児童虐待

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児童虐待(じどうぎゃくたい、Child AbuseMaltreatmentCruelty to Children)は、子ども児童)に対する虐待である。幼児も含まれる為、幼児虐待(ようじぎゃくたい)とも称される。CDCアメリカ疾病予防管理センターは次のように定義している。「親またはその他の養育者の作為または不作為によって、児童に実際に危害が加えられたり、危害の危険にさらされたり、危害の脅威にさらされること」[1]

歴史[編集]

1874年4月、アメリカ・ニューヨークにおけるメアリ・エレン・ウィルソン事件により、ニューヨーク児童虐待防止協会New York Society for the Prevention of Cruelty to Children)が設立された[2]。後年には、イギリスで1884年に、民間組織として児童虐待防止協会Society for Prevention for Cruelty to Children)が設立され、その後は全国児童虐待防止協会National Society for Prevention of Cruelty to Children)となる。1960年、フランスの歴史学者フィリップ・アリエスが『〈子供〉の誕生』(こどものたんじょう、仏: L'Enfant et la Vie familiale sous l' Ancien Regime)を発表した。1962年にアメリカの医師ヘンリー・ケンプHenry Kempe)は「被殴打児症候群Battered Child Syndrome)」を報告した[3]

日本では、2000年、「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」を制定した後、2004年には同法を改正し、「関係省庁相互間その他関係機関および民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他」を行ない、児童虐待の防止等のために必要な体制の整備に努めなければならない旨を明文化した[4]

法的定義[編集]

日本では児童虐待防止法では、「児童虐待」を、「保護者親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう)がその監護する児童(18歳に満たない者)に対し、次に掲げる行為をすること」と定義し、以下の行為を列挙している(2条)。また、第3条では「何人も、児童に対し、虐待をしてはならない」と規定している。

身体的虐待
児童の身体に痛みと苦痛が生じ、または外傷の生じるおそれのある暴行を加えること。行為は「一方的に暴力を振るう(殴る、蹴る、叩く)」、「外傷がなくとも継続的に痛みを与える(食事を与えない、冬は戸外に締め出す、部屋に閉じ込める)」に分けられる。
性的虐待
子供への性的暴力。児童への猥褻行為が中心で、児童を性的対象にしたり、猥褻なもの(自らの性器)や性交を見せ付けたり、性的行為を強要することも含まれる。
ネグレクト(育児放棄、監護放棄)
児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食、もしくは長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。「病気になっても病院に受診させない」、「乳幼児を暑い日差しの当たる車内への放置」、「食事を与えない」、「下着など不潔なまま放置する」、「(幼稚園、保育園、保育所、学校への)通学を行わせない」などが含まれる。
心理的虐待
児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うことで、児童の健全な発育を阻害し、場合によっては心的外傷後ストレス障害 (PTSD)やうつ病アダルトチルドレン など、重大な精神疾患 の症状を生ぜしめるため禁じられている。言葉の暴力、一方的な恫喝、無視、存在否定、自尊心を踏みにじる行為などが含まれる。
経済的虐待

状況[編集]

日本の児童虐待相談件数は統計開始の1990年が1,101件、2008年は37,323件、2011年には59,862であり、毎年増加している[5]。ただしこの増加を実際に虐待が近年急増していると捉えるべきか、実際の虐待数はもっと多くて発覚する件数が増えていると捉えるべきなのかについて、九州保健福祉大学大堂庄三は、「急増論は根拠がない」と考察している[6]

アメリカの「被虐待児童数」は約88万人(2000年)、ドイツ31,000人、フランス18,000人である[7]。 日本では、「平成18年度に全国の児童相談所で対応した児童虐待相談対応件数は、37,323件」で、虐待内容は「身体的虐待が15,364件(41.2%)で最も多く、次いでネグレクトが14,365件(38.5%)」である[5]。日本において毎年、数万人以上の子どもが虐待されている可能性があり、児童虐待は、子どもにとって重大な脅威である。

虐待されていた児童の年齢は0 - 3未満が17.3%(6,449人)、3 - 学齢前児童が25.0%(9,334人)、小学生が38.8%(14,467人)、中学生が13.9%(5,201人)、高校生・その他が5.0%(1,872人)。性別では男児52.3%、女児47.7%で男児が若干多い[8]。ただし性的虐待では97.1%が女児で中高校生が65.0%[8]となり、傾向が異なる。

