ブドウ
ブドウ属 | |||||||||||||||||||||
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種なしのオータムロイヤル種 (Autumn Royal)
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分類 | |||||||||||||||||||||
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種 | |||||||||||||||||||||
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ブドウ(葡萄、英名 "Grape"、学名 Vitis spp.)は、ブドウ科 (Vitaceae) のつる性落葉低木である。また、その果実のこと。
概要
100 gあたりの栄養価 | |
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エネルギー | 288 kJ (69 kcal) |
18.1 g | |
糖類 | 15.48 g |
食物繊維 | 0.9 g |
0.16 g | |
0.72 g | |
ビタミン | |
チアミン (B1) |
(6%) 0.069 mg |
リボフラビン (B2) |
(6%) 0.07 mg |
ナイアシン (B3) |
(1%) 0.188 mg |
パントテン酸 (B5) |
(1%) 0.05 mg |
ビタミンB6 |
(7%) 0.086 mg |
葉酸 (B9) |
(1%) 2 µg |
ビタミンC |
(13%) 10.8 mg |
ミネラル | |
カリウム |
(4%) 191 mg |
カルシウム |
(1%) 10 mg |
マグネシウム |
(2%) 7 mg |
リン |
(3%) 20 mg |
鉄分 |
(3%) 0.36 mg |
亜鉛 |
(1%) 0.07 mg |
マンガン |
(3%) 0.071 mg |
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%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: USDA栄養データベース |
葉は両側に切れ込みのある15 - 20センチメートルほどの大きさで、穂状の花をつける。野生種は雌雄異株であるが、栽培ブドウは1つの花におしべとめしべがあり、自家受粉する自家結実性であるため、他の木がなくとも1本で実をつける。果実は果柄(かへい)を通じて房状になり[1]、果皮は緑色または濃紫色で、内部(果肉)は淡緑色である。主に熟した果実を食用とするが、果実は子房が肥大化した、いわゆる真果である。外果皮が果皮となり、中果皮と内果皮は果肉となる。果実のタイプとしては漿果に属する。大きさは2 - 8センチメートル程度の物が一般的である。ブドウの果実は枝に近い部分から熟していくため、房の上の部分ほど甘みが強くなり、房の下に行くに従い甘味も弱くなる。皮の紫色は主にアントシアニンによるものである。甘味成分としてはブドウ糖と果糖がほぼ等量含まれている。また、酸味成分として酒石酸とリンゴ酸が、これもほぼ等量含まれる。
ブドウ属の植物は数十種あり、北アメリカ、東アジアに多く、インド、中東、南アフリカにも自生種がある。日本の山野に分布する、ヤマブドウ、エビヅル、サンカクヅル(ギョウジャノミズ)もブドウ属の植物である。
現在、ワイン用、干しぶどう用または生食用に栽培されているブドウは、ペルシアやカフカスが原産のヴィニフェラ種 (V. vinifera) と、北アメリカ原産のラブルスカ種 (V. labrusca)である。
栽培されるブドウには生食用ブドウと加工用ブドウがあり、加工用品種は醸造・干しブドウ・ジュースなどに利用される。生食用はテーブルグレープ、酒造用はワイングレープ(wine grapes)と呼ばれている。
栽培法
ブドウは温帯の農作物で、平均気温が10度から20度程度の地域が栽培適地である。北半球では北緯30度から50度、南半球では南緯20度から40度の間に主要産地が存在する。最適の降水量は品種によって差があり、ヨーロッパブドウは一般に乾燥を好み、アメリカブドウは湿潤にも強いが、種全体としてみれば年間降水量が500mmから1,600mmあたりまでに主要産地が存在する。
