交響曲第95番 (ハイドン)

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交響曲第95番 ハ短調 Hob. I:95 は、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが作曲した交響曲で、イギリス訪問時のロンドンで作曲された、いわゆる『ロンドン交響曲』のうちの1曲である。

概要[編集]

本作は、1791年に第1回ロンドン旅行の折りのために作曲されたもので、『ロンドン交響曲』の中では唯一の短調作品であり、また唯一、開始楽章が緩やかな序奏なしに開始する。

『ロンドン交響曲』の中で比較的目立たない作品でありながら、メヌエット楽章のトリオ(中間部)にチェロの独奏パートが置かれているなど、細部にハイドンの創意が仕込まれた作品となっている。

楽器編成[編集]

編成表
木管 金管
フルート 1 ホルン 2 ティンパニ 第1ヴァイオリン
オーボエ 2 トランペット 2 第2ヴァイオリン
クラリネット ヴィオラ
ファゴット 2 チェロ
コントラバス

構成[編集]

  • 第1楽章 アレグロモデラート
    ハ短調、2分の2拍子アラ・ブレーヴェ)、ソナタ形式
    
\version "2.18.2"
\relative c'' {
  \key c \minor
  \time 2/2
  \tempo "Allegro moderato "
  \tempo 4 = 130
  c'2\ff g4-. aes-.
  fis-. g-. r2
  r2 r8. g,,16^\markup {\italic dolce} \p c8. es16
  es4 (d c8-.) [r16 c (es8. g16)] \break
  g4 (f ees8-.) [r16 es (g8. c16)]
  c2 b8-. c-. d-. es-.
  f4 r d8-. es-. f-. g-.
  aes4 aes2 g4
  \grace g8 (f4) ees2 d4
}
    序奏のないソナタ形式である。第1主題の冒頭にある特徴的な5音の動機は、楽章全体を通じて繰り返し使用される。
    再現部は提示部との差が大きく、第1主題の再現が前半と後半に分かれて行われるほか、第2主題の再現の2回目にはヴァイオリン独奏の伴奏が登場し、後の楽章におけるチェロ独奏の活躍を暗示させる。
    なお、この曲では展開部・再現部の繰り返しは行われない(この頃のソナタ形式では、提示部を繰り返して演奏するのに加え、展開部・再現部も繰り返して演奏することが多かった)。
  • 第2楽章 アンダンテカンタービレ
    変ホ長調、8分の6拍子、変奏曲形式。
    
\version "2.18.2"
\relative c'' {
  \key es \major
  \time 6/8
  \tempo "Andante cantabile "
  \tempo 4 = 50
  \partial 8 bes8
  (es-.) [es-.] \grace f32 (es16) (d32 es) f8 (d bes)
  \acciaccatura { c16 d } (es8) (c a) bes4 (b8)
  c (aes!? f) \acciaccatura { g16 aes } (bes4) (g8)
  \acciaccatura { f16 g } (aes8) f d es-. r \bar ":|."
}
    主題と3つの変奏、コーダから成る。主題は前半・後半共に繰り返して提示される。
    第1変奏は、チェロの独奏とヴァイオリンが対話するように進行する。第2変奏は短調に転じ、自由な展開を見せる。第3変奏では原型に戻るが、細かい弦楽器の動きが装飾する。
    コーダでは主題の旋律を原型どおりに、和声だけを変えて再現した後、次楽章の主題を予感させるような動機で締めくくる。
  • 第3楽章 メヌエット - トリオ
    ハ短調 - ハ長調、4分の3拍子、複合三部形式
    
\version "2.18.2"
\relative c'' {
  \key c \minor
  \time 3/4
  \tempo "Menuet "
  \tempo 4 = 132
  \partial 4 g4-.\p
  g-. r c-.
  c-. r es
  \grace es8 (d4) d8 (c) d (b)
  c4 r g'\f
  c \grace d8 (c) b c4
  aes (f d)
  b g'8 aes g f
  es4 c
}
    
\version "2.18.2"
\relative c'' {
  \key c \major
  \time 3/4
  \tempo "Trio "
  \tempo 4 = 132
  \clef "bass" \partial 4 c,8\p (b)
  c-. g-. e-. c-. f-. a-.
  g (e c g) e-. g'-.
  f,-. a'-. g (b d f)
  e (c b c) e-. fis-.
  g (fis g) g,,-. e''-. fis-.
  g (fis g) g,,-. g''-. b,-.
  a (e' d c b a)
  g4 g, \bar ":|."
}
    メヌエット主部の後半で丸2小節分の休符を挟んでいるのが特徴的である。一方、ハ長調のトリオではチェロの独奏が全面にわたって活躍する。
  • 第4楽章 フィナーレヴィヴァーチェ
    ハ長調、2分の2拍子(アラ・ブレーヴェ)、自由なソナタ形式
    
\version "2.18.2"
\relative c'' {
  \key c \major
  \time 2/2
  \tempo "Finale "
  \tempo 4 = 280
  e2.^\markup {\bold Vivace} \p (f8 e)
  d2 (g)
  c,4 (e f a)
  a2 (g)
  f4-. f-. \acciaccatura { g16 f e } f4-. r
  e-. e-. \acciaccatura { f16 e d } e4-. r
  d d \grace c8 (b4) a8 g
  c4 r r2 \bar ":|."
}
    第1主題部では主題が前半・後半共に繰り返して提示される。経過部では第1主題に基づきながら、フーガが展開され、自由な経過句が現れたりして比較的自由な展開を見せる。この経過句は第2主題としての要素は薄く、この楽章はどちらかというと単一主題的である。再びフーガが現れ、短い展開部に入る。再現部はほぼ忠実ではあるが、主題の繰り返しは行われない。それからコーダに入り、主題が様々な展開を見せて全曲を閉じる。

外部リンク[編集]