ヒストリエ

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ヒストリエ
ジャンル 歴史漫画
漫画
作者 岩明均
出版社 講談社
掲載誌 月刊アフタヌーン
レーベル アフタヌーンKC
発表号 2003年3月号 -
巻数 既刊8巻
テンプレート - ノート
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ヒストリエ』 (HISTORIĒ) は、岩明均による歴史漫画。『月刊アフタヌーン』(講談社)において2003年3月号から連載され、2008年2月号までが第1部、以後が第2部となる。単行本はアフタヌーンKC(講談社)より2013年8月までに8巻が刊行されている。作者がデビュー前から構想を温めていた作品である[1]

2010年に第14回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の大賞を[1]2012年に第16回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した[2] [3] [4]

概要[編集]

紀元前4世紀のギリシアマケドニア王国アケメネス朝ペルシアを舞台に、古代オリエント世界を描いた作品。マケドニア王国のアレクサンドロス大王に仕えた書記官エウメネスの波乱の生涯を描いている。エウメネスはプルタルコスの『英雄伝』(対比列伝)などにも登場する実在の人物である。

エウメネスはギリシアの都市国家カルディアの名家の息子として育てられ、陰謀によって一時は奴隷に身を落とすものの、時代の荒波に揉まれながらその才能を開花させていく。

2006年ごろから『アフタヌーン』本誌で休載が目立つようになっているが、2008年2月号掲載分(第43話)までを第1部とし、同3月号からは第2部として連載中である。

物語[編集]

第1部[編集]

紀元前343年。トラキア地方に位置する都市・カルディアは、北西ギリシアの強国・マケドニアの軍勢の包囲を受けていた。全ギリシア統一を目論む国王・フィリッポスによって鍛え上げられた重装歩兵団は整然とした隊列を作り、城塞都市を十重二十重に取り囲んでいた。

ペルシア帝国に追われる哲学者アリストテレスらとの出会いを経て、久しく離れていた「故郷」カルディアに戻ってきた青年エウメネスは、ギリシア世界を取り巻く政治情勢の分析から、マケドニア軍の包囲は単なる示威行動に過ぎないことを見抜いて隊列の間をすり抜け、さらに巧みな弁舌を奮って固く閉じられていた門を開けさせ、街に入ることに成功する。同じく街へ入ろうとしていた隻眼の商人・アンティゴノスは、エウメネスの機転と弁舌にいたく感心し、自分の下で働く気はないかと彼を勧誘する。アンティゴノスは街の顔役であるヒエロニュモスの家を訪ねるためにカルディアを訪れたという。行き先を同じくしていたエウメネスは、アンティゴノスらをヒエロニュモス邸に案内するものの、そこはすでに没落し廃墟と化していた。アンティゴノスは養父に代わりカルディアの実権を握ったヘカタイオスの屋敷を訪ねに行き、エウメネスは一人ヒエロニュモス邸の跡地に残って、過去の記憶に思いを馳せる。

エウメネスは、カルディアの顔役であるヒエロニュモス家の次男として幼少期を過ごした。エウメネスは子供の頃から並外れて利発で、その頭の良さは大人も舌を巻くほどのものだった。大好きなオデュッセウスの英雄譚やヘロドトスの歴史書を読みふけりながら、満ち足りた少年時代を送っていた。(第1巻)

しかし、ある日脱走したスキタイ人奴隷・トラクスが常人離れした剣の腕で市民兵を次々に殺傷し、カルディアの街を騒然とさせる事件が起こる。ヒエロニュモスの部下ヘカタイオスとゲラダスはこの混乱に乗じて主を殺し、逃げ切れず死んだトラクスにその罪を着せようとする。エウメネスはその企みを見抜き、査問会でヘカタイオスたちの陰謀を主張するが、自身への疑惑をそらそうとするヘカタイオスはエウメネスがヒエロニュモス家の子ではなく、拾われたスキタイ人の奴隷であったという彼の出自の秘密を暴露し、エウメネスは自身も知らなかった秘密を知らされ愕然とする。エウメネスは奴隷身分に墜とされ、商人に大金で買われカルディアを去ることになる。(第2巻)

