルテスや Anderson は、形態学的にCannabis sativa L.(高く育ち、繊維、種子、精神作用に使われる)、Cannabis indica Lam.(短く、ハシシがとれる)、Cannabis ruderalis Jan.(短く、枝分かれがない)の3種を推定した。
2003年の短い反復配列によるDNA指標は、繊維型と薬物型を明確に区別しなかった[10][14]。繊維型と薬用型の区別は、THCの量によって決定されており、形態的な区別はできない[12]。
2004年、 Karl Hillig と Paul Mahlberg は157種の麻の体型的な化学分類を行い、現在のカザフスタンにおけるサティバ sativaの起源的な発生地、西ヒマラヤを起源とするインディカ indica の地図を描き、また中央アジアの ruderalis は第三の遺伝子プールが推定される[10]。サティバとインディカの分裂は人間の介入に先行している可能性があった[10]。カンナビノイドの合成につながる遺伝的な起源は、インディカにあるようである[10]。2005年の研究も断片長多型はこれを裏付ける[10]。また、8か国53の大麻から、ルテオリン-C-グリクロニドはサティバから検出されるが、インディカからの検出はまれであり遺伝子流動が制限されている[10]。
2011年に、麻のゲノムの草案が発表されている[13]。薬用型と繊維型の遺伝子的な相違は、用途によって栽培してきた慣行によりヒト遺伝子に例るとヨーロッパ人と東アジア人の程度であるが、サティバとインディカでは栽培の慣行のためかその祖先を同定することは部分的にしかできない[15]。
本項とは別の植物として、広義に麻とされる種類には、イラクサ科の苧麻(カラムシ)、アマ科の亜麻など、植物学上の分類が異なる20種類がある[16]。これらに麻の字があてられたのは、屋根の下で茎をこすり繊維を取り出すことからきており、強くて長い繊維を総称しているため、明治以降に外来のマニラ麻などと区別するために、本項アサが大麻と名付けられた[16]。ほかにシナノキ科の黄麻(ジュート)、バショウ科のマニラ麻、キジカクシ科のサイザル麻もアサと呼ばれることがある。
生態
雌雄異株[1]。110日(約4か月弱)で高さ2.5メートルに成長する[16]。品種や生育状況によりさらに高く成長する。ヒマラヤ山脈の北西部山岳地帯が原産地といわれている。生育速度と環境順応性の高さから、熱帯から寒冷地まで世界中ほとんどの地域に定着している。日本にも古来自生しており、神道との関係も深い。
栽培植物としては非常に急速に成長する。アサは生育が速い一年草であり、生育の際に多量の二酸化炭素を消費し、繊維質から様々な物が作れるため、地球規模での環境保護になるという意見もあり、実際にバイオマス原料植物として各国で研究・実用化が始まっている。
逸話
麻の中の蓬(よもぎ)ということわざは、まっすぐ育つ麻の中ではまがりやすいヨモギも曲がらないということで、麻は凡人を感化する善人にたとえられている[17]。生育速度が速く、忍者が種を蒔いて飛び越える訓練をした逸話などが残っている。
日本では、赤ちゃんに麻の葉模様の産着を着せることは、麻のようにすくすく育ってほしいという願いが込められている。19世紀の日本では歌舞伎役者の影響から特に若い女性に人気の着物の柄で、それだけでなく定番の模様であった[18]。
成分
葉・花には薬理作用がある成分が多く含まれる。特に、雌の花穂に樹脂が生成され、THCが多く、これを原料にハシシが製造される。
麻には、100以上のTHCのようなカンナビノイドが含まれる。体内では神経調節物質としてエンドカンナビノイド(内因性カンナビノイド)が産生され、そのカンナビノイド受容体は全身に広がっており多くの異なる機能に関与しているため、そのことが大麻の医療応用性の広さの理由となる。[19]麻の実(種子)にも少なくとも鳥の餌用として日本で販売されていた10製品や[20]、麻油から少ないながらカンナビノイドは検出されている[21]。
また麻には、テルペンが含まれ、植物的な匂いを発し、抗炎症性、抗菌性、抗不安または鎮痛性がある[19]。食品香料として承認されており一般に安全である[22]。カンナビノイドと相乗作用があるという化学特性を示している[22]。リモネン、ミルセン、ピネンが優勢だが、麻の乾燥と貯蔵により損なわれβ-カリオフィレンの割合が相対的に増える[22]。他に含まれるテルペン。
