児童相談所
日本での児童相談所(じどうそうだんじょ)は、児童福祉法第12条[1]に基づき、各都道府県に設けられた児童福祉の専門機関。児相と略称される[2][3]。すべての都道府県および政令指定都市(2006年4月から、中核市にも設置できるようになった)に最低1以上の児童相談所が設置されており、都道府県によってはその規模や地理的状況に応じて複数の児童相談所およびその支所を設置している。
また電話番号の189番(語呂合わせ:いちはやく)は、児童相談所の全国共通ダイヤル(緊急通報用電話番号)に設定されている。2015年7月1日より運用が開始され、24時間365日児童虐待や子育ての相談を受け付けている[4]。国民は、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した際は、速やかに市町村、福祉事務所または児童相談所のいずれかに通告しなければならない[5]。
目次
業務の内容[編集]
児童すなわち0歳から17歳の者(児童福祉法4条)を対象に以下のような業務内容を行っている(児童福祉法11条1項2号)。
- 児童に関する様々な問題について、家庭や学校などからの相談に応じること。
- 児童及びその家庭につき、必要な調査並びに医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を行う。
- 児童及びその保護者につき、前号の調査又は判定に基づいて必要な指導を行なうこと。
- 児童を一時保護所に保護し、その後親に戻すか、児童養護施設などに預けるか決定する(一時保護は2か月を超えてはならない。しかし、必要がある場合は引き続き一時保護を行う。)[6][7]。
相談の種類[編集]
相談の種別は、五つに大別される。
- 養護相談 父母の家出、死亡、離婚、入院などによる養育困難、被虐待児など。
- 保健相談 未熟児、虚弱児、小児喘息など。
- 心身障害相談 障害児、発達障害、重度の心身障害など。
- 非行相談 虚言、家出、浪費癖、性的な逸脱、触法行為など。
- 育成相談 性格や行動、不登校。
職員[編集]
各児童相談所には、一般の行政職員(国家公務員でいうところの事務官)に加え、精神衛生の知識のある医師、大学で心理学を学んだ児童心理司、また児童福祉司(2年以上の実務経験か、資格取得後、2年以上所員として勤務した経験が必要)などの専門職員がいる。専門職員は国家公務員でいうところの技官に相当する内容の職種であるが、自治体によっては補職が「技術吏員」ではなく、ただの「事務吏員」扱いになっている場合もある[要出典]。
都道府県では土木の用地交渉や生活保護のケースワーカーなど、利害調整や相談に関係する業務に関しては伝統的に専門職員ではなく、一般の行政職員で対応することが多い[要出典]ことから、専門職の仕事と認識されていない[誰によって?]場合も少なくない。
児童虐待などの相談に関しても、本来的には専門職任用を行うべきであるが、実際には一般行政職を児童福祉司に任用している自治体が少なくない[8]。特に専門的な知識が必要と判断される場合には専門職員も出てくるものと思われるが、一般の行政職員の中には保健福祉とは関係のない部署から人事異動により初めて異動してくるケースも多い[要出典]。また、一般行政職の場合、ソーシャルワークにおける基礎的な教育を受けていないことに加え、異動のサイクルが極端に短く、個人においても組織においても専門性が蓄積されないという問題がある[8]。
平成29年4月以降、児童虐待防止法改正により、都道府県は、児童相談所に、児童心理司、医師又は保健師、指導・教育担当の児童福祉司(スーパーバイザー)を置くとともに、弁護士の配置又はこれに準ずる措置を行い態勢強化を図ることとなった。また、平成29年4月1日現在全国の児童相談所に、警察官29名、警察官OB162名、教員119名、教員OB124名が配置されている[9]。
虐待に対して[編集]
虐待への対応では、動機なきクライエントに介入し、限られた情報をもとに迅速かつ的確にリスクアセスメントを行ったり、適切な援助関係を構築したりするなど、高度な専門性が要求される。虐待への対応に精通するには、専門職としての基本的な見識・技術に加え、豊富な経験が不可欠であり、最低5 年から10 年程度の経験が必要であるとされている[8]。よって、児童福祉司に専門職任用をすすめることが今後の課題である、という指摘がある[8]。
近年は虐待通報数が急増しているが、虐待対応だけが職員の業務ではない中で、専門性が必要な虐待対応を行う職員数の不足も懸念されている。児童福祉司は虐待通告への初期対応に振り回され、虐待以外の相談への対応はおろか、虐待相談においてさえ、個々の事例に丁寧に対応しかねているのが実情である、という指摘もある[8]。このような背景から、平成16年度児童福祉法改正により地方公共団体(市区町村)も要保護児童対策地域協議会(児童福祉法25条の2)を通じて虐待を受けた要保護児童への支援を行う機関に加えられた[10]。児童相談所は、市区町村の業務の支援も行うものとされる(児童福祉法12条2項)。