商人の船に乗せられ航海していた最中、奴隷たちによる反乱が起こり船は沈没、エウメネスはすんでの所で命を取り留め、パフラゴニア英語版 にあるボアの村の人々に助けられる。思わぬことで自由の身になったエウメネスは同年代の少年たちと働きながら剣を学び、自身の蓄積したギリシアの知識を伝え、村の住人として受け入れられ、彼らと共に暮らすこととなる。居候先の少女・サテュラは最初はエウメネスのことを怪訝な目で見ていたが、次第に彼に好意を持つようになってゆく。

ボアの村は、近隣に位置するギリシア人の街・ティオス市の庇護を受けていた。ティオスとの関係は良好なものだったが、エウメネスが青年に成長した頃、ティオスの顔役の息子・ダイマコスが、穏健な父が病に伏したのを良いことに私兵を率いてボアの村を征服しようと企てる。(第3巻)

野心家のダイマコスの行動を見かねた弟のテレマコスは内密にボアの村を訪れ、兄の企みを村人達に伝えて村からの退去を薦めるが、無論村人たちにとっては到底納得できることではなく、村に籠城して戦うことを決意する。とはいえ武装した軍隊相手に小村がまともに戦えるはずもなく、エウメネス発案による奇策を弄してダイマコスを迎え撃つことにする。奇策は当たり、ダイマコスは罠にかけられ命を落とす。戦いはボアの村の勝利に終わり、ティオスとの友好関係は今後も維持されることとなるが、エウメネスが謀略を仕掛けてダイマコスを陥れたことをテレマコスに気づかれる。テレマコスは激昂し、和睦もこれまでかと思われたが、エウメネスは村を守るために一人でテレマコスの怒りを引き受ける。エウメネスは恋仲になっていたサテュラとも別れてボアの村を去ることとなり、そのまま「故郷」・カルディアへの帰路につくことになる。(第4巻)

やがて旧友や義兄とも再会するものの、エウメネスが復讐のために戻ってきたと早合点して襲ってきたゲラダスを返り討ちにしたことで、エウメネスはヘカタイオスに追われる身となる。エウメネスはアンティゴノスの誘いを受けて彼と一緒に街を出るものの、門の外に並ぶマケドニア兵達に恭しく迎えられた隻眼の商人の正体は、彼らを統率するマケドニア王フィリッポスであった。(第5巻)

第2部[編集]

フィリッポスにその才能を見込まれたエウメネスは、書記官見習いとして王に仕えることとなる。マケドニアの首都・ペラで彼が身を寄せることになったのは、マケドニアの名門貴族アッタロスの邸だった。エウメネスはアッタロスとすぐに打ち解け、姪のエウリュディケとも同様に親しくなる。兵器開発工房の職人たちとも仲良くなり、書記官見習いとしての仕事にも慣れてきた頃、エウメネスは王宮で左目の上にヘビのような形のあざを持つ少年を見かける。彼こそがフィリッポス王の後継者、王子・アレクサンドロスであった。(第5巻)

アリストテレスを招いてフィリッポスが創設したミエザの学園は、マケドニアの次代を担う貴族階級の若者達の育成を目的とした幹部養成学校であった。ギリシア世界に名を馳せる大賢人の指導を受け、貴族の子弟達は日々学問に邁進していた。彼らは「マケドニアの両輪」と言われ王国を支える将軍パルメニオンと宰相アンティパトロスの後に続き、必ずやマケドニアの将来を担う存在となるに違いなかった。アレクサンドロスは年少ながらすでに文武共に余人にない才能を示しており、かといって傲ることなく、身分の別け隔てなく接する謙虚な人柄は、王の後継者として非の打ち所のないものであったが、その内面には別人格「へファイスティオン」が潜んでいた。(第6巻)

「へファイスティオン」はアレクサンドロスの実母、フィリッポスの第4王妃オリュンピアスが作り出した。ある晩、まだ幼かった頃のアレクサンドロスは母と愛人の情事を目撃する。オリュンピアスは物怖じもせずに愛人を刺し殺すと、衝撃を受けている息子を一喝する。アレクサンドロスが落ち着きを取り戻すや、オリュンピアスは「心の友を授ける」という言葉と共に手鏡を差し出す。鏡には化粧で目の上のあざを消されたアレクサンドロスの顔が映っていた。もう一人のアレクサンドロス・「へファイスティオン」はこうして誕生することとなる。オリュンピアスは二つの心を持つ我が子をフィリッポスをも踏み超える存在に育てるべく、野心を燃やすようになる。

