アグレッサー部隊

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アメリカ空軍第64アグレッサー飛行隊、および第65アグレッサー飛行隊所属のF-15F-16

アグレッサー部隊(アグレッサーぶたい:英語Aggressor squadron)とは軍の演習・訓練において敵部隊をシミュレートする役割を持った専門の飛行隊(squadron)のことである。アメリカ海軍においてはアドバーサリー(Adversary、そのまま「敵」)部隊と呼称される。

戦闘機部隊は日々の任務に加えて資格取得の勉強に時間を取られており、戦闘技術を新たに研究・開発する余裕はなく、そもそも部隊ごとに個別に行うのは効率が悪い。アグレッサー部隊はこれを専門的に行い、生み出された成果を元に一般部隊を訓練することで軍全体のレベルを上げることが役割である。ただし、このような専門の部隊を保有するのはアメリカ空・海軍や航空自衛隊程度で、ほとんどの国では実戦部隊や訓練部隊の一部が兼任していることが多い。また、現在ではATACのように民間軍事会社が行うこともある。

教官役でもあり、自軍のセオリーとは異なった戦術を理解・把握するだけでなく、演習では仮想敵機として実演する必要があるため、優秀な人員が割り当てられ、エリート部隊となっている。また、アメリカ軍などにおいては、敵役をシミュレートするのみならず、鹵獲もしくは購入した仮想敵国の兵器を用いている場合がある。

各国のアグレッサー部隊[編集]

日本[編集]

航空自衛隊飛行教導隊所属機(2007年
  • 航空自衛隊

航空自衛隊では同様の部隊として飛行教導隊編成しており、当初はT-2を使用していた。F-15の導入開始とT-2の空中分解事故が発生したことにより、現在は他部隊と異なる派手目の迷彩塗装[1]F-15J/DJを利用して訓練に参加している。

  • 旧日本軍

日本軍では帝国陸軍航空審査部飛行実験部(旧飛行実験部実験隊)が、他国と同様に不時着や占領地で入手ないし、同盟国などから購入(輸入)した機体を技術研究や戦技教育に利用していた。黒江保彦は、中国戦線で鹵獲したP-51を駆って、各地の飛行戦隊において模擬空中戦を行い対P-51の訓練を行っていた。

アメリカ[編集]

アメリカ空軍F-5Eアグレッサー戦闘機
アメリカ空軍ではF-5は退役したが、アメリカ海軍などでは現在もアグレッサー機として使用されている
  • アメリカ空軍

アメリカ空軍においては、ネバダ州ラスベガスネリス基地の第57航空団隷下の第64および第65アグレッサー飛行隊、アラスカ州エイルソン空軍基地の第354戦闘航空団隷下での第18アグレッサー飛行隊の3飛行隊が編成されている。第64,65両飛行隊は冷戦終結に伴い一度は活動を停止、代わって第414戦闘訓練飛行隊が編成されたが、その後第64アグレッサー飛行隊は2003年に第414戦闘訓練飛行隊のF-16を移管されて活動を再開し、また第65アグレッサー飛行隊も2005年に余剰となったF-15を受領して再編された。第414戦闘訓練飛行隊は現在ではレッドフラッグ演習の運営を担当している。

第18アグレッサー飛行隊は前身の部隊はF-16ブロック40を装備する第18戦闘飛行隊であったが、2006年に当時アラスカ州周辺で行われていた大規模軍事演習コープ・サンダー(Cope Thunder)がレッド・フラッグ・アラスカ(Red Flag Alaska)へと名称が変更になることを受け、在韓米軍で同じくF-16を運用していた第35戦闘飛行隊および第80戦闘飛行隊からブロック30の機体を受領し、第18アグレッサー飛行隊として再編された。レッドフラッグ・アラスカでの敵軍模倣(アグレッサー任務)だけに限らず、飛行隊ごと移動して太平洋・アジア地域に展開する米軍部隊に対して教導任務を行っている。

