夕凪の街 桜の国

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夕凪の街 桜の国
漫画:夕凪の街
作者 こうの史代
出版社 双葉社
掲載誌 WEEKLY漫画アクション
発売日 2003年9月
漫画:桜の国
作者 こうの史代
出版社 双葉社
掲載誌 漫画アクション
発売日 2004年7月
漫画:夕凪の街 桜の国
作者 こうの史代
出版社 双葉社
発売日 2004年10月12日
ラジオドラマ
原作 こうの史代
演出 真銅健嗣
放送局 NHK-FM放送
番組 FMシアター
発表期間 2006年8月5日 22:00 - 22:50
小説:小説 夕凪の街 桜の国
著者 国井桂
出版社 双葉社
発売日 2007年7月3日
映画
監督 佐々部清
制作 「夕凪の街 桜の国」製作委員会
封切日 2007年7月28日
上映時間 118分
テンプレート - ノート

夕凪の街 桜の国』(ゆうなぎのまち さくらのくに)はこうの史代による日本漫画原爆投下後の広島市を描いた作品で、双葉社より発刊された。全98頁。

2007年に映画化され、そのノベライズも出版された。映画の公開は2007年7月28日。原爆が投下された広島市では、2007年7月21日から先行公開された。

概要[編集]

夕凪の街」は、1955年(映画・小説版では1958年)の広島市基町にあった原爆スラム(「夕凪の街」)を舞台にして、被爆して生き延びた女性の10年後の、心の移ろう姿と、原爆症に苛まれるという当時の広島市民を突如襲った現実を描く。

桜の国」は、第一部と第二部に分かれている。主人公は被爆2世の女性。第一部は1987年の春、舞台は東京都中野区および当時の田無市。第二部は2004年の夏、舞台は西東京市および広島市など。映画・小説版では、第二部(2007年の夏)を中心に(※第一部は回想シーンの1つとして)再構成されている。

「夕凪の街」と「桜の国」第一部・第二部の3つの話を通して、3世代にわたる家族の物語が繋がっている。三編とも、主人公に思い出したくない記憶があり、それがふとしたきっかけで甦る・・・という底流を共有しつつそこで終わらず、原爆に後世まで苦しめられながらも、それでもたくましく幸せに生きてきた戦後の日本人を描いている。「一般庶民にとっての原爆」を真正面から扱った作品ではあるものの、原爆当日の描写はわずか数ページしかなく、原爆の重い影を背負いつつ過ぎていく日常を、あくまで淡々と描写するスタンスを取っている。

大江健三郎の『ヒロシマ・ノート』などを参考にあげており、タイトルは広島出身の作家大田洋子の原爆と原爆スラムの人たちに関するルポルタージュ的な小説作品である「夕凪の街と人と」と、太平洋戦争直前の小説家デビュー作「櫻の國」を下敷きにしている[1]が、内容的にそれらとの直接の関連はなく、登場人物に特定のモデルが存在しているわけではない。ただし前者については「原爆スラム」が舞台になっている点で共通している。これに対し後半部と「櫻の國」との関係はタイトルが同じという以外の共通点はない[2]

評価[編集]

2004年度(第8回)文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞[3]、第9回(2005年手塚治虫文化賞新生賞[4]を受賞した。

それ以外にも朝日新聞で2週にわたって絶賛され、月刊誌『ダ・ヴィンチ』で編集者総出で勧める「絶対はずさないプラチナ本」として掲載、フリースタイル刊『このマンガを読め! 2005』で第3位になるなど、著者にとって最大のヒット作となっている。日本国外でも高い評価を得ており、韓国台湾フランスイギリス米国オーストラリアなどで翻訳版が出版されている。韓国版のみ「原爆投下は止むを得なかった」との注意書きが足されている[5]。ドイツでも出版が検討されている。

登場人物[編集]

「演」の記述は映画版

夕凪の街[編集]

