健康で文化的な最低限度の生活

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健康で文化的な最低限度の生活』(けんこうでぶんかてきなさいていげんどのせいかつ)は、柏木ハルコによる日本漫画。『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて、2014年第18号から連載中。単行本は2016年8月現在、既刊4巻(小学館)。

概要[編集]

新人ケースワーカーの目を通して、生活保護のリアルに迫る青春群像劇。題名は日本国憲法第25条第1項の条文「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」からとられている。連載開始以来、各種メディアで取り上げられている[1][2][3][4]

第1話で自殺した受給者が出たことに悩む主人公に「1ケース減って良かったじゃん」と言い放つケースワーカーが登場するが、実際に取材した結果そういうケースワーカーが実在すると柏木ハルコは述べている[4]

柏木は元々、自己責任論者のようなところがあったが、湯浅誠(社会活動家)や雨宮処凛(作家)の本などを読んで少しずつ考えるようになった。「健康で文化的な最低限度の生活」というタイトルは元々思いつきでつけたものだが、今となっては良いタイトルで、人権をどうとらえるかというのが、この漫画の最終的なテーマになる、と述べている[5]

また柏木は、この漫画では生活保護の不正受給といった生活保護問題にも取り組んでいくが、高校生のアルバイト代の未申告(あらすじで後述)など、必ずしも明確に悪意があるケースばかりではない。そのようなケースを描くことで、偏見をなくしていけるかもしれない。考え方や価値観を押し付けるのではなく、「問いかけを投げかけるような作品」にしたい。生活保護制度に対して否定的な考えを持っている方にこそ、この漫画を読んでほしい、と述べている[6][7]

あらすじ[編集]

東京都東区役所に就職した義経えみるは、生活保護を取り扱う福祉事務所に配属される。社会福祉制度に全く知識をもたないえみるは配属先に不安を覚えるが、配属早々、先輩ケースワーカーの半田から110世帯の担当を任されてしまう。半田に助けられながら、必死に仕事を覚えていくえみるだったが、生活保護を受けていた男性の自殺、母親から虐待を受けていることをうかがわせる子どもとの会話、精神的に追い詰められた女性からの罵詈雑言など衝撃的な体験を経験していく。やがて、えみるはケースワーカーとしての自覚を深め、生活保護制度に関して本格的に勉強を始める。一方、えみると同期の新人ケースワーカーたちも深刻なケースに遭遇し、それぞれ苦悩していた。

ある日、えみるは寝たきりの老人を抱えた母子家庭の日下部家を訪問する。穏やかな性格でえみるにも感謝の言葉をかける母親の態度に安堵を覚えるえみるだったが、その家庭の長男・欣也が福祉事務所に連絡せずにアルバイト収入を得ていたことが発覚したことで事態は暗転する。上司の京極は欣也が得ていたアルバイト収入分を生活保護の不正受給と見なし、社会保険料などの控除を除いて全額徴収するよう、えみるに命じる。一方、突然の徴収命令のために日下部家の平穏は破られ、アルバイト収入で音楽活動をおこなっていた欣也は音楽の夢を絶たれて、自暴自棄になって一時家出するが、えみると半田は日下部家に制度をよく説明し、アルバイト収入の徴収金を払うことを納得させる。

ある日、26歳の青年島岡光が福祉事務所に訪れ、生活保護を受けたいと申し出るが、父親への連絡・扶養照会は一切しないでほしいと告げる。えみるは理由を聞くが、光は理由も言いたくないと口を閉ざしてしまう。えみるは制度上必要であるからと父親に連絡すると、父親は自分が扶養するから生活保護は受けさせないと言う。光は父親と面会することも拒否する。父親が面会に来たことのショックから光は列車に飛び込む自殺未遂をして、怪我を負い入院する。その後の診察で、幼少時に父親から性的虐待を受け心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っていることが明らかとなる。医師の判断で父親とは縁を切って治療すべきと助言され、福祉事務所は生活保護の支給を決定する。(第4巻までのあらすじ)

登場人物[編集]

東京都東区東部福祉事務所東部生活課1係[編集]

