マルサの女

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マルサの女
監督 伊丹十三
脚本 伊丹十三
製作 玉置泰
細越省吾
出演者 宮本信子
山崎努
津川雅彦
大地康雄
桜金造
音楽 本多俊之
撮影 前田米造
編集 鈴木晄
配給 東宝
公開 日本の旗 1987年2月7日
上映時間 127分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
次作 マルサの女2
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マルサの女』(マルサのおんな)は、1987年公開の日本映画

監督と脚本は伊丹十三。マルサ(国税局査察部)に勤務する女性査察官と、脱税者との戦いをコミカルかつシニカルに描いたドラマ

第11回日本アカデミー賞(1988年)最優秀作品賞・最優秀主演男優賞(山崎努)・最優秀主演女優賞(宮本信子)・最優秀助演男優賞(津川雅彦)と、この年の同賞をほぼ総なめにした。

また、作品の成功を受けてカプコンファミリーコンピュータ向けにゲーム化、翌年には続編の『マルサの女2』が製作された。

ストーリー[編集]

港町税務署のやり手調査官・板倉亮子は、管内のパチンコ店所得隠しを発見したり、老夫婦の経営する食品スーパーの売上計上漏れを指摘するなど、地味な仕事を続けている。そんなある日、実業家・権藤英樹の経営するラブホテルに脱税のにおいを感じ、調査を行うが、強制調査権限のない税務署の業務の限界もあり、巧妙に仕組まれた権藤の脱税を暴くことができずにいた。

そんな中、亮子は強制調査権限を持つ国税局査察官(通称「マルサ」)に抜擢される。着任早々に功績をあげ、やがて仲間からの信頼も得るようになった亮子。ある日、権藤に捨てられた愛人・剣持和江からマルサに密告の電話が入る。亮子は税務署員時代から目をつけていた権藤の調査を自ら進んで引き受ける。亮子の努力が実を結び、権藤に対する本格的な内偵調査が始まる事になった。暴力団政治家銀行がからんだ大型脱税との戦いが始まった。

登場人物・キャスト[編集]

板倉亮子:宮本信子
港町税務署員からマルサに異動。仕事一筋でプロ意識が強く、激務であるマルサへの異動辞令をもらって狂喜乱舞する。「ダイちゃん」という5歳の息子をもつシングルマザー。レストランで目が合った赤ちゃんに笑いかけたり、権藤の子育ての相談にのったりするなど、やさしい一面も見せる。トレードマークはおかっぱ頭寝癖そばかす。愛車はホンダ・Z(初代)。
権藤英樹:山崎努
ラブホテルの経営者。歩行が不自由であり、普段は杖をついて歩いている。ラブホテルでは領収書をもらう客がなく、売り上げの除外が容易であることを利用し、巨額の脱税をしている。金儲けを行う一方で、息子を溺愛する父親であり、亮子と同様、人間味のある人物として描かれている。
花村:津川雅彦
マルサにおける亮子の直属の上司。統括官。
伊集院:大地康雄
マルサにおける亮子の同僚。その容貌から「マルサのジャック・ニコルソン」の異名がある。強制調査の際、久美の部屋に踏み込み、架空名義の預金口座用の印鑑を大量に発見する。
金子:桜金造
マルサにおける亮子の同僚。ホームレスになりきって権藤のラブホテルの前で張り込み中に、警察官職務質問され、不審者として連行されてしまう。密行調査なので身分を明かせず、花村がもらい下げに行き、ようやく釈放される。
剣持和江:志水季里子
権藤の愛人。権藤に捨てられた事を根に持ち、マルサへ権藤の脱税を密告する。
鳥飼久美:松居一代
権藤の新しい愛人。権藤のラブホテルの売り上げ計算書を毎朝ゴミ収集車に出し、脱税を隠蔽する片棒を担ぐ。
石井重吉:室田日出男
権藤が経営するラブホテルの社長。権藤のブレーン。
宝くじの男:ギリヤーク尼ヶ崎
宝くじの当選金は非課税なので脱税に使えるともちかけ、権藤に5000万円の当たりくじを5500万円で売りつけようとする。
食料品店の夫婦:柳谷寛杉山とく子
亮子に申告漏れを指摘され妻が逆ギレし、夫はそれをなだめる。
リネンサービス社長:佐藤B作
権藤のラブホテルにシーツを卸している。取引先として亮子の調査を受け、あからさまに迷惑がる。
特殊関係人:絵沢萠子
亮子が査察官としてはじめて臨んだ調査対象者の愛人。貸金庫の鍵を服の中に隠したと査察官達に疑われ、キレて下着を脱ぐ。
権藤太郎:山下大介
権藤の一人息子。父とは正反対のおとなしい性格だったが徐々に反抗的になる。しかし、内心では父を心配する。
大谷銀行営業課長 染谷:橋爪功
権藤の取引先の銀行員。調査に訪れた亮子に大量の書類を閲覧させ辟易させる。
パチンコ店の社長:伊東四朗
亮子に脱税を指摘され、最後にはウソ泣きして調査を免れようとする。
税理士:小沢栄太郎
パチンコ店の顧問税理士。社長から税務署の肩を持っていると難詰され、怒る。
露口:大滝秀治
港町税務署での亮子の上司。亮子がマルサに抜擢されたことを父親のように喜ぶ。
秋山:マッハ文朱
港町税務署員。亮子の後輩。
山田:加藤善博
港町税務署員。亮子の後輩。
税務署長:嵯峨善兵
港町税務署の署長。
蜷川喜八郎:芦田伸介
暴力団関東蜷川組の組長。亮子に税務調査に入られた事を根に持ち、税務署に押しかけてメガホン(ハンドマイク)を片手に大演説をぶつ。
査察部管理課長:小林桂樹
マルサにおける亮子の上司。査察当日に対象者を外出させないようにするため、ニセの電話をかける特技を持つ。
杉野光子:岡田茉莉子
権藤の内縁の妻。