紀元前340年、フィリッポスはペリントス・ビザンティオン二都市への攻略作戦に乗り出した。マケドニアによるギリシア統一に強行に抵抗するアテネの同盟都市である二都市を陥落させることは、宿敵アテネを屈服させる足がかりとなる。正式に書記官となったエウメネスも、フィリッポスに従いこの遠征に従軍することになる。(第7巻)

マケドニア軍は二都市を包囲するも、アテネの支援を受けた両都市の守りは思いの他堅牢だった。アテネは因縁深いペルシアとも手を結んでおり、二都市にペルシアからの軍事援助まで受けさせていた。やがてアテネの将軍フォーキオン率いる艦隊が両都市の周辺海域を制圧し、フィリッポスはやむなく撤退を決意する。ペリントスとビザンティオンへの攻撃は失敗に終わったものの、奇妙ないざこざから始まったスキタイ人部族との戦いには勝利し、マケドニア軍は本国への帰途につくことになる。だが帰路の途中、間延びした隊列を蛮族に強襲され、フィリッポスが重傷を負って指示が出せなくなる。エウメネスはアッタロスの名を借りて諸部隊に指示を出し、事実上軍の指揮を執ることになる。どうにか敵を退散させることには成功するものの、マケドニア軍は大きな損害を被り、結局今般の遠征は散々な結果に終わることとなった。勢いづいたアテネではこれを機会にマケドニアとの決戦を望む強硬論が沸騰し、反マケドニアに燃え上がるその様子を耳にしたフィリッポスもついに決戦を決断する。一方、ペラに戻ったエウメネスは、恋仲になったエウリュディケの接吻によって迎えられる。(第8巻)

主要登場人物[編集]

名前の横に「*」がついているキャラクターは史実上実在した人物。

主人公[編集]

エウメネス *
本編の主人公。カルディアの有力者ヒエロニュモスの次男として育つ。幼少の頃より飛び抜けて利発で、周囲の大人達から神童のように目されて成長した。恵まれた家庭環境のおかげで幼い時期から書物を読みふけり、知略を駆使して逆境を切り抜ける英雄オデュッセウスに憧れ、実録物に興味が移ってからはヘロドトスらの書物から豊かな教養を身につける。
その出自はスキタイ人であり、後にそれが暴露されて奴隷身分に墜ち、故郷を去った後波乱万丈の人生を経てマケドニアの書記官となる。弁舌が立ち、頭の回転が速く歴史に深い興味を抱く。身体能力も高く、ボアの村で剣の手ほどきを受け、その腕は並の兵士では束になっても敵わないほどとなる。また手先が器用で、身の回りにある物を工夫して便利な道具を作ったり、壊れた物を直したりする。
史実ではエウメネスの出自はカルディア出身という以外は記録が残っておらず不明であり、「スキタイ人」「ヒエロニュモス家の養子だった」という設定は本作の創作である。

第1部より登場する人物[編集]

エウメネス青年期(トロイア遺跡 - カルディア)[編集]

バルシネ *
ペルシア帝国の大貴族の娘で、トロイアス州総督の妻。機転が利き、女性でありながら有能な軍人。ギリシア人である夫に合わせて、ギリシア風の男装をして長い髪をポニーテールにしている。
メムノン *
ペルシア帝国の傭兵隊長。バルシネの夫の弟。
アリストテレス *
ペルシア帝国にスパイ容疑で追われていた哲学者で、逃亡中にエウメネスと知り合う。古代ギリシアを代表する大賢人。マケドニア王フィリッポスとは友人で、後にミエザにてアレクサンドロスと次代の幹部候補生の帝王教育を請け負う。
カリステネス *
アリストテレスの弟子。師と同じく異民族(バルバロイ)はギリシア人に比べ奴隷に向いていると考えており、これを「適材適所」と評する。
アンティゴノス(フィリッポス) *
ペリントスの商人を自称する隻眼の怪しい男。カルディアで偶然出会ったエウメネスの弁舌・機転に感心し、自分の下で働くよう勧誘する。その正体はカルディアを攻めていたマケドニア王フィリッポス本人。エウメネスは後にその威容を一つ眼巨人キュクロプスにたとえる。
実在するアンティゴノスという名の人物は、史実では特に後継者(ディアドコイ)戦争にてエウメネスの人生に大きく関わることになる人物だが、作中では未登場である。なお、アンティゴノスも後に「隻眼王」の名で知られる人物であるが、フィリッポスが失ったのは右眼であるのに対し、アンティゴノスは左眼であった。
メナンドロス *
アンティゴノスの従者。主人に対しても歯に衣着せぬ物言いをする。剣の腕前はエウメネスよりも数段上。正体はマケドニア貴族。詳しい身分や役職は不明だが、アンティゴノスに扮したフィリッポスの従者としてカルディア市内に随伴したり、フィリッポスの勅命でエウメネスの乗馬教育係を勤めるなど、フィリッポスからの信頼はかなり厚い。
パルメニオン *
「その威信は王に次ぐ」とまで言われるマケドニアの将軍。堂々たる体躯の見るからに頼もしげな武将であり、エウメネスは最初この人物をマケドニア王かもしれないと想像する。
ペルディッカス *
マケドニア貴族の若者。カルディアを包囲する兵士の指揮をしているところで、街に入ろうと弁舌をふるうエウメネスを気にして行進を止める。後に戦場経験のある年長者としてミエザの学校へ入学する。

