選挙権
選挙権(せんきょけん)とは参政権のうちの1つであり、選挙人の資格すなわち選挙に参加できる資格もしくは地位を指す。これは選挙において投票する権利(投票権)のみならず、選挙人名簿への登録や選挙の公示を受ける権利などを含み、広義では被選挙権(選挙の候補者となる権利)を含める場合がある。また、選挙における議員定数に著しい不均衡が生じた場合に、選挙人がその是正のための立法措置を求める権利も含まれるとされている。
選挙権の本質
今日では国民主権の原則から、国民は主権者としての主権行使の一環として選挙に参加できるとする選挙権権利説(せんきょけんけんりせつ)が有力であるが、古くは選挙人団(選挙人の集団)の一員としての公務の一環として選挙に参加する選挙権公務説(せんきょけんこうむせつ)も有力であった。
前者の解釈をとった場合には全ての国民は主権者としてそれぞれが平等の権利を有するために普通選挙が原則となるが、後者の解釈をとった場合には公務を執行するにふさわしいと認定された者にのみ選挙権の付与を限定してもよいとする制限選挙の肯定を導き出すことも可能であった[1]。
選挙権と年齢
世界各国・地域の現状
選挙権年齢のデータがある192の国・地域のうち、170の国・地域が選挙権年齢が18歳以下となっている。[2][3]
世界各国・地域の選挙権年齢
世界・地域における選挙権年齢[4][5](2015年6月現在)
- 16歳 - オーストリア・キューバ・キルギス・ニカラグア・ブラジル
- 17歳 - インドネシア・北朝鮮・スーダン・東ティモール
- 18歳 -日本☆[6]・アイスランド・アイルランド・アゼルバイジャン・アフガニスタン・アメリカ☆[7]・アルジェリア・アルゼンチン・アルバニア・アルメニア・アンゴラ・アンティグア・バーブーダ・アンドラ・イエメン・イギリス☆[8]・イスラエル・イタリア☆[9]・イラク・イラン・インド・ウガンダ・ウクライナ・ウズベキスタン・ウルグアイ・エクアドル・エジプト・エストニア・エチオピア・エリトリア・エルサルバドル・オーストラリア・オランダ・ガーナ・カーボベルデ・ガイアナ・カザフスタン・カナダ☆[10]・ガンビア・カンボジア・ギニア・ギニアビサウ・キプロス・ギリシャ・キルギス・グアテマラ・グルジア・グレナダ・クロアチア・ケニア・コスタリカ・コモロ・コロンビア・コンゴ民主共和国・サントメ・プリンシペ・ザンビア・サンマリノ・シエラレオネ・ジブチ・ジャマイカ・シリア・ジンバブエ・スイス・スウェーデン・スペイン・スリナム・スリランカ・スロバキア・スロベニア・スワジランド・セーシェル・赤道ギニア・セネガル・セルビア・セントクリストファー・ネイビス・セントビンセント・グレナディーン・セントルシア・ソロモン諸島・タイ・タジキスタン・タンザニア・チェコ・チャド・中央アフリカ・中国・チリ・ツバル・デンマーク・トーゴ・ドイツ☆[11]・ドミニカ・ドミニカ共和国・トリニダード・トバゴ・トルクメニスタン・トルコ・ナイジェリア・ナミビア・ニジェール・ニュージーランド・ネパール・ノルウェー・ハイチ・パナマ・バヌアツ・バハマ・パプアニューギニア・パラオ・パラグアイ・バルバドス・パレスチナ・ハンガリー・バングラデシュ・ブータン・フィリピン・フィンランド・フランス☆[12]・ブルガリア・ブルキナファソ・ブルンジ・ベトナム・ベナン・ベネズエラ・ベラルーシ・ベリーズ・ペルー・ベルギー・ポーランド・ボスニア・ヘルツェゴビナ・ボツワナ・ボリビア・ポルトガル・香港・ホンジュラス・マーシャル諸島・マケドニア・マダガスカル・マラウイ・マリ共和国・マルタ・ミクロネシア・南アフリカ・ミャンマー・メキシコ・モーリシャス・モーリタニア・モザンビーク・モナコ・モンゴル・モンテネグロ・ヨルダン・ラオス・ラトビア・リトアニア・リビア・リベリア・ルーマニア・ルクセンブルク・ルワンダ・レソト・ロシア☆[13]
- 19歳 - 韓国
- 20歳 - カメルーン・台湾・チュニジア・ナウル・バーレーン・モロッコ・リヒテンシュタイン
- 21歳 - オマーン・ガボン・クウェート・コートジボワール・サモア・シンガポール・トンガ・パキスタン・フィジー・マレーシア・モルディブ・レバノン
- 25歳 - アラブ首長国連邦
(☆のあるものはサミット参加国、太字はOECD参加国)
2000年代以降の注目すべき動き
2007年6月にオーストリアが国政レベルの選挙権年齢を18歳から16歳に引き下げており、ドイツのように一部の州が地方選挙の選挙権年齢を先行的に16歳としている例もある。イギリスやドイツでは16歳への引き下げが議論されている。また韓国は選挙年齢を20歳から18歳に引き下げる段階的措置として、2005年6月に19歳に引き下げた[14]。
