天国と地獄 (映画)

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天国と地獄
High and Low
監督 黒澤明
脚本 黒澤明
菊島隆三
久板栄二郎
小国英雄
製作 田中友幸
菊島隆三
出演者 三船敏郎
仲代達矢
香川京子
音楽 佐藤勝
撮影 斎藤孝雄
中井朝一
配給 日本の旗東宝
公開 日本の旗1963年3月1日
上映時間 143分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
allcinema
キネマ旬報
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IMDb
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天国と地獄』(てんごくとじごく)は、1963年昭和38年)に公開された日本映画である。

監督は黒澤明毎日映画コンクール・日本映画賞、エドガー・アラン・ポー賞などを受賞した。

目次

[編集] 概要

1961年に『用心棒』、『椿三十郎』と娯楽時代劇を世に送り、次回作には現代劇を構想していた黒澤が、たまたま読んだというエド・マクベインの小説『キングの身代金』(1959年、「87分署シリーズ」のひとつ)に触発され映画化。黒澤が『キングの身代金』を映画化しようと思った動機は2点あり、「徹底的に細部にこだわった推理映画を作ってみよう」ということと「当時の誘拐罪に対する刑の軽さ(未成年者略取誘拐罪で3ヶ月以上5年以下の懲役〈刑法第224条〉、営利略取誘拐罪で1年以上10年以下の懲役〈刑法第225条〉)に対する憤り(劇場公開時のパンフレットでも誘拐行為を批判している)」だという。

映画は興行的には成功するが、一方で公開の翌4月には都内を中心に誘拐事件が多発した。映画は公開中止にはならなかったが、国会でも問題として取り上げられ、1964年の刑法一部改正(「身代金目的の略取(無期又は3年以上の懲役)」を追加)のきっかけになったという。[1]


[編集] あらすじ


注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。免責事項もお読みください。 [記述をスキップ]


製靴会社常務・権藤の元に息子を誘拐したと誘拐犯から電話が入る。しかし誘拐されたのは社用車運転手、青木の一人息子・進一だった。誘拐犯はそれでもなお権藤に身代金3000万円を要求してくる。だが権藤には翌日までに5000万円を大阪に送金し、次期株主総会で現経営陣を一掃しようとの魂胆があった。身代金を払わねば進一の命が危ないが、大阪への送金をしないと地位も財産もすべてを失うことになる。権藤は葛藤の末、秘書・河西の裏切りをきっかけに身代金支払いを決意する。当日、犯人より走行中の特急こだまから身代金を投げ落とせという想定外の受け渡し法を指示され、進一は無事解放されるものの、犯人には身代金をすべて奪われ、逃げられる。

戸倉主任警部率いる捜査陣は、進一の記憶や目撃情報、電話の録音などを頼りに捜査、犯人のアジトを突き止めるが、そこにいた共犯の男女はヘロイン中毒で死亡していた。主犯への足がかりを失った捜査陣は新聞記者に協力を依頼し、共犯者が生きていると匂わせる情報を流す。その時、犯人が処分した身代金受け渡し用のかばんに施されていた仕掛けが発動、主犯をインターンの竹内銀次郎であると断定する。竹内の犯罪に憤る戸倉たちは、確実に死刑にするためにあえて竹内を泳がせて犯行を再現させ、共犯者殺害の証拠をつかもうとする。執念の捜査が実り、ついに竹内は逮捕される。

後日、竹内の死刑が確定、権藤は竹内の希望により面会することになる。不敵な笑みを浮かべながら語る竹内だったが、その体の震えは止まらず、ついには金網に掴みかかって絶叫する。竹内は刑務官に取り押さえられて連行され、二人の間にはシャッターが下ろされる。

[編集] 登場人物

[編集] 主要人物

権藤金吾
演 - 三船敏郎
製靴会社「ナショナル・シューズ」の工場担当常務。16歳で見習い工として入社した叩き上げで、仕事に生きがいを感じており権力闘争にも余念がないが、それは権力欲ではなく理想の靴を作りたいという思いから来ている。
戸倉警部
演 - 仲代達矢
誘拐事件の捜査担当主任。冷静沈着なエリートだが、犯人のやり方に激しい憤りを抱き、捜査に執念を燃やす。
権藤伶子
演 - 香川京子
権藤の妻。裕福な家庭で育ち、金銭や地位に執着しない性格のため、権力闘争に腐心する夫の姿を快く思っていない。
河西
演 - 三橋達也
権藤の秘書。5000万円の小切手を持って大阪に渡るよう指示されるが、敵対する重役らに懐柔され、誘拐事件のさなか権藤を裏切る。
青木
演 - 佐田豊
権藤付きの社用車運転手。息子・進一を男手ひとつで育てている。息子を取り戻した後は権藤に対する自責の念から、独断で犯人のアジトを突き止めようとする。
田口部長刑事
演 - 石山健二郎
いかつい風貌で直情型の部長刑事。横浜港を擁する県警であることから同僚や部下には「ボースン(水夫長)」と呼ばれている。
荒井刑事
演 - 木村功
田口の部下。通報当初から戸倉・田口らとともに権藤邸に詰める。一言多いのが玉に傷。
中尾刑事
演 - 加藤武
荒井の同僚。権藤邸に詰め、戸倉・田口らと行動するメンバーの一人。
竹内銀次郎
演 - 山崎努
誘拐事件の犯人。貧しい環境に暮らすインターン(現在の研修医)で、窓から見える大邸宅で裕福に暮らす権藤に対し一方的に憎しみを募らせた末、犯行に至る。

