テオプラストス

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テオプラストス
パレルモ植物園の彫像
生誕 紀元前371年
エレソス
死没 紀元前287年
アテナイ
時代 古代哲学
地域 西洋哲学
学派 逍遙学派
研究分野 植物学, 倫理学, 文法学, 歴史, 論理学, 形而上学, 博物学, 哲学
主な概念 アリストテレス哲学の発展、体系的な植物学の創始
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テオプラストス: Θεόφραστος, ラテン文字転記:Theophrastos, : Theophrastus、紀元前371年紀元前287年)は古代ギリシアレスボス島生まれの哲学者博物学者植物学者である。彼は「植物学の祖」とも呼ばれており、アリストテレスの同僚、友人で、逍遙学派の主要人物の一人であった。

なお、テオプラストスという名は、アリストテレスがつけたあだ名で、彼の言葉を操る能力と議論の明晰さを認めて名付けられた。(「神(テオス)のごとく語る(プラストス)」の意)[1]。本来はティルタマスと言った[2]

心優しい人として知られ、学者や学生たち、アテナイ市民だけでなく、マケドニアピリッポス2世カッサンドロス王、エジプトのプトレマイオス1世らの尊敬をあつめた[2]

来歴[編集]

テオプラストスはレスボスのエレソス(Athens)で生まれ、若くしてアテナイに学びに来た。初めはプラトンの創設した学校アカデメイアで学んだ。プラトンの死後、テオプラストスはアリストテレスに接近し、共に研鑽を重ねた。アリストテレスはテオプラストスに自らの書斎と自筆原稿を遺贈し、リュケイオンの次期学頭に指名した。テオプラストスはリュケイオン・逍遙学派を35年間運営し、成長・繁栄させた。テオプラストスが死ぬと、アテナイ人は彼を国葬してその栄誉をたたえた。彼の次の学頭の地位はランプサコスのストラトン(en:Strato of Lampsacus)が継承した。

業績[編集]

テオプラストスは兄弟弟子のロドスのエウデモスと共に、アリストテレスの学説を敷衍・校正し、アリストテレスの論理学を改良した。彼らは様相概念を研究し、可能偶然と区別するなど可能の概念を明確化した[3]

彼の関心はほとんどすべての学問領域におよび、科学に統一的な概念を求めた。それと同時に、哲学者として初めて、主な科学の分野を区分する理論的な基準を設けた。その影響力は絶大で、リュケイオンでは何千人もの学生が教育を受け、科学の普及にも功績をあげた[2]

アリストテレスの後継者であるとみられ、大筋でその哲学の教えを守っているが、単なる模倣ではなく、自らの経験に基づいて世界の性質を明らかにしようとした。アリストテレスの自然界を目的論で説明する方法を批判しており、「最初の原動者」の存在を主張する説にも賛同しなかった[2]

特に植物学の業績で知られ、『植物誌』および『植物原因論』は、植物学の発達に大きな影響をあたえ、古代からルネサンスまで植物学の最重要文献であった。教皇ニコラウス5世の命でガザのテオドロス(en:Theodorus Gaza)が初めてギリシャ語からラテン語に翻訳し、1483年に刊行された。『植物誌』全9巻は、歴史上植物学に関する最初の研究書であり、当時の最高水準の観察記録である500余種の記載を残した点で時代を超えた価値をもっている。さらに、農学林学薬学の応用科学書、実用書でもあり、同時にフィールドワークの重要性をも今日に伝えている[1]。植物に関する多くの重要な概念を作り、自分の考えを表す言葉がなかったため、多くの専門用語を作った[1]。また、系統樹あるいは樹形図と似た体系的な配列を取り入れ、今日まで通用する分類法の基礎となるやり方を確立した。植物の発生から死までの過程、繁殖の形態、環境への反応を考慮し、種類の違う植物の中に特定の特徴の有無を観察し、それをもとに記録した先駆的な業績によって、「植物学の祖」と呼ばれている。テオプラストスは、当時の植物学に体系的な研究法を導入したのである[2]

著作[編集]

227本ともいわれる厖大な論文を著した。内容は、論理学・倫理学・博物学・数学・気象学・天文学・教育・政治学・音楽・宗教にまで及ぶが、大半は失われた。ディオスコリデスらの引用に、わずかにその内容をとどめており、以下のものは現存している[4]

  • 『植物誌』および『植物原因論』 (植物を体系的に論じた書。欠落もなく、ほぼ完全に伝わっている)
  • 人さまざま』(人間の性質、生き様を軽妙に、ユーモアを込めて描いた作品。後世、これを模倣した作品も多い)
  • 『自然学者たちの教説』(テオプラストス以前の哲学の歴史を体系的に記述した書で、かつては影響が大きかったという。が、現在では断片が伝わるのみ)

邦訳著作[編集]

[編集]

  1. ^ a b c 京都大学 総合博物館 レクチャーシリーズno.64 (シニア・レクチャー) 「古代ギリシアの植物学」小川洋子
  2. ^ a b c d e ロバート・ハクスリー 著、植松靖夫 訳 『西洋博物学者列伝 アリストテレスからダーウィンまで』 悠書館、2009年
  3. ^ 中畑, p. 654-655
  4. ^ 『岩波 思想・哲学事典』p.1114【テオプラストス】

参考文献[編集]

  • 中畑正志、「テオプラストスと初期ペリパトス学派」、『哲学の歴史1』所収、中央公論新社、2008年
  • ロバート・ハクスリー 著、植松靖夫 訳 『西洋博物学者列伝 アリストテレスからダーウィンまで』 悠書館、2009年

外部リンク[編集]

関連項目[編集]