エウメネス少年期(カルディア)[編集]

ヒエロニュモス(先代)
エウメネスの養父。カルディア随一の実力者。街の顔役であるとともに、バルバロイ(野蛮人)であるスキタイ人を捕らえ、あるいは口減らしをしたい親から子供を買い取って、奴隷として売りさばく後ろ暗い商売もしている。エウメネスと出会ったきっかけもスキタイ人を捕らえる過程でのことで、その当時まだ幼児でありながら実母の惨殺死体を見ても動じなかったエウメネスの胆力に驚嘆し、「英雄の子だ」と惚れ込んで自分の子供として育てることにした。
テレシラ
ヒエロニュモス(先代)の妻でエウメネスの養母。基本的に優しい母親としてエウメネスに接しているが、引き取ったばかりの頃はその出自から影で彼を薄気味悪く思ってもいた。しかし、自分の前で泣くエウメネスに「この子だって悲しければ泣く普通の子」と気付く。
エウメネスが奴隷に身を墜として街を離れた後は彼の行く末を強く気にかける。酒に浸るようになり、病死する際には自身の墓に家族と一緒にエウメネスの姿を刻んでほしいと言い遺して息を引き取る。
ヒエロニュモス *
エウメネスの義理の兄。エウメネスと比べて出来が悪く、才能に溢れる弟を妬んでいる。父の死後は当主となるが家は没落し、父の敵(かたき)と薄々感づきながらもヘカタイオスの世話になって暮らす。
ヘカタイオス *
エウメネスの養父ヒエロニュモスの側近。トラクス脱走事件に乗じてヒエロニュモス(先代)を暗殺し、カルディア市を実質上牛耳る実力者となる。エウメネスの出自を暴き、奴隷に身を墜とすきっかけを作った張本人。成人後のエウメネスとはボアの村を経て帰郷した際に一度再会、その後マケドニアに仕える役人として対面する。エウメネスの頭脳の鋭さについては彼の子供の頃から得体の知れないものを感じ、密かに恐れる。
マケドニア書記官としてカルディアを再訪したエウメネスに対し、屈辱を感じる。また、幼少期の因縁からエウメネスが自分に復讐心を持っていると思い込んでおり、強い敵対心と共に脅威を感じている。
史実ではカルディアの僭主で、プルタルコスによればエウメネスとは政治的に対立していた。
ゲラダス
ヒエロニュモス(先代)の部下。雇われ者の兵士たちを腕力で取り仕切る豪傑。ヘカタイオスと共謀し、ヒエロニュモスを暗殺する。数年後、奴隷として売りに出されたはずのエウメネスが何故かカルディア市内にいるのを発見し、復讐しに来たと思い不意打ちで殺そうとするが、返り討ちにあって死亡する。
カロン
ヒエロニュモス家に長年仕える奴隷で、エウメネスの従者。エウメネスの行く先々に忠実につき従う。エウメネスの出自については、スキタイ人の奴隷狩りに参加していたこともあって当初から知っていた。エウメネスが奴隷に身を墜とした後は急に彼に接する態度が冷たくなるが、表には出さないもののエウメネスを気にかける気持ちに変わりはなかった。その気持ちの根底には、奴隷狩りの際にカロンが幼かったエウメネスを人質に取ることで、彼の実母が惨殺されるきっかけを作ったという負い目がある。
エウメネスがヒエロニュモス家を去った数年後、地道に貯めた金で自らを買い取り解放奴隷となってカルディアを出る。
その後、アテネの裏社会の顔役となり、エウメネスと再会する。
トルミデス、ニコゲネス、オルビオス
エウメネスの学校での友人たち。エウメネスとの親交は厚く、エウメネスが奴隷として売りに出された際も変わらず友達だとして、その船出を見送る。その後、平凡なトルミデスは後に市民兵を務めているさなか、帰郷したエウメネスと再会する。
体格に恵まれ運動が得意なニコゲネスはその後も体を鍛えオリンピア競技会のカルディア代表選手となり、体の弱いオルビオスは疫病で命を落とす。
ペリアラ
カルディアの裕福な家の娘。エウメネスと仲がよく、双方ほのかな恋心を抱いていた。エウメネスが奴隷として売られた際には、「奴隷の友達なんかいない」と叫んでエウメネスからの贈り物を海へ投げ捨てようとする。エウメネスが去った後、馬車や荷車を作る「テッサロス車輪」に嫁ぐ。
トラクス
スキタイ人奴隷。主人である高利貸しの息子テオゲイトンに目を覆いたくなるような酷い虐待を受け続けていた。剣技に優れた男でそれゆえ鎖に繋がれたままで奴隷として売られていたが、テオゲイドンがそれを外したことでカルディアの街を震撼させる事件が起こることになる。
エウメネスにスキタイの気配を感じていたのか情をかけられたせいかは不明だが、会話はないもののエウメネスとは奇妙な人間関係を築く。
ゼラルコス
奴隷の身分に墜ちたエウメネスを大金で買い取る黒海沿岸のギリシア植民都市国家オルビアの商人。彼に買われた少年奴隷は去勢されている。そのため奴隷たちの激しい恨みを買っており、エウメネスを買い取った直後の航海中に反乱に遭い惨殺される。

