木々高太郎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
1953年

木々 高太郎(きぎ たかたろう、1897年5月6日 - 1969年10月31日)は日本大脳生理学者、小説家推理作家。本名:林髞(はやし たかし)。長男は医学博士で精神衛生学者の林峻一郎(1930年-2008年)。

生涯[編集]

山梨県西山梨郡山城村下鍛冶屋(現甲府市下鍛冶屋町)に生まれる。甲府市湯田町へ移り、甲府市立湯田尋常小学校へ通う。1910年(明治43年)、東八代郡白井河原村(現甲府市、旧中道町)へ移り、県立甲府中学校(現山梨県立甲府第一高等学校)へ入学。中学時代は弁論部に所属し、校友会雑誌へも投稿した。1915年(大正4年)に卒業し上京。福士幸次郎に師事し、金子光晴サトウ・ハチローらとも親交を持った。1918年(大正7年)に慶應義塾大学医学部予科に入学。1924年卒業。生理学教室助手に採用される。

1927年(昭和2年)に講師となり、生理学の講義を担当、1928年に 慶応大学より 医学博士号を得る。論文は 「神経刺激電流の滑走に就て」[1]。1932年にレニングラード(ペテルブルク)へ留学し、翌年2月までイワン・パブロフのもとで条件反射学を研究する[2]。5月に帰国。新聞へ医学随筆を寄稿し、1934年には科学知識普及会評議員となる。一方で、海野十三南沢十七の勧めもあり、「木々高太郎」の筆名で「新青年」11月号に短編探偵小説「網膜脈視症」を発表し、探偵作家としてデビュー。以降、「新青年」へ数々の短編を発表する。

1935年、探偵小説芸術論を提唱し、「ぷろふいる」誌上で甲賀三郎と論争する。1937年には、1935年から刊行されていた『探偵文学』に海野十三、小栗虫太郎とともに編集人として加わり、『シュピオ』(ロシア語で「探偵」の意味)と改題して内容を刷新する。同年、『人生の阿呆』で第4回直木賞を受賞。1939年、雑誌「条件反射」を自費出版。1941年、研究動員を受け陸軍科学研究所嘱託となる。

1945年、林研究所を創設して所長となり、翌年には慶大医学部教授となる。執筆活動も再開し、翌年、『推理小説叢書』を監修。ここで、のちに定着する「推理小説」という言葉を用いる。同年、「新月」で第1回探偵作家クラブ賞短篇賞受賞。翌年、「ロック」誌上で江戸川乱歩と論争。

このころには、人口問題に関して朝日新聞の座談会で、「現在の人口の4割を急速に減らすのが日本の将来に最も良い」とし、さらに堕胎刑法の撤廃を訴えて

生みたくない子供を生まないですむ、これが重要で、人権を重んじつつ生みたくない子供を生まないということは、生みたくない子供を生むと必ず教育はしない、妊娠しても堕ろすことが出来るなら、二十年後には大体パンパンガールの八十%、ヨタ者、ヤクザの八十%が減ると見込んでいる、(中略)その反面生みたい子供を生むということも教育をよくやり、よく育てていく意味で大切で、そうすれば日本は質の良い国民を擁した国になる[3]

と述べた。

1951年、復刊された「三田文学」の編集委員となり、松本清張らを輩出。1952年、紀田順一郎大伴昌司らにより創設された慶大推理小説研究会顧問となる。1953年には、江戸川乱歩、大下宇陀児のあとを引き継ぎ、日本探偵作家クラブ(現・日本推理作家協会)第3代会長となった。1960年、『頭のよくなる本』で「頭脳パン」を提唱。米食を止め、パンを主食にするべきだと主張した。72歳で死去。

著作[編集]

小説[編集]

長編[編集]

  • 人生の阿呆 版画荘、1936 のち創元推理文庫
  • 折蘆 春秋社、1938
  • 緑の日章旗 博文館 少国民文芸叢書 1941
  • 暁の触覚 興亜文化協会、1941
  • 海馬 博文館、1941
  • 少年珊瑚島 湘南書房 1948
  • 養女 大日本雄弁会講談社 1948
  • 笛吹 或アナーキストの死 世界社 1948
  • 緑の秘密国 長篇科学小説 高志書房 1949
  • 四十指紋の男 長編探偵小説 極光書房、1949
  • 産院 朝日新聞社 1949
  • 三面鏡の恐怖 春陽堂書店 1955
  • 光とその影 大日本雄弁会講談社 1956(書下し長篇探偵小説全集)
  • 熊笹にかくれて 桃源社 1960
  • 木々高太郎全集 全7巻 朝日新聞社 1970

短編・詩集[編集]

  • 網膜脈視症 のち春陽文庫
  • 死固
  • 睡り人形 春秋社、1935
  • 就眠儀式 改造社、1935
  • 決闘の相手 春秋社、1936
  • 夜の翼 春秋社、1937
  • 新鋭大衆小説全集 第14巻 桜並木の一本の桜・蝸牛の足 アトリエ社、1937
  • 或る光線 木々高太郎科学小説集 ラジオ科学社 1938
  • 結婚問答 他四篇 春秋社、1939
  • 妄想の原理
  • 青色鞏膜
  • ねむり妻
  • 恋慕
  • 決闘 のち講談社大衆文学館
  • 死の乳母
  • 柳桜集 二つの探偵小説 版画荘、1937- 「緑色の目」「文学少女」「柳桜集跋」から成る。
  • 文学少女 其の他 雄鶏社、1946
  • 債権
  • ヴェニスの計算狂
  • 大浦天主堂
  • 永遠の女囚
  • 幻滅
  • 新月 心理探偵小説集 新太陽社、1946
  • エキゾチックな短篇 尾崎書房、1947
  • 月蝕
  • 冬の月光 木々高太郎小説集 展文社 1948
  • わが女学生時代の罪 他二篇 春陽堂 1953
  • 侍医タルムドの遺書 東方社 1955
  • 十二の傷の物語 春陽堂書店 1956
  • 大心池先生の事件簿 桃源社 1958
  • 眠られぬ夜の思い
  • 人形師の幻想
  • X重量
  • バラのトゲ
  • 六条執念
  • 月光と蛾 木々高太郎第二詩集 林髞 詩苑社 1969