ブドウは水はけがよく日当たりが良い土地を好む。他の果樹と同様、ブドウも種子から育てると質の良い果実ができにくく、また枝を土に挿すと容易に根を生やすため、古来から挿し木によって増やされてきた。しかし、19世紀後半に根に寄生するブドウネアブラムシ(フィロキセラ)によって大打撃を受けたため、以後は病害虫予防のために台木を使用することが一般的となった。
収穫期は品種によって差があるが、日本においては最も早いデラウェアが7月下旬から収穫が始められ、最も遅い品種は11月上旬まで収穫される。また、ハウス栽培の場合はこれよりも早くなる。
世界で木の仕立て方は、4種類ある[2]。括弧()内は地域。
- 垣根仕立て。(全世界)
- 株仕立て。(フランス、スペイン)
- 棒仕立て。(ドイツ〔モーゼル〕)
- 棚仕立て。(日本、イタリア及び南米の一部)
歴史
世界的観点から
ブドウの栽培化の歴史は古く、紀元前3000年頃には原産地であるコーカサス地方やカスピ海沿岸ですでにヨーロッパブドウの栽培が開始されていた。ワインの醸造は早くに始まり、メソポタミア文明や古代エジプトにおいてもワインは珍重されていた。メソポタミアでは気候や土壌的にブドウの栽培が困難なため、消費されていたワインの多くは輸入されていた[3]。古代ギリシアではワインのためのブドウ栽培が大々的に行われ、ギリシア人が植民した地域でもブドウ園が各地に開設されるようになった。ギリシアを支配したローマ帝国の時代にはワインは帝国中に広まり、そのためのブドウ栽培も帝国各地で行われるようになった。ローマ人は特にガリアやラインラントにブドウを導入し、現在でもこの地域はブドウの主要生産地域となっている。ローマ帝国崩壊後の政治の混乱によってブドウ栽培は衰退していったが、各地の修道院などによって少量ながら生産が維持され続け、やがて政情が安定するとともに再び栽培が盛んとなっていった。11世紀から13世紀にかけては気候が温暖となり、イングランドのような北方の国家においてもブドウの栽培が盛んとなり、現ベルギーのルーヴァンなどでも輸出用のワインを作るためのブドウ栽培なども行われていた。しかし14世紀頃から気候が寒冷化した上に輸送費が下落して、ブドウの栽培地域は次第に南方へと限られるようになっていった[4]。
一方、原産地から東へと伝播したものは、紀元前2世紀には中国に到達した。
大航海時代が始まり、世界各地にヨーロッパ人が植民するようになると、移民たちは故郷の味を求め、ワインを製造するために入植先にブドウを植えていった。南アフリカ共和国のケープ州やチリなど、この時期に持ち込まれたブドウ栽培が成功してワインの名産地となった地域も多い。北アメリカ大陸にもヨーロッパブドウが持ち込まれたが、ここでの栽培は当初あまり成功しなかった。これは、ブドウのもう一つの主要系統であるアメリカブドウに属する野生種が北アメリカ大陸東部には多数あり、ブドウネアブラムシ(後述)などのアメリカブドウの病害が免疫のないヨーロッパブドウに大被害を与えたためである。インディアンはアメリカブドウを盛んに利用しており、やがてヨーロッパ系の植民者たちも野生種の中から有望な種を選抜して栽培種化していった。しかし、アメリカブドウには独特の香りがあり、ワインにするには不向きであったため、アメリカブドウは主にジュース用として発展していった。
アメリカでワインを生産するため、ヨーロッパブドウをアメリカで育てるために様々な試みがおこなわれた。病害に強いアメリカブドウとヨーロッパブドウを掛け合わせた雑種を作るやり方も盛んに行われたが、ワイン用としては一部を除いてヨーロッパブドウを超えることができず、次第に廃れた。一方で生食用品種では巨峰やピオーネなど有望品種がいくつも生まれている。それに代わる方法として、病害に耐性を持つアメリカブドウを台木としてヨーロッパブドウを接ぎ木する方法が19世紀後半に開発され、これが主流となった。
北米
北アメリカ原産のブドウはブドウネアブラムシに対する耐性を持つが、1870年頃に北アメリカの野生ブドウの苗木がヨーロッパにもたらされ、この根に寄生していたブドウネアブラムシによって、耐性のないヨーロッパの固有種の殆どが19世紀後半に壊滅的な打撃を受けた[5]。以後ブドウネアブラムシ等による害を防止するの理由で、ヨーロッパブドウについては、アメリカ種およびそれを起源とする雑種の台木への接ぎ木が行われている[6]。
日本