虐待をする者は、62.8%が実母、22.0%が実父、義父・義母は合わせて8.3%で[5]、6割近くが実母によるものである事が分かる。1999年の統計によれば、虐待をしているのは58.0%が実母、25.0%が実父であり、義父・義母は合わせて9.3%である(残りはその他)[8]。母の職業は3分の2が主婦・無職で、在宅型が多い[8]。虐待者の学歴は1993~1995年の統計において、中卒が34.3%、高卒が12.2%、高校中退が6.7%、大卒では2.4%であった(ただし、同統計において「その他・不明」が44.4%となっていることに留意)。性的虐待では、虐待者の9割近くが中卒であるとの統計もある[8]。経済状況では1993~1995年の統計において、貧困52.5%、普通31.5%、裕福2.6%となっている[8](ただし、同統計の経済状況分類は、あくまで調査者が主観的に判断したものであることに留意)。

自らも虐待を受けた者の割合については、統計により9.1% - 39.6%などとなる[9]長谷川博一は、世代連鎖を断つことを理念として、1999年に親の治療グループ「親子連鎖を断つ会」を設立する[10]

被虐待児が病院を受診し、虐待を受けたと思われた場合には担当でなくとも速やかに警察に通報する義務がある[11]

全国児童相談所長会が一時保護に親が同意しなかった614人の児童(平均年齢8.5歳)に対して調査した所、「「生命の危機がある」38人(6.2%)、継続的治療が必要な外傷があるなど「重度の虐待」158人(25.7%)、慢性的に暴力を受けるなど「中程度の虐待」254人(41.4%)」である[12]。同調査によると、虐待が開始されてから児童相談所が一時保護するまでの期間は、3年以上(146人、23.8%)、1年以上3年未満(124人、20.2%)、6か月以上1年未満(82人、13.4%)、1か月以上6か月未満(108人、17.6%)、1か月未満(104人、16.9%)、無回答(50人、8.1%)である[12]

児童相談所が児童虐待をした保護者に改善指導している途中、保護者の転居により行方が分からなくなってしまった児童の数が2009年だけでも39人いる[13]

大阪府総合医療センター小児科の報告によれば、2000年から2010年までの10年間に同センターに入院した被虐児215例を検討したところ、主たる虐待者は、実母が55%、実父が18%であった。また入院前より児童相談所に通告されていたのは、全体の26%であった[14]

虐待死[編集]

心中以外[編集]

厚生労働省の平成20年度の統計によると、1年間で64例67人の児童(幼児)が虐待死している[15]。死亡した児童の年齢は0才児が59.1%で最も多く、1歳児は14.1%で、死亡した児童の88.5%が0~5歳、同年の統計の最年長は16才[15]

通常の虐待事例と同じく、加害者としては実母が最も多く[15]59.0%で、16.4%が実父である[15]。また望まない妊娠/計画していない妊娠が31.3%あり、10代の妊娠が22.4%である[15]。養育者については実父母が44.8%、一人親(未婚)が19.0%、内縁関係が15.5%であった(判明したもののみ集計)[15]。加害の動機については、「しつけのつもり」(22.7%)、「子どもの存在の拒否・否定」(11.9%)、「泣きやまないことにいらだったため」(11.4%)などがある(動機が判明しているもののみを集計)[15]。特殊なものとしては「保護を怠ったことによる死亡」が6.0%、代理ミュンヒハウゼン症候群が4.5%、妄想などの精神症状が3.0%である[15]。また揺さぶられ症候群による頭蓋内出血による死亡は平成18年1月から平成20年3月までの間で1件であった[15]

なお、平成20年度の統計では「子どもの暴力などから身を守る」、「慢性の疾患や障害の苦しみから子どもを救おうという主観的意図」などの子供の側の要因による殺人は1件もない[15]

日本法医学会の「被虐児の法医解剖剖検例に関する報告、第2回調査、1990~1999年」によれば、被虐児の死亡例459人中、加害者は、実母49.2%、実父15.9%、実母と実父9.6%であった[16][17]

心中[編集]