[編集] その他の出演者

ナショナル・シューズ重役
権藤邸
  • 島津雅彦(青木の息子・進一)
  • 江木俊夫(権藤の息子・純)
  • 八代美紀(権藤家女中)[ノンクレジット-公開時のパンフレットに記載]
  • 小沢経子(権藤家女中)[ノンクレジット-公開時のパンフレットに記載]
  • 清水美記(権藤家女中)[ノンクレジット-公開時のパンフレットに記載]
警察関係者
新聞記者
捜査に関連する人物
特急第2こだま
共犯者
  • 中西英介(犯人の共犯の男)[ノンクレジット-公開時のパンフレットに記載]
  • 葵正子(犯人の共犯の女)[ノンクレジット-公開時のパンフレットに記載]
債権者
麻薬街
裁判所執行官
刑務所職員

[編集] エピソード

151系電車
人物設定
「三船演じる主人公の実業家の名前『権藤金吾』は原作の主人公『ゴードン・キング』の姓名をもじって付けられた」という話が広く流布しているが、原作の主人公の姓名は「ダグラス・キング」である。
原作のダグラス・キングと異なり、権藤は作中でより苦悩する。犯人はより凶悪で、インテリの人物像として設定され、当時は新人であった山崎努が抜擢された。こうした人物設定には、読書家の黒澤が心酔していたというドストエフスキーからの影響があり、善悪の二極対立があると指摘されている。また、原作では現金受け渡しの際に犯人が逮捕されて終り、映画では密室劇として描かれているが、後半には、誘拐に対する黒澤の怒りを代弁する人物として仲代達矢の演じる戸倉警部が逃亡した犯人を追い詰めていくオリジナルのサスペンス劇が展開されている。
仲代演じる戸倉警部は、黒澤曰く俳優のヘンリー・フォンダをイメージして創ったと語っている。その言葉を受けた仲代は、生え際を後退させるべく、毎朝剃刀で額を剃っていた。
また、香川演じる権藤夫人を、黒澤は「カバンより重いものを持った事がないような女優のエリザベス・テイラーをモデルにした」と語っている。
配役
権藤の息子の純と、青木の息子の進一役の江木俊夫と島津雅彦は、オーディションによって選ばれた。江木によると、応募者は1700人を数えたという。江木は1965年(昭和40年)に、テレビ番組制作会社ピープロで『クラブ君の冒険』というパイロットフィルムに主演しているが、これを観た三船敏郎は「この子、靴屋の息子じゃないか」と懐かしがったという。
舞台
原作では高級住宅街のキング邸が舞台であるが、映画では犯人が主人公を憎悪しているという設定から、スラムである港町を見下ろす丘上の権藤邸という舞台が想起され、浅間台から黄金町を一望できる横浜が選ばれた。実際には浅間台から黄金町は三春台や野毛山に遮られ見えない。浅間台から見下ろせる犯人のアパートがあった地域は浅間町である。
身代金受け渡し場面
当時、日本最速の列車だったこだま号のシーンでは国鉄から実物の「こだま号」用151系特急電車を1編成チャーターし、実際に東海道本線上を走らせて撮影が行われた。151系は冷暖房完全装備のため、客室窓はすべて固定式で開かない(走行中は外部から見れば密室となる)構造だが、洗面所の換気窓は例外で7センチだけ開くという構造が重要なトリックになっている。脚本執筆中には設計図とにらめっこしつつ、国鉄に何度も問い合わせを行ったため、最後には「あなたたちは何者ですか?」と怪しまれたという。
列車が酒匂川の鉄橋にさしかかるシーンの撮影において、民家の2階部分が邪魔になったため、依頼して撮影の1日だけ2階部分を取り払わせたという(民家というよりは、工事用プレハブの宿舎のようなものだったとの資料もある)。なお当時のこだま号は在来線特急であったが、後に東海道新幹線の列車愛称として使われる事になったことから公開当時新幹線は開業していないにもかかわらず、「劇中で使われた列車は新幹線」だと間違えて覚えている話がしばしば聞かれる(→両列車の関係については「こだま (列車)」を参照)。戸倉警部を演じた仲代達矢によると、撮影当時このシーンでNGを出すと2000万円かかったという。国鉄の定期ダイヤに割り込んでの撮影だったため失敗は許されず、品川の車庫にある停車中のこだま号で入念なリハーサルが行われた。
列車の窓から放り出すかばんは、吉田カバン創業者である吉田吉蔵によって特注製作されたものである。
原作では身代金を持って移動中の被害者と犯人との接触は自動車電話を使う設定だった。しかし、当時の日本では自動車電話が実用化されていなかったため、「電話を備えた陸上交通機関」であった「こだま」を利用することで原作の設定を巧みに換骨奪胎した(当時、日本で列車電話を備えていたのは、東海道本線の電車特急と近鉄特急だけであった)。