日本で古くから栽培されている甲州種は、中国から輸入された東アジア系ヨーロッパブドウが自生化したものが、鎌倉時代初期に甲斐国勝沼(現在の山梨県甲州市)で栽培が始められ、明治時代以前は専ら同地近辺のみの特産品として扱われてきた[7](ヤマブドウは古くから日本に自生していたが別種である)。文治2年(1186年)に甲斐国八代郡上岩崎村の雨宮勘解由によって発見され、栽培が始まったとされる。甲州の栽培は徐々に拡大し、正和5年(1316年)には岩崎に15町歩、勝沼に5町歩の農園ができていた[8]。江戸時代に入ると甲府盆地、特に勝沼町が中心となり、甲州名産の一つに数えられるようになった。松尾芭蕉が「勝沼や 馬子も葡萄を食ひながら」との句を詠んだのもこの頃のことである。正徳6年(1715年)の栽培面積は約20ヘクタールに上った。その後、関西や山形でも栽培されるようになり、江戸時代末期には全国で約300ヘクタールにまで栽培面積は拡大していた[9]。日本にあった在来の品種は甲州だけではなく、甲府盆地で栽培された甲州三尺や、京都周辺で栽培されていた聚楽といった品種も存在していたが、聚楽は既に消滅し、甲州三尺の栽培も少なくなってきている。
その後、明治時代に入ると欧米から新品種が次々と導入されるようになった。当初はワイン製造を目的として主にヨーロッパブドウが導入されたが、乾燥を好む品種が多いヨーロッパブドウのほとんどは日本での栽培に失敗した。例えば、1880年(明治13年)に兵庫県加古郡印南新村(現・稲美町)にて国営播州葡萄園が開園したものの、わずか6年後に閉園に追い込まれた[10]。一方、アメリカブドウの多くは日本の気候に合い定着したものの、ワイン用としては匂いがきつく好まれなかったため、生食用果実の栽培に主眼が置かれるようになっていった。特に普及したのはデラウェアとキャンベル・アーリーであり、戦前はこの2品種が主要品種となっていた。昭和10年には8,000ヘクタール近くまで栽培面積が拡大したものの、第二次世界大戦によって一時急減した。昭和21年には生産量が戦前の半分にまで減少したが、昭和30年には戦前の水準に回復した。
利用
果実は、そのまま生食されるほか、乾燥させてレーズンに、また、ワインやブランデーなどのアルコール飲料、ジュース、ジャム、ゼリー、缶詰の原料となる。世界的にはワイン原料としての利用のほうが主である。ワインを原料とした酢(ワインビネガー)も製造される。
ワインを製造する地域では、残った種子を搾油の原料としてグレープシードオイルが製造される。また、種子にはプロアントシアニジンという成分が含まれ、健康食品用などに抽出も行われている。また、ワイン醸造後にできる発酵後のブドウの残りかす(ポマース)からはポマース・ブランデーが蒸留される。
紫色をした皮にはアントシアニンなどのポリフェノールが豊富に含まれており、赤ワインやグレープジュースにも多い。絞った後の皮などの滓は、肥料として処理することが多い。
葉も可食であり、西アジアを中心とする地域の料理ドルマの材料に用いられる。
食用とされない果柄についても、がん細胞の増殖や転移を抑える物質の抽出が信州大学などにより研究されている[1]。
特殊な利用法として、ブドウの実に大量に含まれる酒石酸から酒石酸カリウムナトリウム(ロッシェル塩)を製造することができる。ロッシェル塩は強誘電体であり、圧電素子としてかつてはよく利用された。日本では第二次世界大戦末期には通信機器用の軍需物資として注目され、ブドウ園から原料が大量に集められた[11]。しかし湿気に弱いという欠点があったため、現在ではより優れた特性を持つ他の物質によって代替され、この目的で使用されることはなくなった。
生産
世界
2004年のブドウの総生産量は6,657万トンであり、バナナ(1億394万トン)、かんきつ類(1億273万トン)に次いで生産量が多い果物である。1980年代前半までは世界で最も生産量の多い果物であったが、生産量は20世紀中盤からほぼ横ばいで、20世紀に入り生産量の急増したバナナやかんきつ類に抜かれ、さらに同じく生産量の急増しつつある4位のリンゴ(6,192万トン、2004年)に追いつかれつつある。国際連合食糧農業機関(FAO)によると、世界のブドウ園の総面積は75,866平方キロメートルにのぼる。世界のブドウ生産量のうち71%がワイン生産用、27%が生食用に使用され、残りの2%はレーズン生産用である。世界最大のブドウ生産国は中国であり、ついでイタリア、アメリカ、スペイン、フランスと続く。
国 | 面積 (km²) |
---|---|
スペイン | 11,750 |
フランス | 8,640 |
イタリア | 8,270 |
トルコ | 8,120 |
アメリカ合衆国 | 4,150 |
イラン | 2,860 |
ルーマニア | 2,480 |
ポルトガル | 2,160 |
アルゼンチン | 2,080 |
チリ | 1,840 |
オーストラリア | 1,642 |
アルメニア | 1,459 |
レバノン | 1,122 |