エウメネス少年期 - 青年期(パフラゴニア)[編集]

サテュラ
ボアの村の先代村長・ガルドの娘で、ヒエロニュモス邸で飼われていたネコと偶然同じ名前を持っていた少女。両親はすでになく、叔母の家に暮らす。エウメネスのことは当初は訝しく思っていたが、やがて愛情が芽生えて互いに愛し合うようになる。両人ともそのまま村に暮らすことを望むが、サテュラの許嫁ダイマコスと村との争いをきっかけにエウメネスは村を離れざるを得なくなり、二人は別離する。
ラド、ベナ、ケイラ
サテュラの叔母家族。拾われてきたエウメネスの面倒を見る。幼い娘のケイラはサテュラとエウメネスの仲を気にしていたようで、エウメネスがサテュラに背を向けてボアを去る際には涙ながらに「ばか」と叫ぶ。
バト
ボアの村一番の剣の使い手で、エウメネスに剣技の手ほどきをしてくれた青年。冷静で観察力に優れた性格で、村の若者のリーダー的存在でもある。エウメネスに次第に信頼を寄せるようになり、よき理解者となる。カルディアに戻ったエウメネスは偽名を使う必要に迫られた際に、彼の名前を借用して「バト」と名乗る。
レム、グス、コラン、ゼッド
バトと同世代の青年たち。村内の食料生産や酒造、道具作りの職工を営んでいる家の跡取り。
ダイマコス
ボアの村の近隣ティオス市の顔役フィレタイロス家の長男で、サテュラの許婚。ボアの村の先代村長との間に深い絆と友情を持っていた父が病床に臥せったのを機に、自らの野心を満たすため村に攻め込むが、エウメネスの立てた作戦により惨敗を喫する。作戦では生け捕りにされる予定だったが、その傲慢な言動が原因で村人たちに殺害される。
テレマコス
ダイマコスの弟。兄に似ず温厚な性格。兄の野心を危惧して密かにボアの村を訪れて知らせる。村を訪れた際にサテュラを見初め、兄の死後にボアの村との和睦の証として娶る。

第2部より登場する人物[編集]

紀元前343年[編集]

