沖ノ鳥島

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沖ノ鳥島
沖ノ鳥島の航空写真(2007年6月12日)
所在地 東京都小笠原村
所在海域 太平洋フィリピン海
所属諸島 小笠原諸島
座標 北緯20度25分31.9768秒 東経136度4分52.1430秒 / 北緯20.425549111度 東経136.081150833度 / 20.425549111; 136.081150833座標: 北緯20度25分31.9768秒 東経136度4分52.1430秒 / 北緯20.425549111度 東経136.081150833度 / 20.425549111; 136.081150833[1][2]
面積 約5.78 km²
海岸線長 約11 km
最高標高 約1[3] m
最高峰 北小島
人口 0
プロジェクト 地形
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沖ノ鳥島(おきのとりしま)は、太平洋フィリピン海)上に位置する小笠原諸島に属する孤立島[4]サンゴ礁からなるであり、東京都小笠原村に属する[4]日本領土としてもっともに位置しており、日本最南端の島である[4]

概要

沖ノ鳥島の位置(上)と島の詳細(下)

東京都心部から1,740キロメートル、硫黄島から720キロメートル、フィリピン海プレートのほぼ中央、九州・パラオ海嶺上に位置する、太平洋の絶海に孤立して形成された南北約1.7キロメートル、東西約4.5キロメートル、周囲約11キロメートルほどの米粒形をしたサンゴ礁の島である。北回帰線の南に位置するため熱帯に属する。

干潮時には環礁の大部分が海面上に姿を現しているが、満潮時には礁池内の東小島(旧称・東露岩)と北小島(旧称・北露岩)を除いて海面下となる。

沖ノ鳥島は過去100年あたり1センチメートルという、地盤沈下が極めて小さいことでも知られ、地球温暖化に伴う海面の水位変化を調べるのに役立っている。1999年から2002年のGPS調査によると、沈降こそないものの、N70°W5.0センチメートル/年(1年間に進む距離が、真北から西へ70度回った方向に5センチメートル)で西北西に移動していることが確認されている[5]

島周辺は海面と海底の海水の温度差が年間を通じて20ほどあり、海洋温度差発電にふさわしい条件が揃っている。

なお、「沖ノ鳥島」として公式に記載されたのは1929年(昭和4年)のことであるが、沖ノ鳥島という名前自体の由来は不明である。

地理

北小島

東京都小笠原村沖ノ鳥島1番地。旧称は北露岩[6]北緯20度25分31秒 東経136度4分11秒 / 北緯20.42528度 東経136.06972度 / 20.42528; 136.06972 (北小島)[7]に位置する。面積7.86平方メートル。海抜は第二次世界大戦以前の海図では2.8メートルと記載されていたが、2008年3月時点で約1メートル[3]。高潮(満潮)時も約16センチメートルが海面上に現れる[8]。三等三角点「北小島」が設置されている[9]

東小島

東京都小笠原村沖ノ鳥島2番地。旧称は東露岩。北緯20度25分32秒 東経136度4分52秒 / 北緯20.42556度 東経136.08111度 / 20.42556; 136.08111 (東小島)[2]に位置する。面積1.58平方メートル。海抜は第二次世界大戦以前の海図では1.4メートルと記載されていたが、2008年3月時点で約0.9メートル[3]。高潮(満潮)時も約6センチメートルが海面上に現れる[8]。一等三角点「沖ノ鳥島」が設置されている[10]

建造物

消波ブロックとコンクリートの護岸(2010年6月18日)
観測施設(作業架台)で、金属、塗装、コンクリートなどの耐久性を試験している様子(2010年6月撮影)

日本は1988年から北小島および東小島に鉄製消波ブロックの設置とコンクリート護岸工事を施し、東小島にはチタン製防護ネットを被せて保護している[11](詳細は#浸食防止策を参照)。