日本における選挙権年齢
日本においては、1889年に大日本帝国憲法及び衆議院議員選挙法が公布され、一定以上の財産を持つ25歳以上の男子に選挙権が与えられ、数度の改正を経て、1925年に25歳以上の男子全員に選挙権が与えられた[15]。その後、1946年に日本国憲法が公布され、公職選挙法で20歳以上の男女と定められていた。
2007年に公布された国民投票法では、投票権は18歳以上の者と規定されているが、公職選挙法上の選挙権が改正されるまでは20歳以上の者しか投票できないこととなっている。
高齢者が急激に増加したため、世代ごとの数のバランスを取るため選挙権の年齢の引き下げの必要性が指摘されている。また、選挙権の年齢の引き下げが、若い世代が政治に興味をもつきっかけになることが期待されている。
2015年6月の改正公職選挙法成立により、2016年における参議院議員選挙公示日以後に公示される選挙から選挙権が20歳以上から18歳以上に引き下げられる予定となっている[16]。
日本の法令上の選挙権の規定
選挙の種類と選挙権
- 国政選挙(衆議院議員総選挙・参議院議員通常選挙)
- 日本国民で年齢満20歳以上の者(公職選挙法9条1項)[17]
- 都道府県知事・都道府県議会議員選挙
- 日本国民で満20歳以上であり、引き続き3ヶ月以上その都道府県内に住所のある者
- 市区町村長・市区町村議会議員の選挙
- 日本国民で満20歳以上であり、引き続き3ヶ月以上その市区町村に住所のある者
- 選挙権を有する者は選挙人名簿に登録されている。
- 年齢は、いずれも執行日(投票日)時点での満年齢(「執行日翌日が20歳の誕生日である者」まで含む)。
- 地方選挙における「3ヶ月以上住所がある」は、告示日前日の3ヶ月前の日以前から当該地内に住所を有し続けていること(3ヶ月以上前から住民基本台帳に記載されていること)。なお、転入の場合は実際の転入日ではなく転入届の提出日から3ヶ月と1日以上経過している必要がある。これは、投票日までに満20歳となる者の場合についても同様。また、基準日以降に転居した場合(地方選挙は同一自治体内での転居に限る)、基準日時点での住所を元に投票所が指定される。
- 2016年6月に年齢が引き下げられ国会議員選挙や知事、市長選挙、都道府県議会選挙などの選挙権が20歳から18歳になる
- 地方選挙の場合、告示日以降に当該自治体以外に転居する場合には投票権も喪失するが、告示日の翌日以降転出届の提出までに期日前投票を済ませていた場合はその投票は有効票とされる。
- 3ヶ月の期間は、同じ市区町村なら何度住所をかえても通算される。指定都市の行政区間の住所移転についても同じ。都の特別区(23区)間の移転は通算されない。
- 都道府県の議会議員選挙、長の選挙については、同じ都道府県内の他の市町村に住所を移した場合は、転居1回を限りとして3ヶ月の期間は通算される。
選挙権を有しない者
例外的に選挙権を有しない者については、公職選挙法第11条1項・第252条、政治資金規正法第28条、電磁記録投票法第17条に規定がある。
- 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
- 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)
- 具体的には、以下の何れも成立してない者
- 公職[18]にある間に犯した収賄罪または斡旋利得罪により刑期満了になっていない者
- 公職[18]にある間に犯した収賄罪または斡旋利得罪の実刑満了から5年間を経過しない者
- 選挙に関する犯罪[19]により禁錮以上の刑に処せられ、刑が執行猶予中の者
- 選挙に関する犯罪[19]により実刑終了から5年間を経過しない者
- 政治資金規正法に定める犯罪[20]により禁錮以上の刑に処せられ、刑が執行猶予中[21]の者
- 政治資金規正法に定める犯罪[20]により実刑満了から一定期間[22]を経過しない者
2013年までは成年被後見人も欠格者とされていたが、同年3月に東京地裁で違憲無効の判断が出されたことを受け、同年5月に改正公職選挙法が成立し、2013年7月1日から選挙権を回復した[23][24][25]。
さらに第二次世界大戦前は、破産者、貧困により扶助を受けている者(例外として、軍事扶助法による扶助がある)、住居のない者、6年以上の懲役・禁錮に処せられた者、華族当主、現役軍人、応召軍人にも選挙権は与えられていなかった[15]。
なお、戸籍法の適用を受けない皇族も、公職選挙法附則第2項の規定により、選挙権は「停止」という形で与えられていない。
選挙権に関する資格
「衆議院議員の選挙権を有する者」であることを要件にしているもの