国 | 生産量 2009年 (トン) |
‡ | 生産量 2010年 (トン) |
‡ | シェア 2010年 |
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中国 | 8,039,091 | 8,651,831 | 12.67% | ||
イタリア | 8,242,500 | 7,787,800 | 11.40% | ||
アメリカ合衆国 | 6,629,160 | 6,220,360 | 9.11% | ||
スペイン | 5,573,400 | 6,107,200 | 8.94% | ||
フランス | 6,104,340 | 5,848,960 | 8.56% | ||
トルコ | 4,264,720 | 4,255,000 | 6.23% | ||
チリ | 2,500,000 | (F) | 2,755,700 | (I) | 4.03% |
アルゼンチン | 2,181,570 | 2,616,610 | 3.83% | ||
インド | 1,878,000 | 2,263,100 | (I) | 3.31% | |
イラン | 2,255,670 | 2,255,670 | 3.30% | ||
10カ国総計 | 67,901,744 | (A) | 68,311,466 | (A) | 100% |
- ‡ 脚注:
- 無印 = 公式データ
- (A) = 5月データ、公式データ、半公式データ、、推計を含む
- (F) = FAO推計
- (I) = 理論に基づくFAOの推計
注釈: この数字はブドウ生産量上位10か国の総計であり、世界の総生産量ではない。この10か国の生産量は2010年には世界のブドウ生産量の71.38%を占めている。
日本
2010年の日本のブドウ生産量は18万4,800トンであり、果物ではウンシュウミカン、リンゴ、ナシ(ニホンナシ)、カキに次いで5位の生産量である。昭和時代の末期には30万トンを記録していたが、以後は年々微減する傾向にある。栽培面積も同様に、昭和54年、55年の3万300ヘクタールを頂点として減少傾向にある。県別では山梨県が最大の産地で、2010年には45100トンの生産があり、国内生産量の24%を占めた。以下、2位の長野県が23,900トン(13%)、3位の山形県が19,700トン(11%)、4位の岡山県が15,100トン(8%)、5位の福岡県が9,150トン(5%)となっている[13]。日本は南西諸島を除くほぼ全域がブドウの適地であるため、北海道から九州までの広い範囲においてブドウが生産されている。世界ではワイン生産用が7割を占め非常に多いのに比べ、日本では生食用が9割近くを占め、ワインやブドウジュース、菓子などの加工用は1割弱に過ぎない[14]。また、輸出は全くないが、年間10,000tあまりが輸入されている。
品種的には、日本で最も栽培されている品種は巨峰であり、2010年度には5,465ヘクタールで栽培されていた。ついでデラウェアが2,967ヘクタール、ピオーネが2430ヘクタール、キャンベル・アーリーが655ヘクタール、ナイアガラが513ヘクタール、マスカットベーリーAが406ヘクタール、スチューベンが377ヘクタール、甲州が316ヘクタールと続く[15]。昭和45年頃にはデラウェアが栽培総面積の36%を占め、次いでキャンベル・アーリーが26%、甲州10%であったが、昭和40年代後半より巨峰の栽培技術が確立すると急速に栽培面積を拡大し始め、1994年には巨峰の栽培面積がデラウェアを抜いた。平成に入ってからはピオーネも急速に栽培を拡大させている。デラウェアは昭和35年の無核化技術の開発によって栽培が拡大したものの、粒が小さいため近年では栽培が減少傾向にある。キャンベルアーリーや甲州は戦前からの主要品種であったが、新品種の開発によって栽培面積は漸減傾向にある[16]。
分類
ブドウ属
ブドウ属 (Vitis) には、主に次のような種がある。
西アジア種群
- ヨーロッパブドウ(European grape、学名 ヨーロッパブドウ V. vinifera)
- 中近東が原産であるとされる。ヨーロッパに自生する唯一の種である。乾燥した気候とアルカリ性の土地によく育ち、フィロキセラ耐性が無い。雨にも寒さにも弱い。皮が薄く果汁が多く、実は柔らかい。最古の栽培ブドウ種であり、ワイン製造に適している。逆に、加熱すると異臭を発するためにジュース製造には向かない。ヨーロッパブドウはワイン製造とともに拡大していったが、この過程でワイン製造に不向きな在来種が淘汰され、ヨーロッパや西アジアにはこの種しか残っていない。逆に、ブドウ酒を生産することのほとんどなかった日本や東南アジアにおいてはヨーロッパブドウは他の種を淘汰することはなく、後述の野生各種が残存することとなった。
