日本の自転車

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自転車専用通行帯(自転車レーン)の設置例。

本項では、日本の自転車軽車両事情について概観する。

歴史

彦根藩士の平石久平次時光(ひらいし くへいじ ときみつ)の記した『新製陸舟奔車之記』によると、彼は1732年新製陸舟車という三輪の乗り物を製作して走らせたという。これは、ペダル式自転車に相当する乗り物として現時点で知られている世界初のものといえるが、残っているのはこの書物による記録のみである。このため新製陸舟車は個人的なものにとどまったと考えられる。

日本に西洋式自転車が初めて持ち込まれたのは慶応年間で、ミショー型(ベロシペード)であったと推定されているが、ほとんど記録がなく詳細は不明である。この形式は、イギリスでボーンシェーカー(Boneshaker, 背骨ゆすり)とも呼ばれた。1980年代頃までは1870年(明治3年)に持ち込まれたとの説が定説とされてきた。日本での自転車製作も明治維新前後には始まっていたものとみられている。からくり儀右衛門の異名をもつ田中久重が、1868年明治元年)頃、自転車を製造したとの記録が残っている。ただし現物や本人による記録が伝わっていないため、久重による製造の真偽は定かでない。初期の日本国産自転車の製造には、車大工や鉄砲鍛冶の技術が活かされた。

1870年、東京・南八丁堀5丁目の竹内寅次郎という彫刻職人が「自転車」と名付けた三輪の車(ラントン型と考えられている)について、4月29日付の願書で東京府に製造・販売の許可を求めた。この願書は「自転車」という言葉の最古の使用例とされ、東京都公文書館に保存されている「庚午府治類纂」舟車之部という文書綴りに収められている。東京府の担当官による実地運転を経て、5月に許可が下り、7月には日本初の自転車取締規則が制定された[1]

1872年(明治5年)、横浜・元町でボーンシェーカー型木製自転車を作った貸自転車業者が、自ら東京〜横浜間を6時間で走ったとの記録がある。これは日本における貸自転車と自転車の走行に関する最古の記録と考えられる[2]

1876年(明治9年)、福島県伊達郡谷地村(現桑折町)の初代鈴木三元が「三元車」という前二輪の三輪自転車を開発した。その後も改良を重ね、一応の完成を見た1881年(明治14年)、第2回内国勧業博覧会に出品している。三元車は日本に現存する最古の国産自転車であるとされる[3]トヨタテクノミュージアム産業技術記念館に収蔵されている初期型の一人乗り三元車が、2009年9月、三元の地元桑折町で初めて一般公開された[4]。三元車は、部品の材質が異なるものの、1879年ヨーロッパで発明されたシンガー・トライシクルによく似た機構を有している 。

現在の自転車の原形である安全型自転車が出来上がったのは1885年(明治18年)で、この時期に日本への輸入も始まっている。国産化も早く進み、宮田製銃所(現宮田工業)が国産第1号を製作したのは1890年(明治23年)である。

初期の自転車は高価な遊び道具であった。特にペニー・ファージング(オーディナリー型)が主流であった頃、庶民の間では貸自転車を利用することが流行し、度々危険な運転が批判された。所有できるのは長らく富裕層に限られた。1898年(明治31年)11月、東京・上野不忍池のほとりで開かれた「内外連合自転車競走運動会」を皮切りとして自転車競技大会も開かれ、大変な人気を集めたという。当時一般的であったダイヤモンドフレームの自転車はスカートなどで乗るのに適さなかったため、自転車は男性の乗り物とされていた。しかし大正期からは富裕層の婦人による自転車倶楽部も結成されるなどし、女性の社会進出の象徴となった。