第二次世界大戦前の1940年(昭和15年)7月中旬、大日本帝国海軍は北露岩に無人灯台建設を計画した[12]。その後、中断していた旧灯台基盤跡に、人工島の観測所基盤が、海面上に大規模な観測施設(作業架台:60メートル×80メートル)が建築されており[5]、無人の気象・海象観測が行われている(海洋研究開発機構)。

その他、船舶が沖ノ鳥島に座礁することを防止するため、海上保安庁によって領海内に「沖ノ鳥島灯台」が設置されている。この無人灯台の灯火は海面上から26メートルの位置にあり、発光ダイオードの光を沖合い12海里まで届けるもので太陽電池によって稼働している[13]

東小島には一等三角点「沖ノ鳥島」、北小島には三等三角点「北小島」、観測所基盤には水準標石が設けられている[14]。また、2005年には電子基準点「沖ノ鳥島」が東小島に設置されている[15][16][17]

消失した露岩

第二次世界大戦の前の1933年の調査記録では、海抜最大2.8メートルの北露岩、1.4メートルの東露岩、さらに北露岩の南側に海抜2.25メートルの「南露岩」があり、それ以外に60 - 90センチメートルの露岩があり、合計6つの露岩が満潮時にも姿を現していたことが記されている。[独自研究?]

これらのうち、南露岩は1938年に消失が確認された。1968年に日本へ施政権が返還されたあとの1982年以前は露岩の数は4つとされていたため、1987年までに、現在の北小島、東小島を除いたものは風化海食により消え失せたと見られている。

歴史

沿革

  • 1543年 - スペイン船が発見、アブレオホス(スペイン語: Abre Ojos)と命名される(異説あり)。
  • 1565年 - スペイン船が発見、パレセベラ(スペイン語: Parece Vela)と命名される。
  • 1639年 - オランダ船が発見、エンヘルスドローフテ(オランダ語: Engelsdroogte)と命名される。
  • 1789年 - イギリスウィリアム・ダグラスが発見、ダグラス礁(英語: Douglas Reef)と命名される。
  • 1922年(大正11年) - 日本の海防艦満洲」が測量を行う。
  • 1929年(昭和4年) - 水路部発行の海図第800号に「沖ノ鳥島」の名称で記載される。
  • 1931年(昭和6年)7月6日 - 内務省告示第163号により「沖ノ鳥島」と命名され、東京府小笠原支庁に編入される[18]
  • 1939年(昭和14年) - 島に気象観測所や灯台を建設しようと調査・工事が始まる。しかし、太平洋戦争大東亜戦争)に突入し、戦局が悪化すると工事は中断。2014年現在はサンゴ礁を爆破した水路跡と灯台の基礎を改築した観測所基盤が残っている。この灯台の基礎工事を発見した米艦艇が砲撃を加えたという記録もある。
  • 1943年(昭和18年)7月1日 - 東京都制施行、東京府廃止。
  • 1952年(昭和27年)4月28日 - サンフランシスコ講和条約第3条により、小笠原諸島と共にアメリカ合衆国施政権下に置かれる。
  • 1968年(昭和43年)6月26日 - 小笠原返還協定に基づき、小笠原諸島とともに日本に返還される。
  • 1976年(昭和51年) - 日本アマチュア無線連盟創立50年を記念して、5月30日から6月2日まで、アマチュア無線アマチュア局移動運用(沖ノ鳥島DXペディション)を行う。コールサインは7J1RL(セパレートDXCCエンティティとして認められていたが、別のハムたちからの異議申し立てにより、1980年11月30日付で「消滅エンティティ」となり、以降は小笠原諸島/JD1の一部)[19]
  • 1977年(昭和52年)7月1日 - 領海法、漁業水域に関する暫定措置法により、領海12海里、漁業水域200海里を設置。
  • 1987年(昭和62年)10月14日 - 東京都により海岸保全区域に指定。
  • 1987年(昭和62年)11月1日 - 建設省(現・国土交通省)による直轄工事を開始。波の侵食による島の消失を防ぐため、2つの島の周りに護岸工事を行う[20][21]
  • 1999年(平成11年)6月23日 - 建設省による直轄管理区域に指定。維持管理については京浜河川事務所が所管。
  • 2004年(平成16年)4月22日 - 日中間外交当局者協議で、中華人民共和国が沖ノ鳥島を「」だと主張。日本に無断で周辺の海洋調査を進める。
  • 2005年(平成17年)6月25日 - 国土地理院が、電子基準点「沖ノ鳥島」を設置[15]
  • 2007年(平成19年)3月16日 - 海上保安庁が、「沖ノ鳥島灯台」を設置して運用開始[13]
  • 2010年(平成22年)6月24日 - 沖ノ鳥島などの離島の保全を目的とした低潮線保全・拠点施設整備法(沖ノ鳥島保全法)を施行。指定区域内の海底の掘削は国土交通大臣の許可が必要とし、違反した場合の罰則規定が設けられた[22]
  • 2011年(平成23年)6月1日 - 低潮線保全区域を設定。
  • 2012年(平成24年)4月28日 - 大陸棚限界委員会が日本国最南端の沖ノ鳥島の北方など太平洋の4海域約31万平方キロメートルを日本の大陸棚として新たに認める勧告を採択。ただし、沖ノ鳥島南方の九州・パラオ海嶺南部海域の大陸棚拡張については判断を先送りした[23][24]
  • 2014年(平成26年)3月30日 - 港湾整備事業により五洋建設が設置作業中の桟橋が転覆、作業員7人が死亡する事故が発生[25][26][27][28]。詳細は「沖ノ鳥島港湾工事事故」を参照。
  • 2015年(平成27年)5月1日 - 港湾工事を再開し、桟橋の据付を開始[29]