- ヨーロッパブドウは1種しか存在しないが、伝播の方向によって西洋系、黒海系、東洋系の大きく3つの品種に分けられるようになった。西洋系品種にはカベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールといったワイン用の主要品種が含まれている。東洋系品種は西南アジア亜系とカスピーカ亜系に分かれ、甲州はカスピーカ亜系に属する。
北米種群
- アメリカブドウ(Fox grape、学名 ヴィティス・ラブルスカ V. labrusca)
- 北アメリカを原産とする種の一つ。湿った気候でよく育ち、ヨーロッパ種よりも寒さに強く、耐病性も高い。この系統の品種は独特の香りを持ち、それに由来する香りのワインを、(特にヨーロッパの)ワインの専門家は「狐臭い、フォクシー(Foxy)」と形容し忌み嫌う。逆に、ヨーロッパブドウと比べてジュース製造には向いている。もともとは北アメリカ大陸東部の野生種をヨーロッパ人植民者が選抜して栽培化したもので、栽培種としての歴史は200年ほどしかない。なお、1種しかないヨーロッパブドウと異なり、アメリカブドウはラブルスカ種のほかにも約30種が存在する[17]。
東アジア種群
- マンシュウヤマブドウ (V. amurensis)
- アジアを原産とする種の一つで、朝鮮半島、中国東北部、ロシアに自生する。寒さに強い。和名はチョウセンヤマブドウまたはマンシュウヤマブドウ。中国名は山葡萄。本種は当初北海道に自生していると考えられていたため、北海道で醸造されている「アムレンシス・ワイン」の原料は北海道産アムレンシス種だとされていた。しかし、その後、アムレンシス種の北海道での自生は誤認だとわかり、アムレンシス・ワインの原料はヤマブドウの1系統かタケシマヤマブドウVitis coignetiae var. glabrescensだと考えられている。
- ヴィティス・コワネティアエ (V. coignetiae)
- 樺太(ロシア)、南千島、日本列島(北海道、本州、四国)、鬱陵島(大韓民国)に自生する[18]。和名はヤマブドウで、上記アムレンシスと同じく寒さに強い。北海道では平地で普通に見られる。東北地方では低山地、関東以西では高山地に自生し、四国にも分布するが、現在のところ九州地方での自生は確認されていない[19]。東北地方[20][21]、信州(長野県)[22]、岡山県[23] などでは、ヤマブドウワインが造られている。
- ヴィティス・シラガイ (V. shiragai)
- 岡山県・高梁川流域の限られた地域に自生する野生ブドウで、和名はシラガブドウ。自生地での個体数が減少していて、絶滅が危惧されている。アムレンシスと同種とする見解もあるが、アムレンシスが寒冷地に自生するのに対しシラガブドウは温暖な地域に自生することから、自生地の気候的要因が余りにも異なるため、アムレンシスとシラガブドウが同一種だとする考え方は否定されることが多い。和名および学名は植物分類学者牧野富太郎が、情報を提供してくれた白神寿吉に因んで命名した。開花時の花はシナモン(ニッキ)の香りがする。
その他、エビヅル、サンカクヅル(ギョウジャノミズ)、クマガワブドウ、アマヅル、リュウキュウガネブ、ヨコグラブドウ、ケナシエビヅルなど、日本では15種類の野生ブドウの自生が確認されている。また、アジア大陸には中国を中心に、約40種の野生ブドウが確認され、日本の野生ブドウと同種または近縁種も確認されている。
ヨーロッパ・ブドウの台木に使われるブドウの原種
全て北米原産で、ヨーロッパブドウと違ってどれもフィロキセラ(ブドウネアブラムシ)耐性を持つ。
- ルペストリス種 (V. rupestris)
- 台木の品種の一番基本になる種。砂地に生えるため比較的乾燥に強く、交雑や繁殖が容易である。
- リパリア種 (V. riparia)
- 川の土手に生える("ripa" とはラテン語で川の土手の意)。そのため湿った土地で良く育つ。酸性土を好む。繁殖は容易。
- ベルランディエリ種 (V. berlandieri)
- 石灰岩の丘に生えることから、アルカリ性の土壌を好むとされる。繁殖は難しい。
- シャンピニー種 (V. champini)
- ルペストリス種とムスタゲネシス種(V. mustagenesis)の天然の雑種と考えられている。強いネコブセンチュウ耐性を有する。繁殖は難しい。
マスカダイン属