その他の登場人物・キャスト[編集]

スタッフ[編集]

作品解説[編集]

伊丹本人は本作制作の動機について、『お葬式』などのヒットによる収益を税金でごっそり持って行かれたために、税金や脱税について興味が湧いたため、と語っている。当初制作側は内容が内容だけに当局の協力は期待していなかったが、実際は「どうせ作るなと言っても作ってしまうだろうから、それなら納税者に誤解を与えない様に正確な内容にして欲しい」と取材に協力的であったという。実際、査察ガサ入れのシーンではマルサOBが監修に協力している。

「○○の女」と銘打った作品は後に4作作られる事になり、またそれとともに主演・宮本信子を日本を代表する演技派女優へと転進させた点で、今作は伊丹映画の路線を決定付ける記念すべき作品となった。

配役[編集]

これまでの津川の役どころは、いわゆる「モテ系」の役どころが多かったが、本作では伊丹の卓越した着眼点から「中間管理職の中年」を配役され、見事に演じきった。津川本人も自分の新しい側面が引き出せたことに非常に満足し、日本アカデミー賞を始め、あらゆる映画賞を受賞した際には伊丹への感謝の言葉を述べている。

当初、伊集院の役は川谷拓三がキャスティングされ、他のキャストやスタッフと共に税務署見学等を行ったが、終始不機嫌な態度をふるまう川谷に手を焼いたスタッフが伊丹に報告。伊丹は「このままじゃ映画自体が上手く行かなくなる」と言って川谷を降板させた[1]

演出[編集]

メイキング本『マルサの女日記』によると、「あざとい演出だから」といった理由で、全編にわたってクローズ・アップ撮影(いわゆる顔面アップ)はほとんどない。

蜷川喜八郎役の芦田伸介は、当初はよりヤクザらしく顔にキズを入れるメイクを施す予定だったが、もともと、交通事故で作った大きいキズがあったため、そのキズを生かしたメイクにした。

宝くじの男のセリフはギリヤーク自身の声ではない。何度もギリヤークにセリフを言わせたものの、伊丹はまったく納得がいかず別人物の声をアテレコで入れている[2]

作品の評価[編集]