こうしたテルペノイドは他の食品において上述の様な作用が見いだされるため、単離されたTHCなどとは異なった作用を示す、大麻の効果の一部分である可能性がある[22]。
麻に21種類のフラボノイドが特定されており、麻特有のカンナフラビンAには抗炎症作用がある[10]。
品種
アサに含まれる陶酔成分がテトラヒドロカンナビノール (THC) であり、その効果を打ち消す成分がカンナビジオール (CBD) である。
アサの薬用型、繊維型といった品種は、THC と CBD の含有率によって決定され、薬用型では THC が2-25%含まれ CBD は少なく、繊維型では CBD が THC よりも多く THC が0.25%未満である[2]。アメリカ、カナダ、オーストラリアでは、THC が0.3%未満の品種を産業用ヘンプと呼ぶ[2]。40ほどの品種が登録されている[2]。
日本の本州に自生するアサは、THCの含有率が0.08%から1.68%であり、CBDの多い繊維型である[2]。日本では、後述する品種が改善された「とちぎしろ」で THC が0.2%から0.3%[2]、古来栽培されてきた在来種では1%前後である[23]。
一般に、登録された種苗は、品種の純性を保つために専門機関によって隔離栽培され、種子が栽培者に提供される。この仕組みを遵守することで、産業用に栽培される大麻に向精神性の成分が含まれないようにすることは十分に可能であり、事実フランスなどでは問題は起こっていない。
とちぎしろ
それでも昔から生産者の間では収穫期のアサ畑では「麻酔い」をすることが経験的に知られていた[2]。品質のいい白木という品種に、無毒の在来種をかけあわせて[24]、1974年から品種を改善しており1982年に品種名「とちぎしろ」として種苗登録された[3]。無毒アサ、無毒大麻と呼ばれている[3][25]。THC含有率は0.2%であり、先に述べた産業用ヘンプの基準にも適合する[2]。1984年には栃木県の麻はすべてとちぎしろに転換され、それからも品種の選別、精製過程の改善を経て期待通りの製品が出荷できるまでになった[26]。
アサはその繁殖プロセスから、花粉が周囲2km程度に飛散する。THCの多い種と交配することで容易にTHCの多い種になることから、1984年には栽培種をすべてとちぎしろに移行し、無毒の状態は毎年検査され保たれている[25]。薬用型は、葉の先の色が違い一見して分かるが、それが生育していたことはない[27]。
それでも栃木県は種を厳重に管理して県外への譲渡を認めておらず、2016年12月には規定を改正して県内栽培者に県外からの研修生や見学の受け入れを禁止した[28]。
なお、日本の大麻取締法第22条の2の2は、「大麻の濫用による保健衛生上の危害の発生を防止するため必要な最小限度のものに限り、かつ、免許又は許可を受ける者に対し不当な義務を課することとならないものでなければならない」としている。
薬用
薬用のアサは、露地栽培または水耕栽培で育てられる。
特に屋内栽培では、照明や空調などで大量の電気を必要とする。2012年には、大麻草を栽培していたマンションの一室で、電気系統の発熱によって火災報知器が作動したことで、栽培が発覚する事件が発生している[29]。
違法栽培等
北海道では自生するアサを採取してマリファナを生成する個人愛好家もいる[30]。戦前、麻の生産が奨励されており[31]、過去に栽培されていたものが野生化しているため人里に近いことが多く、特に北海道が野生化に適しているようである[32]。
基本的に発芽防止処理が施されているが[33]、七味唐辛子の麻の実や[34]、鳥の餌の麻の実から大麻を栽培し逮捕された例はある[35]。(後述するが種子は国際法、日本法共に規制対象ではない)
規制
ヨーロッパ、カナダ、オーストラリアでは、産業用ヘンプに登録された品種であれば、葉や花穂をも商品として用いることができる[2]。一方、日本では産業に適した繊維型の品種であっても、葉と花穂が規制されている[2]。