初め日本の自転車市場はアメリカからの輸入車が大部分を占めていたが、明治末期になるとイギリス車が急増した。この後第一次世界大戦により輸入が途絶えたことをきっかけに、国産化が急激に進んだ。このとき規格や形式の大部分でイギリスのロードスターを基にしたが、米1俵(60キログラム)程度の小形荷物の運搬用途や日本人の体格を考慮したことで一つの様式が確立し、日本独特の実用車が現れた。この頃の日本の道路は自動車の走行に適してはいないため、運搬に自転車が使われ、自転車で運べない大きな荷物は荷車(特に馬力によるもの)で運ばれることが多かった。まだ自転車の価格が大学初任給を上回り、家財・耐久消費財といった位置ではあるものの、庶民の手にも入るようになり、1960年代半ば頃まで、実用車は日本の自転車の主流であり続けた。

第二次世界大戦後、自転車が普及していくと、代わりにそのステータスシンボルとしての地位を自動車が占めるようになった。その後、高度成長期には日本の自転車輸出量は世界一となり、世界中で日本製の自転車が乗られていた。現在では円が強くなったことで自転車の輸出は激減した。今日では中華人民共和国製を主とした外国製自転車が日本の市場に多数出回っている[5]

名称異称

「自転車」という名称の使用は、1870年(明治3年)にまで遡ることができる。この言葉が定着するまでには、「西洋車」、「一(壱)人車」、「自在車」、「自輪車」、「のっきり車」といった名称が錦絵開化絵)などに残っている。

日本語では漢字「」に自転車を表す用法がある。自転車自体を指す銀輪双輪のほか、「駐輪場(自転車駐車場)」、「輪界(自転車界、自転車業界、競輪界)」などといった用例がある。1893年(明治26年)には自転車クラブ「日本輪友会」が発足し、1896年(明治29年)に発行された渡辺修二郎著『自転車術』という解説書では、自転車を「輪」と呼び、いくつかの関連用語の日本語訳にこの字を使っている。

俗語で「チャリンコ」と呼ばれることがある。語源は諸説ありはっきりしない。省略した「チャリ」という形で使われることもあり、他の語と結び付く造語要素ともなる。「チャリンコ」やその派生語は、愛称として親しみを込めて使う人がいる一方で、日本の自転車メーカーの技術者はこれらの言葉を嫌い[6]、愛好家には「自転車に対する最大級の『侮蔑』と『見下し』」[7]、「語感が厭」[8]などとして忌避・拒否する人も存在する。「チャリンコ」とは戦前にはスリや無銭飲食を意味する俗語であった。手塚治虫の漫画「アドルフに告ぐ」では、メインキャラクターの一人アドルフ・カウフマンが、友人のアドルフ・カミルにそそのかされ、チャリンコと称してかき氷を食い逃げする場面がある。愛知県・岐阜県・三重県では「ケッタ」「ケッタマシーン」と呼ばれている。これらのほか「ジテンコ」、「ワッパ」などと呼ぶ例もある。

バイクは、日本語ではモーターサイクル(自動二輪車と原動機付自転車)を指す外来語だがこれは日本語に限る用法であり、英語で bike は自転車をはじめとした二輪の車両全般を指す。日本でも車種や関連用品の名称に使われ、特に愛好家などがスポーツ自転車をバイクと呼ぶことがある。

自転車の定義

道路交通法では、1978年改正で「ペダル又はハンド・クランクを用い、かつ、人の力により運転する二輪以上の車(レールにより運転する車を除く。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のもの(人の力を補うため原動機を用いるものであつて、内閣府令で定める基準に該当するものを含む。)をいう」(第2条第1項第11号の2)と定義され、「軽車両」、「車両」、「車両等」に含まれる。

道路交通法の定義により業務上過失傷害罪・重過失傷害罪などの公訴事実には、現代の日本国内では比較的見掛ける機会の少ない手こぎ式自転車四輪自転車三輪自転車と区別するため、「二輪の足踏み式自転車を運転し」などと表記される。

道路標識道路標示における「自転車」は、「普通自転車」の略称である(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令 別表第2備考一の(六))。

日本工業規格 JIS D 9111:2010(自転車—分類及び諸元)では、「自転車とは,ペダル又はハンドクランクを用い,主に乗員の人力で駆動・操縦され,かつ,駆動車輪をもち,地上を走行する車両をいう」と定義される。同規格の以前の版では、「乗員の運転操作により,人力で駆動され,走行する車両」とした上で、「十分な強度の車体構造」、「複数の車輪」、「乗員の座席装置」、「駆動、操だ(舵)、制動の諸装置」を備え・もつことを要件としていた(JIS D 9111-1980)。