厚生労働省の平成20年度の統計によると、1年間に心中に際して殺された児童は43例61人であった[15][18](心中未遂で子どもは殺されたが加害者が死亡しなかった事例を含む)。殺された児童の年齢については、心中以外の場合のような極端な偏りはないものの、0歳が11.7%、1歳が6.7%、2歳が3.3%、3歳が8.3%で、3歳以下が30.0%を占めている[15]。同年の統計の最年長は16才。主たる加害者の7割は実母で[15]、心中以外の事例よりも実母の割合が高い(この場合「心中」といっても、「同意ある二つの自殺」ではなく、「一つの殺人と一つの自殺」である。つまり無理心中である)。児童の虐待死のうち、事前に児童相談所に通報が無かったものは79.5%[19]であり、児童相談所が把握しているのは実際の虐待の一部分だけである。

鑑別[編集]

体罰と児童虐待との鑑別が問題となることがある[20]

米国のある調査によれば、大人の82%は、「子どもの頃に、親にスパンクされたことがある」と答えている。また、多くの人は「親によるたいていの体罰は、虐待ではない」と答えている[21]。日本のある育児雑誌が読者アンケートを行ったところ、回答した親の62%は「子どものおしりをたたくことがある」と答え、55%は「子どもの頭をたたくことがある」と答え[22]、「子どもをたたかない主義」と答えたのは12.2%であった[23]

ミネソタ大学の「早期教育と発達のためのセンター」は、罰の使用について、「教育的な雰囲気の中で、良い行いに対するポジティブな賞賛やご褒美などと共に、軽い罰を例外的に使用するのであれば、罰の使用は容認できる」としている[24]

米国の裁判所や Child Protective Services(日本の児童相談所に相当する)は、親の処遇を決める際に、次の諸点を考慮している[25]

  • 子どものケガの重さ
  • 子どもの年齢と発達の度合い
  • 体罰の方法
  • 体罰の頻度
  • 体罰が子どもの精神や発達に与えた影響
  • 体罰の動機(目的)

最初の子どもが生まれたときに、子育てを完全に理解している親はいない。子どもの発達には何が必要かを、親が理解すると、体罰で強制する育児から、教えて直す育児に転換することが可能となる。親が子どもに教える姿勢を持つと、子どもを叩くより子どもと話をする状況を作ることが可能となる。目標は、子どもが自分で自分を改善させてゆく状態である[26]

原因[編集]

(翻訳元は英語版

児童虐待は、いくつかの要因によって起きる複雑な現象である。虐待の原因を理解することは、児童虐待の問題を把握するために不可欠である。

配偶者を身体的に虐待する者は、子どもを身体的に虐待する割合が、より高い。しかしながら、夫婦喧嘩が児童虐待の原因となっているのか、あるいは夫婦喧嘩と虐待が、虐待する者の性質によって引き起こされたのかは、不明である。

望まれなかった妊娠で生まれた子どもは、虐待を受けたりネグレクトされたりする割合が、より高い。そして、望まれなかった妊娠では、意図的な妊娠と比較して、虐待的な人間関係である割合が、より高い。望まれなかった妊娠では、妊娠期間中に妊婦が身体的虐待を受けるリスクが、より高く、母の精神衛生が悪化し、母と子の関係の質が悪化する。

薬物依存は、児童虐待の重要な要因である。アメリカ合衆国のある研究によれば、薬物依存が証明された患者では、 (多いのは、アルコールやコカインやヘロインであるが)、子どもを虐待する割合が、ずっと高い。、また、裁判所が命じたサービスや治療から脱落する割合が高い。別の研究によれば、児童虐待のケースの3分の2以上では、薬物依存の問題を抱えている。この研究は、アルコールと身体的虐待、コカインと性的虐待の関係が深いと報告している[27]

失業と経済的困窮は、児童虐待の増加と関係している。2009年のCBSニュースは、経済不況の時に、アメリカ合衆国の児童虐待件数が増加したことを報道している。子どもの世話をあまりしてこなかった父親が、子どもの世話をするようになると、子どものケガが増えるのである[28]

子どもの殺害に関する1988年のアメリカ合衆国の研究は、非生物学的な親は、生物学的な親に比べて、100倍も多く子どもを殺害すると報告している[29]。非生物学的な親とは、例えば義理の親、同居人、生物学的な親のボーイフレンドやガールフレンドである。これについての進化的心理学による説明は、他人の生物学的な子どものために自分の資源を使うことは、繁殖で成功するチャンスを増やすには、良い戦略ではないということである。もっと一般的に言えば、義理の子どもは、虐待を受ける割合が、ずっと高いということである。これはシンデレラ現象Cinderella effectと呼ばれている。