アレクサンドロス *
フィリッポスの第4王妃オリュンピアスの子。文武ともに優れた才能を発揮し、家臣たちにも強く慕われるマケドニアの王子。周囲からの賞賛の声にもまだまだ父には及ばないと考える謙虚な性格の持ち主で、同年代の少年たちと一緒にミエザの学校で学んで自己を錬磨しようと真摯に努力する。品行方正で領民達にも思いやりがあり、一見して王国の後継者として全く申し分のない王子に見えるが実は二重人格者である。
伝承に残されている通り、左右で瞳の色が違う。左目の上あたりにヘビのような形をした奇妙なあざがあるが、本人はそれを気に入っている。愛馬はブーケファラス
ヘファイスティオン
アレクサンドロスの肉体に宿るもうひとつの人格で、時折入れ替わる。「不良」と称される人格で、通常のアレクサンドロスからは考えられないような問題行動ばかり起こす。この人格が表に出ている間アレクサンドロスの人格は眠っているが、アレクサンドロスが表に出ている間もこちらは覚醒しておりアレクサンドロスの行動を逐一知悉している。この人格の存在は王宮内では公然の秘密であるがタブーであり、王宮日誌の類にも記載することは許されていない。アレクサンドロスとは反対にヘビを酷く嫌悪しており、表に出ているときは顔のあざも化粧で消している。
史実ではヘファイスティオンなる名前の人物は、アレクサンドロス大王が信頼を寄せていた幕僚で大王の幼少期からの親友とされるが、本作における関連は不明。
レオンナトス *
マケドニア貴族。アレクサンドロスとは旧知の仲で、共にミエザの学校に入学する。
オリュンピアス *
フィリッポスの第4王妃でアレクサンドロスの母親。淫蕩な性格で、何人もの男と密かに交わっている。アレクサンドロスはまだ幼い頃にこの母と愛人の情事を目撃し、そのことに強い衝撃を受けて人格が分裂することになった。自らの手でアレクサンドロスの別人格を育て、二つの心を持ったわが子が「フィリッポスを踏み越える」存在になることを望む。王宮内で、好んでヘビを飼っている。
アレクサンドロスが情事を目撃した愛人は、オリュンピアスの手によってその場で殺される。彼こそがアレクサンドロスの本当の父親である可能性が、作中で強く示唆されており、イッソスの戦いの有名なモザイク画のアレクサンドロス大王に酷似した顔として作画されている。
アッタロス *
マケドニアの名門貴族で、エウメネスの居候先の主人。先妻との間の子を戦で失い、以来酒乱気味となっている。砕けた性格で親しみやすい人物ではあるが、律儀で借りを作るのが嫌いな性格でもある。妻はパルメニオンの娘で、真面目な性格の血筋の後妻や義理の弟のフィロータスとは性格が合わず苦手としている。
エウリュディケ *
アッタロスの姪。親しみやすい人物であるが、アッタロスと同じくフィロータスを苦手とする。エウメネスの考案した「マケドニア式将棋」に関心を抱き、才能を見せる。後にエウメネスと恋仲となる。
フィロータス *
パルメニオンの長男。ミエザの学校へ入学する。ペルディッカスらと張り合う。
ポリュダマス *
フィロータスと共にアッタロス邸をたずねる人物。
ポリュペルコン *
フィロータス、ポリュダマスと共にアッタロス邸を訪ねる人物。
ディアデス *
マケドニアで兵器の設計・製造を担当する外国人。飾り気がなく率直にものを言う。エウメネスが王に気に入られていると判断するや仲良くしようとするなど調子がいい面もある。
カサンドロス *
アンティパトロスの息子。フィロータスと仲が良い。ミエザの学校へ入学するが、学友たちが議論している最中も黙っているため、アレクサンドロスには何を考えているかわからないと評される。
プトレマイオス *
ペルディッカスと同様、戦場経験のある年長者としてミエザの学校へ入学する。
フィリンナ *
フィリッポスの第3王妃。アリダイオスの母親。
アリダイオス *
フィリッポスの第3王妃フィリンナの子。知的障害がある。エウメネスに玩具を作ってもらう。
アンティパトロス *
パルメニオンとともに「王家の両輪」とも称される重鎮。外交・内政に手腕を発揮しており、王国宰相というべき存在。カサンドロスの父。外国人を積極的に登用しており、マケドニア式将棋で躊躇なく王を負かすエウメネスを見て以来、彼にも強く関心を持つ。
ディオドトス
マケドニアの書記官。エウメネスの最初の上司。後の部下。アンティパトロスによって取り立てられた「アンティパトロス派」の一員。
ネアルコス *
ミエザの学校入学に備え、エウメネスとともに乗馬を習う。後に「誰よりも信頼できる男」というあだ名がつくほどの好青年。海洋交易に従事するクレタ人の息子で、船や海に詳しい。
アレクサンドロス(オリュンピアスの弟) *
オリュンピアスの実弟。フィリッポスより故国モロッシアの王となり、隣接するエペイロス全土も治めることを命じられる。
ハルパロス *
ミエザの学校に入学する。算術の才能があるが運動は苦手。ときどき人を見下した態度をとる。アレクサンドロスが馬で滝を飛び越えるのを見て自分も挑戦するが、馬とともに滝から落下する。ペウケスタスに発見され、アリストテレスとアレクサンドロスの応急処置で一命を取りとめる。
ペウケスタス *
ミエザの農家で両親と暮らす青年で、ミエザの学校とそこで学ぶ貴族の子弟に興味を抱く。滝から落下したハルパロスを見つけた縁で、アレクサンドロスに恩人として感謝され、念願かなってミエザの学校に入学する。彼を招き入れたのは、父に及ばぬと自省してそれを超克しようとするアレクサンドロスの思惑がある。
ネオプトレモス *
オリュンピアスを護衛する兵士。オリュンピアスに情事に誘われ一度は断るも、オリュンピアスからの自尊心をくすぐる挑発とその敬愛から、同衾に至る。