ブドウ属に含められる場合もあるが、形態や染色体の数等の違いから、一般に別の属 (Muscadinia) とされる。2–3種が属す。
- マスカダイン(Muscadine、学名 ムスカディニア・ロトゥンディフォリア Muscadinia rotundifolia)
- 北アメリカを原産とする種のひとつで、アメリカ合衆国南部の亜熱帯から熱帯の地域で栽培される。温暖湿潤な気候と酸性土壌を好む。ヨーロッパブドウと異なりフィロキセラに対する耐性を持ち、他の病害に対しても強い。しかしヨーロッパブドウと接ぎ木も交雑も困難なことから、ワイン用ブドウの栽培にはほとんど利用されない。栽培品種の育種は、両全花を持つ次のスカッパーノンの発見により飛躍的に向上した。粒が大きいため、アメリカでは通常、房ではなく粒単位で売られる。マスカダインの皮は、普通のブドウよりも厚みがあり、芳醇な香りで甘い。果皮色は紫、緑、銅色の3種類に分けられ、生食以外に加工(ジュース、デザートワイン、ゼリー等)に用いられる。
- スカッパーノン(Scuppernong)
- マスカダインの1品種で、アメリカ合衆国南部の亜熱帯から熱帯の地域で栽培される。色は、緑で温暖湿潤な気候と酸性土壌を好む。普通のブドウよりも一粒一粒が丸い。名前の由来は、ノースカロライナ州にあるスカッパーノン川である。17世紀に開拓者たちがスカッパーノン川周辺で発見し、その後、栽培促進された。名前の由来をさらに辿ってみるとアメリカ先住民のアルゴンキン族の言葉「アスコポ」から由来しており、意味は「バージニアモクレン(sweet bay tree)」である。
品種
ブドウ品種の一覧も参照。また、ワイン用品種についてはワイン用葡萄品種の一覧項がある。
- カルディナル
- 甲州 日本最古の品種で、平安時代末期に栽培が開始された。現在でも甲府盆地を中心に栽培されている。生食用のほか、日本における白ワインの主要原料ともなっている。
- 巨峰・種無し巨峰 1945年に大井上康によって開発された日本産の欧米雑種。大粒で味が良く、日本で最も栽培されている品種である。
- 藤稔
- 紫玉
- 紫苑
- ピオーネ 1973年に井川秀雄によって開発された欧米雑種。大粒で味が良く、日本では3番目に栽培が多い品種である。
- あづましずく
- ナガノパープル
- 高妻
- 紅瑞宝
- 紅伊豆
- 多摩ゆたか - 芦川考三郎によって作出された緑系ブドウ。
- 安芸クイーン
- 竜宝
- ゴルビー
- ブラック・コリンス レーズン用主要品種の一つ。
- コールマン - コーカサス地方原産の黒系ブドウで、正式名はグロー・コールマン。日本では冬(11月から1月頃)に収穫される。
- コンコード - 主に加工用として使われ、赤いグレープジュースの主要原料である。
- シナノスマイル
- ブラックオリンピア
- オーロラブラック
- シャスラ
- レッドグローブ(Red Globe)
- リビエラ(Ribier)
- クリムゾン・シードレス(Crimson Seedless)
- トンプソン・シードレス(Thompson Seedless)レーズン用の主要品種である。
- サルタナ(Sultana) - レーズンで有名。トンプソン・シードレスと同一種とされる。
- マスカット・オブ・アレキサンドリア(Muscat of Alexandria)古い品種で、香りが良く、世界各地で栽培される。日本でも温室にて栽培される。生食用のほか、レーズン用の主要品種ともなっている。
- マスカット・ベーリーA(Muscat Bailey A)
- シャインマスカット
- ルビーロマン
- ルーベルマスカット
- 紅マスカット
- 翠峰
- デラウェア 日本で2番目に多く栽培されている品種。小粒だが味がよく、戦前からの主要品種であった。ジベレリン溶液による種無し処理が始まった品種である。
- キャンベル・アーリー(Campbell Early) 戦前からの主要品種であるが、1970年代から栽培面積が激減した。
- 瀬戸ジャイアンツ(桃太郎ブドウ)
- ナイアガラ
- ポートランド
- スチューベン (Stuben)
- 旅路(タビジ)
- 甲斐路(カイジ)
- ピッテロビアンコ
- ロザリオビアンコ (Rosario Bianco)
- ロザリオロッソ (Rosario Rosso)
など。
種無しブドウ
植物ホルモンを利用した方法で、ホルモンの作用により無種子化した実を肥大(単為結果)させる方法である。本来ジベレリン水溶液は、果房の穂軸を伸ばし密着による果粒の潰れの防止や、果実の成熟期を早めるために用いられていたが、単為結果の効果が偶然見つかり、実用化されるに至った。