片親に育てられる子どもは虐待を受けやすい。米国の統計によれば、片親家庭の子どもが虐待を受ける率は、子ども1000人に対して27.3人であり、それは、両親のいる家庭の子どもが虐待を受ける率15.5人の、約2倍である[30]。また米国の高校生1000人を対象とした調査では、実父と実母のいる家庭で育った子どもが虐待を受ける割合が、3.2%であったのに対して、それ以外の形態の家庭で育った子どもが虐待を受ける割合は、18.6%であった[31]。虐待の加害者に最もなりやすいのは、片親の実母である[32]

子どもの正常な発達についてよく知らない親は、しつけのつもりで子どもを虐待してしまうことがある。例えば1歳の子どもに排尿管理をさせようとして罰を与えても効果はない[31]

対策[編集]

日本において、虐待された子供の救済、保護を担当するのは、児童相談所であるが、特に緊急を要する場合は、警察がまず加害者である側から児童を引き離して保護し、しかる後に児童相談所に事態の収拾を預ける事もある。

児童相談所では事案を調査し、親に対するアドバイスや援助を行ったり、児童に必要な医療措置を手配したり、必要な場合には、親権を剥奪したり児童養護施設に児童を収容したりすることもある。しかし、増加しつつある児童虐待に、児童相談所が対応しきれておらず、児童福祉司の増員および専門性の確保が必要、という指摘もある(児童相談所を参照)。

厚生労働省を中心として、児童虐待の防止対策が行われている[33]。2003年9月に厚生労働省は、児童相談所を「児童虐待と非行問題を中心に対応する機関」とした。児童相談所が取り扱う虐待の件数は、毎年急増している[34]

虐待の緊急時に対して、週日の日中は、全国共通ダイアル0570-064-000に電話すると、最寄の児童相談所につながる。地方自治体や警察によっては、24時間体制の児童虐待用ホットラインを設置しているところがある(例、大阪市大阪府警)。

アメリカ合衆国でこの問題を担当するのは、連邦政府のChildren's Bureauと、各州政府のChild Protective Servicesである。 また、アメリカ合衆国は、児童虐待を防止するためにいろいろな施策を行っている[35]

  • 家庭訪問‥‥妊娠中と生後2年間は、看護師が定期的に子どもを訪問する
  • 親教室‥‥育児の仕方、利用できる制度・組織について説明する
  • 子どもへの安全教育‥‥良いタッチと悪いタッチの区別を子どもに教える
  • 育児のサポートグループ
  • 養子制度
  • 緊急時のホットライン、収容施設Crisis Nurseries

また間接的な施策として、夫婦が良好な関係を維持するような情報提供[36]や、父親が子どもへの関与を増やすような広報を行っている[37]。 その結果、米国政府当局は、児童虐待のうち、身体的虐待、性的虐待、精神的虐待は、減少傾向にあるとしている[38][39][40][41]。ただし、ネグレクトは横ばいである。

世界保健機構WHOの「暴力と外傷の予防」部門の Mikton 氏は、児童虐待予防のための対策の効果を、先行する諸研究を検討して評価した。その結果、家庭訪問、親への教育、頭部外傷予防、多方面の介入には、児童虐待を減らす効果が認められた。また、家庭訪問、親への教育、性的虐待予防には、児童虐待のリスクを減らす効果が認められた[42]

フィンランドの国立健康福祉研究所は、児童虐待を予防するために、育児の重荷を分かち合うことを勧めている[43]

  • 母親は、小さい子どもを虐待することがある
  • 母親が支援なく放置されると、子どもを虐待することがある
  • 母親は、育児のストレスや重荷を分かち合う人を必要としている
  • 人間の子どもは、非常に多くの世話を必要としている
  • 人間の子どもは、自立するまでに長い時間がかかる
  • 一人で育児が出来るという人はいない
  • 親の利益と子の利益は完全には一致しない
  • 複数の大人が育児に関わると、子どもの発達は促進される

また、保健機関も児童虐待防止に貢献している。保健機関とは市町村保健センターと保健所を指す。母子保健事業は、保健所では未熟児や障害児などに対する事業、市町村保健センターは乳幼児健診や育児教室といった一般市民が利用できる事業を実施している。虐待に関し保健機関で行なっていることは、親を育てることにつきる。妊娠中から若年妊娠や母子家庭、低出生体重児といった虐待ハイリスクに対し、相手の土俵である家庭への訪問を繰り返す。そして、一緒に育児をしながら親子関係を育て、訪問者との信頼関係を築き、仲間づくりを促進して孤立を防ぐといった支援を行なっている[44]。以上のような保健機関の活動は虐待予防に貢献している。実際、日本の児童虐待の12.5 %は保健機関で発見されているという統計がある[45]。 また、虐待は、親が心の問題を抱えていることがリスク因子の一つである。このことは全国主要病院小児科・被虐待児調査でも明らかにされた。[46]そのような親に対し、保健所では精神保健事業も行なっている。そのため、保健機関は母子保健だけでなく、精神保健の面からも虐待予防に貢献しているということができる[47]