自転車の下位分類と周辺

普通自転車
道路交通法と関連法令で、自転車のうち、一定の条件を満たし歩道を通行することのできるもののことをいう。日本国内の大部分の自転車が該当する。道路標識・道路標示における「自転車」という語は普通自転車の略称として使われている。
電動アシスト自転車
JIS D 9111:2010(自転車—分類及び諸元)の大分類の一つ。交通法令では「人の力を補うため原動機を用いる自転車」、「駆動補助機付自転車」と表記される。踏力アシストの比率を一定以下に制限する(原動機駆動のみでは時速20キロを超えられない)ことで、運転免許の要らない自転車として扱っている。
一輪車
「二輪以上の車」という要件を満たさないため、道路交通法上の自転車には含まれないが、JIS D 9101:2012(自転車用語)では、特殊自転車の一種として例示され、「曲技,スポーツ,遊戯に使用する1輪の自転車」と定義されている。これは自転車メーカーの製品に一輪車が含まれることが多いことと関連する。
原動機付自転車
自転車に小型のエンジンを取り付けた乗り物(モペッド)を起源とするのでこの名があるが、法律上自転車に含まれない。
二輪車
自転車は一般に二輪であるが、道路標識や道路標示において「二輪」や「二輪車」は、原動機付自転車と自動二輪車の総称であり、自転車を含めることはない。ただし道路標示「二段停止線(203の2)」における「二輪」の停止線は自転車など軽車両をも対象とする。

道路交通法上、側車(サイドカー)付きのもの及び他の車両(リヤカー)を牽引しているものを除いて、二輪・三輪の自転車を押して歩いている者は歩行者として扱われる。

通行空間

自転車は車道を走行することが原則として定められているが、車道が危険な場合は歩道の通行も認められている。このほか自転車の通行空間としては、道路法令に定められた各種の専用道路・道路の部分、道路交通法に定められた交通規制によるものがある。これらについては、根拠となる法律によって、通行できる自転車や通行方法について違いが見られる。1970年以降、自転車の歩道通行が条件付きで認められている。自転車の歩道通行を認めた国は、ノルウェーを除き諸外国には見られず[9]、特異な政策であるといえる。

車道左側

 道路交通法では、自転車は他の車両と同様に歩道・路側帯と車道の区別のある道路での車道通行(第17条第1項)、車道においての左側通行(同第4項)が義務づけられている。

 車両通行帯 のない道路では、自転車を含む軽車両は道路の左側端寄りを通行しなければならない(第18条第1項)。車両通行帯 の設けられた道路(公安委員会の指定がある片側2車線以上の道路)では、軽車両は最も左側の通行帯を通行しなければならない(第20条第1項)。

 ただし、車両通行帯に関する規定については、いくつかの問題がある(後述する「法規・行政上の待遇」、車両通行帯を参照のこと)。

 左折レーン、直進レーンなどが設置してある交差点でも、どちらに進むかに関係なく、原則として最も左側の通行帯を通行しなければならない(第35条第1項)。

各種の「自転車道」

日本の法令上「自転車道」という用語は、「自転車道の整備等に関する法律」に見られるように道路法令に定められた専用道路や道路の部分の総称として広義で使われる場合と、道路構造令・道路交通法にいう道路の部分を指す狭義で使われる場合がある。

道路交通法・交通規制によるもの

  • 自転車専用通行帯 … 第20条第2項
  • 普通自転車以外の通行が禁止されている道路 … 第8条第1項
  • 普通自転車が通行できる歩行者用道路 … 第8条第1項
  • 路側帯 … 第2条第1項第3号の4(定義)、第17条の2第1項(通行可の根拠)
  • 普通自転車通行可歩道(自転車歩行者道) … 第63条の4第1項
  • 自転車横断帯 … 第2条第1項第4号の2(定義)、第63条の6・第63条の7(義務の規定)

