カーニヴァル・オブ・ライト

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Carnival of Light(邦題未定)
ビートルズ楽曲
リリース未発表
録音1967年1月5日
ジャンルアバンギャルド,サイケデリック・ロック
時間13分48秒
作詞者レノン・マッカートニー
作曲者レノン・マッカートニー
プロデュースジョージ・マーティン

カーニヴァル・オブ・ライト (Carnival of Light)』は、ビートルズの未発表の楽曲で実験的な作品。1967年1月28日2月4日ロンドンのラウンドハウス・シアター(Roundhouse Theatre)で開催された電子音楽のイベント The Million Volt Light and Sound Rave のために制作されたもので、録音は同年1月5日、『ペニー・レイン』のヴォーカルのオーバーダビングが行われたセッションの後に行われた。

歴史

この楽曲制作の発端は1966年の12月にデザイナーのデヴィッド・ヴォーン(David Vaughan)が、ポール・マッカートニーのピアノにサイケデリックなデザインを描き、マッカートニーの自宅に届けたことだった。その時ヴォーンがマッカートニーに近日開催予定のThe Million Volt Light and Sound Rave'のために楽曲を提供するよう依頼し、それにマッカートニーが応じたのである。

The Million Volt Light and Sound Rave (略してThe Carnival of Light Raveとも) は、前述のヴォーンらデザイナーのグループにより開催された電子音楽と照明の展覧を目的としたイベントで、カーニヴァル・オブ・ライトがここで公開された他、イギリスの電子音楽家の草分け的存在であるデリア・デービーシャイア(Delia Derbyshire, 1937年5月5日-2001年7月3日)らによるパフォーマンスも行われた。

録音とミキシング

ビートルズ研究家として知られるマーク・ルウィソーン(Mark Lewisohn)は、1987年にこの楽曲を聴き、著書『ビートルズレコーディングセッション』(The Complete Beatles Recording Sessions)の中で次のように述べている。「ディストーションを効かせた単調なドラムスとオルガン、やはりディストーションを効かせたリード・ギター、教会のオルガン、数種のエフェクト(水でうがいをする音など)と声、大量のテープ・エコーをかけた言語に絶するさまざまなサウンド・エフェクトと騒々しいタンバリンが録音されている。しかし、中でも強烈なのは、トラック3で聞かれるものすごい声だ。ジョンとポールが狂ったようにわめき、「Are you alright? (大丈夫かい?)」とか「Barcelona! (バルセロナ!)」といった文句を思いつくままにどなる。」[1]

ポール・マッカートニーの公式伝記の執筆者バリー・マイルズ(Barry Miles)は、その著書『ポール・マッカートニー メニー・イヤーズ・フロム・ナウ』(Paul McCartney: Many Years from Now)の中で、楽曲には、ときどきパーカッションやリズミカルなピアノの叩きつけるような音によって数小節間、安定した拍子が続くところがある以外にリズムはなく、たまに旋律の断片が目立ちそうになるところ以外にメロディーもない、と述べている。

マッカートニー自身は2008年11月のインタビューで、「この曲で必要なのはとりとめなくさまよって、バンと音を出したり、楽器を弾いたりすることで、意味なんか必要ない。ドラムを叩いて、それからピアノのところにふらふらたどり着いて、ちょっと音を出して、またさまよう、という具合だ」と語っている[2]

バス音を奏でるオルガンとドラムスは速度を落として録音されたため、より奥行きの深い音になっており、楽器の音やレノンとマッカートニーの声(本曲にはこの2人の声しか入っていない)には大量のリバーブがかけられている。2人はさらにネイティブ・アメリカンの戦での雄叫びや、口笛、近距離で盗聴したようなあえぎ声、咳、スタジオでの会話の断片などを録音した。他にこの曲にかぶせられているのは、ギターのフィードバックによる破裂音、感傷的なオルガン、騒々しいピアノ音の断片、レノンが「電気!(Electricity!)」と叫んでいる声の電気的フィードバック音などである。トラックはマッカートニーの「今の再生して聴かせてもらえるかい?( Can we hear it back now?)」というエコーのかかった声で終わっている。