「当該地方公共団体の選挙権を有する者」であることを要件としているもの
「当該市町村の議会の議員の選挙権を有する者(または住民)」であることを要件にしているもの
脚注
- ^ 日本においては憲法学者清宮四郎が唱えた「権利・公務両方の側面を有する」とする選挙権二元説(せんきょけんにげんせつ)も有力学説として存在している。
- ^ 国連人権高等弁務官事務所サイト(同サイト掲載の成人年齢、国により調査年が異なる。)及び在日各国大使館への聞き取り調査等
- ^ youthpolicy.org
- ^ 世界各国・地域の選挙権年齢及び成人年齢(法務省HP)
- ^ 二院制の国は下院の選挙権年齢。各国において選挙権年齢と成年年齢は必ずしも一致していない。
- ^ 2016年6月以降。それまでは20歳以上
- ^ アメリカは1971年7月より選挙権年齢は連邦だけでなく州及び地方選挙も一律に18歳となった(合衆国憲法修正第26条の成立による)。ベトナム戦争の際に、18 歳以上21 歳未満の者は徴兵されるのに選挙権がないのは不当である、と主張されたのをきっかけとされている。
- ^ イギリスは1969年4月より選挙権年齢は18歳に引き下げられた。同じく1969年7月に成人年齢も18歳に引き下げられた(それぞれ国民代表法、家族法改正法の成立による)。
- ^ 選挙権年齢と成人年齢は、ともに1975 年に18 歳に引き下げられている。なお、上院の選挙権年齢は18 歳である。
- ^ 選挙権年齢は、1970 年に18 歳に引き下げられている。
- ^ 兵役義務が18 歳からなのに対して、選挙権年齢が21 歳なのは不公平であるという主張をきっかけにして、1970 年に選挙権年齢が18 歳に引き下げられている。
- ^ 選挙権年齢と成人年齢は、ともに1974 年に18 歳に引き下げられている。
- ^ 選挙権年齢、成人年齢及び婚姻適齢は、第二次世界大戦前から18 歳となっている。
- ^ 国立国会図書館調査及び立法考査局「主要国の各種法定年齢」2008年12月
- ^ a b 百瀬孝『事典 昭和戦前期の日本…制度と実態』伊藤隆監修(初版)、吉川弘文館(原著1990年2月10日)、p. 40頁。ISBN 9784642036191。
- ^ “選挙権年齢「18歳以上」に 改正公選法が成立”. 47NEWS. (2015年6月17日) 2015年6月18日閲覧。
- ^ ただし他の選挙区から転入し転入届を出して3ヶ月以内の場合、新住所での選挙人名簿には登録されていないため新住所の属する選挙区では投票できず、不在者投票などで旧住所の属する選挙区への投票をする必要がある。
- ^ a b 過去には公職ではない人物が収賄罪の執行猶予付き有罪確定になった際に、誤って執行猶予中に公民権が停止された例が存在する。例として公職でない元輪之内町農業委員、元鹿町町建設課長、元瑞穂郵便局保険課長、元建設省酒田工事事務所副所長が収賄罪で執行猶予付き有罪確定になった際に誤って執行猶予中に公民権が停止されたことがある。
- ^ a b 選挙人名簿の抄本等の閲覧に係る報告義務違反・選挙事務所、休憩所等の制限違反・選挙事務所の設置届出及び表示違反・選挙気勢を張る行為の禁止違反・自動車、船舶及び拡声機の使用表示違反・ポスター掲示違反・文書図画の撤去処分拒否・街頭演説の標旗提示拒否・夜間街頭演説禁止違反・選挙運動のための通常葉書等の返還拒否及び譲渡禁止違反人名簿の抄本等の閲覧に係る報告義務違反・選挙事務所、休憩所等の制限違反・選挙事務所の設置届出及び表示違反・選挙期日後のあいさつ行為の制限違反・推薦団体の選挙運動の規制違反・政党その他の政治活動を行う団体の政治活動の規制の違反・選挙人等の偽証罪を除く。
- ^ a b 政治資金監査報告書の虚偽記載・政治資金監査の業務等で知りえた秘密保持義務違反や除く
- ^ 裁判所によって情状により選挙権停止を適用しなかったり、停止期間を短縮したりすることもできる。
- ^ 通常は最長5年間であるが、裁判所によって情状により短縮することもできる。
- ^ “成年被後見人の選挙権回復 改正公職選挙法が成立”. 朝日新聞. (2013年5月27日) 2013年5月29日閲覧。
- ^ “成年被後見人に選挙権 今夏の参院選から適用”. 日本経済新聞. (2013年5月27日) 2013年5月29日閲覧。
- ^ “成年被後見人13万人に選挙権、改正公選法成立”. 読売新聞. (2013年5月27日) 2013年5月29日閲覧。
- ^ 検察審査会法第4条
- ^ 裁判員法第13条
- ^ 地方自治法第182条
- ^ 民生委員法第6条
- ^ 人権擁護委員法第6条第3項