シュトヘル

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シュトヘル』は、伊藤悠による日本漫画作品。2010年6月まで小学館の『ビッグコミックスピリッツ』で不定期に連載。2010年7月から『ビッグコミックスピリッツ』の増刊誌『月刊!スピリッツ』へ移動。西夏文字を題材にしている。2013年1月現在、単行本は7巻まで刊行中。第16回手塚治虫文化賞新生賞受賞。

目次

あらすじ [編集]

13世紀初頭、蒙古モンゴル)軍による西夏国(タングート)侵攻が続く時代に、「悪霊(シュトヘル)」と恐れられた女戦士がいた。

時代は変わって現代。高校生・須藤は、燃え盛る建物と死が満ちる戦場を夢に見続けていた。ある日、顔を出したカラオケで出会った転校生・スズキとの邂逅によって、須藤は800年近く前に処刑されたシュトヘルとして蘇生する。

詳細な解説 《その一》

時代は現代。高校生・須藤(シュトヘル)は、燃え盛る建物と死が満ちる戦場を夢に見続けていた。ある日、顔を出したカラオケで出会った転校生・スズキ(ユルール)との邂逅によって、須藤は800年近く前に処刑されたシュトヘルとして蘇生する。目が覚めると…

そこは13世紀の中国。しかも性別は女で、裸、兵士まで襲ってくるが、体が勝手に動いて敵を切り伏せてしまう。その女の名前はシュトヘル。蒙古(モンゴル)軍による西夏国(タングート)侵攻が続く時代、モンゴル軍に悪霊と恐れられた女戦士。殺された仲間の仇を取るため、モンゴル軍を殺しまくりながら、ある男-ツォグ族のハラバルを狙う。一方のユルールは、そのハラバルの弟だ。かつてツォグ族はモンゴル族に抗ってことがあり、今は大ハーンに恭順の意を示すことで生存を許されている。ユルールは実は大ハンの息子であり、大ハーンと同じ渦の目を持っている。族長はユルールを「ツォグ復権の切り札」と見ている(ユルールの実母は出産の後に自殺)。

ユルールとシュトヘルは絞首刑場から逃げ出ことに成功する。ユルールはシュトヘル(須藤)長い話を説き聞かせる。 西夏の塩州攻略戦の場面。西夏兵は全滅し、すずめ(シュトヘル)は奇跡的に生き残る。死肉を求めて押し寄せる狼を「すずめ」が撃退する度に彼女は恐るべき強さを身につけていく。ユルールは殺戮を嫌い首都興慶へ向かおうとするが、ボルドゥに制止される。ボルドゥは西夏国から輿入れしたハラバルの母・玉花(イファ)の従者だった男だ。ユルールは西夏本の持ち出しを欲するが興慶に入る術も書物の在り処も知らず困窮する。するとボルドゥは宝物の中から西夏文字を刻んだ玉音同を取り出しユルールに託したのであった。 話は続く-。

《そのニ》

西夏の学者らは西夏の衰退は必至であり、ツォグ族に玉花(イファ)を嫁がせて玉音同を隠し持たせて文字を後世に託そうと考えた。しかしツォグ族は突如として興ったモンゴル軍に攻め滅ぼされてしまう。侵入したモンゴルは何故か徹底して西夏、特に西夏文字の殲滅を行うのであった。 こうしてシュトヘル(意識は須藤)は話を聞き終えたものの「やだよ 関係なくない?」と心ない反応をする。今度はユルールはシュトヘルとの初めての出会いについて語り始める。

ユルールとボルドゥは行商人のアルファルドとモンゴル護衛兵ともに中国の成都へ向かう。その隊商をシュトヘルが襲撃する。シュトヘルはハラバルを探しており、ユルールとともに行動すれば敵が集まって来るであろうことから隊商を尾行する。 塩田の街、塩州の関所で隊商は足止めを喰らう。賊に襲われるもシュトヘルに救われる。