公道を走る際の必須装備

保安部品にあたるものとして以下が挙げられる。公安委員会規則については都道府県によって内容に違いがある場合がある。ここには代表的と思われる規定を例示した。

制動装置(ブレーキ)
「自転車の運転者は、内閣府令で定める基準に適合する制動装置を備えていないため交通の危険を生じさせるおそれがある自転車を運転してはならない」 … 道路交通法第63条の9第1項
  • 前後輪を制動し、乾燥した平坦な舗装路面で、制動初速度10km/hのときに制動距離が3m以内で円滑に停止できるもの … 道路交通法施行規則第9条の3
警音器
「車両等(自転車以外の軽車両を除く。以下この条において同じ。)の運転者は、次の各号に掲げる場合においては、警音器を鳴らさなければならない」 … 道路交通法第54条
  • 警音器の整備されていない自転車を運転しないこと … 公安委員会規則

なお規格について法令等に規定はなく、一般的に手動のベルが使われる。法令で定められた場合と危険を防止するためにやむを得ないときを除いて鳴らしてはならない。ちなみに自動車運転者に対して注意を促す効果は全くない。

前照灯尾灯
「車両等は、夜間(日没時から日出時までの時間をいう。以下この条及び第六十三条の九第二項において同じ。)、道路にあるときは、政令で定めるところにより、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない。政令で定める場合においては、夜間以外の時間にあつても、同様とする」 … 道路交通法第52条第1項
「軽車両 公安委員会が定める燈火」 … 道路交通法施行令第18条第1項第5号
  • 前照灯 … 白色又は淡黄色で、前方10mの距離にある障害物を確認できる光度のあるもの … 公安委員会規則
  • 尾灯 … 赤色で、夜間に後方100mの距離から点灯を容易に確認できる光度にあるもの … 公安委員会規則

なお自動車と違い、障害物認識のための前照灯と、自己の存在を他者に認識させるための灯火の区別はない。

反射器材
「自転車の運転者は、夜間(第五十二条第一項後段の場合を含む。)、内閣府令で定める基準に適合する反射器材を備えていない自転車を運転してはならない。ただし、第五十二条第一項前段の規定により尾燈をつけている場合は、この限りでない」 … 道路交通法第63条の9第2項
  • 赤色又は橙色で、夜間に後方100mの距離から前照灯の反射光が容易に確認できるもの … 道路交通法施行規則第9条の4
    • JIS D 9452:2007(自転車—リフレックスリフレクタ)とJIS D 9301:2010(一般用自転車)で、反射器材のうちリヤリフレクタの色は「赤」、ペダルリフレクタの色は「アンバ」でなければならないと定められている。
※尾灯または反射器材は、いずれかでよい
道路交通法第63条の9第2項・公安委員会規則

自転車の利用

通勤通学に利用されるほか、日常の買い物などに利用される。通勤・通学の場合、自宅から駅までという利用も多く、放置自転車の問題も起こっている。このほか、地域によっては、新聞配達、郵便配達、自転車便、卸売市場関係者、商店、警察官などで職業上の利用もある。駐車違反の取締り強化により、電動アシスト自転車を利用する運送業者も現れている。

1961年のスポーツ振興法(2011年の改正によりスポーツ基本法)では主に健康面から自転車旅行=振興法第10条(サイクリング=基本法第24条)が奨励され、自転車道の整備等に関する法律により地方自治体が河川沿いなどに自転車道を建設している。

公共交通機関(鉄道や船・飛行機など)で移動する際、自転車を分解し専用の袋に入れて運ぶことを「輪行」と呼ぶ。この輪行の方法によらず、自転車をそのまま鉄道車両に持ち込むことを認めるサービスをサイクルトレインという。このほかヤマト運輸日本サイクリング協会と提携し「サイクリングヤマト便」という制度を運用している。扱いはトラック便の一種である「ヤマト便」になり、一律60kg相当の扱いとなる(営業所持込みまたは集荷のみ、宅急便取次所では扱わない)。