義経えみる(よしつね えみる)
本作のヒロイン。新人ケースワーカー。他人の顔色などがわからない鈍感な性格で、そのため多くの人間と接しなければならない現在の仕事は自分に向いていないと思っている。しかし、担当していた男性が自殺をほのめかす電話を事前にしていたにもかかわらず、うまく対応できずに自殺してしまったこと、そしてその男性が真剣に生きていたことを知り、二度と同じような経験はしたくないと、彼女なりに真剣に保護世帯に向きあうようになる、
栗橋千奈(くりはし ちな)
義経えみるの同期。民間企業での2年間の勤務経験がある。生活保護手帳の内容を頭に入れており、新人ケースワーカーとは思えないほどテキパキと仕事をこなす。一方で、独善的なところがあり、自分の思い通りに動かない保護世帯を平然と切り捨てようとする。しかし、自分が担当していた男性が「字が読めない」ために就職できずにいたことに気が付かず、生活保護を打ち切ろうとしていたことを知った時には自責の念にかられた。
七条竜一(しちじょう りゅういち)
義経えみるの同期。母子家庭で育った。熱血漢で職務熱心だが、えみる同様人の顔色がわからないところがあり、母子家庭の母親を故意ではないがプレッシャーをかけすぎて追い詰めてしまったことを精神科医に指摘され苦悩する。
後藤大門(ごとう だいもん)
義経えみるの同期。福祉職採用。人の話を聞くのが好きなので家庭訪問は苦にならない。また、相談に来た人にも穏やかに接する。
桃浜都(ももはま みやこ)
義経えみるの同期。真ん中分けの女性。えみる同様、仕事内容を十分理解していないが、温和な性格でいつも笑顔を浮かべて相談者に対応している。
半田(はんだ)
先輩ケースワーカー。ケースワーカーとしての能力は非常に高い。えみるの良き相談相手であり、的確にえみるをフォローする。常に飄々としているが、時折、深刻な表情をし、平気で嘘をつくこともあるなど、とらえどころがない性格。
京極(きょうごく)
係長。区の財政状況に対する責任感が強く、無駄な支出を極力減らし、不正受給を厳しく徴収するよう部下に発破をかける。

生活保護世帯[編集]

平川孝則
元会社員。担当がえみるに代わった直後、えみるにこれから自殺する旨、電話をする。えみるが近所の親戚に確認した所、日頃から同じような電話をしていると聞かされ、放置したところ、本当に自殺した。えみるは平川の自殺後、彼の部屋を見て、生活保護を受ける人々にはその人なりの人生があることを知り、ケースワーカーとしての自覚を持つに至った。
阿久沢正男(あくさわ まさお)
元自営業。印刷業を営んでいたが会社を倒産させてしまい、莫大な借金を負い、妻子と別れる。借金を返済することこそ贖罪の方法と考え、生活保護費の多くを借金返済にまわし、体調を崩す。えみるから借金返済のために法テラスに相談するよう勧められるが頑なに拒否する。しかし、半田に説得され、法テラスへの相談を決意する。法テラスに相談した結果、過払いが判明し、借金返済の重圧から救われた。
岩佐朋美(いわさ ともみ)
夫の家庭内暴力が原因で離婚した2児の母。生活保護を受けている後ろめたさに加え、担当の七条の職務熱心な対応で追い詰められたことも一因となり、うつ病となる。また、家庭内暴力のトラウマから心的外傷後ストレス障害(PTSD)の傾向も見られる。
日下部欣也(くさかべ きんや)
学生。15歳。母親が生活保護を受ける際、アルバイトをする際は福祉事務所に届け出る旨、署名したが、担当者の説明をよく聞いておらず、母親に隠れてアルバイトをし、アルバイトで得た収入で音楽活動をしていた。アルバイト収入の全額徴収を福祉事務所から通告され、家出する。その後、福祉事務所に母親とともに訪れ話を聞き納得し、今後も福祉事務所と学校の許可を得たうえでアルバイトを続けて家計を助けることを母親に伝えた(収入はきちんと申告すれば、全額ではないが手元に残る)。

書誌情報[編集]

脚注[編集]