1961年に制定された国際条約である麻薬に関する単一条約にて、大麻として規制下にあるのは、大麻植物の枝端から離れた種子及び葉を除いた、花や実のついた枝端で樹脂が抽出されていないものである[8]。その第28条においては「この条約は、もっぱら産業上の目的(繊維及び種子に関する場合に限る)又は園芸上の目的のための大麻植物の栽培には、適用しない」[9]とされ、産業用途の大麻は規制の対象とされていない[5]。
大麻取締法は規制対象の大麻について、その1条で『この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く)並びに大麻草の種子及びその製品を除く』としている。繊維型の種まで葉と花穂を規制している[2]。日本では、アサの栽培には大麻取扱者の免許が必要である[2]。第24条が「みだり」に所持したりといったことを禁止している。また大麻の使用には罰則規定はない[36]。
歴史
カンナビス・サティバ (Cannabis sativa)は、繊維と、穀物としての実のために12000年前には中央アジアで栽培され、急速に広まっていった[37]。 人類による植物の栽培の早期から人類と共存してきており、それは人類による栽培ゆえに真の野生種は絶滅したと考えられているほどである[38]。縄文時代早期から前期の日本の9500-10500年前の複数の貝塚からアサの果実(実)が見つかっており、栽培された可能性は高いが、いずれにせよ食用であるため利用されていたことには間違いがない[32]。
薬としての最初の使用は、起源前2700年前の伝説の中国の皇帝の神農の教えを伝える2世紀の『神農本草経』に書かれている[37]。『神農本草経』には、麻の花穂「麻蕡」(まふん)として集録されるが、古代中国の文書でもこのようなシャーマニズム的な使用はみられない[39]。中国の新疆ウイグル自治区にて、2700年前に精神活性あるいは占いに用いられたとみられる大量貯蔵された大麻が発掘されており[40]、2500年前の中国の古代都市の車師の墓地からも、花穂の特徴から摂取を目的としたと考えられる大麻が出土している[41]。シャーマニズムは中国ではむしろ制限されてきたが、インドでの大麻の普及に貢献した遊牧民族に一般的である[39]。ヒマラヤで発展した仏教の密教では、瞑想を容易にするため大麻が用いられた[39]。
日本
述べたように日本での利用の考古学的証拠は約1万年前にさかのぼる。弥生時代の布はほとんどが麻製であった[42]。
『後漢書』の『東夷伝』や『三国志』の『魏志倭人伝』にも記述が見られる。『風土記』にも記されている。
『万葉集』では、藤原卿が麻を撒く風景、麻を織る情景、麻を紡ぐことのたとえを詠み、麻は神聖で大切な繊維であったことがうかがえる[43]。戦国時代に木綿の栽培が全国に広まるまでは、高級品の絹を除けば、麻が主要な繊維原料であり、糸・縄・網・布・衣服などに一般に広く使われていたし、木綿の普及後も、麻繊維の強度が重宝されて、特定の製品には第二次世界大戦後まで盛んに使用されていた[注 1]。また、麻の茎は工芸品に使われ、種子は食料になっていた[注 2]。1625年(寛永2年)には、両国薬研堀(現・浅草)の「やげん堀中島」にて七味唐辛子が開発され販売されるようになり、七味は1656年に日本橋の「大木唐からし店」からも[44]、また1736年には長野善光寺の「八幡屋磯五郎」[45]、1806年には京都清水寺の「七味屋」からも製造されるようになる[46]。
神道では神聖な植物として扱われ、日本の皇室にも麻の糸、麻の布として納められている。『古語拾遺』に神道の祭祀で貢った品物の中に麻も含まれ『延喜式』にも同様である[43]。古来の古墳からは荒妙(あらたえ)だけでなく、現在絹で作られる和妙(にぎたえ)も麻で作られていたことが分かっている[47]。また、『古語拾遺』によれば、現在の千葉県にあたる古名「総国」は麻の稔る土地であることから命名されたと伝えられている(ただし、近年の考古資料などの研究から、本来の表記は「捄国」で麻の稔った房を意味していたとする見方が出されている)[48]。伊勢神宮の特に重要な祭典では、麻を頭に巻いたりたすき掛けにしており[6]、この祭式は貫前神社の式年遷宮でもみられる[49]。
