いとこ婚

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いとこ婚(いとここん)は、いとこ同士の結婚のこと。近親婚の範疇と見なされることがあるが、法的あるいは慣習的な可否は国家や民族、文化圏や地域社会によって異なる。

世界のいとこの結婚に関する法律
  結婚が可能としている地域
  宗教や文化に依存して許可している地域1
  地域社会に認められた上であれば可能としている地域
  特別な場合を除いていとことの結婚を禁止している地域
  刑罰を設けてはいないが法律上は禁止している地域
  性関係が場合によっては性犯罪となりうるとしている地域
  データなし

1インドヒンドゥー教を参照。

概要

日本では、4親等以上離れていれば直系でない限り血族同士の結婚も認められているため、いとこ婚が可能である。古いデータではあるが、後藤源太郎の著書『近親結婚と母系制』に世界各地におけるいとこ婚の比率が記載されており、1931年昭和6年)の東京市で4.0%、1949年昭和24年)の長崎市で5.24%となっていた[1]。1914年 - 1919年のフランスで0.97%、1925年 - 1939年のイングランドで0.40%、1925年 - 1950年のアメリカ合衆国ボルチモアで0.05%となっており、欧米に比べれば高い[1]。ただし、1955年 - 1957年のイスラエル全土で5.22%と、当時の他の地域と比べて、日本在住の人々のいとこ婚の比率が突出しているわけではない[1]。なお、今日の日本では過去に比べいとこ婚の比率が減少したとされ、調査でいとこ婚の比率は全ての婚姻のうち1.6%だったという1983年の報告がある[2][3]

アメリカでは、いとことの結婚は25ので禁止されている。また、別の6州では特殊事情の下でのみいとことの結婚が許可されており、例えばユタ州は双方の配偶者が年齢65歳以上もしくは年齢55歳以上で性的不能に関する証拠を持つ場合に限定して可能となっている。残る19の州及びコロンビア特別区では2008年現在、いとこ婚は制限無しで許可されている。

イスラーム文化圏では地域によって異なるが、サウジアラビアのような国では血縁が濃いことが喜ばれる傾向があるため、いとこ同士の見合い婚が多い。恋愛結婚にしても、女性が顔を隠しているために、男性にとって恋愛対象になり得るのが顔を知っている従姉妹に限定されてしまうという事情がある。また、預言者ムハンマドの第7夫人ザイナブがムハンマドの従姉妹であることも、いとこ婚が推奨される背景になっている。クルアーン(コーラン)に記述された、婚姻が禁じられた近親者の一覧[4]の中には、いとこは書かれていない。特別な理由がない限り、女性が父方の従兄弟に当たる男性からの求婚を断ることができない、という慣習を持った地域も存在する[5]

インドは多宗教国家であるため、一律にいとこ婚の可否を決定することが出来ず、異宗婚の場合に用いられる婚姻法では原則禁止としているが、同宗婚の場合は個々の宗教法に従うことになるため、イスラームを信仰している場合は可能ということになる。

ヨーロッパの王族、貴族の間では、いとこ婚が頻繁に行われている。しかし本来は教会法に反する近親婚に当たるとされており、カトリックの場合には教会から特別に赦免をもらったり、逆に離婚時にはこれを理由に用いて結婚を無効にする、といったことが行われていた。

他の文化圏の事情については近親婚も参照。

このように、いとこ婚の可否にはまず文化的な差異が大きく影響している。

研究

遺伝的な障害との関係

肯定的見解
2002年平成14年)4月に「Journal of Genetic Counseling」で発表された研究では、アメリカ合衆国で収集された情報によれば子供の遺伝的危険度は一般的な交配でも3%程度存在する[6]。またかつて日本の広島市と長崎市で調査された1965年昭和40年)発表のデータによれば、広島市が通常の児童期における致死率6.4%がいとこ交配で9.2%になり、長崎市で通常の児童期における致死率7.7%がいとこ交配で8.7%になっていたなどの調査結果が存在している[6]。それらの研究を総合するといとこ同士が交配したところで子供の遺伝的な危険性は通常の婚姻の場合の遺伝的危険度に1.7 - 2.8%加わる程度に過ぎないと推定された[6]。このリスクは高齢の女性の出産より低い。
否定的見解
BBCの報道によれば、イギリスに住むパキスタン人は55%がいとこと結婚している。いとこ婚する者の両親やその祖父母やその祖先もいとこ婚の結果である場合は、遺伝的には兄弟姉妹間の結婚に近い場合もある。このため遺伝子障害の発生率が、一般住民の13倍もの高率であり、バーミンガムではいとこ婚のパキスタン系住民の子供の10人に1人は幼年期に死ぬ、あるいは重大な障害を起こしており、イギリスでは人口比で3%を少し超える程度のパキスタン人が、遺伝病の子供全体の少なくとも3分の1を占めている[7]