行政区分

日本では小笠原諸島の一部として東京都小笠原村に属し、住所は郵便番号「100-2100」、東京都小笠原村沖ノ鳥島 1番地(北小島)および、2番地(東小島)となっているが、無人島のため交通困難地の一覧には掲載されていない。1987年10月に東京都によって海岸保全区域に指定されたが、東京都だけでは保守費用を負担しきれないことから、1999年6月以降は、全額国費による直轄管理(所管は国土交通省)となっている。2011年6月、一部が低潮線保全区域に指定されている。

電話の市外局番は小笠原村の04998だが、現状では無人島であることから加入者は存在していない。

地位に関する論争

沖ノ鳥島が日本国の領土であり、その周囲に日本国の領海を持つことはどこの国からも異論が出ていない。ただし下記のように、沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域(Exclusive Economic Zone、略称:EEZ)の存在について、日本国と中華人民共和国(中国)、中華民国(台湾)および大韓民国(韓国)、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の間で主張が異なっている[30]

1994年11月16日に発効した、国際海洋法の基礎となっている海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)では、「島」と「岩」について以下のように定義されている。

第121条 第1項:島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。

第121条 第3項:人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。

日本国はこの第121条 1項の定義に従って沖ノ鳥島は「」であるとし、「海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約)発効に併せて制定した「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」(平成8年法律第74号)によって、沖ノ鳥島を中心とする排他的経済水域を設定した。

しかし、沖ノ鳥島が同3項の「岩」にあてはまるとすれば、沖ノ鳥島は領海は有するものの、排他的経済水域や大陸棚を有しないということになる。海洋法専門家でハワイ大学マノア校教授のジョン・ヴァン・ダイクは、1988年1月21日のニューヨーク・タイムズで「沖ノ鳥島――せいぜいキングサイズのベッドくらいの大きさしかない、2つの浸蝕された突起から構成される――」と独自の経済的生活を維持することのできない居住不可能な岩という記述に間違いなくあてはまるので200海里排他的経済水域を生み出す資格を与えられない、と主張した[31][32]。ダイクは同様の主張を繰り返し、その意見は2005年2月16日のウォール・ストリート・ジャーナルで「日本の立場は、イギリス1990年代にEEZの主張を諦めた、大西洋ロッコール島の例に酷似している」「沖ノ鳥島のEEZをもっともらしく主張することはできない」として紹介されている[33][34]。こうした意見に対して日本国政府は、「」の定義が同条約上に存在しないことを根拠に、沖ノ鳥島の排他的経済水域を主張している[35]