一方、ツォグ族の族長はユルールとボルドゥを斬れと兵に命ずるもハラバルは自分が連れ戻すべく行動を始める。 塩州は将軍ベクテルが支配していた。興慶に向かおうとするところシュトヘルが闘いを挑む。 ベクテルは五感を研ぎ澄ますため自らの鼻を削いだ異常な男だ。 しかしシュトヘルの力は凄まじくベクテルの右目と左耳を奪いたちまち殺害してしまう。 モンゴル兵は塩州に火を放ち興慶へ向かう。 ユルールはシュトヘルに西夏文字を教え二人の間に心が通い始める。アルファルドは殺戮を繰り返すシュトヘルに魅了されていくがユルールが接近することでその輝きが削がれてしまうと考える。アルファルドは毒を塗った短刀でユルールを傷つけてしまう。

《その三》

アルファルドはシュトヘルに「ハラバルを呼んだ。弟のユルールの死をハラバルが見て決闘に及ぶのだ。」と告げると、玉音同を携えて去っていく。 シュトヘルはアルファルドを追い解毒薬を手に入れるが、その時ハラバルが現れ矢を射られたアルファルドは絶命する。 こうしてシュトヘルとハラバルの闘いが始まる。シュトヘルはハラバルに圧倒され敗北する。最期に解毒薬をハラバルに渡し囚われの身となる。

ユルールは蘇り、ハラバルはボルドゥに二度と現れるなと言い残し、シュトヘルを捕縛したまま興慶に戻る。 裸にされ檻に入れられたシュトヘルをユルールが救出しようとするが無理であった。 処刑の日、シュトヘルは絞首台に吊られるが、ユルールが矢を放ち縄をかすめる。しかし縄は切れなかった。ハラバルは「ユルールは一族の敵だ。斬れ!」と叫ぶと兵がユルールのもとに押し寄せる。シュトヘルは心の中で叫ぶ。「このままでは死ねない…」と。

時代は現代へ。全てを知った須藤と鈴木は抱き合い涙を流す。インターネット喫茶で須藤は西夏文字を検索し思いに浸るのであった。 ところが家に戻ると鈴木はいない。学校でも知る者は全くいないし、再びインターネットで「西夏」を検索しても全く表示されない。果たして歴史が変わってしまのか…? 須藤は弦楽器を奏でると再びユルールのもとへ戻される。

ボルドゥは金国の街を通り成都に入るつもりでいたが今やモンゴルと金国の闘いが始まろうとしており、金国の蘭州を通ることにした。

再び、ユルールは処刑場の話の続きを始める。 追い詰められたユルールのもとへ手紙を携えたヤラルトゥ(大鷲)が現れる。ユルールは鷲の足に捕まり脱出することに成功する。そして嵐の日、処刑場に戻ると生き返ったシュトヘルと再会したのである。 しかし、ユルールはシュトヘルに対し「違う。新しく生まれ変わったのではなく、知らない誰かだ」と呟くのであった。 するとそこへモンゴル兵が押し寄せてくるが、シュトヘル(心は須藤)は何故か全く戦闘能力が萎えてしまい逃げ惑うばかり。第一話の時とは異なる展開だがシュトヘルの魂が再び戻りどうにか敵を退ける。

ユルールらは蘭州へと進む。 ツォグ族陣営で族長はハラバルにユルールに情けをかけ逃したことを咎める。ツォグ族の力は大きくなりもはやユルールは不要だと言うと「残念だ。これが我が父か」と呟く。族長は今やモンゴルに忠実なる者となってしまったのである。 蘭州へ向かうユルールら一行は焚書で煙が立ち上る興慶を振り返る。シュトヘルは相変わらず須藤のままである。 興慶の国立図書館である「番大学院」では西夏兵の最期の抵抗が繰り広げられていた。 攻撃の指揮を執るハラバルにもとに一人の金髪女性ヴェロニカが現れ、大ハーンの言葉を伝える。「番大学院を焼く前に玉音同を探せ」と。

《その四》

ユルールら一行は蘭州へ途上を金国の盗賊に襲われるが必死の反撃でこれを退ける。その際、シュトヘルは自らの髪を切断しショートカットになってしまう。 ヴェロニカは大ハーンに台頭著しいハラバルを殺すように進言する。しかし、ハラバルを殺せば非モンゴル部族は疑念を抱くことにもなると考える。