文化人類学におけるいとこ婚

レヴィ=ストロースはいとこ婚を、

  • 交差いとこ婚:兄妹や姉弟など、異性のきょうだいの子供同士が結婚する
  • 平行いとこ婚:兄弟や姉妹など、同性のきょうだいの子供同士が結婚する

の2つに分類した(さらにそれぞれを「父方~」と「母方~」に分け、4種類とすることもある)。『親族の基本構造』において彼は、当時「未開社会」とされていた社会において、いとこ婚の奨励が見られるのは、インセスト・タブーの全く無い原始社会から、タブーのある現代への「進化」の途上にあるからである、といったような構造主義以前の見方を退け、財の交換ないし贈与という視点から、数学的に記述することさえ可能な体系的な規則性があることを示し、族外婚の規則性を論じた。いとこ婚に関するこの分類方法は、その後も文化人類学で一般的に使用されている。

いとこと結婚した著名人

  • 以下に挙がっている人物の中には、いとこの他により近い血縁者とも結婚していた例(異母兄弟姉妹婚叔姪婚)が含まれるが、ここでは言及しない。
  • ※は父方・母方双方でいとこ同士を示す。
  • 日本においては、甥を養子とする際に娘と結婚させて入婿の形にもする例がある。全てがこれに当てはまるわけではないが、養親の実子と養子の結婚を◆で示す。

ヨーロッパの君主

ヨーロッパの王侯貴族の間では上述の通り、いとこ婚が頻繁に、時には何世代にもわたって行われている。いとこ婚の事例は枚挙に暇がないため、ここで挙げるのは君主の例、および君主が兄弟姉妹とともにいとこ婚を行った例にとどめる。

兄弟姉妹ともにいとこ婚

古代ヨーロッパの君主

イギリスの君主

イタリア諸邦の君主

オーストリア・ドイツ諸邦の君主

スペイン・ポルトガルの君主

フランス・ネーデルラント諸邦の君主

東欧・北欧諸国の君主

その他

日本の天皇・皇族・貴族・武家

江戸時代の天皇家系図

琉球国王・王族

東アジア、東南アジアの王侯貴族

この他、ベトナムの陳朝において、交差いとこ婚が頻繁に行われていた。

イスラム圏の王侯貴族

王侯貴族以外の著名人

日本

日本以外

その他

関連のことわざに「いとこ同士はの味」(いとこ同士の夫婦の仲は非常に睦まじい)がある。

脚注

  1. ^ a b c 『インセスト幻想—人類最後のタブー』(原田武、2001年) 35ページ ISBN 440924065X
  2. ^ 高野貴子 (2004年11月). “子は親にどこまで似るか”. 日本子ども家庭総合研究所. 2011年9月29日閲覧。
  3. ^ Imaizumi, Yoko (1986). “A recent survey of consanguineous marriages in Japan”. Clinical Genetics 30 (3): 230-233. PMID 3780039. 
  4. ^ 22.あなたがたの父が結婚したことのある女と、結婚してはならない。過ぎ去った昔のことは問わないが。それは、恥ずべき憎むべきこと。忌まわしい道である。 23.あなたがたに禁じられている(結婚)は、あなたがたの母、女児、姉妹、父方のおば、母方のおば、兄弟の女児、姉妹の女児、授乳した乳母、同乳の姉妹、妻の母、あなたがたが関係している妻の生んだ養育中の養女、あなたがたがその妻と、未だ関係していないならばその連れ子を妻にしても罪はない。およびあなたがたの生んだ息子の妻、また同時に二人の姉妹を娶ること(も禁じられる)。過ぎ去った昔のことは問わないが。アッラーは寛容にして慈悲深くあられる。(クルアーン第四「婦人章」(アン・ニサー) マディーナ啓示 176節より)
  5. ^ http://www.geocities.jp/sarah_masr/marriage.htm
  6. ^ a b c Bennett, Robin L. et al. (2002年4月). “Genetic counseling and screening of consanguineous couples and their offspring: Recommendations of the National Society of Genetic Counselors” (PDF). Journal of Genetic Counseling (Springer Science+Business Media) 11 (2): 97-119. doi:10.1023/A:1014593404915. http://www.springerlink.com/content/uxwm5qr18j5lgrdt/fulltext.pdf 2011年7月28日閲覧。. 
  7. ^ Rowlatt, Justin (2005年11月16日). “The risks of cousin marriage” (英語). BBC. 2011年6月2日閲覧。

関連項目