2003年以降には、中華人民共和国および大韓民国の2か国が日本の主張に対する異議を申し立てるようになった。両国は、沖ノ鳥島が日本の領土であることは認めるものの、それは国連海洋法条約第121条第1項の「島」ではなく、同条第3項の「岩」であり、沖ノ鳥島周辺に日本国が排他的経済水域を設定することはできないと主張している。

なお同条約には、島に関する以下のような条文も定められている。沖ノ鳥島に設置された鉄製消波ブロックとコンクリート製護岸、チタン製防護ネットはこの条文に記された人工の「構築物」に該当する。ただし、沖ノ鳥島の本体は自然に形成されたものであるため、この条文には該当しない。

第60条 第8項:人工島、施設及び構築物は、島の地位を有しない。これらのものは、それ自体の領海を有せず、また、その存在は、領海、排他的経済水域又は大陸棚の境界画定に影響を及ぼすものではない。

サンフランシスコ平和条約の中での沖ノ鳥島

日本がアメリカ合衆国やイギリスをはじめとする48か国と締結したサンフランシスコ平和条約条約第3条では、日本は「北緯二十九度以南の南西諸島琉球諸島及び大東諸島を含む。)、孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島西之島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島」を、アメリカ合衆国を施政権者とする国際連合信託統治制度の下に置くことを承認し、さらには国際連合がこの信託統治制度を可決するまでの間は、アメリカがこれらの島々に対する施政権を持つことを承認した。実際にはアメリカは国際連合に対してこれらの島を信託統治する提案をしなかったため、沖ノ鳥島は小笠原諸島とともにアメリカの施政下に置かれたものの、領土主権は日本に残された。1968年(昭和43年)に日本国とアメリカ合衆国が結んだ小笠原返還協定が発効したことにより、小笠原諸島および沖ノ鳥島の施政権は日本に返還された。

中華人民共和国の主張

  • 2001年(平成13年)ごろから、中華人民共和国の海洋調査船による調査が沖ノ鳥島の排他的経済水域内で多く行われ、この件について日本は2004年(平成16年)に事務レベル協議で抗議した。これに対し同年4月22日、中国側は、沖ノ鳥島は「島」ではなく「岩」であり、日本の領土とは認めるが、排他的経済水域は設定できないと主張。2009年(平成21年)8月24日には国連大陸棚限界委員会において、沖ノ鳥島を「人の居住または経済的生活を維持できない岩」であると認定するよう意見書を提出した。
  • 一方で、中華人民共和国は南シナ海南沙諸島ジョンソン南礁(赤瓜礁)の領有権を主張しており、その周囲に排他的経済水域を設定している。しかし、ジョンソン南礁は沖ノ鳥島と同様、満潮時に水面上に出ている部分は小面積であるとされており、中国の主張はダブルスタンダードであるという批判がある[36]

台湾(中華民国)の主張

  • 2016年(平成28年)4月、台湾馬英九中国国民党政権は、排他的経済水域を設定できない岩との認識を示していたが、翌5月に発足した蔡英文民主進歩党政権は、自由民主党国会議員らとの対話後、5月23日に「法律上の特定の立場を取らない」として扱いを修正した[37][38][39]。2018年現在は地位が確定するまで漁業権を認めるよう主張している[40]。一方で、中国国民党や民主進歩党の一部の議員や、小政党のひとつである「時代力量」は、沖ノ鳥島は島ではなく「岩」であるとの立場を示している[41]

大韓民国の主張

サンフランシスコ平和条約においては沖ノ鳥島の存在について明記されており、日韓基本条約ではサンフランシスコ平和条約の関係規定を想起し条約を締結することに決定と定められており[42]、大韓民国も沖ノ鳥島が日本の領土であることは承認している。しかし、同国は沖ノ鳥島は排他的経済水域を設定できない「岩」だと主張している。