ハラバルは番大学院の壁面に床弩の矢を打ち並べ、それをよじ登って侵入する。内部では書記官の死骸がころがり大学長のグリシャンが一人書きものをしていた。 実はグリシャンは玉花(イファ)の父親だった。彼は「昔、西夏はモンゴルだった。君らツォグ族の扱う床弩は元来中国の兵器だ。どこでその知識を得たのか?」と尋ねる。それは玉花(イファ)が嫁ぐとき持ちだした書物から得たものらしい。こうしてグリシャンは西夏滅亡が近いことを悟り、ボルドゥに玉花(イファ)と玉音同を託したのである。 グリシャンとハラバルは屋上に登ると闘いを始める。グリシャンの武はハラバルを押していくが老いが彼を敗北へと導く。 ハラバルは死にゆくグリシャンに「俺の母は西夏人。名は玉花」と伝えるのであった。

ユルールら一行は金国の部隊に捕まり、囚われの身となってしまう。殺されずにすんだのはシュトヘル(須藤)の気転で「ユルールはモンゴルの将軍の子で玉音同がその証拠。身代金を取ればよい」と交渉したためである。 部隊の中にはイバハという若者がおりシュトヘル(須藤)に惹かれていく。 途中、金国の部隊はモンゴル駐屯兵団を見つけるとこれを急襲し、たちまち駆逐してしまう。ユルールらは捕縛されていたがそこをモンゴル敗残兵が現れ、切りかかってくる。その瞬間、シュトヘルが復活しモンゴル兵を噛み殺してしまうが、すぐに須藤に戻ってしまう。   ハラバルがツォグ族陣営に戻るとツォグ族はヴェロニカ率いる謎の軍隊に襲われ全滅していた。 ヴェロニカは右腕を落とされた族長に「あなたの皇子ユルールがいけないのですよ」と告げ、カバンから手術具を取り出す。ヴェロニカは興慶へ入り族長を塔の上に縛り付ける。族長は狂乱し「ユルール!」と叫ぶ(族長は左腕と両足も落とされたらしい)。 ハラバルが興慶に来るとヴェロニカはねぎらいの言葉を伝え、心のなかで「あの方の傷を問う者もいなくなる。私のプレスビュテル・ヨハネス」と呟く。 ヴェロニカはハラバルに「族長がユルールを偽の皇子を立てようと企てていた。そして玉音同をユルールが盗み出した。贖罪しなさい」と話す。 ハラバルは床弩で族長を射るとユルールを探し出し玉音同を奪い返すべく去って行く。

場所はヨーロッパのとある国。修道女ヴェロニカは医師として住民に慕われていたが、異教徒とも親しくしていたことから奇異の目で見られていた。彼女はシャキラというジプシーの女から薬草の煎じ方を教わってたのだ。 神父らはヴェロニカを監禁したが脱出し、ここが襲撃されるから逃げるようにとシャキラに告げる。 ヴェロニカは修道院に連れ戻され焼印を押されてしまうが、神父を殺害し逃亡する。途中、シャキラの焼死体を見かけるとキスをして去って行ったのである。 大ハーンに自分の過去を話した裸のヴェロニカ。彼女は大ハーンにキリスト教の大王プレスビュテル・ヨハネス(プレスター・ジョン)のイメージを重ね合わせおり、西の国への進撃を夢見ていたのだ。そして、大ハーンの背中には西夏文字の焼印が押されていたのである。

《その五》

シュトヘル(須藤)はモンゴル兵を噛み殺したことで金国兵に警戒されていたところ、隊長が切りかかってくる。ユルールはイバハの刀を奪い隊長を殺害する。その際、顔面に傷を追ってしまう。イバハはシュトヘル(須藤)らに味方することになる。 その時モンゴル軍の正規部隊が襲来、シュトヘル(須藤)を残してその場から逃亡する。遂にシュトヘル(須藤)に悪霊が降臨し敵をたちまち殲滅する。 シュトヘル(須藤)と離れ離れになったユルールらは成都に進む黄河の橋をモンゴル兵に遮断され困っている。そしてイバハもユルールらから去って行く。