確定申告や脱税と無縁の一般社会においては、玄人筋や富豪層の間でしか語られる事のなかった国税局の査察部(マルサ)を世に知らしめた映画である。エンターテインメントの題材になりえなかった脱税がバブル景気と符合した結果、複雑なカネの流れが見事にストーリーに組み込まれている。犯人の逮捕や事件の裁判ではなく、脱税の証拠を見つければ勝負が決まるとした設定が、脱税者とマルサの攻防にスピードとスリルを生んだ。

企画・脚本の段階で徹底して行われた取材によるリアリズムもこの映画の魅力である。脱税者がハンコや通帳をどのように隠すのか、それをマルサ職員がどのように発見するのかという具体的な描写が、他の映画にない面白さを与えている。但し、他の伊丹映画(ミンボーの女など)も同様だが、捜査手法や脱法の手口は1世代または2世代前の内容でシノプシスが作られている。この点は、伊丹本人も映画の内容が悪用されないようにしていると答えているが、その道に詳しい学生や業者などから「いかにしろ手口が古すぎる」「判例が出ているので決着が見えすぎ」との声があった。またストーリーにおいて権藤が障害者という設定に対する批判も存在した。この設定は山崎が1985年に上演した舞台の演技を伊丹が見て採用された(NHK-BS2による放映時の宮本信子談)。

映画感想家のおすぎがこの作品を「金持ちのための映画」とこき下ろしたことに対し、プロデューサーは「非常に残念。これは万人向けの優れたエンターテインメント作品である。」と憤りを見せた。 この作品は、東京国税局の協力のもとに製作され、宮本は、浅草税務署の調査官から演技指導を受けている。 劇中での署長室のレイアウトは当時の東京国税局麻布税務署のそれをそっくりそのまま再現したものであると言われている。また、主人公がパチンコ店店主にかざして見せる電卓も税務署備品と同型であり、銀行調査の際に提示する、国税犯則取締法に基づく身分証「法人税に関する質問検査章」も本物と思うほど精巧である他(様式は『現行法規総覧』に記載されている)、各種決算書類も、プロの税理士から「いちいちつじつまが合っている」と言われるほど細かく記載された物が作られた。また、ある国税庁高官が、査察制度の講習を依頼され、東南アジア某国に出張した際、まずは制度の理解のためにと、本作を英訳して上映したという。

伊丹映画の中の位置づけ[編集]

『お葬式』『タンポポ』と続いた前二作品は、客観的に見るとほとんど悪人の出てこないいわゆる「ほのぼの」とした映画であった。前二作で高い評価を得た伊丹が満を持して世に送り出した今作は、前二作に出演した俳優が多く起用されているにも関わらず、全く趣の異なる「社会派コメディ」であり、その伊丹の引き出しの多さに多くの観客が驚かされた。緻密な取材に基づいた脚本、細部にまでこだわる演出、そして俳優達の鬼気迫る演技は高い評価を得、伊丹の映画監督としての地位を確立させた。

受賞歴[編集]

ソフト[編集]

DVDビデオは2005年2月に限定版の「伊丹十三コレクション たたかうオンナBOX」に組み込まれてジェネオンエンタテインメントから発売、追って2005年8月にメイキングDVD「マルサの女をマルサする」(周防正行演出)と同時に単品でリリースされている。

ゲーム化[編集]

  • 1989年にカプコンから「マルサの女」が発売されている。また、同年に双葉社よりゲームブック版がファミコン冒険ゲームブックレーベルにて発売されている。
  • 桃太郎電鉄シリーズ」には本作をモチーフとした「マルサカード」というアイテムが存在する。

そのほか[編集]

  • 本作の悪役大金持ちの権藤を演じた山崎努は、『天国と地獄』 (監督:黒澤明)において、権藤なる大金持ちに挑戦する貧乏学生を演じている。
  • ラストシーンのロケ場所は花月園競輪場2010年3月末日をもって廃止)。

脚注[編集]

  1. ^ 著書『マルサの女日記』より。
  2. ^ 著書『マルサの女日記』より。

外部リンク[編集]