平野皆実(ひらの みなみ)
演 - 麻生久美子
本作の主人公。原作では平野家次女、映画・小説版では平野家長女である。
1945年8月6日に、広島市で原爆の被害に遭うが、生き残る。父・姉・妹は原爆投下後まもなく亡くなる。母と2人で夕凪の街(旧相生通り、通称・原爆スラム)のあばら家で暮らしながら、建築設計事務所「大空建研」で事務員をしている。水戸市に伯母(石川家)がいる。
戦時中、石川家に疎開させた弟(旭)のことを気にかけている。倹約生活を送り、草履作りのため竹の皮を集めている。
左腕と左のこめかみに残った、大きな火傷跡に対してコンプレックスを持っている。
原爆投下直後の修羅場の中、多くの人々を見捨てて生き延びた故に、罪悪感を抱いていた。打越からの告白を受けた直後、原爆症を発症し、1955年9月8日に死去。享年23歳(映画・小説版では1958年8月25日、26歳)。
平野フジミ(ひらの フジミ)
演 - 藤村志保
霞&皆実&翠の母。夕凪の街で洋服の仕立てや修理をして暮らす。被爆の影響で1ヶ月ほど目が見えなかったため、直後の惨状は目の当りにしていない。
石川旭(いしかわ あさひ)
演 - 伊崎充則
皆実の弟。旧姓:平野。原作では皆実の回想シーンにのみ登場。1945年の初夏(原爆投下のおよそ1ヶ月前)に石川家へ疎開したため、平野家では唯一被爆していない。
終戦から5年後(映画・小説版では7年後)、皆実とフジミが迎えに来た際に広島へ帰るのを拒み、そのまま石川家の養子となる。
皆実の危篤の際に急いで広島へ向かう。映画・小説版では河川敷で幼少期の思い出を語り合い、打越とともに皆実の最期を見届けた。
打越豊(うちこし ゆたか)
演 - 吉沢悠 / 50年後 - 田山涼成
大空建研に勤務する会社員で、皆実と親しい仲になるも、直後に彼女の死去に立ち会う。広島市に住んでいた叔母が被爆死していることから、原爆に関する記憶に苦しむ皆実についても理解を示す。天満の若い頃に似ており、「桜の国(二)」で旭と再会した時にも同じくハゲていた。
古田幸子(ふるた さちこ)
大空建研に所属する女子社員で、皆実が死去する直前にも同僚たちと何度か見舞いに訪れている。職場の向かいにある「フタバ洋装店」のショーケースにあったワンピースに憧れ、皆実に協力してもらい自作する。
「桜の国(二)」では、玄関先で旭と会う。映画・小説版では皆実と一緒に作り上げた思い出のワンピースを大切に保管し続け、皆実の五十回忌を機に訪ねてきた旭に、皆実と一緒にワンピースを作ったりした当時の思い出を語る。
太田京花(おおた きょうか)
演 - 小池里奈
皆実の家の近所に住む小学生。太田家の家事をこなし、おっとりした性格からか皆実に気に入られている。「夕凪の街」では映画・小説版にのみ登場。
平野天満(ひらの てんま)
霞・皆実・翠・旭の父。映画版で、旭が持っていた写真ではハゲていた。職場(原作では職業に関する記述なし)で被爆し、1945年8月7日に亡くなる。映画・小説版では建築会社に勤務しており、横川町にあった職場で被爆。骨すら見つからないまま8月6日に死亡として処理されている。享年41。
映画・小説版で「大空建研」の社長として登場する竹内氏は、天満の同僚だった。
平野霞(ひらの かすみ)
皆実より2歳上の姉。原作にのみ登場。8月7日に家族と再会するが、被爆から2ヶ月ほどたった1945年10月11日に被爆の後遺症により15歳で死去。
平野翠(ひらの みどり)
皆実より1歳下の妹。原作では被爆時の状況は不明。結局自宅に戻らないまま1945年8月6日に死亡として処理される。映画・小説版では壊滅した広島市内で皆実と偶然再会し、皆実の背中におぶわれたまま息を引き取る。原作では12歳、映画・小説版では10歳で死去。

桜の国[編集]