また、前出のバリー・マイルズによれば、音楽的には「フランク・ザッパのアルバム『 フリーク・アウト! 』の楽曲、『ザ・リターン・オブ・ザ・サン・オブ・モンスター・マグネット(The Return of the Son of Monster Magnet)』に似ているが、『カーニヴァル~』の方にはリズムやメロディーがなく、より断片的で、抽象的かつ真面目」とのことである。

ダドリー・エドワーズ(Dudley Edwards, The Million Volt Light and Sound Raveの主催者の1人でマッカートニーの友人)は、この楽曲の中にアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の楽曲『フィクシング・ア・ホール』の初期のテイク が使用されていると語っている[3]。ただし、『フィクシング・ア・ホール』のレコーディングが開始されたのはThe Million Volt Light and Sound Raveの終わった5日後であり、初期のテイクが使用されたというのは考えにくい。しかし、マッカートニーがこの楽曲中で『フィクシング・ア・ホール』を実際に数小節演奏したという可能性はある。

様々な報告から、楽曲の長さは14分程であることが分かっている[4] 。ポール・マッカートニー自身は15分位と述べており、マーク・ルウィソーンによる『ビートルズ全記録 Vol.2(1965 - 1970)』(The Complete Beatles Chronicle)では13分48秒とされている。

ルウィソーンの著書の中ではこの楽曲のモノ・ミックスがヴォーンに渡されたとあるが、マイルズは完全にステレオとしてミキシングされ、音の層や質を組み立てていく作業であったと主張している。イベントの後に2つ目のミックスが製作されたのか、あるいはヴォーンに渡されたのは実際にはステレオ・ミックスで、ただ作業の記録がアビー・ロード・スタジオの録音日誌に残っていなかったのかは不明である。

未発表の状況

『カーニヴァル・オブ・ライト』は今日まで公式にもブートレグとしても、いかなる形態でもリリースされていない。1996年にはマッカートニーが、コンピレーション・アルバム、『ザ・ビートルズ・アンソロジー2』に収録してリリースしようとしたが、ジョージ・ハリスンに拒否された[5]。マッカートニーによると、その理由は「彼はアバンギャルド音楽が嫌いで、アバンギャルド(avant garde)について 'avant got a clue' ("haven't got a clue" = 「てんで分からない」に掛けた駄洒落)と言っていた」とのことである。しかしハリスン自身は、1969年モーグ・シンセサイザーを使用した実験的なソロアルバム『電子音楽の世界』でアバンギャルド音楽を製作し、ビートルズでの作品中でもアバンギャルド音楽を扱ったりしている。

1996年8月、マッカートニーはイギリスの月間音楽誌『Mojo』によるインタビューの中で、1995年グレイトフル・デッドの映画、『Grateful Dead -- A Photo Film』のような、ビートルズのフォトコラージュの映画を製作中であり、サウンドトラックに『カーニヴァル~』を使用する予定であると語った。しかし、この企画は実現しておらず、マッカートニーもこの映画製作の進行状況について2002年以降は言及しなくなっている。

2008年11月、マッカートニーはまだマスターテープを所有していることを公言した上で次のように述べた。「いよいよ公表するよい時期が来たのではないかと思う。僕はこの曲が気に入っている。ビートルズが自由で、ハメを外しているからね。」ただし、マッカートニーがこの楽曲をリリースするには、リンゴ・スターをはじめレノンの未亡人オノ・ヨーコ、ハリスンの未亡人オリヴィア・ハリスンの同意が必要であるという[6][2]

脚注

出典

  • マーク・ルウィソーン著・内田久美子訳 『ビートルズレコーディングセッション』シンコーミュージック 1988年 ISBN 978-4401612970
  • マーク・ルウィソーン著・ビートルズ・シネ・クラブ訳 『ビートルズ全記録 Vol.2(1965 - 1970)』プロデュース・センター出版局1994年 ISBN 978-4938456245
  • バリー・マイルズ著・竹林正子訳・松村雄策監修 『ポール・マッカートニー メニー・イヤーズ・フロム・ナウ』ロッキングオン 1998年ISBN 978-4947599612

外部リンク