朝鮮民主主義人民共和国の主張

沖ノ鳥島は日本領土から数百キロも離れた太平洋の上に位置した岩であり、国連海洋法協約で規定された島の範疇に属してもおらず、自らの経済水域を持つことができないと主張している。

日本の対抗措置

2005年5月20日、石原都知事は沖ノ鳥島の視察を行い、周辺海域へシマアジの稚魚を放流した。同年6月17日には国土交通省が縦1メートル、横1.5メートルのチタン製銘板を設置した。「東京都小笠原村沖ノ鳥島一番地」「日本国最南端の島」のほか、沖ノ鳥島の緯度・経度が刻まれている[43]

2005年8月24日、海上保安庁は経済活動実証のため沖ノ鳥島に灯台を設置することを決定し[44]、2007年3月16日に、周辺海域を航行する船舶や操業漁船の安全と運航能率の増進を図ることを目的として「沖ノ鳥島灯台」を設置して運用開始した[13]#地理を参照)。また、同灯台を海図に記載した。

2009年11月6日、環礁部分に船舶が接岸できるような港湾施設を建設する方針を決めたと報道され[45]、2013年に建設を開始した(#浸食防止策を参照)。中国の「『経済的生活の維持』ができない」とする主張に対抗する意図があるとされる。

2010年7月23日には「排他的経済水域及び大陸棚の保全及び利用の促進のための低潮線の保全及び拠点施設の整備等に関する基本計画」を閣議決定し[46]、沖ノ鳥島における特定離島港湾施設の建設に着手している[47]

2020年7月10日、老朽化した旧観測拠点施設の撤去と新観測拠点施設への更新、及び破損していた観測所基盤の船着き場の災害復旧が行われたことを公表した[48]

国連大陸棚限界委員会への申請

2008年11月12日、日本は大陸棚限界委員会(Commission on the Limits of the Continental Shelf、略称:CLCS)に対して、沖ノ鳥島を基点とする海域を含む7つの海域を「大陸棚の延長」として申請を提出した。その申請に対してアメリカ合衆国、中国、韓国およびパラオがそれぞれ、自国の見解を示す文書を提出している。米国とパラオは日本に異議を唱えなかったが、中国と韓国は「沖ノ鳥島は、島に該当せず岩に当たる」という抗弁を2009年2月に提出した[49]

2011年8月に開催された第28回大陸棚限界委員会において中国と韓国は改めて異議を提出し、委員会の議論は紛糾して日本に対する勧告案は採決されず、継続審議となった。

その後、沖ノ鳥島事案は審査[50]ののち、2012年4月27日に島北側の海域は認められたが、南側(九州パラオ海嶺南部海域)は結論が先送りにされた[51]。南側に関しては大陸棚限界委員会の勧告(20項)によると「口上書に言及された事項が解決される時まで、CLCSとしては勧告を出すための行動をとる立場にない」とされた[52]。口上書とは中国と韓国による異議のことで、採択には委員の3分の2位以上の賛成が必要だが、結果は賛成5、反対8、棄権3で日本に必要な支持を得られなかった。

浸食防止策

コンクリートの護岸に生じた割れ目を補修している様子(2010年3月撮影)

沖ノ鳥島にある2つの小島が風化や海食などで浸食され、満潮時に海面下に隠れてしまうと、定義上の「島」と認められなくなり、その場合、日本の国土面積(約38万平方キロメートル)を上回る排他的経済水域が失われてしまうため、1987年から「災害復旧工事」として2つの島の周りに鋳鉄消波ブロックによる消波堤を設置し、内部に直径50メートルのコンクリート製護岸を設置した。ところが、護岸コンクリートの破片が東小島を傷つけるという事故が起こったため、東小島の上はチタン製の防護ネットで覆っている。これらの工事費用は約285億円かかった[53]

