甲州 (ブドウ)

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甲州
ブドウ (Vitis)
Katsunuma vineyard 02.jpg
ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)
主な産地 日本の旗 日本 日本山梨県勝沼、塩山、一宮、甲府[1]
病害 耐病性がある[2]
ワインの特徴
特徴 酸味は控えめでニュートラル[1]
熟成 柑橘系の繊細な香り[1]

甲州(こうしゅう)は、山梨県固有の白ぶどう品種。生食用またはワイン醸造用として栽培される兼用品種である。甲州葡萄とも呼ばれる。

歴史[編集]

甲州種の原産地はヨーロッパであるとされ[1]、日本での甲州種の発見時期には甲州市勝沼地域の上岩崎・下岩崎を発祥とする2つの伝承がある。

一方の説は、文治2年(1186年)上岩崎の雨宮勘解由(あめみやかげゆ)という人物が、毎年3月27日に行われる石尊祭りに参加するために村内の山道を歩いていたところ、珍しい蔓草を発見したとする説である。雨宮勘解由はこの蔓草を家へ持ち帰って植えたところ、5年後に甘い果実がなったという。もう片方の説は雨宮勘解由に遡ること500年あまり、奈良時代の大僧行基がこの地に大善寺を建立した際に、ぶどうの木を発見したとする説である。これらの種が現在の甲州種であるとされている[3]ヨーロッパ原産の甲州種がこれほど古くからこの地区にあるのかなど、謎の部分が多い。江戸時代初期の甲斐の医師である永田徳本が、現在行われているぶどう棚による栽培法を考案したと言われている。

戦国期には日本におけるぶどう栽培を記した宣教師日記があるものの、考古学的には盆地西部の大師東丹保遺跡から中世の野生種ぶどうが出土した事例があるのみである。甲府城下町からは栽培種ぶどうが出土しているが、考古学的な栽培種葡萄の移入経緯は解明されていない。文献史料においては江戸期には葡萄をはじめ林檎石榴銀杏(または胡桃)の甲州八珍果と呼ばれる内陸性気候に適応した果樹栽培が行われ地域産物として定着しており、荻生徂徠『甲州紀行』などの紀行文や『甲斐国志』などの地誌類には勝沼がぶどうの産地であることが記されており、食の図鑑である『本朝食鑑』や農学者としても知られる佐藤信淵らの紀行文中でも甲州物産の第一に挙げられている。

江戸時代の長者ランキング「日本長者分限帳」天保7年(1836年)には西の前頭に甲州の大金持ち、大金屋善四郎がぶどうで財を成したとあるが、日本テレビ「木曜スペシャル」による調査では郷土史などで名前を発見することはできなかった[4]

また、俳人松尾芭蕉は「勝沼や 馬子も葡萄を食ひながら」の句を詠んでいる。正徳年間の検地帳によれば栽培地は八代郡上岩崎、下岩崎、山梨郡勝沼村、菱山村のごく限られた地域であったが、江戸など都市部を市場としてぶどうや加工品が生産され、甲州街道を通じて荷駄で江戸へ搬送された。江戸後期には栽培地が甲府近郊に拡大し、明治には殖産興業により産業化する。

ヨーロッパ式の栽培法や醸造法により甲州ワインの品質を向上させる試みが続けられている。2004年から始まった「甲州ワインプロジェクト」ではフランスの醸造専門家ドゥニ・デュブルデューの指導により2004年に白ワイン「KOSHU[5]」が完成し、日本料理に合うワインとしてロバート・パーカーから高い評価を得た。その他にもメルシャン勝沼ワイナリーの「甲州きいろ香」もパーカーから高く評価されている。

2010年6月、日本固有のぶどうとして初めて国際ぶどう・ぶどう酒機構(OIV)に品種登録された[6]。これにより、ワインラベルに「Koshu」と記載してEUへ輸出することが可能となった。日本以外では、唯一ドイツラインガウに導入されている。

性質[編集]

房はやや長く、果実は中くらい、藤色または明るいえび茶色で、「灰色ぶどう」と呼ばれる色合いである。果粒は大きく、酸味にも果実味にも突出した個性がないとされる[7]。果皮がピンク色であるため、果皮から香りの成分を多く抽出しようとすると特有のえぐみが溶け出す[7]。えぐみやボディの弱さを隠すために甘口に仕立てる生産者が多かった[7]。近年には甲州種の新たな可能性に挑戦する試みが行われている[7]

2004年のカリフォルニア大学デービス校ファンデーション・プラント・サーヴィス(DPS)による分析で、日本に多い米国種 (Vitis labrusca) ではなく欧州種 (V. vinifera) の交配品種であることが明らかとなった。さらに酒類総合研究所の研究により、甲州は欧州種の中でも中国の「竜眼」などの東洋系欧州種のグループに属し、西洋系品種とは違う系統であることも明らかとされている[8]。2013年、酒類総合研究所により、DNA鑑定の結果、ヨーロッパブドウ(V. vinifera)と中国の野生ブドウ(V. davidiiドイツ語版)が交雑したものが、さらにヨーロッパブドウと交配した品種である可能性が高いことが発表された[9]。また、甲州は竜眼の実生ではないかとする説もあったが、実際は東洋系欧州種の中でも竜眼や和田紅よりも野生種に近い品種であることが判明している[10]

利用[編集]

江戸時代以前は生食専用であったが、明治期のワインの醸造技術が伝わると、出荷にむかない果実などを利用した勧業政策が山梨県庁主導で行われ、ワインの醸造が行われるようになった。ほとんどが、甲州種によるものであったが、その後、ワイン用の葡萄も栽培されるようになっていった。

太平洋戦争後の日本では、生食用にはデラウェアコンコードなど、アメリカから導入されたぶどうや、新しく改良された巨峰ピオーネなどのほうが人気品種になり、また、ワイン用にも、メルローカベルネ・フランシャルドネなど、フランス系の品種が多く栽培されるようになってきた。しかし、何百年も人々に親しまれてきた甲州種に愛着を持つ人も多く、山梨県を中心に生食用にも販売されている。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d ワイナート編集部 2013, p. 31.
  2. ^ 山本博 2013, p. 314.
  3. ^ 辻調理師専門学校 & 山田健 2007, pp. 152-154.
  4. ^ BS日テレ「木曜スペシャル」「ランキングミステリー 大江戸番付捜査網」2014年5月19日放送による。
  5. ^ KOSHU
  6. ^ OIVが甲州を登録 山梨県 産業労働部 産業支援課
  7. ^ a b c d 辻調理師専門学校 & 山田健 2007, pp. 104-105.
  8. ^ 醸造用ブドウの研究について 醸造技術基盤研究部門原料研究グループ、酒類総合研究所
  9. ^ ‘甲州’ブドウのルーツを解明 独立行政法人酒類総合研究所
  10. ^ DNA多型解析による甲州の分類的検討 後藤奈美

参考文献[編集]

  • 飯田文彌「甲州の果樹」『山梨県史通史編3近世1』第五章第四節
  • "Japanese Wineries Betting on a Reviled Grape", The New York Times2010年10月27日
  • 辻調理師専門学校、山田健 『ワインを愉しむ基本大図鑑』 講談社〈マルシェ〉、2007年
  • 山本博 『新・日本のワイン』 早川書房、2013年
  • ワイナート編集部 『ワインブドウ品種基本ブック』 美術出版社、2013年

関連項目[編集]

外部リンク[編集]