テスカトリポカ (小説)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
テスカトリポカ
著者 佐藤究
イラスト 装丁:川名潤
発行日 2021年2月19日(金)
発行元 株式会社KADOKAWA
ジャンル 長編小説
犯罪小説
ノワール小説
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 四六判変形上製
ページ数 560
受賞 第34回山本周五郎賞
第165回直木賞
公式サイト [1]
コード ISBN 978-4-04-109698-7
ウィキポータル 文学
[ ウィキデータ項目を編集 ]
テンプレートを表示

『テスカトリポカ』は、佐藤究長編小説である。『QJKJQ』、『Ank: a mirroring ape』に次ぐ、佐藤究の鏡三部作の完結篇[1]

本作は古代アステカ文明の要素を絡めつつ、メキシコの麻薬カルテル、臓器ビジネスなど「血の資本主義」を主題に据える犯罪小説である。「I部:顔と心臓 イン・イシトリ、イン・ヨリョトル」、「II部:麻薬密売人と医師 ナルコ・イ・メディコ」、「III部:断頭台 エル・パティブロ」、「IV部:夜と風 ヨワリ・エエカトル/暦にない日」の全4部で構成されている。違法薬物取引ネグレクト臓器売買無戸籍児童問題、など数多の社会問題を取り上げている。

初出は2020年12月の「カドブンノベル」にて、第一部が限定公開され、その後単行本として2021年2月19日KADOKAWAより刊行された。2021年7月26日時点で10万5千部発行されている[2]第34回山本周五郎賞[3]第165回直木三十五賞を受賞した[4]。またこのミステリーがすごい!2022版 2位週刊文春ミステリーベスト10 2位ミステリが読みたい!2022年版 2位 など、各種年末ミステリランキングにても高く評価された[5]

ストーリー[編集]

川崎にて、メキシコ出身のルシア・セプルべダと暴力団幹部の土方興三の間に生まれた少年土方コシモは、両親のネグレクトに遭い、小学校に入学することもできずに、幼少期を孤独に過ごす。口にするものは自分で茹でた鶏肉に塩をかけたものばかりで、摂取できる栄養は偏っていたが、コシモの肉体はやがて強靭に育ち始める。12歳になる頃には身長は180cmを超えていたのだった——。  
一方で、メキシコでは「ロス・カサソラス」という麻薬カルテルが対抗組織「ドゴ・カルテル」によって攻撃を受けていた。ロス・カサソラスを構成するする四人兄弟のうちの三人は殺害されたが、そのうちの一人バルミロは追手を逃れ、長い旅路を経てインドネシアに上陸する。自らをペルー人と偽りながら生活を続けていたバルミロは、あるとき「タナカ」を名乗る日本人と出会う。「タナカ」との関係を続けるうちに、バルミロは彼の正体を知り、また彼との心臓密売ビジネスを企てる。そのビジネスの本拠地を日本に据えたバルミロは、川崎へと渡る。自動車解体場を拠点とし、ならず者たちの仲間と<家族(ファミリア)>を結成し、「血の資本主義」を体現していく。

登場人物[編集]

ルシア・セプルべダ
麻薬カルテルによって兄を惨殺される。メキシコを南下し、ペルーを経て、日本へと渡り、クラブで働き始める。土方興三と出会い、結婚、やがて子を授かり、コシモと名付ける。
土方興三
暴力団の幹部。葉巻バーでルシアと出会い、関係を続けるうちに結婚する。コシモの父。「酒の入った状態で補助なしのベンチプレスで百五十キロを上げ」たという逸話があるほどの怪力の持ち主。
土方小霜(土方コシモ)
ルシアと興三の子。公的教育を受けないまま育つ。家庭環境が荒んでいる中、自分で茹でた鶏肉に塩を塗したものばかりを食べていたが、体は強靭に育つ。本作の中心人物の一人。
ベルナルド・カサソラ
カサソラ兄弟の長男。<ピラミッド(エル・ピラミデ)>の名を持つ。ロス・カサソラスの一人。
ジョバニ・カサソラ
カサソラ兄弟の次男。<ジャガー(エル・ハグワル)>の名を持つ。ロス・カサソラスの一人。
バルミロ・カサソラ
カサソラ兄弟の三男。<粉(エル・ポルポ)>の名を持つ。ロス・カサソラスの一人。カサソラ兄弟の中でも飛び抜けて凶悪。ドゴ・カルテルの攻撃を振り切り、国を脱する。インドネシアに上陸し、末永充嗣出会う。本作の中心人物の一人。
ドゥイリオ・カサソラ
カサソラ兄弟の四男。<指(エル・ドレド)>の名を持つ。ロス・カサソラスの一人。
リベルタ・カサソラ
カサソラ兄弟の祖母。ナワトル語の名は<鏡の雨(テスカキアウィトル)>。アステカの末裔であるインディヘナ(先住民族)である。
末永充嗣
轢き逃げ事故を起こし、臓器売買ブローカーとなった元心臓血管外科医。バルミロと心臓密売ビジネスを始める。
野村健二
川崎市を拠点にする闇医師(バックアレイ・ドクター)。麻薬密売人でもある。
宇野矢鈴
「らいときっず小山台」で働く保育士。NPO法人かがやくこどもで働き始める。
パブロ
本名は清勇・パブロ・ロブレド・座波。ペルー人を父にもつ沖縄出身のナイフ職人。

備考[編集]

  • 同じく麻薬戦争を描いたコーマック・マッカーシーの小説『ブラッド・メリディアン』に影響されたと語っている[6]
  • 当初は故郷の福岡を舞台にするつもりだったが、九州だとうまく話が展開せず、考えた末に川崎を舞台にした、と語っている[6]
  • 執筆中、好きなメタル・ミュージックをよく聴いていたという[7]

書誌情報[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 話題の『テスカトリポカ』。古代アステカの人身供犠と現代社会のダークサイドが浮彫にした人間の本質とは?”. 2021年12月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年9月4日閲覧。
  2. ^ 【重版出来!】直木賞・山本周五郎賞W受賞作『テスカトリポカ』著:佐藤究(KADOKAWA刊)がはやくも10万5千部突破!』(プレスリリース)株式会社KADOKAWA、2021年7月26日https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000008921.000007006.html2023年2月26日閲覧 
  3. ^ 第34回 山本周五郎賞 受賞作品”. 新潮社. 2023年2月26日閲覧。
  4. ^ 【速報】第165回直木賞に佐藤究さんの『テスカトリポカ』と澤田瞳子さんの『星落ちて、なお』が選ばれました。”. 本の話. 文藝春秋 (2021年7月14日). 2023年2月26日閲覧。
  5. ^ テスカトリポカ特設ページ”. カドブン. KADOKAWA. 2023年2月26日閲覧。
  6. ^ a b 佐藤究さん「テスカトリポカ」インタビュー 暗黒の資本主義と血塗られた古代文明が交錯する、魔術的クライムノベル”. 好書好日. 朝日新聞社 (2021年3月20日). 2023年2月26日閲覧。
  7. ^ “【ザ・インタビュー】資本主義の闇 アステカ神話に重ねて 佐藤究著『テスカトリポカ』”. 産経ニュース (産経デジタル). (2021年6月20日). https://www.sankei.com/article/20210620-MTHNUIYO2NKGXLCXZRKGZKNUSQ/ 2023年2月26日閲覧。