栃木では麻の在来種に「白木」「赤木」「青木」があり、品質のいい白木が多く栽培されてきた[24]、栃木県農業試験場は1917年(大正6年)には、日本の研究拠点となり、1929年には麻の優良品種「栃試一号」を開発し、また「南押原一号」もであり、全国の作付けのおよそ半分を栃木県が占めた[26]。戦前、日本の小学校の教科書では栽培方法や用途が教えられ[50]、中学生や教員には、昔から広く栽培され、特に衣服に重宝されたと教えられている[51][52]。1940年には、繊維の需要拡大により麻の流通を統制するための一元機関として、農林省が日本原麻を設立する[4]。
このように日本においては、第二次世界大戦以前は国家により大麻の栽培・生産が奨励されていたが、戦後の1947年(昭和22年)4月23日に連合軍総司令部(GHQ)がポツダム宣言に基づき公布した大麻取締規則その後の大麻取締法によって、産業用大麻にまで規制強化を行うようになった[5]。GHQが日本に公布した「大麻取締規則」をさかのぼると、アメリカ合衆国での万国阿片条約に基づいた、アメリカ国内での厳しい大麻取締規定であるが、国際あへん会議での大麻についての議論であったため、大麻の独特の薬理作用と、ほかの麻薬との作用の違いが不明確なまま、麻薬とされるに至ることになった[5]。
大麻は御承知の通り麻の纎維の原料植物であります。これは当初日本におきましては、大麻は麻薬の原料植物であるということを考えておらなかつたのでありまするが、連合軍が進駐以来日本の麻を調べましたところ、これが取締りの対象になるものである。そういうような解釈のもとで、先方よりメモランダムが出まして、これによつて大麻取締法を制定しまして取締ることになつたのであります。そうして今までわが国におきましては、大麻から麻薬をつくつてこれを悪用する、あるいはこれを使用する、そういうようなことが全然なかつたわけでありまして、現在もまたありませんのでございます。しかしながら原料植物である大麻を大量に使いますと、麻薬をとることもでき得るわけでありますので、一応これを取締る必要はあるわけであります。 — 里見卓郎(薬務局麻薬課長) - 衆議院会議録厚生委員会. 第7回国会. Vol. 12. 1950-3-3.{{cite conference}}
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日本における大麻の栽培者数は、1950年代には2-4万人であったが、1960年代には1万人を下回り、大幅な減少を続けていくことになる[53]。1963年には、大麻所持の罰則が「懲役3年以下または3万円以下の罰金」から「懲役5年以下」へと改正されて重罰化されたが、この際に何らかの根拠を伴って重罰化された訳ではないとする主張もみられる[5]。事実上新規での栽培許可が出ないため、1994年には栽培者は157名[54]、2009年末には56人にまで減少している[16]。1970年、1979年、1985年ごろにも麻ブームは起きている[55]。
栃木県の野州大麻は神道の神事用に栽培され、広島県では漁網、長野県では畳糸であり鬼無里(きなさ・地名)での技術が高く、繊維では滋賀県の近江上布、岩手県の亀甲織、奈良県の奈良晒(ならざらし)のように伝統工芸として残っている[56]。近江上布は、苧麻の糸と麻の意図とが組み合わされて用いられる[55]。群馬の岩島麻は、過去に上州北麻と呼ばれ「吾妻錦」「黄金の一」といった最上級の製品を生産しており[57]、織物としての風合いがよく幻の麻と言われる[58]。1977年には岩島麻保存会が発足し、後に群馬県選定保存技術第一号に認定されている[57]。天皇即位の大嘗祭(だいじょうさい)は、徳島県の三木家による麻の献上が通例であったが、平成天皇の即位大嘗祭では、技術が途絶えた徳島に岩島麻保存会が技術を提供した[57]。
北海道では、過去に衣服や漁網用に使用されていた経緯や土壌改良効果などを見込んで、2013年に「産業用大麻可能性検討会」が開催され、産業用途への再活用が検討されている。また、公的機関による試験栽培なども進められている[59]。2016年には一般社団法人北海道産業用大麻協会となった。
21世紀となり、日本麻の入手が難しくなり、神社のしめ縄などが中国などからの輸入麻や、ビニールで作られることが多い。このため2015年には伊勢市に伊勢麻振興協会が発足し、三重県の神事用の麻を国産で賄いたいと皇學館大学と三重県神社庁を中心として神社関係者が発足させており県に麻栽培を申請している[6]。東京でも麻糸を紡ぐことを教える取り組みが行われている[60]。