子供を診療する機会がある医療機関においては、被虐待児を診療する機会もある。実態調査からは、1年間で全国の小児医療機関の約1/4で被虐待児が診療されており、累積的には80 %の医療機関で診療が行われていることが推測されている。このような被虐待児の診療を通して、医療機関で虐待が発見されることがある。しかし、医療現場における虐待予防にも課題がある。渡部誠一らによる2005 年の調査によれば、わが国において、子供を診療する機会の多い医師の児童虐待への関心自体は低くはないそうである。全体では約90 %の医師が子ども虐待に関心を持っていたという。しかし、実際に通告することについては、60 %前後の医師が抵抗があると回答していた。通告や子ども虐待へ関わることの抵抗と躊躇の背景として、虐待診断に自信がない、診療時間外の仕事になり時間がとれない、家族とのトラブルが心配、の3点を大きなものとして医師はあげていたという。子ども虐待に対する一般医師の関わりを支援するためには、これら3点の対応を検討する必要がある、という指摘がある[48]

学校が児童虐待防止に果たす役割も大きい。児童虐待への対応において、学校は以下の様な特徴をあげることができる[49]。 ・他の児童福祉施設、保健・医療機関または警察関係機関などと比べても、その量的規模が圧倒的に大きい。 ・教員免許を持ち、様々な研修を経た教員がおり、その人的規模が圧倒的に大きい。 ・子供が一日の大半を過ごす場所であり、教職員は日常的に子供たちと長時間接していることで、その変化に気づきやすい立場にいる。 ・養護教諭、生徒指導主任、学年主任、教頭、校長、スクールカウンセラーなどの異なる知識・経験・能力を持った職員集団がいる。そのため、複数でチームとなって課題解決に当たることができる。 ・家庭や保護者に対して働きかけをすることができる。 これらのことから、学校は児童生徒に対して網羅的に目配りができ、日常的な変化に敏感に反応して対応できる。実際に、小学校の学級担任が子供の様子から虐待を疑い、児童相談所に通告し、児童が保護された事例もある。学校は全児童虐待の13.5 %の発見に関わっている[50]。この割合は児童相談所についで多い。 また、高校などで、近い将来親になる生徒に、児童虐待について授業を行い、児童虐待を防止しようとする試みもある[51]

日本と欧米諸外国とを比較すると、日本には以下のような特徴がある。

  • 児童虐待を担当する職員が少ない[52]
  • 死因の調査が充分には行われていない
  • 父親が子育てに関与する時間が短い[53]
  • 離婚後に片親は、子どもにほとんど関与できなくなる[54]

脚注[編集]