  • アメリカ海軍

アメリカ海軍航空隊では、ベトナム戦争における航空戦の苦戦から、1969年のNFWS(海軍戦闘機兵器学校)"トップガン"開校を皮切りにVF-126、VF-43、VA-127などのアドバーサリー部隊を編制し、A-4MiG-17に、空軍から借用したT-38F-5E/FMiG-21に見立てての仮想敵任務に従事させていた。このうちNFWSはNSWC(海軍打撃作戦センター)に吸収される形でNSAWC(海軍打撃・航空作戦センター)として再編され、同センター内のN7部門”トップガン”として現在も活動している。また時代の変化に伴い対抗勢力の高性能化(Su-27MiG-29など)が見られたことからF-16A/B/NF/A-18A/B、F-14の配備も行われ、F-16AやF/A-18は現在に至るも使用されているが、VFC-111、VFC-12、VFC-13などでは現在もF-5を使用している。

  • アメリカ海兵隊

アメリカ海兵隊では、VMFT-401”スナイパーズ”がアドバーサリー飛行隊として編成され、ユマ海兵隊航空基地にて活動している。現在はF-5Eを装備しているが、かつてはイスラエル製のクフィル戦闘機をF-21として運用していた。

  • アメリカ陸軍

アメリカ陸軍には「評価試験センター」と呼ばれる一種の研究機関があり、ロシア・中国などの装備の研究分析を主任務とする(ZSU-23-4自走対空砲S-300地対空ミサイルなどロシア製や中国製の地上装備を限定数保有している)。それに付随する任務として、同センターに所属する装備が各部隊に派遣されて、仮想敵任務につく。この場合は地上作戦に関する部隊であり、これに付随する形でヘリコプターを中心とする航空部隊が存在する。大半は米国製装備による代用であるが、ロシア製および中国製装備の中にMi-24Mi-17An-2などの航空機が存在している。

  • 備考

なお一部で存在しているとされていた第三国を経由して入手したと思われるソビエト製戦闘機を運用した部隊も、1977年から1988年にかけて活動していたことが、関連文書の機密指定が解除されたことにより明らかになった。このような対抗勢力の航空機を入手し研究した航空機では、第二次世界大戦中の零戦などが存在する。また、最近ではモルドバ空軍で余剰となったMiG-29を大量購入したことが知られている[2]

イギリス[編集]

  • イギリス空軍

イギリス空軍では、リーミング基地の第100飛行隊が標的曳航任務と共にアグレッサー任務も行っている。使用機種はホーク T.1/T.1A

ドイツ[編集]

  • ドイツ空軍

ドイツ連邦共和国では、東西ドイツ統一後MiG-29を24機を編入する形で保有するに至った。西側が表立って保有する数少ない東側戦闘機であったため、この機体が配備されていた第73戦闘航空団は、(専従ではないが)アグレッサー部隊として各国との共同訓練に頻繁に参加していた[3](同様のことは、同じくMiG-29を保有するマレーシア空軍でも行われている)。後にポーランド空軍に一機あたり1ユーロという破格値で売却(実質的に譲渡)されている。

また、ナチス政権当時は西部戦線で撃墜したアメリカやイギリスの軍用機をレストアし、対抗戦術の開発を始めとする研究材料として扱った。

ソ連[編集]

  • ソ連空軍

ソビエト社会主義共和国連邦でも、空軍ベトナム戦争中東戦争での航空戦を教訓にアグレッサー部隊が編成されていた。1974年トルクメン軍管区にMiG-21bisを装備する2個飛行隊が編成された。両飛行隊には、ソ連各地から1級「狙撃手」の称号を有するパイロットが集められ、他部隊のパイロットの戦技の検閲に従事した。機体はその時期に最新のものが順次配備され、1975年秋には第2飛行隊にMiG-23Mが、1984年にはMiG-23MLDが、1987年には第1飛行隊にMiG-29が導入された。1991年秋には第2飛行隊の機種をSu-27に換装することが計画されたが、ソ連崩壊、経済難、トルクメニスタンの独立によって実現しなかった。

脚注[編集]

  1. ^ 敵の動きに対してどう動くかを理詰めで考えさせ、「敵機が見えなかった」と言い訳ができないよう敢えて視認性が高いパターンにしている。
  2. ^ ただし、同機を使用するイラン空軍への機体・部品流出を防止する政治的側面が強かった。
  3. ^ アメリカおよびイスラエルは研究用に第三国経由で入手しているが、表立った運用を行っていない。

関連項目[編集]