日本サイクリング協会によれば、日本全国の自転車の保有台数は7千万~8千万台で、うち約3千万台が日常的に利用されていると推定している[10]

自転車にかかわる問題

自転車は、運転免許不要で身近な乗り物であるが、問題も発生している。日本における主な問題には次のようなものがある。次に箇条書きで挙げた問題についてはそれぞれの項目に譲る。

自転車の車体に関するもの

前照灯の不良(照度の不足、光軸のずれ、赤色の使用、球切れ)、後部リフレクタ(反射器材)の損傷や欠損、タイヤの空気圧不足、ブレーキの効きの悪い状態の放置といった整備不良がある。スポーツ車では、前照灯や尾灯(または後部リフレクタ)の未装備などの事例が見られる。2007年前後から流行しだした両輪または片方の車輪にブレーキを装備しないトラックレーサーノーブレーキピスト)が、本来認められない公道を走っていることが問題となっている。自転車には車検制度がないが、自転車安全整備制度(TSマーク制度)があり、付帯する保険の期限が1年となっていることで、定期的な点検を促している。一般的に自転車の取扱説明書には、初期点検と定期点検を奨励する文言がある。

一方、低品質な自転車も問題になっている。1990年代以降量販店をはじめ、一般的な自転車店でも売られるようになった低価格な輸入製品の中には、JISをはじめとした日本国内の安全基準に適合しないものもある。これは輸入品に関しては輸出国の安全基準を満たしていれば日本国内で販売できることによる。外見は国内の規格に適合した製品と変わらないため、こうした安価な製品が消費者に選ばれる傾向にある。自転車業界は、基準を満たさない製品の販売を禁止するPSC制度を自転車にも適用するよう申し入れているが、対象にならなかったため業界の自主的な安全基準「自転車協会認証」(BAA) を導入した[11]

道路環境や自動車との関係によるもの

自動車による幅寄せ

自転車に対する自動車・オートバイの故意の幅寄せ等の暴走行為は、その行為単独として暴行罪として立件される可能性があるほか、故意の幅寄せ行為により交通事故を起こし、(自転車に限らず)他人を死傷させた者は、危険運転致死傷罪(妨害運転)として、最長で20年以下の懲役(加重により最長30年以下)に処される。たとえ過失であっても道路交通法第70条の安全運転義務違反[12]に該当し十万円以下の罰金に処される。

これらの法律に反し、車道を走行中の自転車に自動車が意図的に幅寄せをしたり、安全上必要な側方間隔がとられていないことが多い[13]。そのために接触事故となる場合もある。例えば、2013年には埼玉県で自動車が故意に幅寄せを行い、車道を走っていた自転車にぶつけけがをさせる事故が発生しており、危険運転致死傷罪の容疑で逮捕されている。[14]

追い越し時の側方通過時の安全な間隔について、道路交通法上では具体的な数値は規定されていないが、過去の判例から側方通過時の車両同士(自転車に限らない)の間隔はおおむね1m以上を基準とし、道路の状況、車両の速度、車種等を考慮し、社会通念に応じて判断されるべきもの(16訂版道路交通法解説P71)とされる。自転車の背面から接近する場合は、対面の場合よりも広い間隔をとり、最低でも1.5メートルは確保するのが望ましいと考えられる[15][16]

道路における通行空間の未整備

本来、自転車の通行空間は車道の左側や自転車道とされている。しかし、自転車道の整備延長は道路延長のわずか0.9%(1999年、建設省の調査による)に過ぎない。急激なモータリゼーションにより暴走自動車が市民を加害する事故が多発し、自動車による被害犠牲者が戦時中のような多さから1970年代には「交通戦争」と呼ばれ、この時に自転車も「車両等」でありながら歩道走行が容認されるよう道路交通法が改訂された(後述)。

自転車の安全確保のために自転車道や自転車レーンといった自転車専用の通行路が導入されることになったにもかかわらず、空間の有限性や整備コストなどを理由に困難だとして、その整備は進んでない。一方で「普通自転車歩道通行可の規制」が多用されるようになった。その総延長は2005年度末で6万8992.6kmと、全歩道の44.2%を占める[17]