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  1. ^ definition CDC
  2. ^ New York Times 2009.12.15
  3. ^ Battered Child Syndrome
  4. ^ [『子どもの虐待防止とNGO-国際比較調査研究』桐野由美子、明石書店、2005年]
  5. ^ a b c 厚生労働省 - 平成18年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数等
  6. ^ 子どもの虐待-虐待増加論への疑問と「子ども」の誕生-
  7. ^ 原田綾子著「「虐待大国」アメリカの苦闘」
  8. ^ a b c d e f 児童虐待国際比較刑事政策研究所加藤久雄法律事務所内。2010年8月14日閲覧
  9. ^ 「児童虐待の実態II」東京都福祉局 2007.12月 http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/jicen/site_map/files/hakusho2.pdf。慶應義塾大学加藤久雄研究会 http://www.law.keio.ac.jp/~hkatoh/gyakutai/2_1_B.htm
  10. ^ 「たすけて! 私は子どもを虐待したくない-世代連鎖を断ち切る支援-」2003.径書房
  11. ^ 「児童虐待の防止等に関する法律」においては、発見した者全てが児童相談所等に通報の義務がある(第6条)と定められている。また、通告義務は他の法が定める守秘義務より優先される(同条2項)ことも同時に定められている
  12. ^ a b 児童虐待:不同意の一時保護 4割が「虐待1年以上」
  13. ^ 毎日新聞児童虐待:97人不明に 改善指導中に転居…05年度以降
  14. ^ 日本小児科学会雑誌、2011年、115巻1号、p77
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m 厚生労働省子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第6次報告)資料1 死亡事例集計結果
  16. ^ 児童虐待死亡例の検討、小児科診療、2011年、91巻10号、p1531
  17. ^ 被虐児の法医解剖剖検例に関する報告 日本法医学会
  18. ^ 「心中未遂で子どもは殺されたが加害者が死亡しなかった事例を含む」。以下同様
  19. ^ 平成22年4月9日全国児童相談所長会議資料
  20. ^ Discipline Versus Abuse 「しつけと虐待」Child Welfere Information Gateway 米国政府文書
  21. ^ Discipline and Development 「しつけと発達」p17、p18
  22. ^ 子育てのリアリティー p174、プチタンファン「お母さんの実感アンケート1999年」より
  23. ^ 同書p191、「お母さんの実感アンケート2001年」より
  24. ^ What is the Difference Between Discipline and Punishment 「しつけと罰の違いはどこにあるか」、ミネソタ大学、早期教育発達センター
  25. ^ Where and How to Draw the Line Between Reasonable Corporal Punishment and Abuse 「容認できる体罰と虐待との境界線をどこに引くべきか」デューク大学法学部Coleman教授ら、2010年、p130
  26. ^ Discipline and Development 「しつけと発達」p4
  27. ^ Parental substance abuse and the nature of child maltreatment Child Abuse & Neglect 16 (4): 475–83
  28. ^ Hughes, Sandra (20 May 2009) CBS News
  29. ^ Evolution and the Prevention of Violent Crime Psychology 02 (4): 393.
  30. ^ US Third National Incidence Study of Child Abuse and Neglect Department of Health and Human Services
  31. ^ a b What Factors Contribute to Child Abuse and Neglect? 米国政府文書
  32. ^ Fathers, Mothers, and Child Abuse and Neglect Institute for American Values
  33. ^ 児童虐待の防止対策 厚生労働省
  34. ^ 児童虐待相談の対応件数 厚生労働省
  35. ^ Child Maltreatment Prevention 米国厚生省
  36. ^ Healthy Marriage Initiative アメリカ合衆国政府
  37. ^ National Reasponsible Fatherhood Clearinghouse アメリカ合衆国政府
  38. ^ Updated Trends in Child Maltreatment 2010 ニューハンプシャー大学
  39. ^ Child Maltreatment Prevention 米国厚生省
  40. ^ Child Maltreatment 2010 米国厚生省
  41. ^ Fourth National Incidence Study of Child Abuse and Neglect 米国厚生省の文書
  42. ^ Child Maltreatment Prevention World Health Organization
  43. ^ Sharing the burden of parenting under ,ulticultural stress: Primary prevention of child abuse and neglect National Institute for Health and Welfare
  44. ^ 津崎哲郎;橋本和明編(2008)『最前線レポート 児童虐待はいま』京都 ミネルヴァ書房 ,p.117
  45. ^ 子どもの虹情報研修センター(インターネットアーカイブ) https://web.archive.org/web/20110809101551/http://www.crc-japan.net/contents/knowledge/b234_situation.html
  46. ^ 子どもの虹情報研修センターhttp://www.crc-japan.net/contents/knowledge/a5_cruelty.html
  47. ^ 津崎哲郎;橋本和明編(2008)『最前線レポート 児童虐待はいま』京都 ミネルヴァ書房 ,p.117
  48. ^ 津崎哲郎;橋本和明編(2008)『最前線レポート 児童虐待はいま』京都 ミネルヴァ書房
  49. ^ 谷口卓;末光正和編(2007)『実践から学ぶ児童虐待防止』東京 学苑社
  50. ^ 子どもの虹情報研修センター(インターネットアーカイブ) https://web.archive.org/web/20110809101551/http://www.crc-japan.net/contents/knowledge/b234_situation.html
  51. ^ 谷口卓;末光正和編(2007)『実践から学ぶ児童虐待防止』東京 学苑社
  52. ^ 児童虐待 岩波新書 p180
  53. ^ 家庭教育に関する国際比較調査 国立女性教育会館
  54. ^ 離婚しても共同養育による虐待防止を 益子行弘

関連項目[編集]

外部リンク[編集]