一方、シュトヘルが暴れたモンゴル駐屯地にヴェロニカ率いるモンゴル兵団が現れる。ヴェロニカが一人町中を散策していると賊に襲われる。そこを救ったのがシュトヘル(須藤)だ。 食堂で二人は食事をするが、そこを再び襲撃されてしまう。しかしシュトヘル(須藤)はたちまちこれを撃退。もはやシュトヘル(悪霊)が宿ったままの戦闘能力を示すのであった。 そしてヴェロニカを介抱した洞窟には狼の群れも一緒である。二人は親密な仲になり再び街へと戻っていいく。 街に火の手が上がりモンゴル兵とシュトヘルの死闘が展開する。モンゴル兵は全滅し、ヴェロニカにもシュトヘルが襲いかかるが寸前で自ら制止する。ヴェロニカはハラバルに使いを送るのであった。

モンゴルは対金国戦争を開始する準備を進めており生き残った西夏人はこの戦争に参加することで生きながらえることになる。 ユルールとボルドゥは氷結した黄河を渡るが、モンゴル兵に追撃を受けてしまう。絶体絶命の中、シュトヘルが駆けつけモンゴル兵を撃退。三人は再会を喜ぶのであった。

ハラバルのもとに「金国蘭州に探しものあり」との報せが届く。急行するハラバル。 ユルールら三人は金国蘭州の宿に泊まる。そこにイバハが訪れ話を始める。 「俺は金国将軍ジルグスに気に入られている。ジルグスは黄河渡河の騒ぎを知っており、西夏人が玉音同を運び出そうとしていると睨んでいる。危ない橋を渡って行くより、ジルグスに玉音同のことで相談してみてはどうかと」と話を持ちかけたのである。 ユルールらの宿はジルグスの諜報に見つかっため宿を変えることになる。

大ハーン陣営ではヴェロニカが傷の治療を行なっていた。彼は子供時代、仲間の命を救うため西夏人から「西夏奴隷」の焼印を受けていた。その焼き印故にかつての仲間も彼を疎んじるようになってしまった。「火を我がものとし征くために焼く」と宣言。ヴェロニカは涙を流し、「お供できること幸せに存じます」と答えるのであった。

《その六》

ハラバルは蘭州に向けて進撃する。 ユルールらは蘭州を出ることを決意するが、ジルグスの兵に囲まれ囚われの身となる。ジルグスは文化を理解し、幼少時代かつて金国の捕虜となっていた北宋皇帝欽宗に親しくしてもらっていたことがあった。その皇帝を用済みになったので殺害している。 イバハも捕らわれてしまうがシュトヘルが急襲し救出する。

ジルグスはユルールと玉音同について語らうがユルールの話は夢物語に過ぎないとし、決然としてユルールを殺害せんとする。その時シュトヘルが登場。闘いが始まるが悪霊は降臨せず敗れてしまうものの命は助かる。イバハは死んでしまう。 ジルグスは玉音同と人質を手に入れハラバルとの決戦に臨む。 進撃するハラバルのもとにヴェロニカの兵が現れる。モンゴルは自らの文字を開発し「伝綺の牌」に刻んで情報をやり取りするようになった。来年の春には金国の中都に進撃するのでそれまでに務めを果たし戻るべしと伝えるのであった。

ジルグス軍に対しハラバル軍は怒涛の攻撃を開始するが、太槍襖の陣に損害が続出する。それでも単騎ハラバルはユルールのもとへ駆けつけると待ち構えていたジルグスとの一騎打ちが始まる。ハラバルの猛攻にジルグスは手も足も出ず追い詰められるが最後はハラバルに抱きついて爆弾(てつはう?)を破裂させようとする…