石川七波(いしかわ ななみ)
演 - 田中麗奈
本作の第一部、第二部を通して主人公。皆実の姪。原作では1976年生まれ。第一部では小学校5年生、第二部では28歳の会社員。野球好きで、第一部では少年野球チームに混じり、ショートを守る。広島東洋カープのファン。苗字のせいで、同級生からの渾名は「ゴエモン」。男勝りな性格で、将来の夢は東子のようなおとなしい子になることだった(すぐに頓挫する)。旭曰く、どことなく皆実に似ている。
祖母の死後、弟の入院先の近くに住むため、東京都中野区から同田無市(現・西東京市)に転居する。
第一部で住んでいた中野区の桜並木の街のことはすべて、東子のことも含めて思い出したくない。そこは母と祖母の2人を失った場所だからであり、何かのきっかけで、そのときの記憶が蘇るから。最終的に母と祖母の人生と死を受け入れ、松が丘の「桜並木の街」とも和解する。
石川凪生(いしかわ なぎお)
演 - 金井勇太
七波より1~2歳下の弟(映画・小説版では27歳)。第一部では体が弱く喘息でずっと入院しているが、第二部では喘息も回復し、現在は研修医である。勤務先での渾名は「ゴエモン」。赴任した病院で東子と再会して恋仲となり、彼女の両親から反対され一度は東子に手紙で別れを告げるが、七波の後押しを受け改めて東子と向き合う。
平野フジミ(ひらの フジミ)
旭の結婚と転勤に伴い中野区へ転居した。夫と娘3人に先立たれ、自分だけが生き延びたことに罪悪感を抱いている。息子が被爆者の京花と結婚することに、知り合いが原爆症で死ぬ姿を見たくないめに、当初は反対していた。病で倒れた後、七波を末娘の友達と混同していた。1987年8月27日、80歳(映画・小説版では1990年9月27日、83歳)で病死。原作第二部及び映画・小説版では回想シーンのみ登場。
石川旭(いしかわ あさひ)
演 - 堺正章
七波と凪生の父。会社を定年退職した後で、自分と子供たちの3人暮らし。石川姓なのは、自分が広島の大学へ進学する際に「石川の姓を名乗り続けてほしい」と伯母に泣かれたため。広島の大学に進学し、母と2人で夕凪の街で暮らす。そこで京花と出会い、勉強を教えたり元春に野球を教えたりする。十数年後、京花にプロポーズし、東京への転勤を期に彼女と結婚する。
退職後、携帯電話の料金が増え、何も告げずに突然どこかに行き数日間帰らなかった[6]
娘に彼氏ができないことを嘆いている。七波には、早逝した皆実のかわりに幸せになってほしいと望んでいる。
石川京花(いしかわ きょうか)
演 - 粟田麗
七波と凪生の母。旧姓:太田。原作では第二部の回想シーンのみ姿を現す。旭より6歳下。「ちょっととろい子」(フジミ談)で、生まれて間もないころに被爆している。後に父を亡くし、旭のすすめで平野家の家業の洋服直しを手伝いに来る。指先が器用で裁縫が得意であることから、後に洋品店に御針子として就職する。
東京への転勤が決まった旭からのプロポーズを受け結婚。1983年、38歳の時に自宅で血を吐いて倒れ、同年死去。死後、水戸にある石川家の墓に弔われる。
兄は元春(彼女より4歳上)、原作では回想シーンに後姿で一コマのみ登場している。第二部の時点で存命、広島電鉄の宮島線沿線(または宮島)に住んでいる模様。
利根東子(とね とうこ)
演 - 中越典子
第一部では中野区の石川家の向かいに住んでいた。七波とは同い年で親友。第一部から第二部の間の17年間、全く会っていなかった。京花に似ている(七波談)。おしとやかな性格でピアノが得意。将来は母が通った私立女子校を卒業し、ピアニストになることを夢見ていたが、凪生の面会に行ったことで考えが変わる。
第二部では看護師、同僚となった凪生と交際を始めるが、凪生が幼少時に喘息だったことや被爆二世である理由で両親から反対されていた。辞表を出し凪生に会いに行く途中、七波と17年ぶりに出会い、旭の乗った広島行きの高速バスに強引に七波を連れて乗る。
初めて広島に行き、平和資料館で衝撃的な展示の数々に気分を悪くするが、広島での経験でこの街の過去を理解し、凪生の家系の被爆のことも逃げずに受け入れようと決める。

家系・相関図[編集]

平野天満
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
皆実
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
フジミ
 
 
 
旭(石川家へ)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
七波
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
凪生
 
 
 
 
 
(小学校の同級生)
 
 
 
 
太田元春
 
 
 
 
 
 
(恋仲)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
京花 利根東子
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

登場人物名の由来[編集]

登場人物の名前の一部は広島市の町名より取られている。

  • 平野 - 広島市中区平野町
  • 平野天満 - 広島市西区天満町(天満川もある)
  • 平野フジミ - 広島市中区富士見町
  • 平野霞 - 広島市南区
  • 平野皆実 - 広島市南区皆実町
  • 平野翠 - 広島市南区
  • 打越 - 広島市西区打越町
  • 古田 - 広島市西区古田地区。古江・山田の2地区の総称。現在は行政上正式な地名ではないが、地元住民には今もこの地名を使う人が多く、小学校や公民館、新興住宅地(古田台)等の名前にも使われている。
  • 石川(旧姓平野)旭 - 広島市南区
  • 太田 - 太田川
  • 石川(旧姓太田)京花 - 京橋川。京子では東子と混同するので京花とした[7]
  • 太田元春 - 元安川安芸毛利家の武将に吉川元春がいる。

舞台[編集]

夕凪の街(舞台)[編集]