福岡市では「泣き声通告」後の確認をNPOに委託しており、「市から委託された見守り訪問で来た」と訪れることにより、その後の支援につなげていっている。また市の児童家庭支援センターと補完しあうことにより、土日の出勤の必要性をなくし、職員のバーンアウトを防いでいる。また同市では2017年度現在弁護士が常勤職員で課長を務めている。 児童相談所が関係して0歳と2歳のネグレクトを受けて汚物まみれになっていた児童を保護して救出した事例もあれば、高知県南国市で起こった事件では小学生5年生の男子が母の内縁の夫により殺害されている。なお、その弟は一時保護を経て児童養護施設に入所していため無事だった[11][12]。
設置している自治体[編集]
児童相談所は、都道府県、指定都市(地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市をいう。以下同じ。)及び児童相談所設置市(児童福祉法(昭和22年法律第164号)第59条の4第1項の児童相談所設置市をいう)に設置される[13]。東京23区では、法改正により設置が可能となり、練馬区以外で開設が予定されている[14]。
| 地方 | 都道府県(47) | 指定都市(20) | 中核市(3) |
|---|---|---|---|
| 北海道地方 | 北海道 | 札幌市 | |
| 東北地方 | 青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、 福島県 |
仙台市 | |
| 関東地方 | 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、 東京都、神奈川県 |
さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市 | 横須賀市 |
| 中部地方 | 新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、 長野県、岐阜県、静岡県、愛知県 |
新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市 | 金沢市 |
| 近畿地方 | 三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、 奈良県、和歌山県 |
京都市、大阪市、堺市、神戸市 | 明石市 |
| 中国地方 | 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県 | 岡山市、広島市 | |
| 四国地方 | 徳島県、香川県、愛媛県、高知県 | ||
| 九州地方 | 福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、 宮崎県、鹿児島県 |
北九州市、福岡市、熊本市 | |
| 沖縄地方 | 沖縄県 |
児童相談所建設反対問題[編集]
大阪市や東京都港区では児童相談所を建設するにあたり、住民の反対運動が起こることがある。2016年には大阪のタワーマンションに児童相談所や一時保護所の併設を予定していた市はマンションのアンケートで反対が多かったため計画を別の場所にした[15]。港区では児童相談所・母子生活支援施設を含む(仮称)港区子ども家庭総合支援センターを令和3年4月開設予定にしている[16]。が、住民説明会で「ブランドが低下する」などの意見が出て反対を受けていると報じられている。また、この複合施設の中で地元の公立小学校に通う可能性のある施設は「母子生活支援施設」入所児童だけであり、同児童相談所で保護されている児童は一時保護であり基本施設内で勉強する[17]が、児童相談所の反対意見として、子が経済格差を感じ可哀想なのではないかとの誤解に基づく発言もある[18][19]。港区には今回の建設予定付近に「サンライズ青山」[20]という母子生活支援施設が平成30年3月末まであったが、築50年を超える施設の老朽化と施設運営をしていた社会福祉法人の撤退により、保護する母子の行く先が無くなり検討課題となっていた。港区議会保健福祉常任委員会では、保護が必要な母子相談は年3000件あり、シングルマザーとなった母が、断られて住宅に入居できない、急に夫がいなくなったりして行くところがないなど、これまで割といい暮らしをしていた人が落差が激しくて、鬱になってしまうなどの問題を抱えて相談していると語られている[21]。
児童虐待防止法における役割[編集]
児童相談所・児童相談所長は、児童虐待防止法において出頭要求や立入調査などの権限が規定されている[22]。児童虐待の防止等に関する法律#概要も参照。
海外の類似機関[編集]
- 児童保護サービス(Child protection service)- 米国
- Children and Family Court Advisory and Support Service(英語版) - イングランド・ウェールズ
- Bureau Jeugdzorg(オランダ語版) - オランダ
- Raad voor de Kinderbescherming(オランダ語版) - オランダ
- Jugendamt(ドイツ語版) - ドイツ・オーストリア
- Patronato Nacional de la Infancia - コスタリカ