先頭車両での撮影を担当していた助監督の森谷司郎によると、田口を演じた石山健二郎は緊張のあまり、カメラテストの「スタート」という掛け声を本番の「スタート」と勘違いし、こだま号が鉄橋にかかる前に芝居を終わらせた。森谷から報告を受けた黒澤はラッシュを見て撮り直しも覚悟したが、なんとか編集でうまく繋いで事なきを得た。同シーンで石山が後ろを振り返るのはミスに怒った森谷が石山の尻を蹴飛ばしたのに反応したものである。
捜査場面
映画の設定は真夏であるが、実際の撮影は真冬に行われた。出演者は吐息が白くならないよう、時には口内に氷塊を含んで、撮影に臨んだ。なぜ真夏のシーンを真冬に撮影するのかと山崎努が黒澤に訊ねると「夏は暑いのでつい安心してしまう。冬に夏のシーンを撮影すれば、どうやって暑く見せようかみんな工夫するだろう」と答えたという。
後半、トランペットの音楽とともに煙突から桃色の煙が立ち上る(身代金が入ったかばんに燃やすと色を発する薬剤を仕込むという設定)シーンにおいては、モノクロ画面にマスキング合成で着色した。アイディア自体は『椿三十郎』で実現出来なかった「椿だけカラーで映したい」という構想を実行したもの。モノクロ画像に色を入れると言う手法はフランシス・フォード・コッポラ監督の『ランブルフィッシュ』(1983年)、スティーブン・スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』(1993年)でも使用され、同じく誘拐ものの要素がある『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年)では、主人公の刑事がモノクロの背景の中で煙突から上がるカラー煙を見て「天国と地獄だ」とつぶやき、犯人の居場所が突き止められるオマージュとして引用された。
犯人が捕まるシーンで流れる曲では、黒澤はエルヴィス・プレスリーIt's Now or Neverを希望したが、著作権絡みで使用料が高額だったため、諦めてエルヴィスのボーカル無しの曲を使うことになった。そのためそのシーンの曲はIt's Now or Neverではなくなり、原曲である'O sole mio(オ・ソレ・ミーオ)になった。
ラストシーン
物語のラストは「拘置所の地下から地上への通路で戸倉警部と権藤が会話を交わして別れる」というのが当初の予定だったが、誘拐犯の竹内が金網をつかんで泣き叫ぶシーンを黒澤が大いに気に入り、そちらに変更されたとされる。山崎は黒澤から「君の芝居が良かったから、そこでエンドマークにした」と聞かされ感激したという。当初の地下(地獄)から地上への移動が象徴していたものを考えると、この変更は興味深い。山崎の演技が良かったからそこでエンドマークにしたという黒澤の言葉とは異なり、実際に映画で最後に映されるのは閉じられたシャッターの前でうなだれる権藤の姿である。ちなみに照明に照らされ続けた金網は熱く、山崎は手を火傷している。また、このシーンで黒澤は、山崎の髪に刀の砥の粉をかけて髪をパサつかせたという。竹内の反抗的な態度を髪にまで求めたのである。

以上で物語・作品・登場人物に関する核心部分の記述は終わりです。


[編集] 模倣犯

この映画で用いられた「走っている電車等から現金等を落とす」という手法は、後のフィクション作品だけでなく現実世界の現金受け渡し目的の犯罪で数多く模倣されている。現実世界では1963年9月の草加次郎事件、1965年の新潟デザイナー誘拐殺人事件、1984年のグリコ・森永事件、1993年の甲府信金OL誘拐殺人事件、2002年の新城市会社役員誘拐殺人事件、2004年の大阪パチンコ店部長誘拐事件などの例がある。手法の模倣ではないが、映画の影響を受けて身代金誘拐に及んだ者もおり、1963年の吉展ちゃん誘拐殺人事件、1980年の名古屋女子大生誘拐殺人事件などの例がある。

[編集] リメイク

[編集] 参考文献

[編集] 脚注

  1. ^ 1963年5月7日参議院地方行政委員会における小林武治の発言、同年5月14日の参議院法務委員会中山福藏の発言など。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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