中国
麻という漢字は、草(林)が乾燥小屋(广)に収められている様子を示している。伝説では前2700年の古代中国の蒼頡(そうけつ)という神が創ったといわれている[要出典]。
紀元前5世紀の歴史家ヘロドトスは、スキタイ人が大麻を娯楽に使って楽しそうにしている様を叙述している[37]。
欧米
1839年にアイルランドの医師ウィリアム・ブルック・オショーネッシーが、インドでの大麻の使用から動物で実験してその抽出物をチンキにし、イギリスと北米の医師にインド大麻を広めることとなった[37]。1899年に、イギリスの化学者がカンナビノール (CBN) を単離した[37]。
1923年に、アメリカのニューオリンズでジャズの人気と共に大麻の使用があり、アメリカで初めて大麻を禁止した都市となった[37]。
アメリカ合衆国では、1970年の規制物質法により繊維用の麻の栽培にも麻薬取締局 (DEA) の認可が必要であり20州ほどで許可されていたが、2014年農業法は、ヘンプ(精神作用のある成分を含まない麻)の栽培を限定的に許可し[61]、2015年の産業麻農業法 (Industrial Hemp Farming Act) はTHC含有量が0.3%未満の麻を規制リストから除外し、産業麻の生産を可能とした[62]。しかし個々の州法で、2012年よりコロラド州で連邦法に違反して、登録した大麻栽培者は大麻の栽培が可能であったという例もあり[63]、従来には連邦法だけがその動向を定めたものではなかった。2014年農業法によって、33の州が産業大麻のための法案を可決し、2017年に38州が法律を検討し15州が制定している[62]。
医療大麻を合法とした州は過半数を超えており、嗜好品としての娯楽利用の大麻も罰則のない非犯罪化され緩く規制され、首都ワシントンDCのように合法化されている場合もある[7]。
2015年の米国議会調査部(CRS)の報告書では、麻製品の市場は、フランス、イギリスやルーマニア、ハンガリーでも活発である[61]。
ほかの地域
インドにおける大麻文化では『アタルヴァ・ヴェーダ』にて幸福の源だと言及され宗教との結びつきがあり、また医療としての使用も紀元前1000年ころに始まった[39]。それぞれの州は各々の州法で規制をおこなっている。いくつかの州ではバングの販売を許可制にしている。また個人の持ち歩いてよいとする量を定めている州や、購入者の年齢を制限している州もある[64]。
ジャマイカの2015年改正危険薬物法は、ラスタファリの信仰の自由においての大麻の使用を許可した[65]。
用途
麻は食用、薬用、繊維、製紙などの素材として用いられる植物である。
繊維
大麻から得た植物繊維から様々な製品が製造されている。衣類・履き物・カバン・装身具・袋類・縄・容器・調度品など。麻の織物で作られた衣類は通気性に優れているので、日本を含め、暑い気候の地域で多く使用されている。綿・絹・レーヨンなどの布と比較して、大麻の布には独特のざらざらした触感や起伏があるため、その風合いを活かした夏服が販売されている。大麻の繊維で作った縄は、木綿の縄と比べて伸びにくいため、荷重をかけた状態でしっかり固定するときに優先的に用いられる。伸びにくい特性を生かして弓の弦に用いられる。また日本では神聖な繊維とされており、神社の鈴縄、注連縄や大幣として神事に使われる。横綱の締める注連縄も麻繊維で出来ている。
産業用(麻布等)栽培は、国際連合食糧農業機関 (FAO) の統計サイト FAOSTAT Classic によれば、世界における麻の生産量は1960年代は毎年30万トン前後あったものの、1990年代からは6万トン前後となり、20年間で5分の1程度には減少している。ただし、この数値にはインド麻の他にサンヘンプなども含まれている。
麻繊維はエコロジー素材として注目を浴びている。実用的には、大麻の生地は強く、放熱性が高く、汗を蒸発させる効果があり[66]、夏の衣服に向いている。また大麻繊維には抗菌作用や消臭力が認められている[67]。生地は光沢とシャリ感がある。