戯曲[編集]

  • 胆嚢

評論[編集]

  • 現代探偵小説の特質と現状 日本文章学会 1940
  • 探偵小説に於けるフェーアに就いて
  • 探偵小説芸術論
  • 新泉録
  • 事実は小説より困る 推理的人生案内 大樹書房 1961
  • 推理小説読本 読売新聞社 1964
  • 自由詩のリズム 詩苑社 1969

林髞名義[編集]

  • 趣味の生理学 時潮社 1934
  • 刺戟 人文書院 1935
  • 条件 随筆集 三省堂 1935
  • 犬の涎 随筆 南光社 1936
  • 思想と生理 人文書院 1936
  • 児童生理学講話 刀江書院 1936
  • 科学主義・その他 太陽閣 1937
  • 私達のからだ 新潮社 1939(新日本少年少女文庫)
  • 科学論策 厚生閣 1940
  • 条件反射学方法論 三笠書房 1940
  • 百万人の生理学 三教書院 1940
  • 綴方と自然科学 羽田書店 1941(生活の科学新書)
  • パスツール 新潮社 1941(新伝記叢書)
  • 生理学 朝日新聞社 1941(新日新講座)
  • 科学への思索 畝傍書房 1941
  • 実習生理学 栖原六郎共著 河合商店 1942
  • 科学への憧憬 協力出版社 1942
  • 科学人史話 第一公論社 1942
  • 研究室秋冬 大東出版社 1942
  • 第二世 古明地書店 1942
  • 東方光 日本文林社 1942
  • 生理学大意 総論 鳳鳴堂書店 1943
  • 私たちの呼吸 偕成社 1944(少年少女文庫)
  • 血液記 力書房 1944
  • 小さい生理學 少國民理科 正芽社 1944
  • 詩と暗号 連続探偵小説 新太陽社 1947
  • 生理学なぜ何故ならば 正続 永晃社 1947
  • 北里と野口 湘南書房 1947(新日本少年少女選書)
  • 感覚生理学 文宣堂 1948
  • 自然科学とその恩人 三省堂出版 1949 (社会科文庫)
  • 認識起源論 白楊社 1949
  • 細菌と闘ふ人々 パスツールを中心として 学芸社 1949
  • 探求反射 弘文社 1949
  • 条件反射学応用論 評論社 1950
  • 学生生理学 評論社 1950
  • 条件反射 岩波全書 1951
  • 科学概論 中山書店 1951
  • かえるのからだと人のからだ 三十書房 1952(少年少女科学の研究室)
  • ノーベル賞ものがたり 毎日新聞社 1954(毎日少年ライブラリー)
  • パブロフ 金子書房 1954(少年少女新伝記文庫)
  • 随筆寄席 1-4 辰野隆徳川夢声 日本出版協同 1954-60
  • 世相の生理 読売新聞社・新書 1955
  • 頭のはたらき 慶應通信 1956
  • 頭脳 光文社 1958(「米を食うと馬鹿に成る」で有名)
  • 頭のよくなる本 大脳生理学的管理法 光文社 1960(カッパブックス)
  • 頭をつかう人の食事 婦人画報社 1961
  • おとこ大学 男性の魅力はこうして作られる 雪華社 1961
  • 大脳を語る 頭の開発10のルール 展望社 1961
  • 北里柴三郎 日本医学の恩人 偕成社 1963(世界偉人伝全集)
  • 勉強が好きになる本 大脳生理学の教える学習倍増法 光文社 1963(カッパ・ブックス)
  • 疲労と睡眠 筑摩書房 1963
  • 人間のエネルギー 頭と身体のつかい方 河出書房新社 1963
  • からだの法則を探る 人間の生理学 講談社現代新書 1964
  • 長生きをする研究 サンケイ新聞出版局 1965(ヒット・ブックス)
  • 性=この不思議な原理 講談社現代新書 1966
  • 頭の良い子に育てる本 金剛出版 1967
  • 四時間眠ればよい あなたも 朝型・夜型・不眠型 双葉社 1969
  • 昨日の雪 東京美術 1970(ピルグリム・エッセイシリーズ)

翻訳[編集]

  • 条件反射学 大脳両半球の働きに就ての講義 イワン・ペトロウィチ・パヴロフ 三省堂 1937 のち新潮文庫
  • パヴロフ及其学派 フローロフ 科学知識普及会 1938
  • 思想の建築 アーネスト・トラットナア 矢の倉書店 1939
  • あなたはタバコがやめられる ハーバート・ブリーン 早川書房 1956
  • 学長の死 マイケル・イネス(木々高太郎訳)東京創元社 1959
  • あなたは酒がやめられる ブリーン(木々訳)早川書房 1959
  • まだ殺されたことのない君たち B.マスロフスキー、セシヤン 木々・槙悠人共訳 東都書房 1962

脚注[編集]

  1. ^ 博士論文書誌データベース
  2. ^ 林髞「パヴロフの業蹟の概括及二三の思索」『唯物論研究』1933年10月
  3. ^ [解決迫られる人口問題「産制」に二つの意味“人口の漸減”と“社会の浄化”本社主催座談会 朝日新聞 昭和24年5月15日]

参考文献[編集]