クフィル (航空機)

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IAI クフィル / IAI כפיר

クフィルC2

クフィルC2

クフィル(Kfir)はイスラエル・エアクラフト・インダストリー(IAI)がミラージュIIIをベースに独自改良を行って開発した戦闘機。Kfirとはヘブライ語で子ライオンの意。日本語ではクフィールと表記されることもある。

概要

開発の経緯

第三次中東戦争後、フランスシャルル・ド・ゴール政権の中東外交政策転換により、イスラエル空軍が50機発注したミラージュ5(ミラージュIIIの電子機器を簡素化し実戦環境で機体の可動率の効率化を狙った機体)の輸出が禁止されイスラエル空軍に引き渡されなかったことが、本機の開発の発端だった。

これを受け、IAIは既に機体のライセンス生産の契約を結んでいたミラージュ5に第三国から図面を盗み出し製造したSNECMA アター9Cエンジンを組み合わせることで、独自生産型ミラージュ5と言えるネシェルNesher、ヘブライ語で鷲の意)を完成させたものの、イスラエル空軍は高地・高温条件下や兵装搭載時におけるエンジンのパワー不足に不満を持っていた。

そこで、同時期にアメリカ合衆国からF-4Eを導入した事から、ミラージュIIIのエンジンをF-4Eに搭載されていたJ79に換装し、能力向上を図る目的で計画された機体サルボが開発され、ネシェルとサルボの開発成果を組み合わせた機体であるクフィルの製作へと繋がった。

フランス製のミラージュIIIにJ79を搭載したサルボは1970年10月に飛行した。この試作機に続いて1973年6月にラーム(Raam、ヘブライ語で雷鳴の意)と名づけられたプロトタイプが製作された。続いてバラクBarak、ヘブライ語で電光の意)と名付けられた機体がIAIによって生産され、1973年10月6日に勃発した第四次中東戦争中に運用された。クフィルの名称でJ79に最適化された機体の量産開始は第四次中東戦争終了後の1975年4月のことだった。

輸出も行われたが、アメリカによるJ79の再輸出許可が大幅に遅れたため少数の国にしか輸出されなかった。その中でアメリカ海軍海兵隊F-16Nが導入されるまでの間、F-21の名称でリース仮想敵機として運用した。イスラエルでは既に退役しているが、未だ多数が保管状態にあるとされる。

特徴

外見こそミラージュ5に似ているが、アター9Cより2t以上推力が大きいJ79を搭載したことにより飛行性能が向上し、ペイロードも約1,500kg増加した。

J79を搭載するために、胴体には大きな改修が加えられている。インテークは拡大され、後部胴体は太くなり、熱に強いチタンも導入している。垂直尾翼基部にはアフターバーナー部冷却用の、後部胴体にはタービン冷却用の小型インテークが追加されている。また、重心を合わせるために尾部が0.6m短くなっている。

生産型であるクフィルC2からはインテーク肩部にカナード翼、機首先端にストレーキ、主翼にドッグツースが追加され、離着陸性能や旋回性能、高迎え角時の操縦性が大きく向上した。これらの改修(特にカナード翼の追加)は、後に本家であるミラージュIIIやミラージュ5の近代化改修機にも取り入れられている。なお、C2の「C」はカナードを意味するため、初期型は単にクフィル1と呼ばれたが、後にカナード翼(ただしC2より小さい)とストレーキが追加されてクフィルC1と呼ばれるようになった。

電子機器も更新されており、エルタ製M-2001B測距レーダーやMBT製二重コンピュータ操縦システムなどが搭載されている。

実戦

1982年レバノン侵攻でイスラエル空軍機が初めて実戦に投入され、A-4F-4と共に対地攻撃を実施した。

1995年エクアドルペルーの間で起きたセネパ紛争では、エクアドル空軍機がミラージュF1と共にペルー空軍機3機を撃墜する戦果を挙げている。

派生型

アメリカ海軍のF-21A
エクアドル空軍のクフィルCE
クフィルC1
初期型。当初はカナード翼を装備していなかったためクフィル1と呼ばれていた。
F-21A
アメリカ海軍海兵隊が仮想敵機としてリースしたクフィルC1に用いた名称。愛称はライオン (Lion)
クフィルC2
生産型。
クフィルTC2
クフィルC2の複座練習機型。機首は延長され、前方視界を確保するために垂れ下がった形状になっている。
クフィルC7
クフィルC2の改良型。エンジンに数分間だけ出力を5%増加させられる「コンバット・プラス」改修を施し、コックピットにはHOTAS概念を導入。また、電子機器が更新され、パイロンも2箇所増設された。イスラエル空軍機は最終的にC7仕様機に統一された他、コロンビアのクフィルC2もC7仕様に改修された。また、スリランカも追加発注により数機を配備している。
クフィルTC7
クフィルC7の複座仕様。
クフィルC10
アップグレード型。クフィル2000とも呼ばれ、外見上は南アフリカ共和国チーターCによく似た形状をしている。レーダーをEL/M-2032へ換装しアクティブ・レーダー誘導ミサイルの運用が可能になった他、コックピットもグラスコックピット化された。エクアドルのクフィルC2が1999年よりクフィルCEの名称でC10仕様に改修されている。また、コロンビアのクフィルC2も同仕様に改修されたが、一部はレーダーを換装せず対地攻撃に最適化されたクフィルC12仕様になっている。

仕様 (クフィルC2)

三面図
三面図

出典: en:IAI Kfir

諸元

  • 乗員: 1
  • 全長: 15.65 m (51 ft 4.25 in)
  • 全高: 4.55 m (14 ft 11.5 in)
  • 翼幅: 8.21 m(26 ft 11.5 in)
  • 翼面積: 34.80 m2 (374.60 ft2
  • 空虚重量: 7,285 kg (16,060 lb)
  • 運用時重量: 10,415 kg (22,961 lb)
  • 有効搭載量: 6,065 kg (13,343 lb)
  • 最大離陸重量: 14,670 kg (32,340 lb)
  • 動力: GE J79-J1E アフターバーナー付ターボジェット

性能

  • 最大速度: 2,440 km/h (1,317 kt)
  • 航続距離: 770 km (416 nm)
  • 実用上昇限度: 17,700 m (58,000 ft)
  • 上昇率: 233.3 m/s (45,930 ft/min)

武装

お知らせ。 使用されている単位の解説はウィキプロジェクト 航空/物理単位をご覧ください。

採用国と採用を検討した国

採用国

採用国(赤は退役済)
イスラエルの旗 イスラエル
イスラエル航空宇宙軍
 コロンビア
コロンビア空軍
エクアドルの旗 エクアドル
エクアドル空軍
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
アメリカ海軍アメリカ海兵隊
スリランカの旗 スリランカ
スリランカ空軍

この他にも、民間軍事会社ATACが民間登録された機体を使用している。

採用を検討した国

アルゼンチンの旗 アルゼンチン
ブラジルの旗 ブラジル
スロベニアの旗 スロベニア
フィリピンの旗 フィリピン
メキシコの旗 メキシコ
中華民国の旗 中華民国台湾

登場する作品 

アスラン王国空軍の傭兵部隊の機体として登場。主にサキ・ヴァシュタール(エリア88の司令官)等が使用。

関連項目

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