桜の国(舞台)[編集]

劇中歌[編集]

夕凪の街(劇中歌)[編集]

桜の国(劇中歌)[編集]

その他[編集]

  • 「夕凪」とは、海岸地方において夕方に海風が陸風に変わるときに無風状態()になることをいう。瀬戸内地方の「瀬戸の夕凪」が有名。
  • 実在する会社とは関係は皆無であるが「おおぞら建研」という会社は広島市西区に実在するらしい。また「の乃野屋・おおぞら建研」の看板のあるビルは、同作者の他の作品にも登場している。ちなみに「の乃野屋」は、作者の同人サークル名。
  • 後に4コマ「みなみさんの休日」シリーズでこの作品のセルフ・パロディを発表している。南国の離島育ちの「浦島みなみ」とそのいとこである平野家の「霞・翠・旭」の三兄弟の珍騒動を描いている。
  • 単行本のカバーの下の表紙裏表紙は「夕凪の街」のみを同人誌として発行したときのもの。そのため桜は描かれていない。

ラジオドラマ[編集]

2006年8月5日NHK FMラジオ放送FMシアター」にて放送。脚色:原田裕文、音楽:長生淳、演出:真銅健嗣。

出演[編集]

受賞[編集]

一人芝居[編集]

2006年8月6日夕方に、島根県津和野町在住の当時17歳の女子高生が、広島市中区の本川左岸「基町ポップラ通り」にて「夕凪の街」を一人芝居で演じた[8]

プラネタリウム[編集]

2010年4月24日(土)から9月5日(日)まで、広島市こども文化科学館(広島市中区)にてプラネタリウム作品として投影された。同館の開館30周年記念番組[9]

同館作品としては唯一原爆をあつかったものとなり、原作の絵130枚を使い「桜の国」をメインに「夕凪の街」を回想シーン的につなげる形で構成された。プラネタリウム作品ではあるが星空紹介は旭が幼い京花に星座を教えるシーンの5分のみという異例の構成。全体は約50分間。企画は、広島電鉄の研究でも著名な同館の加藤一孝館長(企画時、投影時は定年退職後)。原作のこうの史代が監修をしている。主人公の七波の声優は高野志穂が、旭は柴田光彦、皆実は若井なおみがつとめた。

なお、広島市こども文化科学館は、「夕凪の街」の舞台となった原爆スラムのあった土地に隣接している。

映画[編集]

夕凪の街 桜の国
監督 佐々部清
脚本 佐々部清
国井桂
原作 こうの史代
製作 松下順一
出演者 田中麗奈
麻生久美子
吉沢悠
音楽 村松崇継
撮影 坂江正明
編集 青山昌文
製作会社 「夕凪の街 桜の国」製作委員会
配給 アートポート
公開 日本の旗 2007年7月28日
上映時間 118分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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監督は『半落ち』『チルソクの夏』『出口のない海』などの佐々部清2007年7月28日公開。広島県内では7月21日から先行公開された。また、讀賣テレビ放送では制作に関わっていたことと原爆を題材にしたことから、公開から間もない2007年8月深夜にこの映画が放送された。

スタッフ[編集]

受賞[編集]

書誌等情報[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 水島裕雅 (2005年). “戦争と女性作家 ―大田洋子を中心として―”. 2008年5月4日閲覧。
  2. ^ 大田洋子の『櫻の國』は、国家総動員法による知識階級総動員体制の1940年に発表された、いわゆる戦意高揚小説である。
  3. ^ 2004年 文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 大賞 夕凪の街 桜の国”. 文化庁メディア芸術プラザ. 2007年12月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年5月4日閲覧。
  4. ^ 第9回朝日新聞手塚治虫文化賞 新生賞”. asahi.com. 朝日新聞社. 2005年6月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年5月4日閲覧。
  5. ^ 隅田佳孝 (2005), “被爆描いた漫画 韓国で翻訳出版”, 朝日新聞 (朝日新聞社) 2005年10月14日付夕刊: 第15面 
  6. ^ 実は、何度も広島へ行き姉の皆実の生前の事をゆかりの人たちに聞いて回っていた(さらには合コンサークルにも参加している)
  7. ^ こうの史代. “野々村さんの書評への補足(こうの史代ファンページ掲示板より)”. 2008年5月4日閲覧。
  8. ^ CAQポップラ2006 「夕凪の街」を一人芝!
  9. ^ 広島市こども文化科学館プラネタリウム「夕凪の街桜の国」紹介ページ(2010年5月7日時点のアーカイブ

関連項目[編集]

外部リンク[編集]