《その七》

シュトヘルが登場、ハラバルを目指して突入する。 ジルグスの爆弾が破裂するその瞬間ハラバルの部下(重騎兵の隊長)が間に入る。ハラバルは命を救われるが、視力を失ってしまう。重症を負った部下は馬に乗せその場から逃す。 ユルールは重症を負ったジルグスと暫し語らった後、剣で彼の命を断った。 視力を失ったハラバルであったがユルールを見つけ出す。互を“仇”と呼ぶ二人にボルドゥは「ツォグ族を襲ったモンゴル兵にこそ罪がある」と説いた。 しかしハラバルは「西夏文字を救わんとしたお前の行為が我らの営みを破壊してしまった」とユルールを糾弾する。 その時シュトヘルが現れる。視力を回復しつつあるハラバルとシュトヘルは凄まじい死闘を繰り広げる。 ユルールは「復讐が満足でたまるか」と叫ぶと両者の間に割って入る。これにより両者は共に傷つきその場に倒れてしまう。 ユルールは漸くハラバルの真意を知る。玉音同とユルールの首を手に入れれば大ハーンに目通りが叶う。その時、大ハーンを殺害しツォグ族の復讐を遂げるのだということを。 喉に深手を負ったハラバルは馬に乗りその場を去って行く。ユルールは傷ついたシュトヘルを抱き起こし「お帰り」と呟くのであった。 傷を負った重騎兵隊長ら一行は騎行の途上、大ハーンの王子ナランと出会う。王子はメルミという名の少女を連れていた。

一方、金国領。大ハーンの移動式大型ゲルに於いてヴェロニカらは誕生したばかりのモンゴル文字で法令の作成を行なっていた。そこへ王子ナランが訪れる。 ヴェロニカは王子に戻ってこないハラバルを謀反人であると告げるが、そこへ重騎兵隊長が戻ってくる。彼は「ハラバルが生きておりいずれ戻ってくる筈」と伝えるが、ヴェロニカは討伐兵を送るように進言する。ヴェロニカは元ベクテル兵がハラバルに心酔していることを危険視していたのである。 やがてナランとヴェロニカが出会う。末の王子トルイとナランは双子であった。 ナランはトルイに会いしばしの会話の後、別れを告げる。

こうしてナランはシュトヘルの顔を知っているヴェロニカを同行させ、ユルールの追跡に出発するのだった。ナランはユルール一行が南宋の成都に向かっていると読んでいた。 旅の途中、ナランらは刺客に包囲される。モンゴルは、末子相続が習いであり、トルイは常に命を狙われていた。しかし、少女メルミは超能力を発揮、騎馬を転倒させ、ナランは弓で石礫を射て刺客を撃退する。 もしユルールが自分たちの弟ならば、ユルールを隠匿・保護し、将来トルイの味方にすることが…ナランの目的はユルールだった。


注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。


登場人物 [編集]