自転車が車道を通行する場合、道路の幅員や路面状態、電柱といった障害物などのほか、自動車の駐停車、パーキングメーターパーキングチケット発給機といった路上駐車施設の存在により自転車が安全に通行できる空間が確保されていないことが多い。また、自転車レーンでさえも自動車違法駐車が多発しており、自転車安全走行環境確保のため警察による違法駐車取り締まり強化が為されている。

2001年9月、埼玉県川口市の市道で、自転車に乗った小学生が違法駐車車両を避けようとし、対向車と衝突して死亡した。この小学生の母親が対向車と違法駐車車両の運転者を相手取り損害賠償を請求した裁判で、2004年8月さいたま地方裁判所は対向車だけでなく違法駐車車両の運転者の損害賠償責任をも認める判決を言い渡した[18]。違法駐車車両の駐車場所は車道左側寄りであり、自転車の走行空間と重なり、事故の原因となることから「自転車乗りにとっては本当に深刻な問題」であるにもかかわらず、軽視され状況が悪化していると指摘される[19]

車道における自転車レーンの不整備や自動車の速度超過や煽り運転、幅寄せやスレスレ追い抜き、事故を誘発する違法な路上駐車の蔓延もあり、現状では多数の自転車が歩道に追いやられている。歩道は自転車通行可の標識の有無に関わらず、歩行者優先の徐行であれば通行可である。歩道は主に歩行者のために造られ本来自転車の通行には適さないという構造的な問題があるにも関わらず自転車は歩道に追いやられており、法的に徐行[20]義務と歩行者を優先するための一時停止義務が課されることから、自転車の自然な走行スピードの喪失を余儀なくされる。対自動車事故などの面から自転車は歩道通行した方がよいとの主張に対しては、米国・カナダのデータでは歩道通行の方が事故に遭う確率が数倍高いという結果があり[21]欧米ではこのような知見から「自転車の歩道通行は自転車とクルマの衝突事故の重要な原因」として禁止あるいは避けるように指導するのが一般的である[22] 。が、欧米と比べて自転車レーンの整備率が日本は極めて低かったり、自転車の車道安全走行を阻害するスレスレ追い抜きや幅寄せ、自動車違法駐車問題もあり、自転車が歩道に追いやられての走行が多数な現状がある。

環境に優しく健康によい交通手段」との評価のある自転車が、不明確な位置づけの下、適切な待遇を受けていないことは、日本の交通における課題となっている。

自転車に対する取締など

自転車に対する規制

ほぼ、道路交通法の改正による。

  • 2013年12月1日改正施行の同法では、法令の基準に適合するブレーキを備えてない自転車(典型例として「ピスト」等)に対して、警察官が停止させ、検査をし、応急措置や運転禁止命令をすることができるとされ、検査拒否や命令違反に対しては5万円以下の罰金に処されることとなった。[23]
  • 2015年6月施行予定の同改正法(予定)では、信号無視、酒酔い運転、指定場所一時不停止、自転車の制動装置違反、安全運転義務違反(携帯機器等の「ながら運転」)により交通事故を起こした場合など)で、3年以内に2回以上検挙された場合は、安全運転講習の受講を義務付けることとし、受講拒否に対しては5万円以下の罰金に処される事が予定されている。[24][25][26]

免許制度導入の是非

自転車の無秩序な通行とそれによる事故を解消するために、自転車にも免許制度を導入すべきだとの主張が時折見られる。しかし、先進諸国で自転車を免許制にしている国はなく、“国民総免許となり、処理のための各種天下り利権機関を増やすだけ”と合理性に疑問を唱える声も見られる。

警察庁は、2013年の道路交通法改正試案に対するパブリックコメント募集結果で、自転車免許導入論に対して「自転車が幼児や児童といった低年齢者や自動車等の運転免許を受けていない者、自動車等を保有していない者にとって不可欠な移動手段となっていることや、自転車の運転方法が相当に平易で一般的に走行速度も低いことなどを踏まえると、現時点で自転車に運転免許制度を導入することは適切ではない」との認識を示した[27]