紀元前340年[編集]

コイノス *
マケドニアの将軍。
クラテロス *
マケドニアの将軍。
カレス *
アテネの将軍。フィリッポスによるビザンティオンへの攻撃に対して防衛戦の指揮を執る。かつて(ペルシアに反乱を起こした太守ペルシア軍を破った功績を称えられ「英雄」と呼ばれることもある。当人は表向きはその呼び名に抵抗があると謙遜するが、実際には(失言ではあるが)自ら「英雄」と口走る場面もある。カレスが「英雄」と呼ばれることに首を傾げる人間も少なくない。
フォーキオン *
アテネの弁論家で政治家。誠実な人柄で清貧を旨とする質素な暮らしを送っていることから人格者としてアテネ市民達の信頼が厚く、毎年のように将軍職に選出されている。政治姿勢は基本的に穏健だが、傭兵軍の副官として各地を転戦した豊富な軍務経験があるため軍人としても有能で、地味だが堅実かつ確実な指揮を執って戦局を優位に導く優秀な指揮能力がある。しかし実際には裏社会とのつながりを持っている。
デモステネス *
アテネの弁論家で実質的なアテネの指導者。言葉を多く弄さず的確に物事の核心を突くフォーキオンの弁論に対して、時に流麗、時に苛烈な言葉の応酬で相手を圧倒する弁論術を奮う。強硬な反マケドニア主義者で、徹底した抵抗を市民に呼びかける。

作品解説[編集]

単行本化に当たっての手直し[編集]

雑誌掲載分を単行本にまとめる際、展開が次の1話に繋がっているところは2話を合わせて1話としたり、連載時には存在したページを省くなど細かいアレンジが施されている。また雑誌掲載時のある1話の中ほどが展開上切りがよい場合、そこが単行本では前話と次の話との切り替わり点になっていたり、新たにページを書き下ろして話の最後に加えたりすることもある。よって雑誌と単行本では話数やサブタイトルが一致していない。

単行本発売の前には単行本制作作業のため、雑誌連載を2か月休載して加筆・修正を行う。この工程では毎回スクリーントーンの追加や、膨大な量の背景の描き込み・書き換えが行われる。第7巻制作の際には、エウメネスの鎧を布の服に変更して各コマの衣装を修正した。

反響[編集]

「第8話 スキタイ流」においてエウメネスがメディア王国の将軍ハルパゴスについて語る場面がある。ハルパゴスがメディア王国に反旗を翻す瞬間を描いた箇所(単行本第1巻、184ページ)はインターネット上においてさまざまなコラージュ画像(面白画像)が発表され、有名となった[5]

単行本[編集]

岩明均『ヒストリエ』 講談社〈アフタヌーンKC〉

第7巻は通常版のほかに、作中に登場する「マケドニア将棋」の駒と盤、ルールブックを同梱した限定版(ISBN 978-4063583748)が発売された。

脚注[編集]

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関連項目[編集]

外部リンク[編集]