シュトヘル
燃え上がるような赤髪を持つ西夏人の女戦士。仲間の屈漢に「ウィソ(すずめ)」と呼ばれる(曰く、「弱いくせに元気だから」)。西夏国の霊州守備隊に所属する一兵士だったが、モンゴル旗下のツォグ族に攻められて霊州は壊滅し、彼女が只一人生き残る。
元々は守備隊の中でも劣等生だったが、城壁に磔にされた仲間達の亡骸を狼から守って戦う内に、超人的な技量を手に入れ、不思議な言葉を操る狼との死闘を経てモンゴル兵のみを狙う凶賊となる。
仲間の仇である「虎の男」を見つけ出す事のみに執着し、ユルールのことも当初は「虎の男」(=ハラバル)を呼び寄せる餌としか見ていなかったが、ユルールに西夏の文字を習った事で別の意識に目覚める。それを不服としたアルファルドに毒を盛られたユルールを救うため、アルファルドを追って敵地へ潜入、解毒薬を手に入れたが、直後にユルールを追っていたハラバルと戦い敗北。囚われた後、処刑された。
絞首刑にされる際にユルールの射た矢によって縄に切れ目が入り、仮死状態だったその身に須藤の意識が宿った。普段は「須藤」(ユルールらからはスドーと呼ばれる)で、モンゴル人を見かけると「シュトヘル」[1]に戻ってしまうと言う二重人格のような状況におかれているが、最近ではシュトヘルの影響力がどんどん強くなってきていると須藤は感じている。
当初は人を刺す事をためらうなど、戦闘慣れしていなかったが旅を続けるうちに慣れたようで最近では須藤のままでもかなり戦えるようになっている。
須藤(すどう)
現代日本に生きる男子高校生。楽器職人の両親は蒸発し、学校も休みがちだが、その理由は「自分が知らない戦場にいる夢をみる」ため。気晴らしに出たカラオケに出席していた転校生・スズキに出会い、彼女の導きで意識が過去に存在したシュトヘルの肉体に跳び、「シュトヘルの記憶」を得る。
しかし、彼の意識が一旦現代に戻って来た際には歴史が変わっており、スズキが消えてしまった事から、自ら過去に跳び、シュトヘルとしてユルールを守る事を決意する。
現代人ゆえに「人を殺す事」にためらいがあるが、戦闘状態に入ると身の内に宿る「シュトヘルの経験」と同時に「モンゴルへの憎しみ」を感じ取り困惑している。ユルールからは「シュトヘルとは別人」と判断されてしまうが、彼を守る為にハッタリも交えて力を尽くす(ただし、嘘はかなり下手)。
「シュトヘル」は元々美人だったが、須藤が宿った事で(須藤本人は男なのに)その器量の良さが表に出始めている。
ユルール
ツォグ族の少年。表向きは族長の次男とされているが、かつてツォグがモンゴルに敗れた時に大ハンに奪われた族長の妻が、一年後に戻ってから産んだ子である(実母は出産の後に自殺)。
そのため西夏国から輿入れしたハラバルの母・玉花(イファ)に育てられ、西夏文字を学ぶ。一族が重視する武芸や馬術に興味が持てず(それでも並以上の才はある)、音楽や読書といったものに惹かれる気質のため、一族内の者には失望されているが、族長[2]は大ハンの息子である彼を「ツォグ復権の切り札」と見ており、黙認している。ユルールという名前も「(一族に与えられた)祝福」という意味である。
西夏と言う国の文化全てを消し去らんとするかのような大ハンの行いに危機感を抱き、せめて文字だけでも後世に遺そうと一族を裏切る覚悟を決めるが、その決意をボルドゥに見込まれたことで、西夏国の秘宝「玉音同」(玉を彫って作った西夏の文字盤)の担い手として選ばれることになる。
スズキ
須藤が休んでいる間に編入してきた転校生の少女。ユルールによく似た面立ちを持つ。帰国子女で、日本に帰ってから須藤と同様に「過去の夢」をみるようになり、シュトヘルの面影のある須藤に近づいてきた。彼女の導きで須藤はシュトヘルの記憶を得るが、現代に戻った事で歴史が変わり、西夏の記録と共に消えてしまう。
ボルドゥ
ツォグ族に仕える下男。ハラバルの母・玉花の従者として付いてきた西夏人。一見好々爺だが、実は西夏の番大学院の高官で、秘宝「玉音同」を、かつて敵であったツォグ族の内部で秘匿するという任務を帯びていた。事実かどうかは定かではないが、西夏にいた頃使っていた本名はもう忘れた、と発言している。文字を守るために一族を捨てる決意をしたユルールを見込み、「玉音同」を彼に託して成都への旅に同行する。針麻酔の達人。

モンゴル軍 [編集]