事故防止を目的とした交通安全教育の一環として、おもに児童・生徒を対象として自転車免許証を与える自治体・学校の実施例がある。これらはあくまでも交通安全教育の教材のようなものであって、法的な根拠・拘束力はない。

諸外国を見ても義務教育などで交通安全教育を充実させる取り組みはあっても、免許制度などで自転車を取り締まろうという取り組みは見られない。これは自転車が“誰でも運転してよい”車両であるため。一方、自動車は“免許を受けた者以外は運転してはならない”車両。

自転車の運転自体には運転免許を必要としないが、自転車運転中に事故の原因となった危険行為(薬物使用)を理由として自動車の運転においても危険を引き起こす可能性がある[28]として、運転免許停止の処分となった例がある。2012年5月奈良市の市道で後方を確認せず道路を横断し、二輪車と衝突事故を起こし逃げたとして、奈良県警察は同年11月20日、この自転車を運転していた男性に150日間の自動車運転免許停止処分を科した[29]

また、自転車先進国と讃えられる先進諸国では、自転車免許制度は当然なされず、道交法のシンプル化や自転車が道交法通り走りやすいような道路環境整備、自転車専用レーン、自転車専用信号の他、自転車利用者が迷わないような路面表示や標識等の設置、自動車運転手らも含めた自転車教育指導に力を入れている。このように、諸外国が採用しない自転車免許制度に頼らず、自動車運転手らが車道の自転車を尊重するような教育が必要だという主張も見られる。

保険

自転車には、自動車等における自動車損害賠償責任保険(自賠責)にあたる加入義務のある保険はない[注 1]自転車総合保険は1980年に登場したが、2010年3月までに損害保険各社で販売が中止されている(現在は日本サイクリング協会会員に対して協会から斡旋があるのみ)。背景には保険料の割に支払いが多く、認知度が低く販売実績が少ないなどの事情がある。この結果自転車に特化した保険は団体向け販売のみになっている[31]。こうした傾向に関連して、「全国交通事故遺族の会」は自転車による人身事故を自賠責の対象とするよう提言している。しかし国土交通省は「自転車の実際の利用台数が不明で、どの程度の保険料とすればいいのか推計できない。車検のような機会がなく保険料の徴収も困難」(自賠責を所管する同省自動車交通局保障課)、「国民が受け入れるかどうか」(同省幹部)など、消極的立場をとっている[32]

自転車安全整備制度のTSマークには1982年4月以降保険が付帯しているほか、日本サイクリング協会などの自転車関係団体には会員を自転車団体保険の被保険者とするものがある。

交通事故傷害保険や普通傷害保険、家族傷害保険、海外旅行保険など自転車に特化したものでない一般に販売されている傷害保険においては、種類によるが自転車を用いたレジャーや通勤通学などの交通における対人及び対物の傷害に対する補償にも対応する保険商品がある。自動車保険にも人身傷害や日常生活賠償特約など、自転車での事故に対応した契約がある。

法規・行政上の待遇

自転車は、法規や行政の上で、車両であるにもかかわらず歩行者に近い扱いを受けることが多い。「自家用車と違って燃料の消費等を通じてその利用を把握しにくく、かつ、基本的な移動手段としての性格を有する」(「長期展望に基づく総合的な交通政策の基本的方向—80年代の交通政策のあり方を探る」第二部第四章第三節[33])ために、運輸行政上“交通機関”とみなされてこなかった、との指摘がある。