- Conselho Nacional dos Direitos da Criança e do Adolescente (Conanda) - ブラジル
- Child, Youth and Family(英語版) - ニュージーランド
- 衛生福利部社會及家庭署(中国語版) - 台湾(緊急通報用電話番号:113番)[23][24]
海外での虐待対応[編集]
アメリカロスアンゼルス郡では虐待対応組織はDCFS(Department of Children and Family Services)であり、全ての人に通報の義務があり、通報後に深刻度により2時間以内(通報を受けたら直行する)、3日以内、5日以内(シビアな事例ではないが、調査は必ず行う)に対応するレベル分けがされる。虐待者が援助プログラムに同意した場合には、カウンセリング等のかかわりが開始される。一方で虐待の事実はあるが、虐待者同意しない場合にはDCFSが親を説得する事実が必要であるため「戦略」と「ネゴシエーション(交渉)」を続けるものの、最悪の場合子どもが死んでしまっても、親が同意しなかったということになり、DCFSの責任は問われないこととなっている[25]
脚注[編集]
- ^ 児童福祉法第12条 都道府県は、児童相談所を設置しなければならない。
- ^ “児童相談所(児相)とは”. コトバンク. 2019年2月10日閲覧。
- ^ “児相専門職員「5千人体制に」 首相表明”. 日本経済新聞 (2019年2月9日). 2019年2月10日閲覧。
- ^ 児童相談所全国共通ダイヤルについて(厚生労働省)
- ^ 児童虐待防止法第6条1項
- ^ 児童福祉法第33条 児童相談所長は、必要があると認めるときは、第26条第1項の措置をとるに至るまで、児童に一時保護を加え、又は適当な者に委託して、一時保護を加えさせることができる。
- ^ 児童相談所運営指針の改正について:第5章 一時保護(厚生労働省、2019年10月19日参照)
- ^ a b c d e 津崎哲郎 & 橋本和明 2008, pp. 205-208.
- ^ “平成30年度児童相談所所長研修〈前期〉児童家庭福祉の動向と課題 (PDF)”. 子どもの虹情報研修センター (2018年4月17日). 2018年6月28日閲覧。
- ^ 厚生労働省ホームページ資料 雇用均等・児童家庭局長通知(平成19年11月23日付け):児童相談所運営指針等の改正について
- ^ 大久保真紀 2018, pp. 197-245.
- ^ “高知県児童虐待死亡事例検証委員会報告書( 概 要 版 ) (PDF)”. 高知県児童虐待死亡事例検証委員会 (2008年6月30日). 2018年6月26日閲覧。
- ^ “児童相談所運営指針の改正について:第1章 児童相談所の概要”. 厚生労働省. 2018年7月10日閲覧。
- ^ “練馬区/都児相との連携強化で協定/各区独自開設に改めて懸念”. 都政新報 (2017年6月23日). 2018年7月10日閲覧。
- ^ “「なんで、ここなんや!」タワマン住民反発、児童相談所は〝迷惑施設〟か…大阪市の設置計画撤退の裏事情”. 産経ニュース (2017.1.26=). 2018年12月22日閲覧。
- ^ “(仮称)港区子ども家庭総合支援センター(児童相談所他2施設・平成33年4月開設予定)”. 港区 (2018年12月19日). 2018年12月22日閲覧。
- ^ “「児童相談所」のもう1つの役割。 ”里親”支援。”. 港区議 清家あい (2018年10月28日). 2018年12月22日閲覧。
- ^ “「ランチ会でシャンパンも」児童相談所建設でもめる南青山…セレブ公立小学校の衝撃の実情!”. FNN (2018年12月20日). 2018年12月22日閲覧。
- ^ 横山渉 (2018年12月21日). “南青山・児童相談所建設、反対住民の“誤解”…学歴重視の人ほど虐待しやすい傾向”. bisiness journal. 2019年1月10日閲覧。
- ^ “「児童相談所」のもう1つの役割。 ”里親”支援。”. 港区議 清家あい (2018年10月28日). 2018年12月22日閲覧。
- ^ “2016.12.26:平成28年保健福祉常任委員会 本文”. 港区議会 (2018年12月20日). 2018年12月22日閲覧。
- ^ 児童虐待 参考文献 (PDF) 千葉県サイト内
- ^ 台湾 - 内閣府男女共同参画局 (PDF) .上智大学法学部教授 町野朔
- ^ 一通電話,全面保護,113守護你我人身安全
- ^ 子どもの虹情報研修センター (2004-09-30). 平成15年度研究報告書 アメリカにおける児童虐待の対応視察報告書 (Report).
参考文献[編集]
- 斉藤幸芳、藤井常文『児童相談所はいま―児童福祉司からの現場報告』ミネルヴァ書房、2012年。ISBN 4623062376。
- 津崎哲郎、橋本和明『最前線レポート 児童虐待はいま―連携システムの構築に向けて』ミネルヴァ書房、2008年。ISBN 4623051986。
- 大久保真紀『ルポ児童相談所』朝日新聞出版、2018年。ISBN 9784022730930。