ハラバル
ツォグ族の族長の息子で(表向きは)ユルールの異母兄。「神箭手(メルゲン)」と呼ばれ、複数の矢を一度に射て城壁上にいる相手に百発百中させるほどの弓の名手。一兵士だった頃のシュトヘルが守っていた城を攻め落とし、彼女の仲間達を惨殺した上、城外に晒した。
一族再興のために、母の生国である西夏を滅ぼす先遣隊としての任を負った。かつて大ハンに逆らい、没落の憂き目を見たツォグ族をその武勇によって立て直した功労者だが、それゆえに「大義と言う病に酔い、目の前の命を顧みない指導者(これは彼の父もあてはまる)」というものを嫌悪している。
ユルールとは血が繋がっていないものの、兄として深い愛情を注いでいたが、弟の文字への傾倒には、その過酷な生い立ち故か全く共感を示さなかった。
その武功で一族の地位を飛躍的に向上させてきたが、皮肉にもその目立った活躍がヴェロニカに大ハンへの脅威とみなされ、玉音同を持って出奔したユルールの行動やその出自をモンゴル族への裏切り行為とされて、ハラバル以外の一族全てを殲滅させられてしまう。
一族の汚名を雪ぐため、逃亡しているユルールから玉音同を取り戻す事と、弟の処刑も行なうよう、ヴェロニカを通じて大ハンより命じられた。
大ハン
モンゴルの指導者で、おそらくはチンギス・ハン。4巻巻末の作品関連地図に書いてあるように、モンゴル高原に割拠する部族をまとめ上げて一つの勢力に統一した人物。その過程でツォグ族も支配下に組み入れられたものと思われる。
ユルールと同じ「目」の持ち主で、ツォグの族長は、それ故にユルールの真の父親は大ハンであると確信していた。
金の文字でもなく宋の文字でもなく西夏の文字を憎み、この世から消し去ろうとしている。背中に西夏文字の焼印があり、それを見た者は全員殺している[3]が、西夏文字がこの世から無くなり意味を知る者がいなくなれば殺さずに済む、と発言している。焼印から出血することがあり、その手当て役であるヴェロニカは(自分と同じく背に焼印を負っているということもあって)生かしている。
ユルールらが金国に逃げ込んだ事を知った後は、玉音同(西夏文字)を消し去るために金国を飲み込む事も辞さない姿勢を見せている。
ヴェロニカ
大ハンに仕えるヨーロッパ系(金髪碧眼)の美女。興慶を攻略したハラバルに大ハンの命を伝える。
元々は敬虔な心を持ち神に仕える修道女だったが、先入観を持たない無垢さゆえに異教徒(ジプシー)とも分け隔てなく付き合ったため、「魔女」の疑いを掛けられ監禁される。村人達が異教徒を殺そうとしていることを知ると、雪の中を無理して知らせに走ったが、結局異教徒達は村人に虐殺され、自身は嫉妬と誤解に狂った司教に「悪魔祓い」と称して強姦され背中に異端者の焼印を押されたが、その焼印を司教の顔に押し付けて逃走した。
大ハンの夜伽の相手をしたり、大ハンの密命により軍勢を伴って行動する。大ハンを「プレスビュテル・ヨハネス」と呼び、自分と何の罪もない異教徒達を迫害した故郷を焼き尽くす事を望んでいる。
異教徒達から得た医療の知識や技術を、修道女だった頃は村人達やその家畜のために使っていたが、大ハンに仕えるようになってからは、大ハンの背の治療や両腕両足を切り落としたツォグの族長の延命処置に利用している。
“悪霊”復活の噂を聞きつけやって来た村で、そうとは知らずにシュトヘル(スドー)と出会い、「不思議な人」と評する。数日後に同じ村でシュトヘルに遭遇したが、すんでのところでスドーが表に出たため事なきを得る。

その他の人物 [編集]