  • 道路交通法第63条の7により交差点を通行する際に自転車横断帯を進行することが義務づけられているが、その大部分が歩道通行を前提に横断歩道の車道側に沿って設けられている。車道を走行してきた自転車がこれに従った場合に歩行者や自動車との事故が多発した[34]ことなどから、自転車横断帯は順次撤去されているが、いまだに残存する横断帯があり、法改正もなされていない。
  • 自転車横断帯のある交差点では、歩行者用信号機に「歩行者自転車専用」との補助標示板が付けられていることが多く、この場合自転車はこれに従うことが義務づけられている(道路交通法施行令第2条第4項)。しかしながら、同信号が歩道上に設置されていることにより、そもそも車道の自転車と対面しているといえない、夜間においては「歩行者自転車専用」の表示板は発光しておらず見えない、車道において同信号機の赤の灯火に従った場合に後続の自動車に追突されるおそれがある等、道路交通法第1条の立法趣旨とかけはなれたさまざまな現実的な矛盾を抱えたままの設置運用がなされているという問題がある。
  • 車両通行帯がある道路(公安委員会が道路標示により指定した片側2車線以上の道路)において、自転車は第一通行帯の中央よりやや左側を走行することにより、本来は安全に走行できる(後続自動車の追い越しは第二通行帯への車線変更義務があり、後続2輪車については第一通行帯の右側を進行することにより進路変更せずに追い抜きが可能である。道路交通法第20条1項、同法第20条3項)はずであるが、自転車は常に車道の左端寄り通行の義務があるかのような誤解を生じやすい警察庁等の広報[35]と、車両通行帯があるかどうかの判別が外観からは困難であること等により、道路交通法第18条及び同法第20条の立法趣旨に反した運用状況となっており、車両通行帯を走る自転車は危険にさらされている。
  • サイクリングロードなど自転車以外の車両の進入が原則として禁止されている箇所の入口に設置されている車止めに「車両進入禁止」と書かれていることも珍しくない。自転車は道路交通法上の「車両」である。
  • 左折レーンのうち特に2車線以上のものや交通島によって構造的に分離されるものなど、車両通行帯の設計や信号機の運用により、自転車が安全に直進や右折をすることが困難な交差点をはじめ、自転車での通行がまったく考慮されていない未熟な設計の箇所が車道に多い。

このほか法令などの影響により、日本では普通自転車に該当しない特定の車種の自転車を目にする機会が諸外国に比べ少なくなっている。たとえばタンデム車については、一般公道での二人乗り走行が禁止されている(あるいは明確に認められてはいない)場合が多い。明文で認めている長野県・兵庫県・山形県・愛媛県・広島県・宮崎県以外では、走行場所が自転車専用道路等であったり、自転車の車輪が三輪以上であったりする場合などに限られている。タンデム自転車で走れる地域の少なさから、日本における自転車文化が諸外国と比べて遅れているという指摘もある。

自転車関係団体など

自転車をテーマにした創作物

小説

漫画

映画

音楽

脚注

注釈

  1. ^ 兵庫県は、条例により保険加入を2015年10月から義務化する[30]。兵庫県交通安全協会の「自転車会員」になれば加入できる形式を取る。

出典

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  18. ^ 永沢総合法律事務所 トピックス(岸田真穂「判例研究」『運転管理』平成17年6月号から)
  19. ^ グーサイクル 自転車ツーキニストでいこう!疋田智の連載えっせい 第9回「ほんなこつ“路上駐車”は何とかならないものか」
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  21. ^ 国土交通省 『平成19年度 第2回新たな自転車利用環境のあり方を考える懇談会』 参考資料2「車道と歩道の安全性の比較
  22. ^ 警察庁 自転車対策検討懇談会『自転車の安全利用の促進に関する提言 : 資料』 8ページ 資料8「自転車マニュアル等における歩道通行の危険性の指摘」
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  28. ^ 道路交通法103条1項3号または8号
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  32. ^ “自転車事故:「自賠責制度の対象に」被害者団体が提言”. 毎日新聞. (2010年8月30日). オリジナルの2010年8月31日時点におけるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20100831174746/http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100830k0000m040107000c.html 
  33. ^ 運輸省編『80年代の交通政策のあり方を探る : 運輸政策審議会答申「長期展望に基づく総合的な交通政策の基本方向」』ぎょうせい、1983年、109ページ
  34. ^ 消える「自転車横断帯」警察、車道通行を徹底 日本経済新聞
  35. ^ 自転車は車両のなかま 自転車は、道路の左端に寄って通行しなければなりません。

関連項目

外部リンク