自然による造成策

地球温暖化にともなう海面上昇により、島そのものが将来水面下に没することが予想されている。そこで、自然の力により島を高くしようとの構想がある。具体的には、島の周囲の珊瑚礁を活性化して大規模な珊瑚礁を生成させる。これが砕けて砂となり堆積や波による集積を行うことにより、自然の力により島の高さを上げてしまうという構想である。この構想の調査のために、水産庁は実施期間を2006年度から2年間とする「生育環境が厳しい条件下における増養殖技術開発調査事業」を創設、業務取りまとめ機関として「サンゴ増養殖技術検討委員会」を設置し、初年度に3億円の予算を充てている。

有人島化計画

2010年、民主党政権下において国土交通省が750億円を投じ、沖ノ鳥島の西側に港湾設備、岸壁泊地臨港道路などインフラストラクチャーを建設し、輸送補給が可能な活動拠点を作ることを決定した[47]。経済的な活動拠点が完成すれば、事実上の有人島となり「同島では経済的生活の維持ができない」とする島の地位に関する批判(前出の「#地位に関する論争」を参照)を退けることができることから、計画されたものである。

この計画に従って、2011年度に国土交通省が特定離島港湾の建設に着手した[54]。長さ160メートルの岸壁を作る工事で、130メートル級の大型海底調査船も停泊可能な岸壁となる。港湾整備は2021年度に完成する予定[55]。国土交通省は「輸入頼みの資源を自前で開発する拠点。経済的な安全保障につながる」と説明している[56][57]

参考文献

脚注

  1. ^ 一等三角点『沖ノ鳥島』の座標。
  2. ^ a b 基準点成果等閲覧サービス”. 国土地理院. 2014年7月13日閲覧。 “基準点コード TR13036501601”
  3. ^ a b c 第169回国会 環境委員会 第3号参議院2008年3月27日 島の大きさからしますと、平均水面からですけれども、高さは北小島で一メーター、それから東小島で〇・九メーターということでございます。
  4. ^ a b c 小笠原村 自然 地勢・気候、小笠原村
  5. ^ a b 沖ノ鳥島の変位(1999年2月 ~ 2002年2月) (PDF) 、国土地理院時報 2002年、No.99
  6. ^ 昭和15年7月23日(火)海軍公報(部内限)3556号 p.40」 アジア歴史資料センター Ref.C12070389200 『(別紙)沖ノ鳥島北露岩側面略圖』
  7. ^ 基準点成果等閲覧サービス”. 国土地理院. 2014年7月13日閲覧。 “基準点コード TR33036501501”
  8. ^ a b 「沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察団」報告書、日本財団、2005年2月
  9. ^ 2002年1月23日付で三等三角点「北露岩」から名称変更された。
  10. ^ 2002年1月23日付けで一等三角点「東露岩」から名称変更された。
  11. ^ 施工例1「沖ノ鳥島防護工事」、株式会社アロイ
  12. ^ 昭和15年7月23日(火)海軍公報(部内限)3556号 p.37」 アジア歴史資料センター Ref.C12070389200 『軍務二機密第五九九號ノ三 昭和十五年七月十九日 海軍省軍務局長 關係廰長殿 沖ノ鳥島假燈標ノ件通知 目下中央氣象臺ニ於テ沖ノ鳥島ニ氣象観測所建設工事中ノトコロ同臺ヲシテ今年度同工事終了後(七月下旬)ヨリ昭和十五年十月下旬迄同島北露岩頂ニ別紙略圖ノ如キ假燈標ヲ殘置セシムルコトニ取計置候ニ付了知相成度 追テ右燈標ハ勿論無看守ナルニ付消燈其ノ他故障ヲ發見セル場合ハ機ヲ失セズ當方ニ通報ノコトニ取計相成度(別紙添)』
  13. ^ a b c 「沖ノ鳥島灯台」の運用開始について (PDF)海上保安庁、2007年3月16日
  14. ^ 平成11年度地殻変動監視観測(沖ノ鳥島) (PDF) 、海上保安庁海洋情報部
  15. ^ a b 沖ノ鳥島に電子基準点設置国土地理院、2005年6月29日
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関連項目

外部リンク

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