ただし、日本国内では家庭用品品質表示法で「麻」と表示することが認められているのは、亜麻と苧麻のみであるため、「麻製品」と名乗っていたり、「麻マーク」が表示されていても大麻繊維製品ではない。大麻繊維は「指定外繊維(大麻)」や「指定外繊維(ヘンプ)」などと表記される。
21世紀には、バイオプラスチックとしても用いられる[38]。麻を用いたヘンプクリートと呼ばれる建築資材は欧米で注目をされている[61]。
茎
繊維を取った後の余った茎(苧殻、おがら)は、かつては懐炉用の灰の原料として日本国内で広く用いられ、お盆の際に迎え火・送り火を焚くのに用いられる。
出雲大社では麻の茎の先に半切にした生ヒョウタンを刺して柄杓とし、爪剝祭の神事で使用する。これで神水をすくい、献供を行う。つまり、麻茎は柄杓の柄となる[68]。
果実
項目 | 分量(g) |
---|---|
脂肪 | 25.71 |
飽和脂肪酸 | 2.91 |
16:0(パルミチン酸) | 1.9 |
18:0(ステアリン酸) | 0.73 |
一価不飽和脂肪酸 | 3.45 |
18:1(オレイン酸) | 3.3 |
多価不飽和脂肪酸 | 19.35 |
18:2(リノール酸) | 15 |
18:3(α-リノレン酸) | 4.6 |
果実(実)は、生薬や食品に利用される。生薬としては麻子仁(ましにん)と呼ばれ、陶酔成分はなく穏やかな作用の便秘薬として使われる。栄養学的にはたんぱく質が豊富であり、脂肪酸などの含有バランスも良いため食用可能であり、香辛料(七味唐辛子に含まれる麻の実)や鳥のエサになる。果実を搾ることにより麻の実油を得ることができる。この油を含んだ線香がアロマテラピー用として市販されている。 特殊なところでは、菌類学において、水生菌を分離する方法である釣り餌法での標準的な餌として用いられ、卵菌類やカワリミズカビなどをつり出せる。
葉および花
嗜好品として
葉および花冠には陶酔作用があり、嗜好品として用いられる。陶酔を引き起こす主成分はTHCであるが、これ以外に含まれる成分のバランスによって効果に違いが生じる。
特に、ラマルクにより命名された亜種のインド麻 (C.indica Lam) は2000年以上前から中央アジアで品種改良され、一般的な大麻より多くの陶酔成分を含むので一般に嗜好品としての大麻と言えばこのインド麻を指す。また、インドやジャマイカなどではガンジャと称される。
アメリカ合衆国の首都ワシントンDCと8つの州で嗜好目的でも合法とされ[70]、一部の国で合法であり、犯罪であるが逮捕せず単に罰金とする非犯罪化の政策をとっている国やアメリカの州もある。
医薬品として
THCをはじめとしたカンナビノイドには医薬品としての効能がある。
日本では1948年に大麻取締法が執行される前で「本剤はぜんそくを発したる時軽症は1本、重症は2本を常の巻煙草の如く吸う時は即時に全治し毫も身体に害なく抑も喘息を医するの療法に就いて此煙剤の特効且つ適切は既に欧亜医学士諸大家の確論なり」を謳い文句に「ぜんそくたばこ印度大麻煙草」[71] として販売されていた。また、「印度大麻草」および「印度大麻草エキス」は、1886年に公布された『日本薬局方』に「鎮痛、鎮静もしくは催眠剤」として収載され、さらに、1906年の第3改正で「印度大麻草チンキ」が追加収載された。これらは、1951年の第5改正日本薬局方まで収載されていたが、第6改正日本薬局方において削除された。
アメリカでも大麻そのものの臨床試験は承認されていない[72]。
大麻の抽出成分でできたナビキシモルス(サティベックス)、合成THCのマリノール、また合成カンナビノイドのナビロンなど臨床試験を経て、医薬品として用いられているものも存在する。各国で販売されている。
成分の1つカンナビジオールは、アメリカでエピディオレックスの商品名で臨床試験が進行している[72]。
医療大麻は、アメリカの首都ワシントンDCと29の州や[73][74]、カナダ、オランダ、イスラエルといった国で処方箋薬として認可され、治療薬として試みられている。
注釈
出典
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- 富沢清十郎『大麻栽培法』有隣堂書店、1913年 。
麻を題材にした映画
- 『麻てらす』
- 第一弾『よりひめ 岩戸開き物語』2017年。監督:吉岡敏朗。