ジベレリン処理は1970年頃から行われているが、近年ではサイトカイニン水溶液を添加することにより処理時期が拡大している。
デラウェアなどの小粒種が主であったが、最近では技術の向上により巨峰などの大粒種にも種無しが現れている。ジベレリン処理を行うと果軸が硬化するため、種有りに比べ脱粒しやすい品種が多い。また、収穫時期は種有りに比べて早まる。なお、ジベレリン水溶液は元々無色透明であるが、ジベレリン処理をした果実を色で判別するために水溶液に食紅などを混ぜ着色している。
品種によって効果に差違が生じ、シャインマスカットの場合ジベレリン処理単体での無核化率は60-75%程度になるが、開花14日前にストレプトマイシン処理すると無核化率は100%に近くなる[24]
生産国
日本国内の主な産地
食用ブドウにおける産地分布(自治体及び旧自治体は作況調査市町村別データ長期累年一覧による。なお、2006年を最後に市町村別統計は廃止されているため、2020年の明確な産地分布は不明)
- 北海道 - 食用ブドウ収穫量全国6位。
- 青森県 - 食用ブドウ収穫量全国7~9位。スチューベンが主流
- 岩手県 - 紫波町、花巻市(旧大迫町)など
- 秋田県 - 横手市(横手市、旧十文字町、旧山内村)など
- 山形県 - 食用ブドウ収穫量全国3位。デラウェア国内首位。南陽市が主産地として知られ、県内のブドウ栽培発祥地にもなっている。
- かほく市(旧高松町)
- 山梨県 - ブドウ収穫量全国1位。甲州市勝沼は観光ブドウ園も多く、また、醸造用ブドウ生産も盛んでワインの一大産地となっている。山梨市牧丘地区では巨峰に特化した特産地となっている。
- 甲州市(旧勝沼町、旧塩山市)、山梨市(山梨市、旧牧丘町)、笛吹市(旧一宮町、旧御坂町、旧八代町、旧春日居町、旧石和町)、南アルプス市(旧白根町、旧櫛形町、旧若草町、旧八田村)、甲府市、韮崎市、甲斐市(旧甲西町)など
- 長野県 - 食用ブドウ収穫量全国2位。醸造用ブドウ生産量も多く、桔梗ヶ原は一大産地。
- 愛知県 - 食用ブドウ収穫量全国8~9位。デラウェアは全国4位。観光ブドウ園も多い。
- 三重県 - 伊賀市(旧上野市)、名張市(青蓮寺湖)
- 滋賀県 - 湖東町(旧愛東町)
- 大阪府 - 食用ブドウ収穫量全国7位。デラウェアは全国3位[26]。木綿産業に変わる作物として河内地方を中心に広まり、戦前は神戸方面への出荷、戦時中は酒石酸確保のために栽培が行われた。戦前、終戦直後は全国トップクラスの産地だったが、台風襲来による産地壊滅と他産地との競争、宅地工業化などにより減少。しかしながら、河内地方の柏原市、羽曳野市を中心に、依然として国内上位の産地となっている。[27] また、下記のほか、大阪狭山市の大野ぶどう、交野市の神宮寺ぶどうなどの産地がある。
- 岡山県 - 食用ブドウ収穫量全国4位。マスカット、ピオーネの産地として名高く、また瀬戸ジャイアンツやオーロラブラックといった人気品種も生み出している。
- 岡山市(岡山市、旧瀬戸町)、倉敷市(倉敷市、旧船穂町、旧真備町)、新見市、井原市、吉備中央町(旧賀陽町)、赤磐市(旧山陽町)、笠岡市、瀬戸内市(旧邑久町)、高梁市(旧備中町、旧成羽町)、総社市、久米南町など
- 広島県 - 食用ブドウ収穫量全国10位。沼隈町がベリーAの無核化に初めて成功させ、商品名をニューベリーAとして販売する特産地となっている。[28]
- 福岡県 - 食用ブドウ収穫量全国5位。田主丸は国内の巨峰栽培発祥の地。[29]
日本国外の主な産地
- アメリカ
- チリ
- イタリア
- フランス
など。
注意点
ブトウ(特に皮)をイヌやネコなどの動物が食べた場合には腎不全を引き起こすことがある[31]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b ブドウの枝にがん抑制作用『日経産業新聞』2019年9月17日(医療・ヘルスケア面)2019年10月5日閲覧
- ^ 中山正男、「日本におけるワイン用原料ブドウ栽培」 『日本醸造協会誌』 1993年 88巻 9号 p.654-659,doi:10.6013/jbrewsocjapan1988.88.654,
- ^ 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典3 飲料・栄養素』小林彰夫監訳 朝倉書店 2005年9月10日 初版第1刷 p.107
- ^ 『中世ヨーロッパ 食の生活史』p.44 ブリュノ・ロリウー著 吉田春美訳 原書房 2003年10月4日第1刷
- ^ 中川 (2002)、pp.179-180.