アルファルド
ユルールとボルドゥが成都への案内として雇った、色黒のアラブ系商人。単独で行動し危険な仕事にばかり手を出す「ひとり星」の異名を持つ。慇懃な物腰とは裏腹に厭世的、かつ虚無的な性格の持ち主。かつて故郷を十字軍の侵攻によって失った過去があり、信仰や正義と言った「物差し」に囚われて生き死にを決めることは馬鹿馬鹿しい、という信条を持っている。
憎しみだけを糧に戦い続けるシュトヘルに魅了され、シュトヘルが捜している「虎の男」をユルールが知っていることに気づくと、「『虎の男』を呼び寄せる為の餌」として2人を引き合わせるが、シュトヘルがユルールに感化されて人間の心を取り戻し始めた事が許せず、自決用に携えていた毒刀でユルールを傷付けて逃走。解毒薬を求めて追って来たシュトヘルに矢の盾にされた上、ハラバルの放った矢に首を貫かれて死亡した。
グルシャン(吉祥山)
興慶にある西夏の大図書館「番大学院」の院長。学院が焼け落ちる日まで職務を滞らせる事無く終わらせ、最後にハラバルと対決して死亡。ハラバルをして「貴様は殺したくない西夏人だった」と言わしめるほどの気骨と武力を持つ人物だった。
ハラバルの母・玉花の父、つまりハラバルの祖父であった。ハラバルに彼とその母親の名前を尋ねたことで発覚したが、ハラバルはそのことに気づかなかった。
イバハ(亦巴哈)
金国軍人。「悪霊」を騙る隊長の元で上手く立ち回って出世のおこぼれにあずかり生きのびようとしていたが、ユルール達と出会いシュトヘル(スドー)に、本物の「悪霊」とは知らずに惹かれる。
最終的に隊長を裏切ってシュトヘル(スドー)側につき、逃亡の手助けをした後行動を共にするが、その時ユルールを逃がすため村に残ったシュトヘルを半年以上見つけられず、一旦別れる事となった。
その後は蘭州駐屯の金軍部隊に入隊していたが、近くの安宿に滞在していたユルール達を捜し当てた。かつて盗賊仲間だったアルンゲに訓練中に殺されそうになったことをきっかけに、ジルグスと話す機会を持ち、その際の会話から、ユルール達が持っている玉の板が「玉音同」であると察知、ジルグスもその存在を知っているという情報をユルール達にもたらしたが、その直後ユルール達は急に宿を移し、彼は置いていかれた形となった。
ちなみにシュトヘル(スドー)の中身が男だとは知らないようである。
シャキラ
ヴェロニカの住んでいた村の近くにキャンプを張っていたジプシーの女性で同性愛者。ヴェロニカを気に入り、自分達の薬草術や医術を教えた[4]。教会と村人の鬱憤が溜まっているのを知って次の土地へ発とうとしていた仲間達を尻目に、ヴェロニカの為に残ろうとしていた。その為なら洗礼を受けるつもりだったが、それが司教の誤解と嫉妬を招く結果となる。
村人達の襲撃を知らせる為に監禁場所から抜け出し凍死しかけていたヴェロニカを救うが、村人に捕らえられて火あぶりとなる。彼女自身死ぬのは覚悟の上だったようだが、その死がヴェロニカの現在を決定付けた。
ジルグス(只魯古素)
金国の将軍。家柄が良く、幾多の功績もあるが、政治闘争に負けて辺境の蘭州方面軍の長を務めている。幼い頃に玉音同の話を聞いたことがあり、玉音同をモンゴルに対する政治的な取引材料にしようと考えている。
老齢ながら筋骨隆々な体格で、その腕力を畑仕事に用いるという意外な一面がある。普段は器の大きさも垣間見せる豪放磊落な武人だが、軍事鍛錬中にアルンゲがイバハを殺そうとしたことに気づいていたり、そのアルンゲから聞いた話によりイバハを見張らせて玉音同のありかを探る手立てにするなど、観察力の鋭さや政治の中枢にいた頃の手腕も未だ健在のようである。

[編集]

  1. ^ ただし、ユルールに会う前の(モンゴル兵を殺す事のみを目的とした)シュトヘルであり、須藤はその事を憂慮している。
  2. ^ 正式な名前はないが、巻末のおまけマンガでは、「ハラバルのパパ」=「ハラパパ」という身も蓋もないあだ名で呼ばれている。
  3. ^ 西夏で盗みを働いて捕まった時に、仲間達の命を助けるためこの焼印を受けたが、そんな彼を見限る旨の言動を取った仲間達を己の手で殺害した、という過去を持つ。焼印の意味は「西夏の奴隷」である。
  4. ^ この時代のキリスト教はヨーロッパ古来の「迷信」が入り込み、その為科学・医療技術が著しく後退していた。

関連項目 [編集]

  • 西夏文字 - 西夏王朝(1032年~1227年)初代皇帝李元昊の時代に制定された文字。長らく未解読であったが、日本の西田龍雄によってほぼ解読がなされた。

単行本 [編集]

小学館ビッグスピリッツコミックススペシャルより刊行中。おまけ作品として各巻内で死亡したキャラがあの世の居酒屋で会話する内容の四コマ漫画が描かれている。

  1. 2009年4月4日 ISBN 9784091825292
  2. 2009年11月4日 ISBN 9784091827999
  3. 2010年8月4日 ISBN 9784091834201
  4. 2011年5月3日 ISBN 9784091838667
  5. 2011年10月28日 ISBN 9784091842121
  6. 2012年5月30日 ISBN 9784091845504