- ^ 中川 (2002)、p.183
- ^ 中川 (2002)、p.131
- ^ 『飲食事典』本山荻舟 平凡社 p536 昭和33年12月25日発行
- ^ 『果物・野菜散歩』pp.28-29 金沢大学大学教育開放センター 平成9年8月1日
- ^ 『播州葡萄園120年』稲美町教育委員会 2000年
- ^ 『ワインの科学』p.70 清水健一 講談社ブルーバックス 1999年1月20日第1刷
- ^ http://faostat.fao.org/site/567/DesktopDefault.aspx?PageID=567#ancor Food And Agricultural Organization of United Nations: Economic And Social Department: The Statistical Division 国際連合食糧農業機関
- ^ http://www.maff.go.jp/j/tokei/pdf/syukaku_ninasi_10.pdf#search='%E3%81%B6%E3%81%A9%E3%81%86+%E7%B5%B1%E8%A8%88' 農林水産統計 平成22年度日本なし、ぶどうの結果樹面積、収穫量及び出荷量 日本国農林水産省大臣官房統計部 平成23年3月18日公表 2012年12月11日閲覧
- ^ 『果実の事典』p.433 杉浦明、宇都宮直樹、片岡郁雄、久保田尚浩、米森敬三編 朝倉書店 2008年11月25日初版第1刷
- ^ http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102429 「政府統計の総合窓口」内「果樹品種別生産動向調査」(ぶどう生食用) 2012年12月11日閲覧
- ^ 『果物・野菜散歩』pp.31-32 金沢大学大学教育開放センター 平成9年8月1日
- ^ 『地域食材大百科第3巻 果実・木の実、ハーブ』p.290 農文協 2010年8月25日第1刷
- ^ 『改訂版原色牧野植物大図鑑 REVISED MAKINO'S ILLUSTRATED FLORA IN COLOUR』(ISBN 4-8326-0400-7-C0645)
- ^ 『ヤマブドウ 安定栽培の新技術と加工・売り方ぁ』(P.42-58)農文協 ISBN 4-540-02124-9)
- ^ “山ぶどうのホームページ【岩手県 久慈地方】”. 2013年1月14日閲覧。
- ^ “月山ワイン山ぶどう研究所”. 2013年1月14日閲覧。
- ^ “本坊酒造株式会社”. 2013年1月14日閲覧。
- ^ “ひるぜんワインへようこそ”. 2013年1月14日閲覧。
- ^ 「シャインマスカット」の無核化にはストレプトマイシン処理が有効 茨城県農業総合センター園芸研究所 (PDF)
- ^ かほく市公式 かほく市の特産 ぶどう
- ^ 近畿農政局 ぶどう(大阪南河内地域)
- ^ マイ大阪ガス 関西のギモン、調べます!炎の探偵社 -100年前、大阪は日本屈指のブドウ王国だった!?
- ^ 中央果実基金ニュースレター 沼隈町果樹園芸組合のぶどう生産・販売の取組紹介
- ^ たのしく生まるる田主丸町 産業の歴史 - 「巨峰開植の地」田主丸
- ^ 宇佐市 - 観光文化情報 - 食・お土産・特産品 西日本有数の生産量を誇る ~安心院ぶどう~
- ^ 飼い主のためのペットフード・ガイドライン 環境省、2020年4月29日閲覧。
参考文献
- 中川昌一『ブドウを知ればワインが見える:新しいワインの誕生を夢見て』大阪公立大学共同出版会、2002年。ISBN 4-901409-02-6。
関連項目
外部リンク
- ブドウ - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所)